とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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視える者と言えぬ者 4/5

「電話切っていいか?」

【あーあーあー! わかったわかった! ちゃんと聞くから切らないでくれるかな!】

 

 限界まで表情を削ぎ落としたような顔で言うと、ナイは終わった様子で言葉を返す。

 

【それで、今日はどんな厄介事に巻き込まれているんだい? 与一ク〜ン?】

「なぜ断定口調なんだ」

【ふふふふ。犬が歩けば棒に当たるように、キミが歩けば事件に当たるからだよ】

「否定しづらいなぁ……」

 

 ため息をついてから、咳払いを一つ。

 

「ある女子高生二人が、霊視持ちと呪言使いに覚醒した。しかし制御できていない」

【ふぅん? …………うん、うん。なるほど、異能が制御できない理由は、単純に外的要因による強制的な覚醒によって、手加減を覚える前に目覚めてしまったからだね。()()で、()()があった?】

 

 ……ちゃんと話せば理性的なのは、ナイの良いところでもあるし悪いところでもあるんだよなぁ。

 ともあれ、二人の事情のあらましを話すと、彼女は電話の向こうで考え込むように黙る。

 

【……ふむ。2つほど聞きたいのだけど、スピーカーにしてくれるかい】

「ほい」

【やあやあ諸君、()()与一クンに随分とお世話されているみたいじゃないか。山よりも高く谷よりも深い私の懐に免じて許してやるが……覚えておくと良い、与一クンは、私の、モノだ】

 

 ──いや、誰のモノでもないが。

 

「こいつ主語と態度がデカいなぁ……寄生先(円花さん)の影響が今になって表に出てきたか?」

上山と下谷(あたしら)の前でよく言えたなって感じスね』

「ま、まあまあ。それでなにか御用でしょうか」

 

 しばらく構ってなかった反動か? と思案しつつ、聞きたいことがあるらしいナイの問いを待つ。

 

【まず質問その1。キミたちの学校だが、近くに山でもあるのかい?】

「……あります、けど」

【そうか。なら質問その2だ、キミたちの学校は、()()()()()()()()()な?】

「──! どうしてその事を……?」

 

 2つのあっけらかんとした質問。光冷ちゃんの返答を聞いて、更に考え込むナイが続ける。

 

【まあ厳密には何度か建て替えているだろう、と推測したわけだが】

「どういうことだ?」

【例えば、建て替えられる前の学校には、地下への避難通路があったとしよう。建て替える過程で埋められたが、年月が経って隙間が出来たとして────いや、やめだ、やめ。これはダメだ】

 

 しかし、ナイは突然、説明をやめて話題を勝手に切り上げてしまった。

 

「……おい?」

【ダメなんだよ、与一クゥン。これは、ズルだ。第一部のラスボスが直接的にネタバレをするのはねぇ、ダメだよ。流石にフェアじゃない】

「またワケのわからんことを……」

【ただまあ、学生二人の異能を抑え込む手段なら教えてあげるよ。せめてそれだけはね】

 

 理不尽めいていても、諭すような言い方。一瞬沸いた感情に冷水を掛けられたように思考が冷静になり、間を置いて次の言葉を待つ。

 

【ほらあの、携帯で打ち込んだ文字をそのままシールに印刷できるやつがあるだろう。私がキミの携帯に【霊視】と【呪言】を抑えるための術式を送るから、それコピペして印刷して貼り付けたまえ】

「そんな……デジタルな手段で抑えられるんですね、私たちの異能って」

「らしいね。というかプリンターがある前提で話されてもな……ある? シールプリンター」

『あるよ』

 

 苦笑しながら真殊ちゃんに視線を向けると、短くそう返してから机に置かれた小さなプリンターを見せる。まさかとは思うけど、覗き見してるんじゃないだろうな……? ナイならやりかねんぞ。

 

「あるんだ……じゃあとりあえずやるとして、何に貼り付ければいいんだ? 服?」

【馬鹿かねキミは。そうだな──【霊視】を抑えたいなら、伊達メガネのツルにでも巻きつければいい。【呪言】の方は……チョーカーとかかな。あとは制御できないからこそ、漏れた魔力に反応して、術式が勝手に起動するようになる】

『ンなるほどぉ? つまり術式が起動しなくなれば、逆に言えば魔力が制御できる状態になったようなもん……ってコト!?』

【そういうことだね。じゃ、頑張りたまえ〜。あと、与一クンに手を出したら、私は怒るよ】

「うるさいなぁもう」

 

 色々と面倒くさくなって、電話を切る。まあ、助けられたのは確かだし、そのうち顔出しに行くか……ものすごい、ものすごい嫌だけど。

 

「あの……結局なんだったんですか、あの人」

「簡単に言うと俺のストーカー」

『えぇ……』

 

 端的に言うとそうなっちゃうよね。なにせ、ナイはこちらが10歳だった頃に顕現してから10年以上、手を変え品を変えて観察してきていたのだから。

 

「お、来た来た」

 

 ──と、少しして、ナイからのメッセージで異能抑制用の術式が送られてくる。

 早速と携帯とプリンターを接続して、文字列をそのまま印刷して細長いシールがにょろにょろと出てくるのを眺める。なんか面白いな、こういうの。

 

『なんか文字化けしてません?』

「術式って、文字にするとこうなっちゃうんだよね。ちゃんと効力はあるから大丈夫」

「それで……これを貼るんでしたっけ」

 

 印刷されたシールを指でつまんでぺらぺらと波打たせる光冷ちゃん。それを横目に、次の行動方針を脳裏で組み立てていく。

 

「伊達メガネとチョーカー……は、学校に調査しに行く道中で買っていこうか」

『あたしって外出て平気なんすかね?』

「黙ってれば【呪言】は出ないよ」

『いやまあそりゃそーでしょうけど』

 

 

 

 

 

 

 

 ──二人の通っている高校は、裏手に山が広がっている。何十年も前から学校として存在していた建物を何度か建て替えたようで、一昔前は小学校として使われていたという話を道中で聞いた。

 

「どう? 目と喉の調子は」

「大丈夫ですよ。レンズを通して見ていれば、【霊視】も遮られるみたいです」

「そう、良かった良かった」

「いやぁ〜〜〜喋れるって最高っすね!」

「あんまり声を張りすぎると、抑えきれずに【呪言】が貫通しかねないから気をつけようね」

「うーい」

 

 伊達メガネを掛ける光冷ちゃんと、チョーカーを指で弄る真殊ちゃんに案内されて、例の高校に到着し──休日の校庭で部活中の学生を横目にそそくさとくだんの教室へと足を運ぶ。

 

「ここです。ここで私の携帯を見つけて、その直後に大地震が起きた……錯覚をしたわけです」

「結局あの地震ってなんだったんだろ」

「そうだなぁ。あえて理屈づけるとしたら、異能に目覚め──()()()()()ことが原因で、体に起きた魔力的な衝撃が、地震と錯覚するくらいに体を……いや、脳を揺らしたんじゃないかな」

「風邪引いて体調悪いときに頭がぐわんぐわん揺れるやつの特殊能力版、的な?」

「たぶんね」

 

 おそらく光冷ちゃんの席であろう位置で机を囲むように立ち、そんな風に会話を交わす。

 

「さて。あとは……元凶の排除か」

「元凶、と言いますと?」

 

 問い返す光冷ちゃんに意識を向けつつ、廊下に出て階段を降りていく。

 

「ナイめ、ネタバレがどうとか変な理由で協力をやめた割には相変わらず俺に甘い。──おそらくこの学校、というか土地には、山の地下……洞窟かなにかと繋がっている通路があるんだろう」

「あ〜、戦時中かその前後かの名残っすかね。なんか歴史の授業でそういうの聞いたことあるような気がするんで、たぶんマジでありますよ」

「そこで、光冷ちゃんの出番だ」

「えっ私ですか!? ……あ、【霊視】!」

 

 そう、と頷きながら言う。

 

 光冷ちゃんの【霊視】は、大雑把に言えば『視る』という行為を魔術的に超強化したモノ。人によって出来ることはまちまちだが、痕跡を辿る程度の使い方なんてのは造作もないはずだ。

 

「修行も兼ねて、【霊視】を自分の意志でコントロールしていこう。情報量を絞るんだ、キミたちの異能は先天性のモノが無理矢理覚醒させられただけ」

「でき、ますかね……?」

「鳥が空を飛ぶ事に疑問を抱かないのと同じさ。見たいものだけを()()んだ、キミならできる」

「…………。やってみます」

 

 一階まで降りて、廊下に出る。光冷ちゃんは緊張した面持ちで、伊達メガネを頭上までズラすと、その目に勝手に集まる魔力で【霊視】が起動した。

 

「っ! ……見たいものだけを、視る……! どこかから漏れた、魔力だけを────」

「……うおっ、なんか肌がピリッときた」

「やっぱり、真殊ちゃんの方が異能者としての才能は上みたいだね。肌で魔力の変化を感じ取れるのは良い魔術師・異能者の証だよ」

 

 集中する光冷ちゃんを見ていた真殊ちゃんが、反射的に一歩後退りして粟立つ腕を擦る。

 この子なら……格上相手でもある程度は【呪言】の反動にも耐えられそうだな。

 

 この先で戦闘があると仮定すると、こちらで全部やるべきなのだが、撃ち漏らしが出た際の自衛程度でも異能を扱えることは無駄ではない。

 

 ……というかなぁ。山の地下に()()として……想定するのは何体か居るのだけど。

 

「与一さん! 見つけました!」

「ん。案内してくれる?」

 

 そこで思考を一度打ち切り、光冷ちゃんの声に意識を浮上させて廊下を駆ける。

 三人で十数秒走ってたどり着いたのは、降りた方とは反対の階段の裏にあるスペースだった。

 

()()から、与一さんの魔力に似ている異質なオーラが漏れてきてます」

「なーんもないけど」

「床から漏れてる?」

「はい、床から」

「じゃあ、まあ……ちょっと崩すか」

 

 それとなく【人払い】を起動して階段に誰も近づけないようにしてから、【強化】で体を強めて、二人に下がるようにジェスチャーする。

 

「ナイのことだ、今回の件は既に上に根回し済みだろうし、多少派手にやっても問題ないな」

「なに、しようとしてんすか? 与一さん?」

「あの……まさかとは思いますけど……」

「なんだかんだ、これが手っ取り早いんだよね。──ふんッ!!」

 

 ズドンッ!! という轟音。高校の床を殴り砕く成人男性という異常な光景を見た二人の心境がどんなものかは想像に難くないが、それはさておき予想通りのモノを発見して割れた床の塊を横に退かす。

 

「うわ……魔術師って皆こうなのぉ……?」

「与一さんだけが特殊……なんですよね?」

「いや俺以外もわりと脳筋だけど。ってそれはいいんだよ、ほらこれ見て」

 

 ドン引きしている二人を手招きすると、おずおずと近づいてくる。脇にどいて、光冷ちゃんと真殊ちゃんにも、床の奥にある()()()を見せた。

 

「これは!?」

「取っ手、だねぇ。これ見つけるってすげーなぁ、光冷の【霊視】」

「かなり古い扉だ。そして、これだけ表に露出させれば……俺でも分かる。神格の魔力だな」

 

 床の奥にある、地下とを隔てる取っ手付きの頑丈そうな扉。そこからむわりと漏れる魔力には覚えがあり、そして面倒くさい相手であることも確定して、思わず表情に出るほどに嫌な相手だった。

 

「与一さん、この扉の奥……無数の魔力の塊が、ものすごい、蠢いてるんですが……!?」

「だろうなぁ。あ〜〜〜〜めんどくさいめんどくさい、俺こいつの相手嫌なんだよなぁ」

「知ってる敵が居るってことすか」

「うん。居るみたいなんだよねぇ、()()が」

 

 はあ、とため息を一つ。よりにもよって、と脳裏で独りごちりながら、扉の取っ手を両手で掴む。

 

「あんまり人のことスパルタとか言えないなぁ、俺も似たようなことやってるんだから」

「……与一さぁん?」

 

 取っ手を引っ張りながら、不安そうな声色の真殊ちゃんに後ろを見ずに言葉を返す。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、クモ退治に行こうか」

「この流れで出てくるクモが普通のクモなわけないって馬鹿でも分かるんですけどぉ!?」

「なぁに、小グモの時点でちょっとした小型犬くらいあるやつがわさわさ出てくるだけだよ」

()()の定義とは……」

 

 果たして、開け放った扉の奥に続く暗闇を見下ろす三人。その耳に届く『カサカサカサカサ』という音は、否が応でも想像したくない存在を想起させ、全員で揃って渋い顔をさせるには充分であった。




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