とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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灰色は過去の空に亡く 4/4

「こんっ、どはっ、どこに飛ばしてんだァ!?」

「んなっはっは、すまない座標をミスった」

【のわぁ〜〜〜〜!!?】

 

 時は遡って数分前。何度目かの転移を経て、与一と外に出ていた雅灯は、グレイの時空操作によって()()()()()()()()

 雲よりも上を飛ぶ金属の塊の表面に着地した与一は、()()()()()中に落ちていく雅灯を見送りつつ、グレイの透明触手を【召喚(コール)】した三節棍で打ち払う。

 

【ふんっ……ぎゃ!?】

 

 すり抜けた先の床──飛行機の機内の床に落ちていってゴロゴロ転がる雅灯は、ちょうどギャレーで止まり、そこでグラスに酒を注いでいた外国人のキャビンアテンダントとバチリと目が合う。

 

「…………」

【…………。あ、お酒、貰いますね〜】

 

 天井をすり抜けて床に落ちてきたところから全部を見ていたCAの困惑を利用してグラスを掠め取る雅灯は、注がれていた酒を一息に飲み干す。

 

【……おぉ〜〜久しぶりのお酒の味。ではこれにて失敬……デュワッ!】

 

 雅灯はグラスをCAに返すと、垂直に飛び上がり天井をすり抜けていく。

 その姿を見上げて見送った女性は、見なかったことにするかのように改めて酒を注いでいた。

 

 

 

【お待たせしました与一くん】

「何やってたんですか」

【ちょっと一杯貰ってました】

「呑んでる場合かァ──っ!!」

 

 飛行機の外に出て暴風に煽られ着物をはためかせる雅灯に声を荒らげながらも、与一はひしゃげた三節棍を魔力に分解して手元に作った【門】から悠花の家に置き忘れていた九十九を引っ張り出す。

 

「いやはや本当に面白い体になっているねぇ。しかも、その悪霊が表に出てきている間はキミ自身があの鎖に繋がれた『手』を出せないときた」

「いいとこ取りは出来ないってことだな。……雅灯さん戻って!」

【あいさー】

 

 月光に照らされて伸びる与一の影に足を入れてそのままトプンと沈み込むように戻る雅灯を見送り、自身も妖刀を抜き放ちながらその影から無数の【禍理の手】を呼び出し殺到させる。

 グレイもまた、6本の触手を6本ずつに分裂させて打ち合い、【韋駄天】で踏み込む与一の一閃を手元に残した1本で受け止めた。

 

「……行くぞ」

「……? 何処に?」

「ダイビングの時間だ!!」

「んぬぉおっ!?」

 

 触手と妖刀で鍔迫り合いに持ち込んだ与一が、片手で胸ぐらを掴んで【韋駄天】を起動。ドンッ!! と飛行機が揺れる威力で横っ跳びして落下を始めるグレイは、与一を突き放すように触手を振り回す。

 しかし虚空に足1つ分だけの空間を固定した与一は、それを蹴って落下の軌道を変える。

 

「っ、3次元的な機動に慣れているな……!」

「そうでもしないと、戦えないもんでな!」

 

 背中から伸ばした【禍理の手】を素早く射出し、グレイの胴体を鷲掴みすると、巻き取る形で引き寄せてすら違うように一閃。

 咄嗟の防御で纏めていた触手のうち2本が半ばから両断され、残りの根元側が形を保てずボロボロと崩れていき、『手』を他の触手で引き千切りつつ落下しながらグレイは思案する。

 

「っ、一旦仕切り直すか……」

 

 とにかく何処かに着地しなければならない。一度改めて床か地面か、いずれかに飛ばなくてはと、手元に銀の鍵を生成した──刹那。

 高高度からの自由落下で視界の上下左右がぐわんぐわんと動き回る途中、不意に目に入った与一の顔が、獰猛に笑っていた。

 

「それ出すのを待っていたぞ……! 【部分顕現:ヨグ=ソトース】!」

「! しまっ────」

 

 バッと向けられた手を経由したヨグ=ソトースの力の片鱗。それが銀の鍵をハックし、グレイの意図しないタイミングでの起動を行う。

 

「なんっ……戻って、来たのか……!?」

 

 グレイと与一を中心に空中の大気ごと行う大雑把な転移。その結果で二人が飛んできたのは、大学内の上空。下を見て【空亡】の存在を確認したグレイと、前を見て駅に鎮座する巨大な列車砲を確認した与一。この一瞬の判断が、勝敗を決めていた。

 

「──グレイ。俺の勝ちだ」

「は? ──ぐぉっ!?」

 

 口を開き、そんなことを言いながら、固めた空間を蹴り加速した飛び蹴りを叩き込む与一。【韋駄天】を使った瞬間的な爆発したような膂力により、真っ直ぐ矢のように天から地へと、そこに存在する【空亡】へと落下し、一拍遅れて空気を裂いて高速で飛来する物体が引き起こした大爆発に巻き込まれる。

 

 与一自身、このタイミングで80cm列車砲の砲撃が行われるとは思ってもいなかった。けれども確かに、何らかの大火力攻撃で【空亡】(シュブ=ニグラス)を仕留めようとすることだけは確信していて。

 

 ゆえにこそ、この土壇場で転移先に大学を選んだのだ。仲間たちにこの場を任せたからこそ、確実に倒せる手段を選んでいるだろうという信頼。

 その結果の大爆発に巻き込まれて斜めに弾かれ、フェンスを突き破って屋上に墜落するグレイを追いかける途中、与一は枯れ木に放火したかのように良く燃えている【空亡】を一瞥して、このまま放っておけば死ぬだろうと思案して宙を蹴って屋上に追従する。

 

「なん、げほっ、この……タイミングで、か? あまりにも、ドンピシャすぎる……だろう……」

「俺もこうなるとは思わなかった」

「ごぼっ、げほっ、なるほど……勝負は時の運とはよく言ったものだ……っ」

 

 たんっと軽やかに屋上に着地した与一は、服のあちこちが破れ、所々が焼けた体から煙が出ているグレイが咳き込む様子を見る。

 

「まだやるか?」

「…………。ふっ、当然。私が死ぬか、キミらを殺すか……その、どちらかだッ!」

「……そうか。なら、もう、終わりだ」

 

 一瞬だけ見せた諦めにも近い表情。グレイは自身の感情を振り切るように声を荒らげ、2本欠けた透明触手をぶわりと展開する。

 それを見て、与一も小さく表情を歪めるが、即座に思考を切り替えて【禍理の手】を足元に伸ばして床をくり抜き投げつけた。

 

「今さら、その程度で──【ほんの1〜2秒、視界を遮れるならそれで十分なんですよねぇ】

 

 床を八つ裂きにするかのように触手で迎撃したグレイは、不意の雅灯の言葉を聞くと同時に、自身の足元から床を貫いて伸びてきた白い手に触手を全て押さえ込まれた。くり抜いた床で視界が妨げられた僅かな秒数で、与一がその場に雅灯を残して離脱したことを察して──賞賛するように笑みを浮かべる。

 

「──お見事」

 

 そんな言葉を最後に、背後から横を通り抜けざまに胴体を袈裟斬りに裂いた与一が足でブレーキを掛ける光景を、グレイは視線で追った。

 

「……ふっ、ふふふ゛っ、げふっ、ごぼっ……ははっ、ふははは゛は゛」

 

 雅灯が改めて与一の影に潜る横で、かろうじて真っ二つになっていないだけで大きく斜めに胴体を斬り裂かれたグレイが血を吐く。

 彼女は多量の血を傷口から流しながら体を揺らし、足をもつれさせて、突き破った方とは反対のフェンスに背中から倒れ込み尻もちをつく。

 

「…………失敗するってわかってた。負けた過去が無かったことにはならないってわかってた。でも、やるしかなかった。それまでの行動まで無駄だと思いたくなかったから。……そうでもしないと自分を保てないヤツが、居るんだ。私や、ショウ、が」

「ショウ?」

「……白百合(ショウ)。終わった世界を救うためにと、そのための異能力を持つ自分を生み出そうと躍起になっている哀れな女だ」

「白百合の、親玉か」

「……ご褒美だ、持っていけ。この鍵なら、あいつの居る世界への【門】を開ける」

 

 懐に手を入れ、血にまみれた銀の鍵を与一に差し出すグレイ。傍にしゃがみ込んでそれを受け取り、与一は鍵をポケットに入れた。

 

「……行くなら少数で行け。ただし、連盟組織には知らせるな。碌なことにならない。所属しているやつを連れて行くなら、口止めできるやつを連れて行け。居るだろう、キミの知り合いにも一人や二人」

「ああ……あぁ〜、まあ、居るな」

 

 知り合いの顔を思い出したのか、与一は渋い顔をする。その思考を振り切るように頭を振ってから、さらにグレイに問いかける。

 

「そんなに連盟組織は信用ならないか」

「……なるわけないだろう。思い返してみろ、『前回』の私が起こした事態を収束させた情報は残っているはずだ。()()()()()()()()()()()?」

「────」

 

 そう言われて、与一は思い出す。以前、姫島ヒカリとの戦いを終えて、秋山にデータベースを調べてもらったときに見た情報を。

 

『調査のために派遣された魔術師・呪言使いである言乃葉ミドリはその後、大学内でドラッグを密売していた魔術師およびドラッグの過剰摂取により擬似的なシュブ=ニグラスの眷属となった生徒数名、更には顕現したシュブ=ニグラスそのものを撃退』

 

 情報と現状を併せて改めて考えることで、与一の中に矛盾への疑問が生じる。

 

「……シュブ=ニグラスの眷属となった生徒数名と顕現したシュブ=ニグラスそのものを撃退。いや、待て、おかしいだろ。()()()()()()

「……おやぁ? 本当だ。なら、今度はさっき、私が擬似眷属を発生させたときの言葉を思い出してみたまえ。なんて言ったかな?」

 

 

()()は生徒総数約1700人の中から10分の1程度しか眷属化させられなかったが、な・な・なんと! 今回は2倍の、約340人だぁ』

 

 

「……私は確かに、()()()340人を擬似眷属化させたねぇ。前回はその半分。それを……()()()()? あまりにもサバを読みすぎているじゃないか?」

「連盟組織は、嘘をついている……?」

「……だから言っているだろう、碌でもない組織だって。ヒカリや明暗丞久などの特定の個人は信用できるだろうさ。だが組織そのものは信用するな。これは、敗者から勝者への純然たる善意だ」

「────」

 

 考え込むように黙る与一を横目に、グレイは体の節々が崩壊していく感覚を覚え、力の入らない手になんとか力を入れて指をパチンと弾く。

 その動きに連動して、与一の腰に刻まれたグレイの術式が淡く発光する。

 

「ん?」

「……時空干渉の術式を作動させた。今から10分後に起動して、キミは元の時間に戻る」

「なんっ……いき、なりだなぁ!?」

「だって、ほら……キミってなんだか、時間を与えると家族との別れをうだうだ長引かせそうだろう。ほら、早く合流するといい。あと9分30秒だ」

「…………。はぁ、余計なお世話だよ」

 

 くつくつと笑うグレイに呆れながらも、小さくため息をついてから、与一は立ち上がり屋上からさらりと飛び降りていく。その背中を見送ったグレイの瞳は、憐憫の感情を浮かべていた。

 

「……ああ、可哀想に、桐山与一。キミの人生は、これからが最も大変なのになあ」

 

 足が、手が、ボロボロと崩れていく。グレイはそれでも、どことなく満足気に笑みを浮かべる。

 

「まあ、伏線(バックアップ)は残しておいた。使わずに済むなら、それに越したことはないが……別に、これで罪滅ぼしになるわけでも、ないんだよねえ」

 

 血を失った頭がぼんやりとし始め、体が死に近づくなか。グレイは最後に一言。

 

「……ショウ、私もお前も、さっさと諦めて前に進めていれば、こうはならなかったのかもなぁ」

 

 誰に言うでもなく呟いて、グレイは塵となる。果たして過去の空に、灰色は散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──大学の敷地内で合流を果たした与一は、ヒカリとミドリ、龍一と悠花、千夏と小梅の六人が無事であることにホッと胸を撫で下ろす。

 

「なんとか、全員生き残れましたね」

「おう。グレイも倒せたか」

「はい、なのでまあ、その……俺の方も、元の時間に帰ることになりまして」

「なにぃ!? 急じゃねえか!?」

 

 龍一は与一の言葉に驚愕する。聞いていた他の五人も大なり小なり驚き、悠花が口を開く。

 

「そんな、これから皆で祝勝会をしようと思っていたのに……もう、帰っちゃうなんて」

「ごめん。でも、時間に猶予があったら、ほら。帰りたくなくなっちゃうし」

「まあそうだな。俺らもお前との別れが惜しくなっちまうし、仕方ねえか……」

 

 与一の言葉に納得しつつ、最初に千夏と小梅が前に出て別れの言葉を告げる。

 

「じゃあね、与一くん。真冬にもよろしく言っといてちょうだい」

「はい。伝えますよ」

「与一さん、大変でしたが……よい経験にもなったと思います。私の中のシュブ=ニグラスとも、上手く付き合っていこうかと」

「そうしてください」

 

 次にヒカリとミドリが入れ替わる。

 

「……まあ、それなりに楽しめたぜ」

「さいですか。……渡したノート、役に立ててください。このメンバー以外に読ませるつもりなら十分に気をつけてください」

「おう」

「楽しかったぜぇ、未来人……いや、与一。あたしが生き残って未来がどう変わるか見せられねえのは、ちょいと残念だな」

「ふっ。未来なんて、誰にもわからないくらいでちょうどいいんですよ」

「んだな。……ほら、最後に親子水入らずで語り合ってこい」

 

 ヒカリとミドリが千夏と小梅を連れて数歩後ろに下がり、龍一と悠花と三人で話せるように距離を取らせた。──そういう気遣いはできるんだな。とは口には出さず、別の言葉を出そうとした喉が詰まる。

 

「……ぁ、っ」

「与一?」

「いや、その……ああ、いや、えーっと……元気で……っていうか、なんというか」

「与一、ゆっくりでいいのよ」

 

 悠花に言われて、与一は深呼吸を挟む。それから改めて言おうとして、その瞳から涙が溢れる。

 

「────。ああ、ああ……くそっ、帰りたくない。帰りたくないよ……っ」

「与一……」

「っ、与一……!」

 

 袖で拭っても溢れてくる涙を止められず、与一は二人の前で膝をつく。龍一と悠花も、同じように膝をついて、二人で与一を抱きしめる。

 

「父さんも母さんも死んだ、千夏さんも死んだ。小梅さんだって、記憶を無くして息子のことを思い出せない。でもここには皆居る…………なんで、俺の世界では、こうならなかったんだよ……」

「ああ、わかるよ。辛いよな。……ごめんな、与一。俺たちが死んじまったせいで、ずっと辛い思いさせてきてたんだよな」

「ごめんなさい、不甲斐なくて。親は子供より先に死ぬべきだからって、大人になる前に死ぬべきではないのに……ごめんなさい、与一」

 

 まだ産まれてきていない息子と、まだ結婚すらしていない夫婦。(いびつ)ながらも、そこにある繋がりは確かに親子足り得ている。

 刻まれた術式が輝きを増し、時空転移まで秒読みとなった辺りで、与一は止まった涙を拭って二人から離れるように立ち上がると言った。

 

「……ここに居たい。帰りたくない。……でも、帰らなきゃ。残してきた人が居るんだ。俺の人生で得た繋がりは、無かったことには出来ない」

「そうか。……そうか、帰るんだな」

「元気でね、与一。私たちも、頑張って未来を変えてみせるから」

「うん……ああ、それと」

 

 それから、腰の魔法陣と同じ文様の魔法陣が地面に現れるのを尻目に、与一は続ける。

 

「別に、無理して同じ未来を辿ろうとはしなくていいんだよ。結婚しなくたっていいし、子供を産まなくてもいい。産まれた子供を『桐山与一』になんてしなくていいし、もしかしたら女の子が産まれるかもしれない。だってもう、俺が生きてる現代とここの未来は、絶対に同じにはならないんだから」

「おう。肝に銘じておくぜ」

 

 龍一が笑い、釣られて与一も笑う。その光景を最後に、桐山与一は、過去の時間軸から姿を消した。

 

「……へっ、最後の最後までこっちのこと気遣ってから帰りやがったよ」

「なんだか、夢を見ている気がしますね」

「だなぁ。……ってなわけで、だ」

「はい?」

 

 目元を袖で擦る龍一の動きに微笑した悠花は、続いて出た言葉に絶句する。

 

「結婚しなくたっていいってよ。お前も俺みたいなのと結婚するの嫌だろうし、ここで互いにお別れってことでもいいんだぜ?」

「────。え、いや、その、え?」

「こいつマジ?」

「こいつはこういうとこある」

「桐山くん、信じられない…………」

「与一のやつがこいつらの何処を引き継いで育ったのか気になるところだな」

 

 そんな言葉を聞いて思考が止まる悠花と、心底呆れきった顔をするミドリ。

 ため息混じりにジトッとした目を向ける千夏に加え、小梅とヒカリも呆れて、それからふと思い出したように懐からノートを取り出した。

 

「はあ。……お前らの夫婦芸はどうでもいいんだよ、好きにやってろ」

「……? そのノートは?」

 

 小梅がヒカリの動きに気づいて問いかけると、ヒカリもパラパラとめくりながら返す。

 

「与一のアフターケアってところだ。俺らを中心に、これから何が起きるか、どんな魔術師が現れるか、そういうのを書いたらしい」

「……与一さん、本当にマメな人だったのね」

「親が居ないと嫌でも気遣いできる人間にならざるを得ないってことだな…………」

「おん? ヒカリ、どうした?」

 

 ノートを読み込みながら話していたヒカリが、不意にその動きと言葉を止める。気になったように意識を向けたミドリの問いを余所に、珍しく狼狽えた様子で視線を右往左往させるヒカリが言う。

 

「どう、なってる……あり得ない」

「なにがだよ」

「──()()()()()()が、()()()()()()()()()()? そんなのあり得ない。あり得るわけがない」

「……おいちょっと待て、春夏秋冬円花??」

「ひととせ……なに? 誰のことだ?」

 

 ヒカリが狼狽えている様子を見れば、やいのやいのと話していた龍一たちも気になって問いかけながら合流してくる。ヒカリは言葉を選ぶように逡巡を挟み、一拍の間を置いてから口を開いた。

 

「春夏秋冬円花は、俺と同じ連盟組織創始者の一人だぞ。今回だって、俺の仕事を代わりにやらせるために押し付けてきたから生存も確認してる」

「……えーと、つまり?」

 

 龍一の困惑気味の言葉に更に返す。

 

「春夏秋冬円花と同姓同名の人間がこれから生まれてくる? ンなのあり得ねえ。なによりあり得ないのは、()()()()()()()()()()()()ことだ」

「…………。……あ!! そうじゃん! 未来のヒカリがこのことをあいつに言わない理由が無い! なのに与一のやつは円花がヒカリの同僚であることを知らないから、そんなことをノートに書き残した」

「となると、問題が発生する。……なんで未来の俺は『同僚の円花』の存在を知らない? その答えは、ただ一つだけだ」

 

 ヒカリはノートを閉じて、懐に仕舞い直してから、険しい顔で結論を述べる。

 

「──未来の俺は、連盟組織から記憶を弄られている。そして最悪なことに、春夏秋冬円花を中心に、これから幾つかの大問題が発生するらしい」

 

 それは、与一に伝えるべき情報。しかし、与一はもうこの時間軸に居ない。

 未来に戻った先で起こる問題に手を出せない事実に、その場の全員が歯噛みする事となるのだが、当の本人は知る由もない。

 

 そしてもう誰からの干渉もなければ、誰も観測出来ないこの時間軸でもまた、人知れず、それでいて未来の命運を分けうる苛烈な戦いが待ち受けているのだが、それが語られることはないだろう。

 

 

 

 

 

『完』




第四部完、お気に入りと感想と高評価ください。
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