とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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人造神格同時討伐作戦 1/4

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅぅぅ!!」

「うおおお俺は悪夢を見ているのか!?」

「現実っす!!! 最悪なことに!!!」

 

 ズドドドドドド!! という轟音が、駆けるこちらと深月の真後ろをなぞるように飛んでいく。人造都市のビルの壁面や民家を容赦なく砕く魔力玉の硬さは、前回の威力を把握していたからこそ、()()()()()()()威力が上がっていることにゾッとする。

 

「なんっ、なん、だよアイツは!?」

「知りませんよあのビルで会ったのが最後ですし私は直接戦ってませんもん!! 与一さんがなんか……なんかしたんでしょ!?」

「俺の甘さで殺し損ねただけだよ!」

「じゃあそれしかないっすよ!?」

「…………それかぁ〜〜……!?」

 

 ……悲しいことに、合点がいってしまった。

 

「っていうか、あの人どこに────」

「! 深月!」

 

 ──と、後ろから追尾する魔力玉に気を取られていたところで、今度は前の曲がり角からイナゴの大群のように魔力玉が迫ってくる。

 咄嗟に深月を進行方向から逸れるように襟首掴んで横に投げ飛ばし、後ろから飛んでくる魔力玉を【禍理の手】で受け止めつつ、別の『手』も伸ばして前からの軍勢も防ごうと束ねて構え────

 

「──よ・い・ち、さぁん……♡」

「っ!?」

 

 瞬間、横の壁を尻尾で破壊して現れた白百合の手がこちらの胸ぐらを掴み、深月を投げた方向へとぶん投げられた。あの細腕でこの膂力……魔力が前よりも乗算で跳ね上がってるのか……!? 

 

 アスファルトに手をついて体を捻って起こし、足でブレーキを掛けながら着地して息を整え、深月の横に立って二人で白百合を見据える。

 

「俺と雅灯さん(イゴーロナク)みたいなもんか。この短期間でどっかから神格か異能か……とにかくなんらかの魔力を取り込んで適合したんだな」

「……まさかこんな場所であのビルでの第2ラウンド(リベンジマッチ)をやるつもりなんすかね」

「俺には無いけど向こうにはあるっぽい」

 

 目尻を細めて笑みを浮かべる白百合の、感情の揺らぎを表すように背後でゆらゆらと左右に動く九つの尻尾と、ピクピクと跳ねる二つの狐耳。

 彼女は大量の魔力玉を分解して尻尾に吸収させながら、小さく笑って口を開く。

 

「ふっ、ふふっふふふ。なんで逃げるんですか」

「自分の胸に手を当てて考えてくれるか」

「はて。はて? ……もしかして、与一さん。貴方は……私よりもそちらのおチビさんの方が好ましい……ということですか??」

「定義によるかなぁ」

 

 いやまあ、見た目の話なら二つの意味で甲乙は付けられないけど。とはいえ人間性とか凶暴性で比べたら深月の方が圧勝しているからね。

 

 理由は本当にさっぱり分からないけど、なぜか感情をこちらへの……んまぁ、まあ、その、好意的な意味合いで暴走させている白百合。

 彼女に対してどうするべきかと悩んでいると──不意に横合いから呆れと驚きが混ざったような、聞き馴染みのある声が投げかけられた。

 

 

 

 

 

「……うわ、ほんとだ。なんか見覚えのあるやつがまた変な女引っ掻けてる」

 

 ほぼ同時に同じ方向へと顔を向け、視界に入ってきたのは、まさに呆れと驚きの混ざった表情でこちらを見やる薄い金髪の少女。

 

「与一、あんた何やってんの?」

「……こ、小雪さんの手伝い……?」

「に、来たのに、あたしらより優先すべき相手が居たわけ。ふーん? ふーん??」

「いやごめんて」

「なんで私が睨まれてるんすか…………」

 

 カツカツとアスファルトを踏み鳴らしながら歩み寄ってくる少女──真冬が、不機嫌そうな顔で深月を一瞥してから視線を白百合に移す。

 

「あら? ……誰かは分かりませんが、今は私が与一さんと話をしてい────」

 

 刹那、真冬の金髪と銀メッシュの比率が逆転し、最後まで言い切る前に白百合の体のあちこちに半透明の円形を出現させてガチリと固めた。

 

「大人しくあたしらと情報共有する気がないなら、不穏分子と判断してバラバラにする」

「真冬、やるなよ」

「やらんわ。でももし暴れるつもりなら、手か足の関節が無くなると思ったほうがいいんじゃない?」

「……だとさ白百合、うちの身内と集まるから暴れるのは終わりだ。わかったな」

「…………。はい」

 

 渋々、といった様子で白百合は狐耳と尻尾──【王爻怨黎玉藻前(おうこうえんらいたまものまえ)】と呼んでいた異能を解除する。

 真冬は彼女の顔を見て、うげっと渋い顔をしてからこちらに小声で語りかけた。

 

「……なんかイデアに似てない?」

「遍在する同一個体(しらゆり)の話はしただろ? アレだよ」

「あー、アレか。……マジで居るんだ」

 

 げんなりとした表情で【虚空神話(ヴォイド)】を解除した真冬に代わって、こちらが【禍理の手】を2本出して腹を両側から鷲掴みにして持ち上げる。

 

 ヘリウムを入れた風船のように2本の『手』で頭上で掲げ上げられている白百合が目印になったのか、歩き始めてからそこまで時間もかからずに、少しして向こうからも歩いてきた相手と再会した。

 

「や〜、息災でしたか? 与一くん」

「小雪さん。……あれ、なんかすごい久しぶりに会ったような気がする」

「奇遇ですね、私もです」

 

 確かシセルの件の時は…………この人、寝てたんだっけ? 秋山さんと会話してたから意識してなかったけど。ともあれ久しぶりに出会った、スーツを着込み黒髪を短く揃えた少女──小雪さん。

 

 相変わらず体内では無形の落とし子が蠢いているのだろうか、と。そんな風に脳裏で独りごちていると、その後ろに立っていた男性が困惑気味にこちらと持ち上げられている白百合を交互に見てきた。

 

「お前ら、何やってんだ?」

「いきなり襲われただけです」

「そう、なのか……?」

「ええまあ、はい。襲いました」

『正直だなぁ』

 

 男性──太陽さんと、その近くを浮いている生き人形──結月が、持ち上げられたままの白百合の正直な返答に軽く引きながらすっと視線を逸らす。

 

「──で、お前もなにやってんだ。蓮枯」

「うげっ……い、んやぁ〜? 夏木先生もぉ……? 魔術師(こっち)側? だったんすねぇ〜?」

 

 すると、流れで下げられた視線の先──こちらを盾にして後ろに隠れていた深月を見つけた太陽さんが、彼女をジトッと見て口を開く。

 

「…………。まぁ、かれこれ5年くらいだな」

「あ、思ったより長いんすね」

「色々あったんだよ」

『とりあえずさぁ〜、情報交換しよーよ』

「それもそうだな。与一、その女は……降ろしたほうが良いんじゃねえか?」

 

 結月の提案に頷いた太陽さんに言われるが、正直なところ降ろしたくない。

 とはいえ、あの人造神格を相手するとなると、白百合も貴重な戦力足りうるからなぁ。

 

「…………降ろ……すかぁ……っ!?」

「そんな苦悶の表情することある?」

 

 真冬の呆れた声色が耳に届く。

 キミには分かるまい、こちらと白百合の間にイデアを挟んで渦巻く問題というものが。

 

『そもそもこの人誰なの?』

「……『敵の敵は味方』で言うところの味方」

『実質敵じゃん』

「ご安心ください、少なくとも今は敵対しておりませんから。確かに前にも一度、殺すつもりで戦闘したことならありますが」

「よぉし与一、そいつ降ろすなよ」

「あら?」

「お前はお前で馬鹿正直に話すんじゃないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 ──数分の葛藤を経て、絶対に襲いかからないことを約束させて白百合を地面に降ろす。

 小雪さん太陽さん真冬結月のグループと、こちらと深月のグループ、白百合の3グループで状況が異なるために、少しばかり情報共有に時間がかかった。

 

「それにしても、白百合さんって本当に複数存在するんですねぇ。会いました? 連盟組織にも()連れの白百合さんが居るんですけど」

「シロちゃんには会えたけど、そっちの白百合とは会えてないですね。訓練で秋山さんにボコボコにされたあとにここに来てたので」

「おおん……まったく秋山さんったら」

 

 やれやれと苦笑する小雪さんと、そんな風に話をしながら他の皆とは少し離れた位置に立つ。

 横目で見やれば、白百合の【王爻怨黎玉藻前(おうこうえんらいたまものまえ)】で生成される狐の尻尾に興味津々の結月が後ろに回って、九つの尾に体を突っ込んで全身で毛並みを堪能していた。何をやってるんだか。

 

『ふぉおおお!! ちゃんと動物の毛並みしてる!! うおーっほんとにスゲェなあ! うおーっほんとにスゲェなぁ!?』

「なんで二度も言うんですか……?」

『あ。ところで白百合っつぁん』

「……なんでしょう」

『殺し合いにまで発展したのに、なんだって与一のことが好きなん? そういう性癖の人?』

「ああ、それは────」

 

 と、そこまで言った白百合が、一度口を閉じて間を空けてから改めて言う。

 

「──例の村で、灰色の神格らしき少女に出くわした際に色々と自覚させられまして」

『ん?』

「私、初めて知りました。相手の事が頭から離れないのを人は恋と呼ぶんですね……!」

『ごめんごめんごめん、ちょちょちょっと待ってもろて???』

 

 胸に手を添えてしみじみと呟く白百合の意識がこちらに向いているのを必死に無視すると、何かに気づいた結月が顔の前に飛んで待ったをかける。

 

『灰色の……神格?』

「はい」

『髪が灰色で、女の子?』

「そうですね」

『意思疎通ができた?』

「部分的には」

『なるほど、なるほど』

 

 段階式に質問を繰り返した後、結月はたっぷりと空気を溜め込んでから言葉を吐き出した。

 

 

 

 

 

『馬っっっ鹿モ────ン!! そいつが逃げた人造神格3号機だァ〜〜〜ッ!!!』

「そう言われましても……」




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