とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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アーカムナイト・『エト』セトラ 1/4

「……とりあえず、状況整理をするけど」

 

 カガリを置いてその場を離脱してから数分。かなりの距離は取れたはずだからと、近くにあった公園に入って足を止める。

 

「あの巨大生物は恐らく干支をモチーフに作られた人造生物で、既に深月と白百合と真殊ちゃんがネズミ型とウサギ型は討伐済み、今はヒツジ型をカガリが足止めしている……って状況だな?」

「そうなるっすね。あと確認してるのはイヌ型とサル型なんで、干支モチーフとなると……」

「ウシ、トラ、タツ、ヘビ、ウマ、トリ、イノシシが残ってるわけだな」

 

 こちらの言葉に深月と篠原さんが続く。その横で指折り数えていた真殊ちゃんが、半笑いで言った。

 

「これが十二支じゃなくて12の試練的な方だったらヤバかったんじゃないの?」

「ギリシャ神話的な方はなぁ……俺がギリギリ勝てそうなのはネメアーの獅子くらいだぞ」

「与一さん、刃物が通らない皮を持つライオンを絞め殺せる宣言はドン引きが勝るんすよ」

 

 ──それはそう。

 

 深月に苦笑されながらも、あまり芳しくない状況に真面目な空気に戻す。

 

「……で、この件の問題点は、何をするのがゴールか分からないことだな」

「誰だか知らん黒幕が何したいのかまったくわかんねーのがね。でもあの魔術師連中は、あたしらはオマケで与一さん狙いだったわけじゃん?」

「そもそもの狙いは与一さんだけで、私たちは計画時点で近くに居たから纏められたとか?」

 

 真殊ちゃんと光冷ちゃんの言葉を余所に、こちらも考える。黒幕が、いつぞやにシセルとエリー(ソフィア)をこの時代に送り込んだ存在──白百合が出くわした人造神格に人格を移して逃げおおせたグレイ某だとして。過去に戻ろうとしている過程で、なぜこちらに関わってくるのかは、分からないようで分かる。

 

「黒幕は俺にちょっかい掛けたいんだろうな。たぶん、アレなんだよなぁ〜、俺があの人造生物と戦うところが見たいんだと思う」

「よしじゃあ全部殺してこい」

「篠原さん俺のこと嫌いでしょ」

「この事態の原因の原因って意味ではな」

「俺、実は被害者なんですよ」

「フン」

 

 鼻で笑われた…………! 

 

「まあやるけどさぁ。ただ問題がもう一つあってね、首謀者の性格の悪さを加味すると──アレ、分身するんじゃない? っていう予感があってさ」

「…………ん~~?? してた?」

「私らが相手してたときは増えたりしてなかったっすね。ただまあ……与一さんが目的なら、私らと戦ってるときにその手札を見せはしないんじゃ?」

 

 真殊ちゃんの疑問に深月が答える。そこに腕を組んでぼんやりと思考していた白百合が、そういえばと思い出したように口を開いた。

 

「ネズミ型を殺してウサギ型に切り替わった時、そしてウサギ型を殺したあとにイヌ型からサル型、サル型からヒツジ型に……と切り替わっていきましたが、()()()()()()()ように姿を変えていました。あの見た目に干支12体分の質量が詰まっていたとすると、異様な突進の重さにも合点がいくんですよね」

 

 実際にボコボコにやられていた白百合だからこその推察、その考えには説得力があった。

 

「つまり、ある程度自由に切り替われるなら、切り外せてもおかしくない。あれ、それだと……」

「あの女、死ぬんじゃねえか?」

「…………。だよねぇ?」

 

 こちらの推測に、確信するような声色で篠原さんが続ける。一人で残って足止めしているカガリが、下手に障害だと判断されたら。

 ……質量よりも、分裂して手数で潰しに掛かっていてもおかしくないんじゃないか。

 

「仕方ない、俺が軽くひとっ()()してさっきのところに戻ってみるか────」

 

 少し体を伸ばして、誰に言うでもなく独りごちる。──瞬間、空気を割いて上空から『質量』が降ってくる感覚を肌で察知して、脚に込めた魔力を使って即座に【韋駄天・(あらため)】を起動して落下物を迎撃するべく四歩踏み込む。

 

「全員伏せろぉ!!」

 

 周囲を四歩だけ駆けることで、地面にひし形を描くような軌道で加速し、五歩目で上に跳ぶ。

 落下してきたなにかを、上に跳ねた脚力と速度そのままで全力で蹴り飛ばし、落下地点を大きくズラすことで公園の端に弾いて撃墜させた。

 

「っ、重っ!?」

 

 サマーソルトみたいな姿勢で蹴り飛ばした状態から体を捩って着地して、落ちた相手を見やる。土煙の奥から現れたのは、筋骨隆々のサル……いやまあこれは……やっぱりゴリラだよねぇ!? 

 

「誰だこれをサルって呼んだの!」

「真殊ちゃんっすね」

「今度、眼科行こうな……!」

「あたしに飛び火しやがっ、たぁ!?」

 

 とか言ってる場合じゃないな。さっき蹴った感触からして、確かに中身がみっちり詰まってる感覚があった。こっちの嫌な予感が正しければ……

 

「……で、すよねぇ〜〜」

 

 巨体のサル。ヤツの体がブルリと震え、輪郭がブレたと思えば、内側から溢れ出た別の肉体が地に足をつける。その姿は、ウシとトリ。……否、角の生えた獰猛な牛と、鋭い爪の猛禽類だった。

 

「闘牛と大鷲じゃん!!?」

「干支に出てくる動物の種類だけは合ってるのが絶妙にパチモン感出てんなぁ……」

 

 こちらの叫びに、真殊ちゃんですら呆れが勝ってツッコミを入れていた。

 しかし、ふざけた人造生物だからといって、舐めてかかっていいわけではないのは分かっている。

 どの分身にどれだけの質量──他の動物が詰まっているかは判別できないが、1体1体を確実に仕留める必要があって……上手いこと手分けするためにも、この場でサルかウシかトリを引き離さないと。

 

「機動力勝負で言えばトリか。……篠原さん、サルとウシ、どっちなら相手できます? 残った方を白百合にぶつけるんで得意な方を選んでください」

「まあ、こいつらのうちのどれだって聞かれたらウシだろうな。突っ込んで来させてカウンターで輪切りにしてやりゃあいい」

「わかりました。白百合! 俺がトリを殺る、サルの相手なら出来るよな!?」

「お任せください♡!♡!♡」

「この人もしかして断るって概念無いんすか?」

 

 こちらの指示に即答した白百合に、深月が小さくボヤく。その辺は、まあ……こっちの言う事聞いてくれてる内は文句は無いから置いておこう。

 と、それはそれとして、こちらでトリを対応。篠原さんと白百合にウシとサルの相手を任せる形で纏めて、いざ行動に移そうとした時。

 

 不意に、トリがその大きな翼で全力で羽ばたき、公園の地面を巻き上げ土煙で辺りを包む。

 

「くそっ、深月!」

「──【風纏の王(イタクァ)】!」

 

 即座に深月に声を飛ばせば、彼女は意図を汲み取って【風纏の王(イタクァ)】を起動し、暴風で土煙を晴らしてくれる。しかし土煙が晴れた頃には既にトリの姿は無く、背後で羽音が聞こえて振り返った頃には──文字通り鷲掴みにされた白百合が上空を舞っていた。

 

「な、なぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……!?」

 

「白百合──! ……なら自分でなんとかするか」

「あ、扱いが雑……」

「信頼感が(アチ)ぃなぁ〜」

 

 白百合が連れて行かれて一瞬焦るが、現時点での戦力で言えば、たぶん篠原さんとこちらの次にあいつは強いから放っておいても死にはしない。

 深月と真殊ちゃんが呆れ気味に呟くけど、その言葉に続いて、【霊視】でトリを見ていた光冷ちゃんが声を荒らげた。

 

「……! 与一さん逆です、アレを追ってください! 離れたおかげで個別に判別できました。あのトリが一番魔力量が多いです!」

「なにぃい!? ……マジ? マジかぁ〜」

「与一さんを誘い出す用に連れてかれたんすかね。たぶんミスチョイスだと思うんすけど」

「それは俺もそう思う」

 

 ……あんまり子供の方を傷つけたりしたらこちらとしても加減が出来なくなるし、向こうもそれを懸念したのかもな。とは口には出さず。

 仕方なく、本当に仕方なく、再度【韋駄天】を起動して脚に力を入れる。

 

「無茶はするなよ。最悪、時間稼ぎだけしてくれてれば俺が戻ってきて始末するから」

「…………。っす」

「?」

 

 何故か不機嫌になる深月に見送られながら、地面や街灯、建物の壁を足場に、トリ……に鷲掴みにされた白百合を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──すっ飛んでいった与一を見送った深月が、わかりやすく深いため息をつく。

 

「はぁあぁ〜〜〜〜」

「なんつうデケェため息だ」

「いやまあ、何と言いますか。分かってるんすよ、与一さんは優しいから、私たちに無茶なことさせたくないし、そもそもこんなことに関わらせたくないと思って率先して行動してることは」

「つまり?」

 

 篠原が、ぶつくさと小言を垂れ流す深月に呆れた様子で問い掛ける。

 

「それでも、この道を選んだのは私なんすもん。言ってほしかったっすよ、『こっちは任せた』って」

「……ふん。そういうもんだ。男ってやつぁな、女にカッコつけたいもんなんだよ。あの小僧に限っては、()()()()()()()()()()が問題なわけだが」

「……? それの何がダメなんすか?」

()()()()()、って話だ。まあそれは置いておくぞ、今はこいつらの相手が最優先だ」

 

 視線を深月から、2匹の動物に移す。(イタクァ)(ヤマンソ)の魔力が横並びで存在していることが原因か、警戒して近づいてこないサルとウシ。しかし、この怪物たちは学習している。

 

「ってやべやべやべ、こいつまた分裂すんぞ!」

「今度は……例のイヌと、トラ!?」

 

 真殊と光冷が驚愕する視線の先で、サルとウシの体がブレて更に分裂する。

 その姿は頭が2つのイヌと、巨体のトラ。そしてトラが深月たちに背を向けると──与一がトリを追っていった方角へと走り出す。

 

「あいつっ……クソっ私が行きます!」

 

 ──この怪物たちは、学習している。別行動を取られれば、数を割かずにはいられないと。

 トラを追うべく【風纏の王(イタクァ)】の機動力でその場から飛び出す深月を見て、くあっとあくびを漏らしたクロが猫形態に姿を変えて篠原に言う。

 

【んじゃ、ニャーも毛玉に手ぇ貸してやるにゃ】

「そうか。……なら、必然的に俺の相手はこいつらか。面倒くさいな」

 

 トラを追った深月、を追ってその場から消えるクロ。残った篠原は気だるげに杖で地面を小突いて、【違えし焔(ヤマンソ)】を起動しようとし──彼の前に真殊たちが立つことで仕方なく中断する。

 

「……おい、邪魔だぞ」

「んやぁ〜、ねぇ? なんか光冷が言いたいことあるらしいんで? ──あいつらの足止めはあたしがやるから手短にヨロシクゥ!!」

 

 まだ慣れない【強化】で機動力を上げた真殊がサルとウシ、イヌの元に駆けながら【呪言】を撃ち動きを止めている光景を見ながら、光冷は口を開く。

 

「あの、篠原さん」

「俺との会話は友人に無茶させてまでやるほどの価値があるものなのか?」

「少なくとも、()()を止めることに繋がる行為は無駄ではありません」

「────。なるほど、【霊視】で見やがったな」

 

 こくりと頷く光冷は、小さくため息をつく篠原に言葉を続ける。

 

「あの炎の力、アレを使う度に、貴方の胸の奥底にあるなにかが燃え尽きている。……篠原さん、貴方は、力の対価に命を差し出しているのでは?」

「……フン。分不相応な力に手を出したマヌケの末路が俺、ってだけの話だ。それで、なんだ? この場では俺が【違えし焔(ヤマンソ)】を使わねぇと勝ち目はないぞ」

()()使()()()()()()()

「あぁ??」

 

 ──止めたいんじゃねぇのかよ。と脳裏で独りごちる篠原は、光冷の返しに目を見開く。

 

「使わないと勝てない、与一さんが戻って来るのを待つ余裕はない。()()()使()()()()()()。ですが、使うのは最低限の威力のモノだけ」

「……ほう?」

「確実に仕留められるタイミングは、私と真殊が作ります。その瞬間を狙って、3匹を一瞬かつ一撃で仕留めてください。あの速度と熱量の『線』による攻撃なら、それが問題なく出来るはずです」

 

 そこまで言って、光冷は左手にベルト付きの刀を【召喚(コール)】すると、ベルトに繋がれた鞘を腰に吊るして音も無く抜き放つ。

 

「それでは、頼みます……っ!」

「……ちっ。仕方ねえ、焚きつけられてやるよ」

 

 駆け出した光冷の背中を見て、篠原は舌打ちしてから【違えし焔(ヤマンソ)】を起動する。

 しかしてその顔は、眩しいものを見るような、在りし日に思いを馳せるような──そんな表情だった。

 

 

 

 

 

「俺らにも、あんな時期があったんだったな。なあ、叶海(かなみ)よ」

 

 杖を持つ手と反対の手のひらを、胸元に当てる。魂を焼き焦がす焔の主は、何も答えない。

 そこにあるのは、術者が指定したモノを焼くという指示に従う、魔術(プログラム)だけである。




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