とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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かわらぬ挨拶 5A/6

 五回目のループ。ここに来てついに、ループ中に真冬が命を落とした。こちらの薄暗い感情をよそに、当の真冬は呑気に提案してくる。

 

「そっちの事故現場はどうだった? あたしは今回ほなみ連れてビルに行くつもりだけど」

「それ前回も聞いたよ」

「……は?」

「……やっぱり覚えてないのか」

 

 心底不思議そうにする真冬に、四回目のループで何が起きたのかを説明する。

 こっちで第一犠牲者たちのケアをしたことと、そのあと真冬がビルの方で何かをやらかして最終的に情報を残して死んだことまで全部話すと、彼女は頭を抱えて重いため息をついた。

 

「──マジかぁ~~~~」

「本当に覚えてないんだな」

「うん。でも、死んだってことは痛い思いをしたわけだし、覚えてなくてよかったかも」

「まずそうならないように行動しよう、っていう話をしてるんだけど?」

 

『お前は前のループで死んだんだぞ』と言われても、どこか他人事になってしまうものなのだろう。なにせその時のことは覚えていないのだから。……しかしまあ、なんというか。

 

「……謎の自然現象とかじゃなくて、明確に魔術師の仕業だとわかると逆に安心するな」

「そんなもんなの?」

「幽霊系ホラーだとどうしようもないけど、殺人鬼系ホラーならワンチャン犯人殺せば終わるしな……ってなるじゃん。あんな感じ」

「わからん」

 

 ともあれ、次の目標は決まった。あとはほなみを待って、三人でビルに向かうだけ。

 

「魔術師の相手は俺がする。真冬は屋上に行って何が起きたかを見てきてくれ」

「ほなみはどうやって連れ出す?」

「……上手い言い訳があればなあ。前回の真冬がどうやって連れ出したのかさえわかればそのネタをまた使えばいいだけなんだけど」

「それ思い出そうとするとなぜか魂が拒絶するから別の手考えない?」

「マジでなにがあったんだ」

 

 などと二人でベンチに腰かけたままうんうん唸っていると、それから何時ものようにほなみがやって来る。少し待って横断歩道の事故が起きないことを確認し、かなことちずるが上手く逃げられていることを祈りながら口を開いた。

 

「──ほなみ、ビルに行くぞ!」

「なんで???」

 

 

 

 

 

 

 

 ──ビルはカフェのすぐ近くに建てられているが、入口が裏にある所為で到着まで時間が掛かった。迷惑行為上等で【強化】状態で車の上を走れば5分で着くだろうけど、流石にそこまで常識外れではない。先輩じゃあるまいし。

 

「じゃあ、ほなみと真冬は二人でエレベーターで屋上まで行ってきてくれ」

「与一くん私が高所恐怖症なの知ってるよね? 前に話したよね?」

 

 当然のように呼び出したエレベーターに押し込まれるほなみは、真冬がボタンを押すのをよそにこちらに詰め寄ろうとする。

 

「行ってくれるだろうか。行ってくれるね。ありがとうグッドトリップ」

「異議ありィ!!」

 

 ──が、無情にも扉は閉まり、エレベーターはウイーンと音を立てて上昇していった。

 それを追いかけるように階段を駆け上がる傍ら、真冬の死因の考察をする。

 

 大方、自分が人形化の件で魔術と魔術師に関わった経験で強気にカマでもかけたら、逆上されたかなにかで反撃されたのだろう。

 対魔術師の対応方法を事前に言わなかったのも悪いと思っているけど、まさかピンポイントで遭遇するとは思わないでしょうが。

 

 魔術師(あいつら)は基本的に頭のネジが緩んでるか外れてるかで、『対話』と『暴力』の次くらいに『魔術』という選択肢を選んでくる連中だ。

 

 証拠隠滅のためなら平気で人の頭に干渉して認識や記憶を弄るからな。

 事実として丞久先輩や秋山さん、小雪さん辺りがいろんな町や山、施設で暴れた痕跡は、大規模な記憶系魔術で自然災害やガス漏れ事故が起きた──()()()()()()()()()()()

 

 ……そう、魔術師というのは、敵にも味方にもマトモな奴が居ないのだ。

 

「──はいストップ」

「…………なにか?」

 

 だからこそ、魔術師として、4階で下行きのボタンを押そうとしている女性が同類であると直感で理解できてしまう。そして、こちらの魔力の多さに気づいた相手の首を無意識かつ即座に()()()()()行動に、女性より先に自分で驚いた。

 

「……ぐっ、か、はっ……!?」

「時間に関係する魔術といえば……お前、ヨグ=ソトースの信奉者か。少なくとも塵を踏む者(クァチル・ウタウス)の方ではないな?」

「っ!?」

「俺たちやお前が猟犬に狙われてないってことは、この時間の巻き戻りは自覚してるやつの()()()()が戻ってるってことだ。

 ループ経験者が死ぬとそのことを覚えていないのは、意識が死という形で途切れるから……どうやらお前は経験者(こっちがわ)ではないみたいだな」

 

 念のため詠唱出来ないように、それでいて呼吸だけは出来る絶妙な力加減で首を掴み、壁に押し当てたままつらつらと言葉を紡ぐ。

 

「……思ったより、俺はお前に対する怒りを募らせているみたいだ。ほなみは何度も死なせてるのに、真冬が1回お前に殺されたことは許せないという意味では、全くもって酷い人間だよ」

「がっ、く……か、ぁ」

 

 ミシミシと嫌な感触が手のひらに伝わり、もう少し力を加えれば枝を曲げるように首をへし折れるだろう。でも、殺すにまでは至らない。

 なんとなく萎えて手を離したが、自分のこんな行動の理由はわかっている。

 

「っ──げほっ、ごほっ!」

「やめだ、やめ。不毛すぎる」

 

 真冬を殺したのは前回のこいつであって、今目の前にいるこいつではない。

 この女に復讐したから何になる。殺せばループが終わるなら今すぐ屋上に連れていって投げ捨てるが、恐らくそれでは解決しないだろう。

 

「……■■■■!」

「魔導書くれるなら見逃してやる……って言おうとしたんだけどな」

 

 ──だというのに、眼前の女は、よりにもよって、魔術による反撃を選択した。

 バッグから取り出した本の模様がボコリと泡立ち、宙でビー玉状に成形されてゆく。

 

「これが真冬の言ってたビー玉……ヨグ=ソトースの従者の類いか。不味いな」

 

 ──避けきれるか? 思案しながら動体視力や反射神経を強化すると、虹色のビー玉が空中でピタリと動きを止め、落下を始めた。その瞬間、角度を変えて高速でこちらに飛来する。

 

 明らかに心臓を狙っている2発を屈んで避け、次の2発を横に跳んで避け──追加の2発が二の腕に突き刺さり、左腕を半ばから千切る。……これは、もしかしたら死ぬやつかもしれない。

 

 真冬は今頃、屋上で一周目の時に下を覗き込んでいた男と話でもしているのだろうか。

 ほなみは外には出ないだろうけど、そろそろ20分を超えるから、あいつが屋上に出たら何か飛んでくる可能性もあるな。まあ高所恐怖症だから出ていこうとはしないか。

 

 どちらちせよ、ここを生きて脱して、魔導書を手に入れ、女を無力化し、最上階に向かう…………なんか面倒くさくなってきたな。

 

 落下中の左腕を床に落ちる前にリフティングのように蹴り上げ、右手で掴み、残りの魔力の大半を注いで、左腕だった肉塊の骨の固さと筋肉の密度を限界まで強化する。

 

「そんじゃあ、まあ、頑張りますか」

 

 飛来する虹色のビー玉をバチィンと弾きながら、気だるさを隠すことなく呟いた。




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