とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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アニマ・リメンバー・ミー 1/3

 過去に飛ばされた件から暫くの日付が経過したあるとき。白百合の親玉──白百合(ショウ)に挑むメンバー集めをするために、我々は待ち合わせのファミレスに向かうべく歩を進めていた。

 

「……で、なんでこいつなんだよ」

「おや、嫌でしたか? 真冬さん」

「嫌じゃないやつが居んのかよ」

「嫌じゃないですよね? 与一さん♡」

「ウン…………」

「すげぇ嫌そうな声なんだけど」

 

 こちらを挟んで両サイド、片や薄い金髪を揺らして不機嫌そうに表情を歪め、片や鮮やかな金髪を揺らして上機嫌に表情を緩めている。

 

「だって、ねえ。グレイの忠告通りに少数精鋭で行くとして、俺の知り合い且つフットワーク軽くて実力も高い奴ってなると自然と限られるんだもん」

「ぶっちゃけると?」

「はぐれても単独で生存可能で多少扱いが雑でも問題ない人をチョイスした」

「その条件に引っかかるのあの二人だけだろ」

「なんのことだか…………」

 

 恐らく既に想像がついているのだろう、この先で誰が待っているかを察した真冬を横目に、過去に飛ばされたあの件から今までのことを思い出す。

 

 あの場で少しの別れとなった光冷ちゃんと真殊ちゃんは、こちらが飛ばされたあとに深月と白百合が家まで送ってくれたが、炎使いの爺さん──篠原さんと、猫科キメラのクロはどっか行ったらしい。

 

「あとは……カガリか。連盟組織には連絡したから病院に担ぎ込まれただろうけど……今となっちゃ、()()()()()心配なんだよなぁ」

「ん?」

「いやなんでもない」

 

 小首を傾げる真冬にそう言いつつ、グレイとの会話を思い出してげんなりする。

 過去で既に終わった一件に関わったことで、元々あまり信用しきるべきではないとは思っていた連盟組織への不信感。呼声町大学での被害者数の不一致を目の当たりにしてなお信用する気は起きない。

 

 だから、今回は外で待ち合わせることにしたのだ。というわけで、待ち合わせ場所に指定したファミレスに入れば、隅の方に見覚えのある男女が居る。

 

「……これじゃね?」

「いや全然ちげぇ。これは……」

「それも違うだろ────これだァ〜〜〜!! 三毛猫の模様が微妙に違う!!」

「印刷ミスレベルの間違いはもはや景品表示法違反だろ……訴えたほうがよくねえか」

 

 居る……の、だが。

 

 二人して、いい歳して、ファミレス内に置かれている間違い探しを必死になって解こうとしていた。なんだ……なんだ、この人たち……!? 

 

「先輩、秋山さん。なにしてんですか」

「おん? ……おー、来んのが(おせ)ぇよ。おかげでドリンクバーと間違い探しで時間稼ぎしなくちゃならなくなったじゃねえか」

「あらゆるポイントから俺の責任を生じさせられるの、才能ですよね」

 

 壁際で壁に埋め込まれてるベンチに座る二人の対面に座れば、真冬が先輩たちを見て渋い顔をする。別に嫌いではないのだろう、苦手なだけで。

 

「やっぱこの二人かよ……」

「なんだぁ? ずいぶん嬉しそうな声だな」

「耳鼻科に行かれては?」

 

 白百合の呟きが店内に溶けていく。まあなにはともあれ、今回の件で対・白百合ショウの為に向かうメンバーはこれで揃ったわけだ。

 

「んで、なんだったか」

「白百合たちの親玉を潰しに行きます」

「ああそうそう、そうだったな。……マジでやるとして、なんでこのメンバーなんだ?」

「真冬はまあ……【虚空神話(ヴォイド)】が便利なので。他三人は頑丈で個人で戦闘能力があってほっといても死ななそうなのをチョイスしました」

「まあ、適当なんじゃねえの?」

 

 左目を覆う眼帯の縁を指で掻く先輩は、呆れ気味にそう言って壁際に背中を預ける。それからあの時何が起きたかを話しつつ、グレイが連盟組織を信用していない事については伏せながら語った。

 

「少数精鋭で白百合の親玉を叩きに行く──それは理解した、が。すまん1つ忘れてた」

「なんです?」

「こいつも居るから総勢六人だ」

「こいつ?」

 

 秋山さんが言うやいなや、着ていたスーツから水分が染み出したかと思えば、それは輪郭を白衣を着たメガネの少女の形に整え先輩と彼の間に座った。

 

「度々忘れられることに定評のある私でぇす」

「あ〜……確かにあんたは顔を見る度に『そういえば居たなあ』ってなる、えー、名前なんだっけ」

「細波です……細波青井です…………」

 

 ──そう、細波青井だ。元ヒカリさん一派のショゴスロード。前に見たときは普通に成人女性の背丈だったが、今では……小雪さんくらい。

 

「相変わらず、体積足りてない(ちっちゃいままだ)なぁ」

白道香織(彼の上司)に物理的に削られた分が圧縮密閉されて保管されてるものでしてねぇ」

「ま、こいつは単独で丞久とか蓮枯深月みてぇに神格の力を宿せるタイプだからな。利用するにしても容量は削っておかねえと謀反起こされたら困るって判断されるのも仕方ないことだ」

「…………。そうだねぇ」

 

 秋山さんの推察に、細波青井はスゥーッと視線を逸らして、誰も口をつけてないコップの水に指を浸して指先からズゴゴゴと吸引していた。

 

「秋山さん、たぶんこいつ体積削れてても使()()()と思うんですけど」

「だろうな。でもな、言わなきゃバレねえ」

「この人もしかして、自分の所属してる組織にまで手札隠してんのか……?」

 

 真冬の呟きに、秋山さんも視線を逸らす。

 

 ……なんだかんだつるんでるだけあって、変な所で似てるんだよなぁこの二人。

 

「……実際のところは?」

「使えるとも。ただまあ、なんだ。単純に体積が小さいままだと出力が足りないのだよ」

「なるほど。……んまぁ、まあ。話はこれくらいにしときますか、これ以上人数の話をするとうちの悪霊がハッスルし始めるんで」

「なんかあったのか?」

 

 丞久先輩の問いに、こちらも言うかどうかで逡巡し、諦めて口を開いた。

 

「諸々を省いて結論だけ言うと、俺の中にシュブ=ニグラスの体液をぶち込まれて、イゴーロナクの魔力と混ざって、あの人……受肉しました」

「は???」

 

 

 

 

 

 

 

 ──昼ごろの山中、一角にある拓けた空間に集まって、こちらの手のひらにある銀の鍵をゆらゆらと揺すりながら四人を前に立つ。

 

「そういえば、俺が過去に飛ぶ前に連絡したんですけど、そのときに左腕が千切れた女の魔術師が病院に搬送されませんでした?」

「あ〜居たなそんなの。私らの方にも連絡は来たけど、そいつ、術後に麻酔解けてから事情聴取しようとしたら病室から抜け出したらしいぞ」

「えぇ……」

 

 うーん、まあ……あの状態で生きてた奴だし、手術自体は終わってるなら死んではいないか。

 

「じゃ、聞きたいことは残ってないんで──【門】を開けますね」

 

 それから揺らしていた銀の鍵を握り、虚空に真っ直ぐ突き出す。すると、鍵は何もない空間に()()()──手首をひねる動きに合わせて、ガチャリとロックを外す感触がしっかりと手に伝わってくる。

 

「おお……使ってるところは見たけど、実際に使うとこんな感覚なんだな」

「今さらだけどさあ、あんたこれ、グレイとかいうやつの罠だとは思わなかったの?」

「え。あー、だってなあ。負けたクセに罠に嵌めようとするほどイヤな奴ではなさそうだったし」

「純度100%主観じゃねーか」

 

 それ以外の判断基準がないんだからしょうがないでしょうが。真冬がチクチク言葉で刺してくるのを横目に、ひとまずこちらと先輩で並んで開かれた【門】の前に立ち、顔を見合わせて頷く。

 

「【禍理の手】」

「【森の黒山羊(シュブ=ニグラス)】」

 

 影から鎖に繋がれた『手』を出し、先輩も体に硬質化させた黒い魔力を纏う。入った瞬間の不意打ちを警戒して、黒い穴にしか見えない【門】に体を滑り込ませれば────視界に入ってきたのは自然。

 

 山の一角から【門】を通って出た先もまた、森の中のような()()()だった。

 

「……森? さっきの山とはまた違うような……どこに繋がったんだ?」

「【────。う〜〜〜ん??】」

「なんですか」

 

【門】から出て少し歩くと、横で周囲を見回す先輩がうんうん唸りながら頭上で【森の黒山羊(シュブ=ニグラス)】の魔力を器用にハテナマークに変形させる。

 

「【なんか、なんだ、空気? が()()気がする。あとなんか、森が()()()()】」

「分かりやすく言語化してくれません?」

 

 特に問題なしと判断し、『手』を【門】の向こうに伸ばして、三人に見えてる前提でグッドサインを作ってから引き戻して解除する。

 それから遅れてこちらに入ってきた真冬と白百合、秋山さんと共に、五人で周囲を警戒すると、不意にひらりと落ちてきた葉を反射的につまめば、そこでようやく先輩の言いたいことを理解した。

 

「先輩」

「【あん?】」

「この森、人工物です」

 

 そう言いながら、こちらもつまんでいた葉っぱを手渡す。それを聞いて秋山さんもその辺の落ち葉を拾い上げて、言葉の真意を理解したらしい。

 

「なるほどな、森を模した空間なのか。っつーことは、ここは恐らく何らかの施設の中ってことだ」

「……ほんとだわ。葉っぱどころか、木の幹も地面も本物の色合いだけど違う。なんだろうな……食品サンプルみてぇにツルツルしてる」

 

 秋山さんに続いて、真冬が木を触ってその感触に違和感を抱く。そうしていると、無言で周囲を見回している白百合が、警戒心を強めるようにして【王爻怨黎玉藻前(おうこうえんらいたまものまえ)】を起動して傍らに白い魔力玉を浮かせる。

 

「どうした」

「与一さん、気をつけてください。白百合か、白百合ショウかは分かりかねますが、もう既に、この空間内に私以外の私(しらゆり)が居ます」

「そういうの、わかるんだ?」

「ええ。我々のような同一の個体は、互いの位置がなんとなく分かるので、無意識的に距離を取ろうとします。以前の私はそれを利用して、意識的に接近することで白百合狩りをしていました」

「便利なもんだな」

「ただ……」

「うん?」

 

 ピクピクと狐耳を跳ねさせて、視線で左右を見渡す白百合は、不安そうに言う。

 

「この周辺に居ると思われる『白百合』は、魔力の密度と量、存在感が莫大すぎます。そのせいで細かい位置の把握が難し────」

 

 

 

 ──刹那、木々を縫うようにして、ガサガサガサと草木を分けて幾つかの物体が飛来する。

 それは白百合の使う魔力玉と似た物体だが、色は真逆のようにドス黒い。

 

「っ、全員警戒!!」

 

 声を荒らげつつ、【禍理の手】で撃ち落とそうする……が、まず1つ目と思いながら魔力玉を握った次の瞬間、掴んだ『手』の中の魔力玉を軸に、こちらの伸ばした『手』がギュルルルと回転し始めた。

 

「んなっ……!?」

 

 繋ぎである鎖にも影響が及び、ギシギシと軋む音を耳にして咄嗟に解除して【禍理の手】を消すが、その隙にと他の魔力玉が真冬たちに殺到していく。

 

「玉を避けて! 触ると回転させられる!」

「【あん? ……ったく、しゃーねえな】」

 

 こちらの言葉を聞いて、即座に先輩が硬質化させた魔力を地面に流し足元から伸ばしたトゲ状の魔力で、何個かの魔力玉を貫く。

 想定通りに回転せんとねじれ始めたトゲを先輩は自分で半ばからバキッとへし折り、影響を最小限に留める判断をした。本当に戦闘IQは高いな……

 

「ちっ、【要請(コール)】」

 

 それを見て、秋山さんもまた腰に繋いでいたゴツいウエストポーチのような装備を使って武器を創り出し、大型のリボルバーで玉を撃ち落としていく。

 だが、全方位から飛んでくるそれの全てを撃ち落とすには手数が足りず、白百合がぶつけて相殺しようにも相手の魔力玉は避けるように軌道を変え、やがて玉は秋山さんと真冬の近くまで接近する。

 

「くそっ、【虚空神話(ヴォイド)】!」

 

 真冬が異能を発動し、金髪と銀のメッシュの割合を反転させるようにして空間干渉の力を使おうとした──その直後、真冬の背中側に回った魔力玉が彼女を()()()()ようにしてこの場から距離を離させ、続いて秋山さんの前に飛んできた魔力玉が、彼を()()()()ようにして同じように我々から引き離していく。

 

「ぬ、おわっ!?」

「うおっ……!?」

「真冬! 秋山さん!」

「【チッ……近い方をカバーしに行くぞ! 私が真冬を追う! お前らは秋山を頼む!】」

 

 瞬間的に判断を下した先輩が真冬の背中を追いかけ、こちらも白百合と共に秋山さんを追いかけていく。木々に体が擦れることへの配慮もクソもない乱暴な動きで魔力玉に引き寄せられていく秋山さんに追従しながら、あの玉の力についての推察を行う。

 

「魔力玉の生成と操作、玉を用いた特殊効果の行使……たぶん白百合……或いは白百合ショウ、相手はお前とタイプが似てるのかもな」

「嫌な話ですね。……とはいえ、私に出来るのは玉を使った相手の魔力の吸収などです。ですがこれは……1つの玉で出来ることが多すぎる」

 

 白百合の言葉に、確かにと頷く。触れたものを回転させる効果と、押し出す効果、そして引っ張る効果。この勢いからして、それらを利用して人一人を殺害するのは容易だろうと想定できる。

 

「うおっ……ぉおぉおあっ!?」

 

 ザザザザザッと草木を掻き分けていった秋山さんの体が、やがて魔力玉から解放されるが、残っていた慣性によってゴロゴロと地面を転がる。

 ようやく止まったところに走り寄れば、立ち上がった秋山さん共々、眼前十数メートル先に立っている一人の少女と向かい合う。

 

「……相変わらず、不気味なくれぇにそっくりな奴らだな、お前らは」

「そう言われましても。好き好んでこんな顔の造形をしているわけではありませんので」

「んなこと言ってる場合ですか、向こうは殺る気まんまんみたいですよ」

 

 秋山さんと白百合の軽口を余所に、こちらも三節棍を【召喚(コール)】して構える。

 

「……いちおう聞いておくけど、キミが、白百合ショウってことでいいのか?」

「…………。いかにも」

 

 眼前の少女──白百合ショウは、白百合の金髪とは違う黒い髪を揺らして、髪と同じ色の3つの魔力玉を自身を軸に周回させながら言う。

 

「鍵を使ってここに来たということは……グレイは死んだようだな」

「……ああ。俺が倒した。鍵は、あいつから渡されたモノを使った」

「そうか。……そうか」

 

 

 

 

 知っていた、とでも言わんばかりの声色。けれどもその顔は、ひどくつまらなそうに、どことなく──何かを察したような、()()の顔をしていた。




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