とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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鏡鏡鏡(さんめんきょう) 4/14

 ──生き人形は人間としてカウントされるのか、一人になった時に辻斬り男が襲いに来るのか。そんなことを確認するわけにもいかず、ひとまず話を進めることにした飛嘉野が追加の資料を持ってきた。

 

 全部で5つある資料は、それぞれが『被害者遺族の現在』『被害者の職業比率』『目撃者のリスト』『謎の血文字』『黒い髪の女』に分かれている。

 

「とりあえず、1つずつ読むわね」

 

 意図せずして代表(リーダー)のような立ち位置になってしまった葉子が、飛嘉野から受け取った資料を上から順に読んでいく。

 1つ目の『被害者遺族の現在』には、タイトル通りに連続殺人事件の被害者の遺族に関する情報が纏められているようで、名前や年齢、職業、被害者との関係などが記されている。

 

 

 ・武蔵(むさし)綾乃(あやの)(23歳女性)、職業:美容師。

 昨日(さくじつ)殺害された女性、武蔵瑞稀(みずき)(故47歳)の娘。事件当時以前から別居中だったとされ、職場は明野港前の美容院。

 

 ・宮塚(みやつか)(あきら)(19歳女性)、職業:大学生。

 半年前に殺害された男性、宮塚高樹(たかき)(故45歳)の娘。父と二人暮らしであったが、現在は祖父母と三人暮らし。殺害された宮塚高樹は、心臓が残っていた数少ない犠牲者である。通っている大学は獣坂大学。

 

 

「──! 宮塚、晶……!?」

「葉子? 彼女を知ってるの?」

「ああ、その……さっき言った別件の関係者なのよ。……まさかこの件とも関わりがあったなんて」

 

 自分の言葉に、葉子は嫌な予感を覚える。──もしかしたら、トーマ=レティシアの『御上さん探し』も連続殺人事件と関係しているのでは? と。

 そんな風に思案しながら、次の資料──被害者の職業比率についての内容を読む。それは、殺害された被害者の職業を纏めたリストだった。

 

「……被害者の多くが、『政倉(まさくら)建設株式会社』の関係者である。その中でもダム建設の関係者が最も目立っており、他には他企業の要職や重要人物、明野町における社会的地位の高い者が殺害されている。……これ、もしかして、無差別殺人に見せかけた計画殺人の可能性もありえる……?」

『まあ、それを調べるのも私たちの仕事だから。それで次の資料は……目撃者のリスト?』

 

 葉子に口を開いたソフィアが、横から3つ目の資料を覗き込みタイトルを読み上げる。

 

 

 ──明野町連続殺人事件における目撃者は、資料によれば、どれも事件当日から3日以内に亡くなっている。彼らの発言はどれも支離滅裂であり、精神状態が極めて不安定だったと報告されていた。

 

 一人目は事件から2日後に自宅の風呂場で殺害され、二人目は事件から2日後に駅のトイレで自殺、三人目は事件から3日後に警察署内で保護されたが、署内で保護中に殺害されている。

 

 それ以降の事件の内容も同じように続いており、被害者は全て、一人か少人数のいずれかの時に狙われる傾向にあるようだった。

 

「……あの、春田、さん?」

「なんですか、リオンちゃん?」

「これ、一人目と二人目は風呂場やトイレなどの水がある場所で亡くなっているんですよね。僕たちが見た、昨日殺害された……武蔵瑞稀さんも、襲われていたのは水溜まりの上でした」

「そう言えばそうだったね。春田クン、例の辻斬り男は必ず水場で襲いかかってくるとか、そういった決まり事があるのかい?」

 

 思い返すようにリオンが言い、竹田が続いて問いかけると、飛嘉野は首を横に振る。

 

「私の方でもその事が気になって調べていたのですが、必ずしも水場で襲われるとは限らないみたいです。例えば署内で殺害された人の近くには、当然ですが水溜まりなんてありませんでしたから」

『ふぅん。水溜まりが条件ではない、ねぇ』

 

 意味深に蛇神が呟くのを横目に、葉子は4つ目の資料を開いて読み込む。

 

「殺害された武蔵瑞稀の服に書かれていた血文字? ……血文字があったんですか?」

「ああ、あったね。確か……【死刑99人、我守護せよ】だったかな」

 

 葉子が竹田に視線を向けると、彼女は視線を斜めに上げて思い出しながら返す。

 それに続いて、飛嘉野がこれまでの事件の内容と併せて口を挟む。

 

「これまで起きた殺人事件に、血文字なんて1つも無かったの。逆に言えば、今回初めて辻斬り男から意思を感じた……ということになるわ」

「『死刑99人』……百人目を目前にして、更に恐怖を煽ろうとしている、とかかしら。だとしたら『我守護せよ』はどういう意味に……?」

『これで『百人目を守ってみろ』みたいな意味だったら、辻斬り男も相当性格悪いよねぇ〜』

 

 小さく笑いながら言う結月に、竹田もまた薄く苦笑しながら独りごちる。

 

「この場合、百人目は目撃者である私か御剣クンなのではないかね」

『リオンちゃんは戦えるから、まず死ぬのは竹田さんなんだよなぁ……』

「うーん、困ったね」

「そうならないために動いているんですが……」

 

 結月と竹田の洒落にならない会話に呆れ気味に口を挟みつつ、葉子が最後の資料を開く。

 

 ──黒い髪の女。それは、最近になって噂されている女の情報。なぜか辻斬り男の現場に現れていて、その姿を目撃されている。

 身長は170近くあって女性にしては高身長で、腰まである長い黒髪が特徴的である。そして顔をマスクとサングラスで隠していて素顔はわからない。

 

「…………。う〜〜〜ん?」

『葉子、どうかした?』

 

 ソフィアが唸る葉子に問いかけると、彼女は悩むようにおずおずと言った。

 

「ええと……こればっかりは元警察官のカンになっちゃうんだけど、この『黒い髪の女』だけが、どうにも嘘臭く感じちゃって」

「と言うと?」

 

 飛嘉野の言葉に、葉子は更に返す。

 

「身長の高さだったり、長い黒髪だったり、顔を隠していたり。その辺からは、なんというか……『こういう特徴です』っていうアピールを感じるのよ」

「つまり、()()()()()()()()ってこと?」

「かもしれない、程度の直感だけどね」

 

 などと言いながらも、葉子はそれとなく診療所のデスクを見回す。

 個人で運営している診療所ゆえか、デスクには飛嘉野の私物が置かれており、その中には表彰が飾られていて、『全日本ライフル射撃競技選手権大会優勝』と『全国柔道選手権大会4位』の2つがあった。

 

「……相変わらず、とんでもない成績ね」

「え? ああ……まあ、今はちょっと鈍っちゃってるかもしれないけど」

 

 葉子が表彰を見ていることに気づいて、飛嘉野も気恥ずかしそうに頬を掻く。それから、その指に嵌められている指輪に目が行って違和感を覚える。

 なぜなら、その指輪は地味で茶色い、木製の指輪だったからだ。

 

「飛嘉野、その指輪って?」

「これ? これは人から貰ったのよ。いつだったかしら……ただまあ、綺麗だし、宝石も装飾もないから。仕事に支障もないから着けてるの」

「へぇ」

 

 貰い物という話に、確かにと、パートナーは居ないことを知っている葉子は深く聞き込まずに話題を打ち切る。それから今後の動きの為に、向かう場所を決めるべく全員で話し合うことにした。

 

「さて、今のところ調査に行けそうなのは……『美容院』と『獣坂大学』、あとは『政倉建設』くらいかしら。飛嘉野はこのあとどうするの?」

「このあとは、こっちでも仕事があるの。それが終われば合流できると思うわ」

「そうかい。なら、私たちと葉子クンたちで三人ずつのチームを作って2カ所を散策……になるかな」

 

 竹田の言葉に、なら──と葉子が小さく挙手しながら提案をする。

 

「私は獣坂大学で、宮塚晶さんに話を聞きに行きたいんです。大丈夫ですか?」

「構わないよ。こちらとしても、試したいことは幾らかあるからね。そちらの行動に合わせるとして……なら、私は美容院に行こうかな」

「そうすると……他の四人は目撃者と探偵側で混ぜてみる? 結月ちゃんとソフィアちゃんのどちらかには、美容院に行ってほしいのだけど」

 

 葉子にそう言われると、壁際で背中を預けて立っていた2体は、短く視線を交わして行先を決めた。

 

『なら、私が行くわ』

『んじゃ私は大学ね。オーケー』

「葉子さんが大学に行くなら、僕は竹田さんの護衛をしようと思います」

『というわけで、私が大学側についていきま〜す。よろしくねぇ』

 

 入れ替わる形で蛇神が結月と葉子の近くに向かい、その並びを見てソフィアがぼやく。

 

『不安だわ』

『大丈夫っしょ、蛇神様いちおう神様だし』

『いやあなたも含めての『不安だわ』なのよ』

『なにおう』

『葉子の邪魔だけはしちゃダメよ。あと、人の邪魔になるところにも立っちゃダメだからね』

『オカンかおのれは!』

「まあまあ。……じゃあ、そういうことだから、ひとまず調べに行ってくるわね」

 

 診療所にいつまでもたむろしているわけにもいかず、とりあえずとメンバーと行先を分けて行動を起こす葉子を先頭に、飛嘉野が口を開く。

 

「皆さん、気をつけてください。三人なら平気、というわけではありませんから」

「ええ。飛嘉野も気をつけて」

 

 そう言って、三人と3体の変則的なグループが診療所を出ていく。

 それぞれに分かれて別行動を取る途中、大学に向かう足を進める葉子が深いため息をついた。

 

 

 

 

 

「……はぁ〜〜〜」

『なんすかなんすか』

「いえ。なんというか、こういう時にこそ、()()を纏められてる与一くんとか丞久さんの凄さを再確認するなぁって思ってね」

『たぶん与一たちからしたら葉子さんは私らと同じ括りに入ってると思う』

「…………この話やめましょう?」

『そ、そっちからしたくせに……!』

『いやあ、竹田ちゃん以外と行動するの久しぶりだから楽しみねぇ』




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