とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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シナリオ制作者:地球さん様
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鏡鏡鏡(さんめんきょう) 1/14

「それにしても、まさかこんなところでキミと再会するとはね。御剣クン」

「たまたま隣町での任務があったので、本当に偶然でしたね。お元気でしたか、竹田さん」

『私も居るわよ〜ん』

 

 某日某所、夜道には二人と1体。

 

 明野町と呼ばれる町の、街灯に照らされた歩道を歩きながら。連盟組織の魔術師・御剣リオンは、任務を終えた帰り道でばったりと出くわしたイス人・竹田と、生き人形・蛇神と並んで歩いていた。

 

「まあ、元気ではあるね」

「ここは……明野(あけの)町、でしたっけ。こんなところに用でもあったんですか?」

「用もなにも、ここは私の……というか、私が使ってる体の生まれ故郷だからね」

「え。そう、なんですか?」

『律儀よねぇ、体を使ってる恩返しも兼ねてたまに里帰りしてるのよ。この子』

 

 くつくつと笑う蛇神に横目で睨みつつ、竹田はリオンに言葉を続ける。

 

「ふん。両親には日本中を飛び回っている元医学生志望、という設定で接しているんだ。おかげでいつぞやの戦いで肩を撃たれて入院した時は、どう説明するべきかで何日も悩むハメになった」

「それは……大変でしたね」

「まあ、後遺症もなかったから黙っているがね」

 

 姫島ヒカリとその一派との戦いも昔のことのように感じるリオン。当時のことを思い出しながら、足元の水たまりをヒョイと避けると、不意に歩道の奥から慌ただしい足元を耳にして顔を向ける。

 

「……? 誰か来ます」

「なら、端に寄ろうか」

 

 リオンの言葉に反応して竹田も言う。しかし、足音が近づくにつれ、その異質さを捉えたのは──生々しい鉄錆の臭いを感知するリオンの嗅覚。

 それから街灯に照らされる形でリオンたちの現れたのは、片腕に大きな切り傷をつけられ出血している、スーツ姿の女性だった。

 

「──はあっ……はあっ……! た、助けて! 助けください!」

「落ち着いてください、なにがあったんですか」

「ひっ、はぁっ……! 早くしないと……早く逃げないと! あっ、ああ、あいつが……!」

「あいつ?」

 

 咄嗟に非戦闘員である竹田と蛇神の前に出て対応したリオンだが、女性は錯乱していて会話にならない。よほど疲れていたのか、数秒後には女性は水溜まりの上に背中から倒れ込むほどである。

 

「ちょっ……大丈夫ですか!?」

『────。リオンちゃん!』

「っ!」

 

 直後、蛇神が声を荒らげる。

 

 咄嗟に大きく後ろにステップして下がるリオンは、それから水溜まりの上に倒れた女性が、なぜかもがき苦しみ始める光景を目の当たりにした。

 

「……何が起きている?」

「わかりません。ですが、これは……何か、妙なことが……」

『あの水溜まり、()()()()()()わよ』

「──!」

 

 蛇神にそう言われて、二人も女性の下にある水溜まりに注視した。すると、不思議なことに、確かにその水溜まりの下からは黒い人間の手が伸びており、女性の首を鷲掴みにして絞め上げている。

 

「っ、助けないと!」

「私の電撃銃では女性を巻き込む、牽制しろ御剣クン! 手を離させればいい!」

「はい!」

 

 反射的に駆け出しつつ、リオンはその手のひらに刀の(なかご)のような部位を形成して握り、先端から鋭い刀身を伸ばす。

 そのまま女性の脇腹の横辺りから水溜まりだけを突こうと近づいた──瞬間、それよりも早く、女性の腹から腕が突き出てきた。

 

「なんっ……!?」

 

 思わず足を止めたリオンの眼前で、女性はもがくのをやめて大人しくなる。

 

「し、死んだ……」

 

 誰が見ても、絶命していた。そして、更に水溜まりの中からは刀を持つ手が伸び、一気に振り下ろされた刀身が女性の体を真っ二つにする。

 

「……御剣クン、構えるんだ」

 

 二つに分かれた遺体から、黒い手──その持ち主が這い出ようとしている途中、三人は気づく。

 それは黒い手ではなく、()()()に塗り潰されて黒くなっている甲冑なのだと。

 周囲に漂う異臭に顔を顰めながらも、それぞれが這い出てきた何者かの全体像を捉える。

 

 それは、闇夜に溶け込みそうな程に黒い甲冑を身に着けた男。隙間から覗く肌は焼け焦げていて、目には眼球がなく穴が空いている。

 そんな姿を見て、ふと鼻を鳴らした蛇神が異臭の原因が男にあると察して言った。

 

『この臭い、あれね。焼死体の臭い』

「じゃあアレは、死体が動いているのか?」

『さあねえ。ただ雰囲気的には結構マズイ相手かも、たぶん与一クン案件。逃げた方が良いわ』

「僕としても、竹田さんと蛇神様を庇いながらでは厳しいです。引きましょう」

「そうだね。殿(しんがり)を頼めるかい」

「はい。走って!」

 

 即座に判断して、竹田と蛇神を先に走らせる。最後尾で甲冑の男を警戒しながら走り出す直前、リオンはふと気になって振り返った先で、男が女性の遺体に何かをしている様子を視界に捉えた。

 

「……っ」

 

 異様な行動に嫌悪感を抱きながら、リオンは二人を追いかける。そして、その背中に追いつこうとしたその時。一番前を走っていた蛇神が、曲がり角の先から現れた何者かとぶつかった。

 

「きゃっ!?」

『あらっ、ごめんなさいね』

 

 蛇神は、バランスを崩すも転びはしなかった相手を見やる。長い茶髪を伸ばした大人びた雰囲気の女性は、肩に提げたドクターバッグを掛け直しながらも、走ってきていた蛇神たちの雰囲気から異常事態を察したように真面目な表情で問いかけてきた。

 

「こちらこそごめんなさい、その……何かあったんですか? 慌てていたみたいですが」

「……信じられない話かもしれないが、鎧武者の格好をした何者かが女性を殺害した。すまないが警察に通報してもらえないか」

「えっ、それってもしかして……!」

 

 手短に話した竹田の言葉を素直に聞き入れた女性は、携帯で()()()()()()警察に通報する。

 

「私は近くの診療所で嘱託(しょくたく)を受けている警察医です、通報は済ませましたのでご安心ください。それと……詳しい事情を把握しておきたいので、現場に案内してくれませんか」

『危険よぉ?』

「仕事ですので。もちろん、犯人が居なくなっていることを遠巻きにでも確認できたら近づく、という安全策を取りますから」

「────。ふうむ」

 

 竹田の目線からでも、女性の発言には嘘を感じない。けれども、理解がありすぎるかのように話がスムーズに進む違和感はある。

 ──この女性は事情を知っていそうだ。そう思案して、竹田は頷いて返した。

 

「……それもそうだな。御剣クン、毎度毎度護衛を頼んですまないが……」

「わかってます。戻りましょう」

 

 人の気配に刀身を魔力に分解しながら追いついたリオン。彼女を逆走させることに申し訳なさを抱きつつ、竹田と蛇神、女性は現場に向かう。

 異常者から逃げようと走っていたからか、意外にもかなりの距離は取れていたらしく、四人は小走りでも数分掛かってようやく現場に到着した。

 

「ここの水溜まりで、女性が斬られて真っ二つになっていた……の、ですが……」

 

 大きなドクターバッグを肩に提げているにも拘らずさらりとついてきている女性を横目に、リオンが殺害現場を思い返す。しかし、そこには誰の姿もなく、女性の遺体も鎧武者の男も居なかった。

 

「無くなっている、みたいですね。……遺体はどこに消えたのでしょう」

『それほど時間は経っていないし、もしかしたら持ち去ったのかもしれない、け、ど────』

 

 あっけらかんと恐ろしい発想を口にした蛇神が、キョロキョロと辺りを見回していたそのとき、ピシリと体が硬直する。何事かと、リオンと竹田、女性も視線を辿り、その先にあった木に視線を移した。

 

「うっ……お、おぉ……!?」

 

 竹田の驚愕で喉から出たうめき声。リオンや女性も、驚きのあまりに似たような声が出そうになり、蛇神がドン引きした表情で呟く。

 

『……あら、まあ。結構久しぶりに見るわね、こういうタイプの人の死体って』

 

 全員で見やる木には、つい先ほど殺害された女性の遺体が、藁人形を打ち付けるかのようにして吊るされていた。真っ二つにされた体は本人の髪の毛で縫い付けられていて、服には血文字が残されている。

 

 そこには赤黒い色で、こう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──【死刑99人、我守護せよ】




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