「……ちょっと言い過ぎたかな」
東間ほなみがやって来るまでの間、真冬はそう独りごちて髪を掻く。
結局、自分も最後に解決するまでは何回もほなみを犠牲にする行動に加担しているのだから、与一だけを責めるのは筋違いだろう、と。
「──おはよー、ごめん遅れた! ……ってあれ、与一くん居ないし」
ベンチに座りながらそんなことを考えていると、集合場所にほなみが走ってくる。先に待っていただろうと予想していた与一の不在に首をかしげる彼女へと、ため息混じりに真冬が近づく。
「……東間ほなみ?」
「あっはい……あの、貴女は?」
「有栖川真冬、桐山与一の幼馴染」
「あぁ~! きみが幼馴染ちゃん!」
初対面のほなみに挨拶をするのも三回目。会うたびにしなければならない自己紹介に若干辟易しつつ、真冬は逡巡してから言い訳をした。
「ところで、与一くんが来てないんだけど、なにか聞いてないかな?」
「与一の奴は──なんか、そう、バイクで来ようとして……渋滞に捕まってる、らしい」
「えー……なにやってんだか」
無難なところに落ち着いた言い訳を聞いて、呆れ顔を隠さないほなみ。けれども一拍遅れて聞こえてきた三度目のブレーキ音に、真冬共々驚いたように肩を跳ねさせる。
「間に合わなかったのか……」
「やだ、怖いね……ここ、事故なんてめったに起きないのに」
「…………どうしたもんかな」
与一が被害者と共に救急車でこの場から離れたことなど知る由もない真冬は、時間稼ぎを続行するか20分に即ループさせるかで悩むが、とりあえずと続行を視野に入れた。
「ねえ真冬ちゃん、一足先にカフェに行かない? 与一くんが来るまでに軽く何か食べて、気分もリフレッシュさせた方がいいよ」
「……いや、与一が来るまで待とう。あいつは先に食い始めたことを絶対に責めてくるぞ」
「……確かにするかしないかで言えばすると思う……与一くん変なところで厳しいし」
「だから、まあ……アレだ。近くのコンビニで涼みながら時間潰してかない?」
「それもそうだねぇ、暑いし」
ぱたぱたと手で顔を扇ぐほなみが真冬の提案に同意し、一先ずカフェを離れて前回とは別のコンビニに入る。
店内の時計を見ると13時12分を回ったところで、あとはどれだけ時間を稼げるかの勝負となり、それからパラパラとテキトーな雑誌を立ち読みする真冬に、ほなみはおずおずと問いかけた。
「ね、ねえ真冬ちゃん」
「ん」
「真冬ちゃんも与一くんが好きなの?」
「…………えぇ~~~~、あぁ~~~~」
パタンと雑誌を閉じて棚に戻しながら、苦い表情の真冬は返答に困ったように視線を虚空に右往左往させた。元々いわゆる恋バナというものが得意ではないというのもあったが、それ以上に胸中に渦巻いているのは、『好きなの!? アレを!?』という困惑であった。
「……アレのどこがいいわけ?」
「おっ、ジェラシー感じちゃってる?」
「いやそんなんじゃないけど」
「私はねぇ~、ほら……与一くんって、ご両親が居ないでしょ?」
「──うん」
真冬の古い記憶の中にある、あまり思い出したくないエピソードの一つ。それは、桐山夫妻含む十数名の客が、温泉旅館もろとも焼け死んだとある事故だった。遺された幼少期の与一が、しばらくして探偵を目指すようになったのは、その一件が原因なのだろうかと思案する。
「高校の時はなんというか、一匹狼? みたいな感じでねぇ、なんだかいつも焦ってるようにも見えたし、近くでそういうの見てたら……こう……『キュン♡』みたいな?」
「こいつヤバイな……」
うへへへへぇ、とデレデレしているほなみにドン引きしつつ、ちらりと時計を再度見て時間を確認。16分になるのを見ると、真冬は少し考えるそぶりをしてから改めて口を開く。
「……ちょっと腹の調子悪い」
「えっ、大丈夫?」
「トイレ行ってくる。あたしが戻るまでコンビニから出るなよ、絶対出るなよ」
「えぇ~~。しょうがないにゃあ」
これでもかと釘を刺す真冬に了承するほなみは、店内の奥に向かう彼女の背中を見て、その言葉の根底にある性格を見破っていた。
「……意外と甘えんぼさんなのかな」
──トイレに入り、当然だが何をするでもなく便座に蓋をしてその上に座る真冬。
彼女が時間を確認しながら与一からのメールなどが来ていないかを確かめていると、早くも20分が過ぎ去った。あとは何分延長できるか……というところで、空いた時間を使って次のループでどういう行動をするべきか考える。
「最初の事故は与一が調べてる、ほなみの死は今のところ回避不可……として、あとはカフェ隣のビルで起きる子供の飛び降りと別の交通事故? があるんだよな。あっちを調べるべきか」
あえて口に出すことで考えを纏めつつも、真冬は強い芳香剤の臭いに顔をしかめる。
「くせぇ……、しかしかれこれ25分か……せめてもうあと5分は稼げると助か──」
そう言った瞬間、轟音と共にコンビニが揺れる。トイレにまでズン! と衝撃が届き、落とした携帯の画面にビシリと亀裂が走った。
「あいつ外出やがったな!?」
今のが東間ほなみを殺すための運命の
「おい、なにがあった?」
「わ、わからない、急にトラックが突っ込んできて、そこで雑誌読んでた女の人と、真正面からぶつかって…………うっ、ぉえぇ」
どうやら不運にもほなみがトラックに潰される瞬間を見てしまったらしく、床に吐瀉物を撒き散らす店員を横目に、真冬は思考する。
「外に出てないのに死んだ? ……つまり、20分に死ぬ運命を延長しようとしても5分が限界で、たとえ屋内に入って隠れていても、25分には絶対に死ぬようになっている……?」
突飛だが、間違いではないのだろう考察。そんなことを考えていた真冬の頭に、かれこれ三回目となるガラス瓶の中で何かを転がす音が響く。──カララン、カララン、カララン。
視界が白黒に明滅するなか、真冬はただ、悲しそうな感情が混じった顔をしていた。
「……また、初対面からやり直しか」
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