とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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アニマ・リメンバー・ミー 2/3

「【だァ〜はっはっはァ〜〜! 効かねえ効かねえ効かねえ!】」

「ゴリラかよ……」

 

 木々の間から殺到する黒い魔力玉を、丞久は硬質化させた魔力を叩きつけて殴り砕き、適宜トゲ状に変形させて貫き、接触したモノが回転を始めた時だけ硬質化魔力を切り離して対処する。

 

 真冬のカバーに入って数分。

 

「【んー。……そのぉ〜、へんッ!!】」

 

 遠くから聞こえてくる銃声を筆頭にした戦闘音を耳にしつつ、切り離した部位を再生させる丞久は、その飛んでくる魔力玉の軌道と来る割合から、敵のおおよその位置を把握してそちらに【森の黒山羊(シュブ=ニグラス)】の魔力を濁流のように殺到させる。

 

 土をめくり上げ、木々を薙ぎ倒し突き進む魔力の波。──しかして丞久の予想した地点よりも手前で、何らかの力とぶつかり合い堰き止められた。

 

「【……あぁ?】」

「────。ふん」

「【──! 真冬、来るぞ!】」

「っ……!」

 

 続けざまに押し返され、ドバン!! と爆ぜた魔力の奥から黒髪の少女が現れる。彼女は丞久の姿を見て面倒くさそうに鼻を鳴らすと、自身を軸に魔力玉を3つ浮かばせて回転させながら、深く腰を落とした直後──凄まじい勢いで地面を爆裂させて接近。

 

「【っ──う、おっ!?】」

 

 直前でタンッと跳ねての跳び蹴り。少女──白百合ショウのブーツ越しに迫る足の甲を防ぐべく、丞久は腕を側頭部を守るように曲げた。

 だが、ショウが蹴りを放つフォームと同時に()()()()()()()動作をした直後、不自然な動きで唐突にガードに使った腕をカクンと()()()()()、頭にモロに蹴りを叩き込まれる。

 

「【うべっ!?】」

「今、なんか妙な……」

 

 離れた位置で見ていた真冬は、それぞれの動きに違和感を抱く。それからショウは逆に開いた手のひらを着地と同時に丞久の脇腹に押し当てると、その手のひらを起点にした謎の『力』に押し出されるようにして、体が周囲の空気ごと強烈な勢いで弾かれた。

 

「【おぉおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!?】」

「……! ……引力(引き寄せ)斥力(押し出し)か?」

「──流石に気づくか」

「気づ……いた、ところでって話だけどな」

 

 片手に警棒を【召喚(コール)】しながらも、真冬の頬に冷や汗が垂れる。

 与一と負けず劣らずの怪力を持つ丞久を手玉に取り吹き飛ばす、その一連の動きの時点で、自身の実力とも差が開いていることは察するに余りあるからだ。

 

「来ないのか? なら、こちらから行くぞ」

「……っ!」

 

 けれども、この場では互いに敵同士であり、真冬の行動を待つ義理がショウには無い。しかし咄嗟に、真冬はショウの手に注視して動きを見る。

 ショウは引き寄せるなら手を握って引き、押し出すなら手を開いて押す。

 恐らく自身でも分かりやすいアクションを起点に異能を発動しているのだろう──と思案した、瞬間。真冬の視点がぐるんと回転した。

 

「くぉ……!?」

 

 頭側が右に、足側が左に。体の中心を軸に、弾かれたようにして真冬は自分の意志ではない力で回転させられ体が一瞬地面を離れる。

 宙に浮いた肉体を前にして、ショウが拳を引く動きと連動した異能により、真冬は突如として空中で落下せずに引き寄せられた。

 

「うっ、おっ、おぉお!?!?」

「グレイを倒した男とその仲間がどこまでやれるか試してやる。そら、対処しないと内臓が潰れるぞ」

 

 ショウはそう言いながら、引いた拳を開く。引き寄せられる真冬の胴体に当たるようにタイミングを調節したパンチを繰り出そうとしていることは察せられるが、自分のものではない魔力に包まれたように身動きが取れない状況では対処が出来ない。

 

「何か、何か何か何か……!」

 

 必死に思考を巡らせる真冬は、押し出す力を打ち込もうとしているショウを眼前にして、ふと最善の一手を思い浮かべる。魔力を放出し、自身とショウの間の空間に、虚空への【門】を開いた。

 

「──【虚空渡り(ヴォイドウォーカー)】!」

「……! ほう?」

 

 勢いのままに【門】の向こうに放り込まれる形になった真冬は、ショウの背後に設定した出口から勢いよく射出されるように飛び出し、()()()()に引き寄せる力が途切れていることを確認して後頭部に警棒を叩きつけようと全力で振りかぶる。

 

「ふんッ!」

「甘い」

 

 先端を後頭部にめりこませる威力で振り抜かれた警棒は、しかしてその数センチ手前で見えない壁に衝突し、勢いのあるベルトコンベアに物を乗せたときのような挙動でガクンと横へ逸れていく。

 

「……ちっ、回転の力か」

「そういう、ことだっ!」

「ぐおあっ!?」

 

 自身を中心に回転する力場を纏う防御。更に振り返りながら突き出した手のひらから放たれる押し出す力に吹き飛ばされ、真冬は地面を転がる。

 

「ふむ。まあ、及第点か。しかしよく気がついたな、私の【引力】と【斥力】は別空間に一度でも逃れられれば接続が切れると」

「……げほっ。……まさしく名前通りの異能なら、お前のその力は、お前を軸に()()()()()()()()()()()()()()筈だと思ったからな」

「なるほど、なるほど。……ならば、そろそろ第2フェーズに入るか」

「第2、フェーズ?」

 

 疑問符を浮かべる真冬だったが、ショウが生成した魔力玉が頭上に移動したかと思えば、()()から【斥力】が発生して彼女の体を地面に押し付けた。

 

「ぐっ、く、ぉおぉおお……!?」

「そこにいろ。まったく……個人個人の戦闘能力の高さの所為で、実験も兼ねて孤立させるのにも一苦労だ。あとは……向こうの三人か。面倒な」

 

 そう言いながら、ショウは真冬をその馬に残して、いまだ続く戦闘音の方向へと歩いていく。

 残された真冬は、体にのしかかる重圧に耐えるように全身に力を入れながらも、地面に押しつけられた顔をしかめて別の疑問を抱いた。

 

「っ……! ……? この土、()()()()()()……?」

 

 

 

 

 

 

 

 ──ショウが片手をこちらにかざして引くと、突然体が引き寄せられる。

 その瞬間に地面に【禍理の手】を突き刺して耐えると、横合いから撃ち出される白百合の白い魔力玉を、ショウは突き出した手のひらを中心にした押し出す力で横へと滑らせるように後方に弾く。

 

「回す、押す、引く……それぞれの出力が高いのも加味するとめちゃくちゃ面倒だなあ」

 

 そう呟きつつ、【禍理の手】を解除して体をわざと引き寄せられて、ショウに三節棍を振り抜く。すると、ショウはこちらの打撃を食らわないようにと引き寄せる力を解除したのか、体にあった自分のものではない力場がフッと消失するのを肌で感じ取る。

 

「敢えて踏み込むぜ……【韋駄天】!」

「ぬっ」

 

 引き寄せられる力が消えて動きが止まった体を更に前へと押し出すために、足を強く踏み込んで地面を爆裂させるように駆け出す。

 改めて振り向いた三節棍を、異能の発動が間に合わないと判断したショウは大きく横っ飛びで躱す。こちらと白百合に挟まれる形で数メートル離れた辺りで、彼女は周囲をちらりと見回して気がつくことだろう。いつの間にか秋山さんが居ないことに。

 

「……あの男は────」

 

 意識が一瞬、周囲に逸れる。

 

 その1秒にも満たない『間』を縫うようにして、木々の隙間をするりとすり抜けてきたライフル弾がショウの額に突き刺さった。

 

「ぐおっ……!」

 

 遅れてドバンッッッ!!! という轟音が後方から響き、それが過剰に詰められた発射薬で撃ち出された徹甲弾であることがわかる。

 

 さしものショウですら、あまりの威力に体を仰け反らせ──る、姿勢で、動きが止まっている。()()()()()()()()……? 

 

「──今のは、流石に、少し効いたぞ」

 

 ぐわんと仰け反らせた体を起こすショウ。その額には、確かにライフル弾は当たっていた。──ただし、先端が僅かに額にめり込んでいるだけであり、やがてその回転も緩やかに停止して落下し、胸元に広げていた手のひらにコロンと落ちる。

 

 回転……! そうか、押し出す力で弾丸を受け止めながら、弾の回転に逆回転を掛けて威力を殺したのか……! なんつう器用な真似を────

 

「……白百合!」

「なっ、まだ生きて──」

「遅い」

「がっ!?」

「くぁっ!?」

 

 追撃をしようとするよりも早く、ショウが放った魔力玉の接近を許してしまった。

 こちらの体が弾き飛ばされ、白百合の体も引っ張られるようにしてこの場から引き離される。

 

「あの男の位置は……あそこか」

 

 ぐんぐんと距離を取らされる直前、最後に見たのは、手のひらの上で浮かせたライフル弾を高速回転させて発砲地点に撃ち込み返すショウの姿だった。

 

 

 

 

 

「うおぉおぉっ……どぉわ!?」

 

 ──引っ張られて分かったことだが、この空間はかなり広いらしい。どこかの室内、ということは分かるけど、流石に広すぎる。

 

「げほっ、うべぇ……白百合と、秋山さんは……真冬と先輩も、どこに行った……?」

 

 雅灯さんを分離──いや、こちらが【禍理の手】を使えなくなるのは避けたいし、今度は雅灯さんと距離を離されると合流が面倒だ。

 

「ったく、俺たちを引き離して何がしたいんだ……嫌がらせの類いかぁ?」

 

 確かにいきなり現れては戦闘になるのも仕方ないとは思うが、普通に話し合いから始めようとは思えないものなのか。まあ、グレイしか使えないであろう銀の鍵で侵入してくる奴を敵扱いするのは、ショウからしたら自然な流れではあるのだけれども。

 

「とりあえず合流……携帯使えるか? ……駄目だな電波が無い」

 

 開いた携帯──【呪言】で破壊されたあとで買い替えたやつ──が使えそうにないことを確認し、仕舞い直す。さてどうしたものかと考えていたとき、ふと、頭上で魔力の波が拡散する。

 

「……なんだ?」

 

 不可視の魔力が辺りに拡散していく。今度はなんだと思ったが、それがこちらの体に触れた瞬間、ぞぞぞっと背筋に怖気が駆け抜ける。

 

「──ぅおわっ!?」

 

 ぶるるっと本能的に体が震え、上着の上から思わず腕をさする。アレがショウの攻撃だと仮定して、あいつは一体何を「与一、様?」しようとしているのか。…………。…………? は? 

 

 

 

「…………。なん、で……」

「──ええ、と。何故、と言われましても」

 

 不意に後ろから耳に届く、聞き覚えのある幼い声。振り返った先には、見覚えのある少女が立っている。けれどもそれは、あり得ない。

 

 あり得るはずがない。

 

 ……あり得てはならない。

 

「何故でしょう。何が起きたのか、さっぱり……なのですが、その、驚かないのですね」

「…………いや、めちゃくちゃ驚いてるよ。これより前に、既に劇的な別れを済ませてなかったら、悲鳴を上げてたかもしれないくらいには」

「ああ……過去の世界で、ご両親とお別れしておりましたからね。なるほど」

 

 少女は合点がいったように口角を緩める。それから数歩歩み寄ってきて、指先をもじもじと合わせて、こちらを見上げて困ったように笑う。

 

「さて、どう、しましょう。だって……わたくし、()()()()()()()()()()()()()()んですもの。この時点で、全てが異常ではありませんか」

「そんでもって、たぶん俺の記憶をベースにしてるんだろうな。だから、その後の出来事を……俺が過去で両親と会ったことも知っている」

「そう考えると……困りましたねぇ」

「まったくもって、困ったねぇ」

 

 顔を見合わせて、思わず笑い合う。

 

 異常事態だとは、わかっている。ショウの攻撃であることも、理解している。

 

「とりあえず、こう言っておくべきかな」

 

 けれども、これは無理だ。攻撃だとわかっていても、この子が偽物だとしても、(ころ)せない。

 

 ……消せるわけがない。

 

 

 

 

 

「──久しぶりになるね、イデア」

「はい。お久しぶりです、与一様」

 

 この子を、もう一度死なせる選択を取ることは、絶対に出来ない。

 ……きっと、無邪気に笑みを浮かべるイデアの顔を見てそんな思考をしてしまった時点で、こちらの負けなのだろう。

 

「……キツいなぁ…………」

 

 恐らく先輩たちの方でも同じことが起きているのだろうと察して、静かにため息をつくのだった。




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