「──で、落ち着いてくれた?」
「は、はい。すみませんでした」
「いや、アレは俺も悪かっ……まあそんなに悪くないか。俺の体がこうなったの、事故に近いし」
玄関先での一幕から数分。なんとか落ち着いてくれた光冷ちゃんが室内に案内してくれたため、文字通り腰を据えての話し合いができた。
「キミが見たのは、簡単に言えば俺の魔力だね。一応聞いておきたいんだけど、なんだ……その、腰抜かすくらいヤバい感じだったの?」
「……ええと、私には何がどの魔力なのかわからないので、見たまんまを説明するんですが……」
言葉を区切り、テーブルを挟んで向かい合って座るこちらを、前のめりになりながらじっと見やる光冷ちゃん。彼女の瞳にぼんやりと魔力が灯っており、それ故か『視られている』という感覚が強い。
「なんと言いますか、与一さんの体を、黒と紫の混ざったような……おどろおどろしい炎が包んでいて、それを白い光と、金色の光が……これは、抑え込んでいる? ……のだと、思います」
「なる、ほど。黒と紫はたぶん俺の魔力に雅灯さんの魔力が混ざって変異したモノと、前に精神交換した影響もあって勝手に増えたナイの魔力だな。白と金色の光は……蛇神様とイデアの魔力か?」
「…………??」
「あぁごめんごめん、こっちの話ね」
小首を傾げる光冷ちゃんに謝りつつ、改めて考える。なんというか、こう……なんだか凄い情報量の体になっちゃったなあ、と。
基本的に自分と他人の魔力というのは、決して噛み合わない周波数の違う電波……もっと短く簡単に言うならば、水と油なのだ。
運よく適合した
たぶん、宝くじの1等を連続で当てるのと同じくらいの幸運を使い切ったのだろう、だからこうも面倒事に巻き込まれてばかりなのだ。
きっとおそらくメイビー。
「……あの、大丈夫ですか?」
「んやぁ平気平気。──それで、キミのその目が【霊視】という異能であるわけだけど、それが覚醒した切っ掛けは、おそらく数日前の大地震とやらだ。そのことについて聞いてもいいかな」
逸れかけた思考を元の位置に戻し、ついでに人の横で呑気に出されたお茶を啜る九十九からも視線を戻し、光冷ちゃんへの質問を続ける。
「はい……その、これも変な話になってしまうんですが、不思議なんです。誰も、
「ああ。俺も同意見だよ、ここ数日の間で大地震と呼べるような揺れは発生していない」
【あのぉ~、一ついいですか?】
「はい雅灯さん早かった」
「クイズ番組……?」
わざわざ目立つように【禍理の手】で挙手した雅灯さん。彼女はソファに座るこちらの後ろでふよふよ浮かびながら、光冷ちゃんを見て言う。
【そのとき、どこで何をしていたんですか?】
「ああ、と……あの日は、学校に携帯を置き忘れたのを夕食後に思い出して、家電で友達を誘って二人で教室に忍び込んだんです」
「キミ、わりとやんちゃだね」
「……まあ、まあまあまあ」
意外と行動力あるなあ、と顔を見れば、光冷ちゃんは頬を薄く染めながら誤魔化す。
「それで、教室で携帯を見つけて、帰ろうとした瞬間……学校全体が揺れたんです。……いえ、今にして思えば、揺れた
【そしてその後に異能に目覚めた……と。なんだか学校がきな臭いですねぇ。ところできな臭いの
「
「それに?」
こちらの言葉にオウム返しする光冷ちゃんを前に、気づかせるように手短に言う。
「学校で起きた揺れ、それを体感したのはキミだけじゃない。……キミのお友達も、なんらかの異能に覚醒している可能性があるんじゃないかな」
「…………。あっ!! た、確かに……! 自分のことで手一杯で考えてなかった……!」
「そこはまあ、仕方ないよ」
あわあわと慌てた様子で立ち上がる光冷ちゃん。彼女に座り直すようにジェスチャーで促して、置かれたままのお茶を一口飲ませてから話を続ける。
【様子は分からないんですか?】
「それが、あの子──
【なら、見に行ってくれば?】
「うわびっくりした。なんだ? 九十九」
と、不意に黙っていた九十九が思い出したように会話に入ってくると更に続けた。
【別に貴女を疑うわけじゃないけど、同じ状況で同じ事態を経験して、もしかしたら同じように異能に目覚めたかもしれないのなら、その子にも話を聞いて情報をすり合わせるべきだと思っただけよ】
「そう、ですよね……! あの、与一さん。依頼内容とは、別の問題になるんですが────」
「お馬鹿、友達を心配するのは当たり前でしょ。ほら行くよ、案内してくれないと家わからない」
「! はいっ!」
もしや依頼内容……目の異常を戻すこと、とは関係ないかもしれないから見捨てるかも、とでも思われたのか。いやそこまで非情ではないからね、丞久先輩ですら同じ行動に出るよ、流石に。
それから席を立って上着を着直し、竹刀袋を背負って九十九を本体に戻して、ラフな格好の上にジャンパーを着た光冷ちゃんと一緒に家を出る。
「真殊の家は……ここから歩いて十数分のところにあります。こっちです!」
「じゃあ走ろうか、それなら2〜3分だ」
「そうですね、行きましょう」
軽く足の筋を伸ばしてから、光冷ちゃんの先導で駆け出す。運動やってるのかな? 結構な速さが出ているし、【強化】を学べば化けるぞこれは。
あの魔術、運動音痴をアスリートに出来る魔術……というよりは、得意な動きを更に突出させるために使う方が強みを活かせるタイプだからなぁ。
──などと思案しつつ、だかだかと走って、予想通りに2分強で目的の家に着く。
住宅街の家々はどれも似たりよったりだから困る……が、今はその話は置いておくとして。
光冷ちゃんが携帯で何かメッセージを確認しているのを横目に、家の外からも分かる異質な魔力を肌で感じて竹刀袋の肩紐を握る手に力が入る。
「……光冷ちゃん、中に異能者が居る」
「……はい、私の目にも『視』えてます。真殊には家に向かうと送っておいたので、会話の意思があるなら、鍵を開けておいてくれているはず──」
そう言いながら玄関の前に立つ光冷ちゃんが、ドアノブに手をかけて──開ける。
「っ! ……真殊? 居るの?」
そのまま開け放って中に入る光冷ちゃんに続き、一緒に入って靴を脱ぐ。すると、彼女の手に握られた携帯からポコンという着信音が鳴った。
「……ん。与一さん、二階に居るみたいです」
「この距離ならもう直接話しなよ……」
「電話には出ませんし、とにかく本人に会ってみないことにはなんとも」
揃って苦笑しながらも、携帯を片手に階段を上がっていく背中を追いかける。
階段を上がりきった先の一室は、扉が僅かに開いていて、中から明かりが漏れていた。
「真殊? 部屋にいるの?」
光冷ちゃんが声を投げかけると、
『居るよーん。入って入って』
「……え?」
「…………。んん??」
ふとした違和感。声が変、というか、人間的ではない。機械で再現されたような声だった。
一度顔を見合わせて訝しみながらも、先に進まなければ話も進まないために入らざるを得ない。謎の緊張感を抱えつつ室内に入ると、そこは一般的な女子高生らしく華やかな色合いと小物が散らばっており、窓際の勉強机に座っている少女がこちらを見ている。
『いらっさーせー。光冷おひさー』
「え、ええっと、その、真殊?」
『ん? どした?』
パッと見では、それほどおかしくはない。
──部屋の主であろう染めたような金髪の少女が、口を隠すようにマスクをして、呑気にパソコンの合成音声で会話をしていることを除けばだが。
『で、そっちのおにーさんは誰すか』
……なんか、なんだろう、ものすごい……動画サイトで解説してくれそうな声がする……!
お気に入りと感想と高評価ください。