「あー、と。桐山与一です。よろしく」
『おーん。あたしは
「ああはい、どうも」
片手でベッドを指差しながら、片手のブラインドタッチでキーボードをドドドドドと高速でタイピングして文章を打ち込む少女──真殊ちゃん。
日常会話と遜色ない速度で合成音声に喋らせている彼女に、光冷ちゃんは呆れを混ぜたような微妙そうな顔で問いかける。
「……風邪引いたんじゃなかったの」
『あんなん方便に決まってんじょ。……じゃん。
「────。それは、キミが
ピタリ、と。真殊ちゃんの指が止まる。
『…………。ふぅ〜〜ん? 面白い推理だ、おにーさん。探偵でもやってみたらどうかな?』
「言われる前から探偵ですねぇ」
『え。マジすか』
「うん」
「あ〜……とりあえず私の方でも色々あったから、その事から話すね……」
ひとまず、光冷ちゃんが【霊視】に覚醒したこと、それで探偵であるこちらに依頼をしてきたこと。諸々の事情を話して、地震など起きていないことや、真殊ちゃんにも異能が存在することを話す。
『ってことは、あたしの
「そうだねぇ。まあ大体の察しはついてる、キミの異能は間違いなく──【呪言】だ」
『マナティに似てるやつ?』
「それはジュゴン。あのさ、同音異義語はものすごいややこしいからやめてくれるかな」
『すんまへん』
「与一さん。呪言、というのは?」
しょうもないボケを振られてため息をつきながら、光冷ちゃんの問いに一拍置いて答える。
「【呪言】。いわゆる呪いの言葉。これには二種類あってね、『言葉通りの物体を生成する物理系』と『言葉の意味を周囲に押し付ける精神系』に分かれてる。キミも、どちらかを使えるはずだ」
『────。あー、だからかぁ』
こちらの説明を聞いて、合点がいった様子で、真殊ちゃんはため息混じりにキーボードを叩く。
「真殊、いったい何があったの?」
『ん〜、光冷と別れて家に帰って……で、翌日か。オトンが会社に行くときに弁当忘れててさ、あたしが呼び止めたんだよね。
「無自覚に覚醒した【呪言】の所為で、お父さんの動きを止めてしまった……ってことか。キミは精神系の呪言使い、ということだね」
『っすね。で、これヤバくね? ってことに気づいて、部屋に閉じこもってたワケ』
「そうだったんだ」
あっけらかんとした話だが、真殊ちゃんの【呪言】への対応には驚くべき点が2つある。それは自身の行動がマズい結果を
「真殊ちゃん、キミは自分の異変が【呪言】……特殊能力によるものだとは分かっていなかったにも関わらず、他者に近づかないという判断をしたわけだ。オマケにそれ以降一度も使っていない」
『……そういうの、わかるんすか?』
「キミたちは異能が暴走している状態だ。一番簡単な制御方法は、
「いえ、こう……もやもや〜っと体からあふれて……ガスみたいに漂ってます」
こちらも肌感覚で、外に出てる魔力の量や特有の威圧感から、制御できているかどうかは判断できる。直接目視して確認できる光冷ちゃんの話も交えて考えるに、真殊ちゃんは異能を全然使っていない。
父親を異能で【止めて】しまった。それがマズいことの前兆だと察して使わないようにした。異能に対する危機感の高さからして、おそらく異能者としてのセンスは光冷ちゃんを上回るだろう。
レアな異能持ちと、異能者としての才能がある子……今のうちに対処しないと、狙われたときに自分の身を守れないのが危ういなぁ。
「うん、なんにしても、【呪言】はねぇ〜〜……ちょっとね……使いすぎるとアレだから。検証目的で使いまくる、とかやらなくてよかったね?」
『いや怖いんですけどぉ!? ……ちなみに、使いすぎるとどうなるんすか?』
思わず言葉が飛び出そうになった口をマスク越しに押さえながらも、真殊ちゃんが聞いてきた。
「人、怪物、周囲の空間、あらゆる対象に言葉の意味を強制する呪いの言葉。しかし大脳辺縁系……感情とか本能を司る脳の一部には、『その言葉』が誰に対しての言葉なのかを判別する能力が無いんだ」
『……お〜〜、おん? おん……??』
「つまり【呪言】は、他人を呪う言葉で自分も呪ってしまう、ということですか?」
「そういうこと」
『…………? どういうこと??』
「えーと、要は反動があるんだよ」
『あ〜〜。最初からそう言ってよ』
──ごめんねややこしくて。と小さく続けて、説明を終わらせる。
そう、反動。【呪言】は物理系・精神系に関係なく、キャパオーバーによる反動が自分に跳ね返るのだ。本人の耐えられる限界を超えた物体の生成、強い言動を用いた強制、格上への【呪言】の行使。
強い異能とは、研がれすぎた刃物みたいなものである。鋭く、よく斬れるが、薄くて脆い。
【具現能力】の中でも、それを
……そういえば、琴巳ちゃんも呪符を用いた精神系具現能力を使ってたっけ。
あれ、文字数を増やすほどに負担も増すから気をつけてほしいんだよね。
「っと、話が逸れていくな。とりあえずの目標としては、第一に異能の制御かなぁ」
「といっても、どうやればいいのか……」
兎にも角にも、【霊視】と【呪言】が迂闊に暴発しないように抑えないと、二人を連れて学校に調査に行く──なんてことも出来ない。
『使いまくれば自然と慣れるんでしょ? じゃあ……与一さん、どれくらいなら耐えられる?』
「真っ先に俺を的にする発想が出るの凄いね?」
「こら、真殊!」
さらりとえげつない提案をしてきた真殊ちゃん。彼女が光冷ちゃんにガミガミと叱られているのを横目に、こちらも少しばかり悩む。
──なぜなら、【霊視】と【呪言】を制御する手段なんて持ってないし知らないからである。専門外の異能の制御方法、知っていて損はないとは言うけれど、そもそも【呪言】について詳しくならざるを得なかったのもつい最近の話だからなぁ。
まあ、こういう時こそ素直に他人を頼ろうね、という教訓なのだろう。おそらくきっと。
「…………。はぁ〜〜〜〜〜仕方ない、ちょろっと知識人を頼るとしようか」
「……知識人?」
『いででででで』
「あんまり電話したくないんだけどね」
真殊ちゃんのこめかみを拳でグリグリと挟んでいる光冷ちゃんに、静かにね──と人さし指を唇に当てるジェスチャーをしつつ、懐から取り出した携帯でとある人物に助言を求めに電話アプリを開く。
電話帳を開くのを躊躇い、該当する番号を探すのを躊躇い、電話を掛けるのを躊躇い。
たっぷり1分ほど使って、ようやく通話ボタンを押して画面を耳に当てると、プル【やあ与一クゥ〜〜ン、キミから電話を掛けてくれるなんて珍しいじゃないか〜〜? 出来ることなら毎日掛けて欲しいんだけどねぇうんうんうんうん】ルルとワンコールするより早く、やかましい声が耳に突き刺さる。
「…………ウーーーーーン」
『人の顔ってあそこまで『無』になるんだ』
「知り合い……なん、だよね……?」
電話の向こう──連盟組織で【人形化】の研究を続けているかつての宿敵。無貌の神ことナイが、こちらのげんなりした顔を知ってか知らずか、ご機嫌なテンションで言葉をまくし立ててきていた。
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