とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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人造神格同時討伐作戦 2/4

 白百合に余計なことを吹き込んだ元凶は、どうやら逃げた人造神格3号機だったらしい。

 

 とはいえ、恐らく白百合をここに送り込んだ以上は既に例の村にはもう居ないだろう。

 たぶん我々が合流して情報共有することも想定済みのはず、しかしそれよりも…………

 

「そいつ、本当にグレイって名乗ったんだな?」

「間違いありません。自分でそう言っていました」

「……グレイ、ねぇ。まさかここに来てシセルたちの件と絡んでくるとはなぁ」

 

 そんな、二人も三人もグレイと名乗る神格足りうる力の持ち主が居てたまるか。

 そいつは間違いなく、シセルとエリー(未来ソフィア)を連れて現代(過去)にやってきた何者かだ。死体を使って活動しているという情報と適合者を作るという情報を加味すると、人造神格を利用したことにも合点がいく。

 

「この時代の人造神格製造を利用して、死体を乗り継がないといけない状態から脱しようとしてたのか。そのためにシセルたちを利用してでも過去に戻ろうとしていた? いや、それにしては……」

「それにしては?」

「エリー曰く、グレイは誰かにリベンジしたがっていたらしい。前に誰かに負けて、未来で春秋さんが過去に戻る手段を作り出したからそれを利用した……として。なんかこう、順序が変というか」

 

 小雪さんが小首を傾げるのを横目に言葉を続ける。そう、何か…………あ。

 

「グレイは、なぜ直接その時間に飛ばなかった?」

「……ああ、なるほど。それはまあ確かに」

「春秋さんたちは、特に過去に飛ぶ装置に制限があるような事は言っていなかった。シセルとエリーを利用するにしても、その『負けたときの時間』に直接飛べばよかったんじゃないか?」

「でもそれだと、死体を乗り継ぐ状態のままなわけですよね。飛んだとしてまた負ける確率の方が高い、と考えても不思議ではありませんよ」

「……うーん。そうなんですよねぇ」

 

 不意に湧いた疑問が気になり、しかしてうんうんと揃って頭を悩ませていると。

 

「与一さん与一さん」

「ん?」

 

 ──ふと、尻尾の1つを伸ばして脇腹をツンツンとつつきながら近づいてくる白百合。

 流れで腰に回そうとする尾をチョップして止めながら、次の言葉を待つ。

 

「例のグレイ某は、未来から過去……この年代に飛んできたんですよね?」

「そう、なるな」

「つまり、まず最初に今よりも前の時間で負けて、未来まで生き延びた──ということ。最初の時点で『いまのこの年代には人造の神格を作る組織が居たはずだ』と覚えていたのでしょうね、そのため()()()()()()()()()()、自分の精神を移して動かすためのボディを手に入れてから、そのあと改めて、()()()()目的の年代に飛ぶ予定なのではないでしょうか?」

「お前……頭いいんだなぁ……!?」

「馬鹿だと思っていたんですか!?」

 

 いや、だってさあ、同一個体(しらゆり)殺しに人生を捧げてた奴が賢いわけなくない?? 

 ──という失礼極まる言葉をグッと呑み込んで、実は賢かった白百合の説得力のある推察を事実と仮定して一旦頭の隅に追いやる。

 

「……とりあえず、その線で仮定しておこう。でも今はこの空間内に居る人造神格1号と2号を仕留める方に思考を割くべきだね」

「ですねぇ。とはいえ戦うにしても、チーム分けはどうします? たぶん戦力を均一にしようとしたら与一くんのワンマンになりますよ?」

「どうして???」

 

 ……最近、どうも、皆してこちらを過大評価しすぎているきらいがある。

 別にもう弱いとは言わないけど、そこまで強いとも言えないんだけど? と思いながら、ため息混じりにチラリと白百合に視線を向けて口を開く。

 

白百合(アレ)はそっちに任せるには荷が重いと思うんで、俺と組ませますよ。そっちは太陽さんと真冬と結月と……あと深月を使ってやってください」

「いやはや、すいませんね与一くん」

「悪いと思ってくれてるだけ、秋山さんと先輩の100倍マシなんですよね」

「0には何を掛けても0ですよ」

「それはそう」

 

 邪智暴虐で傍若無人などこぞの誰かたちを思い浮かべて、揃って深いため息をつく。あっちにもこっちにも厄介な奴ばかりで困ってしまう。

 

 

 

「──さて、お喋りもほどほどに行動に移しますか。はい皆集合〜〜!!」

 

 パンと強く手を叩いて、この場の全員を集める。こちらの隣で尻尾を伸ばして腰やら背中やら後頭部をワサワサと触る白百合を露骨に警戒する四人を待ってから、手短にこれからの行動を説明した。

 

「俺と白百合、それ以外の全員で2チームを作って人造神格をそれぞれ相手する。まず、コイツの魔力玉を全方位に飛ばしてとにかく一発当てる。そうすれば、人造神格は俺たちを狙いに来るはずだ」

「魔力玉? ……あぁ、アレっすか」

「これですね」

 

 ビルでの攻撃を思い出してげんなりとした顔をする深月を前に、白百合が例を見せるように指を広げてパーを作ると、その間に魔力玉を生成して挟む。

 

「私の魔力玉を全方位に飛ばせば当たりはする、とは思いますが……2体それぞれに当てたところで私一人が狙われるだけなのでは?」

「んまぁ、まあ。これが先輩とかだったら狙われてる所を狙えば良いだけなんだけど、ほら真冬、対人造神格用にって渡されたのあったんでしょ」

「え。ああそういば。……太陽さん」

「おう、これだな」

 

 真冬が太陽さんに目配せすると、彼はポケットから『自分、猛毒ですよ!』みたいな主張をする、黒紫の液体を詰めた注射器を取り出す。

 

「2体をおびき寄せて、そっちチームの誰かに片方を打ってもらう。空いた方を俺たちが改めて攻撃して狙いを変えさせれば、まあなんとかなると思う」

「プログラムと防衛反応で動いてるみたいだし、そりゃまあ強くどつけばヘイトは変わるか」

 

 なるほどと合点がいったような顔の真冬に頷いて返し、それから白百合に視線を送る。

 

「頼むぞ」

「ええ、ええ。あなたに『やれ』と言われたなら、なんであろうとやりますよ」

「自分の決定権くらい自分で持ってくれる??」

「チッ」

 

 魔力玉を生成しながらハートマークを飛ばしてくる白百合と、苛立ちを見せる真冬の視線。

 それらに両サイドから射抜かれているこの立ち位置を誰かと代わってほしい。

 

「…………!!」

「…………」

 

 太陽さんにキッとヘルプの視線を向けたが、憐憫の眼差しののちにすっと逸らされた。

 

「ウーン。……うん。白百合、準備は?」

「完了です。限界を確かめるためにも、全力で生成してみましたが──今の私なら、前の3〜4倍ほど魔力玉を出せるようですね」

『しゅげぇ〜〜。蝗害Lv100って感じ』

 

 見上げれば、野球ボールとゴルフボールの中間くらいのサイズをした魔力玉が、頭上で空を覆い尽くすほどに生成されて浮遊している。

 これら全てが白百合の制御下にあることと、以前ビル内で見た光景を見比べれば、彼女の能力が飛躍的に向上していることを改めて再確認させられた。

 

「またお前と戦うことにはなりたくないなぁ」

「ふふ。今のところ、その予定はありませんから大丈夫ですよ。今のところは」

「なんで二度も言うんだよ」

「冗談です。では────頭上注意」

 

 いっそ清々しいほどに屈託のない、ニコニコとした笑顔を向けらながら、白百合はパチンと指を弾いて魔力玉で竜巻を作るように渦巻かせ──全方位に向けて高速回転させながらそれぞれを射出。

 

 魔力玉たちは、どこかに作られ隔離されたこの人工都市……そこに立ち並ぶビルやら一軒家やらの建物にズドドドドド!! と轟音を奏でながらぶつかり、瞬く間に倒壊させて辺り一面を更地に変えながら視界の奥まで次々にすっ飛んでいく。

 

 紛争地帯もかくやと言わんばかりの瓦礫の山を前に、太陽さんがポツリと呟いた。

 

「お前……よくこれに勝てたな?」

「あの時はこれより控えめだったんですよ」

 

 あと、こちらの魔力──雅灯さん、イデア、蛇神様、ナイの魔力混じり──を取り込もうとして体調を悪くしていたのもあったからだ。

 ……負けるつもりは無かったけど、神格を連れていて万全な白百合を相手に勝てたかと問われたら、流石に少し悩むかもしれないな。

 

「──ん。与一さん!」

 

 と、そうして思案していると。不意に何かを捉えたように反応する白百合が声を上げる。

 

「当たりました、2体とも魔力玉を蹴散らしながらこっちに突っ込んできてます」

「誰が飛ばしてきたかまで把握して──いや、魔力玉と同じ波長の魔力を持つ相手を感知するくらいならこの隔離空間の中でやれるのか」

 

 現に、こうして遠くからとんでもない速度でこっちに向かってくる高密度の魔力の塊を感知している。こちらに出来て相手に出来ない道理は無い。

 

「…………。よし、太陽さん、例の注射器を結月に持たせてください!」

「え? ああ、おう。ほら」

『えっなんすかなんすか』

「真冬、結月を掴め」

「ん? まあいいけど」

『えっなんすかなんすかなんすか』

 

 あれよあれよと、注射器を両手で抱えた結月を真冬が鷲掴みにする。

 状況を理解できていない、キョトンとした顔の結月を横目に、遠くからドンッドンッドンッ!! と低い爆発音と共に接近してくる魔力反応を見て、人造神格との戦いが始まる心構えをしながら口を開く。

 

「人造神格たちが来たら、知ってる方に結月を投げて注射器を当てろ。もう片方を俺が遠くに引き離して白百合と一緒に仕留める」

『えっ?』

「別に投げるのは良いけど、まず白百合(そいつ)を狙う筈でしょ? どうやって当てんの」

『えっ??』

「ここからはもう全部アドリブの行き当たりばったりになるからなぁ……場の流れを汲み取って、臨機応変にやってくれとしか言えない」

「はぁ。ま、なんとかなるか」

『えっ???』

 

 いつもの無茶ぶり。やれやれと頭を振って苦笑する真冬。困惑の顔で固まる結月。

 ……すまない結月、文句なら後で聞くから、ひとまず不死身のお前が狙われてくれ。

 

『ねえ与一あんたまさか』

 

 その内心を悟った結月が口を開き、その直後。

 

 見えない触手を操り、地面を叩いた反作用で宙を舞っていた灰色髪の二人の少女──2体の人造神格が、着地と同時に更に触手で地面を叩き白百合目掛けて突撃してくるのを、狙い澄ましたかのように下から飛び出した【禍理の手】が触手を掴む形で押さえ込む。

 

「瓦礫の山にしたのは『手』を見えなくするためでもあるんだなぁこれが。……真冬!」

「髪の短い方! 行くぞ結月ィ!!」

『いやちょっと待っ

 

 白百合から、【禍理の手】を瓦礫の山の下から経由して飛び出させて自分たちを押さえ込んだこちらへ。敵意のような殺意のような明確な意識が向くのを感じつつ、さっき深月とこちらをぶっ飛ばした髪が背中まである方の人造神格ではなく、髪を短く揃えている方の『手』を離して拘束を解くと──思い切り真冬が腕を振るった。

 

 

 

 

 

「行っけェおらァ!!」

『人形は投げるものではなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃ……』




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