とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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星を砕く者 3/4

 ──妖刀の、刀身が、折られた。

 

 流れでショウの【斥力】に投げ飛ばされ、その先にあるムカデのバラバラになった体節の一つに着地しつつ、半ばどころかよく見れば3分の2も残されていない無残な刀身になった妖刀に声を投げかける。

 

「っ、九十九、大丈夫か? 九十九!」

【……なんとか、ね。咄嗟に刀身から柄に意識を移したから消えずに済んだわ】

「…………。俺が言うのもなんだけど、変な存在だよね九十九って」

【本当にあなたにだけは言われたくないわね】

 

 確かに前にそんなこと言ってた覚えはあるけど、あの一瞬の判断で実行できるのは凄いな。

 

【で、どうするの。ここから】

「どうしたもんかなぁ。なんかある? ここから逆転できる必殺剣みたいなの」

【あるけど】

「あるんだ…………?」

 

 あ、あるんだ…………

 

「訳はあるだろうから、定型の質問をするよ? なんで最初から提示しなかったんだい??」

【今のあなたがやると死ぬから】

「直球〜〜〜」

 

 そりゃ無理だよね死ぬんだもん。まあ現状、このままボケっと突っ立っててもショウに殴られるか潰されるかで死ぬわけだけども。

 

【というより、前までは出来なかったのよ。この技は簡単に言うと『魔力で刀身を形成する』技なんだけど、刀身を作る魔力の比率に問題があったから】

「具体的には?」

(わたし)を1として、使用者の()()()()()()()を3:3:3できっちり10にしないといけないの】

「普通の人は……1種類しか魔力を持っていないんだよ……!?」

【だから言ったでしょう。なにせこの技を作ったのが昔の時代の魔術師(ばかやろう)なんだもの】

 

 ──で、今その話題を出したってことは、こちらの現状を加味して使()()()と判断されたわけで。

 

「今の俺なら、出来るんだな?」

【ええ。今のあなたはあなた自身の魔力と、イデアと蛇神の混ざった陽の魔力と、雅灯とナイの混ざった陰の魔力の3種類が混ざり合っている】

「俺の中でなんらかの融合とか爆発が起きてないのが逆に怖くなってきたなぁ」

【どういうわけか、与一は取り込んだ他人の魔力を許容できている。その体質か異能かわからない耐性のおかげで爆裂せずに済んでるのは置いておくとして、とにかく、あなたにはその3種類の魔力を個別に分けたうえで均等に刀に注いでもらうわよ】

「出来るかどうか……なんて悩む余裕もないわけだし、よし。やるか……!」

 

 姿勢を整え、右手に握る折れた妖刀を手に、改めて体内の魔力の種類を意識して分けていく。確かに、体の中に……自分のモノとは別の、暖かい魔力と冷たい魔力があるように感じる。

 

 これら全てを均等に操作し、均一に流し込む。比率が3:3:3になるよう意識して、集中を切らさないようにすれば、やがて刀身に純白の光が伸びて────折れた部分を補うような白い刃となる。

 

 元の刀身とは比べ物にならない硬さと鋭さを両立した凄まじい業物がごとき刀を手に、そういえばと気になったことを問いかけた。

 

「なあ、なんでこれをやると死ぬんだ?」

【魔力の過剰放出状態でこんなシビアな魔力操作を行えば、肉体への負担は計り知れない。先に過剰放出状態で戦っていたショウを追い越して、あなたが先に限界を迎えかねないからよ】

「なるほど。……なら、少し急ぐか」

【あと、魔力の割合が崩れると刀身が爆発するからその衝撃も危険なのよね】

「それ最初に言ってくれない???」

 

 

 

 

 

 

 

 ──同時刻。シェルターの外に出て巨大ムカデの相手をしていた真冬と白百合は、ショウとの戦闘でボロボロになった体に鞭を打って体を動かす。

 

「白百合! 何秒止める!?」

「5秒!」

「っし……止まれ!」

 

 空中に水平に形成した円形の『ズレ』。それに足を置いて宙に立つ二人のうち、真冬が自分たちのもとに迫るムカデの体に手をかざし、その手を照準として体節の区切り一つ一つに『ズレ』を挿し込む。

 

「くっ、お、ぉ……!!」

 

 すると、列車ほど長く、ビルほどに幅がある巨大ムカデの体が、不自然な動きで空中に縫い留められる。しかしその質量を留め続けようとする負担が真冬の体に跳ね返るが、直前までの戦闘で出来た額の切り傷から鮮血が溢れるほどに力み固定を続けた。

 

「しぃ、ら、百合ぃ! 早くしろォ!」

「全く……消費200%──伏せて!」

 

 怒声を張る真冬に応えるように、白百合はその背後に伸びる狐の尾を2本燃焼させた。

 瞬間的に魔力をブーストさせて巨大な魔力玉を形成させると、薄く潰して高速回転させて、伏せた真冬の頭上を通過させるように撃ち出し、『ズレ』による固定が解除されたムカデに叩きつける。

 

 ギャリギャリギャリギャリ!! と電動ノコギリで金属を削るように荒く裂いていく円盤状の魔力玉は、やがて全身を左右に真っ二つに切り落とし、ムカデは勢いを失って地面に落下していった。

 

「……っふはぁ〜〜っ。これで、あらかた片付いたな。もう無理だ、これ以上あのムカデを止めようとしたら脳の血管が破裂する」

「私の尻尾も使いすぎました。1匹につき2本消費で既に6本消費。あとのことも考えると、この3本は残しておきたいですし……上に行きますか」

「ういうい。【虚空渡り(ヴォイドウォーカー)】」

 

 白百合の言葉に頷いて、足元の『ズレ』を解除して空中に投げ出された体。真冬は自分と白百合を更にその下に展開した【門】で広い、出口をシェルターの屋上に繋げてそこに着地する。

 

 

 

 そして、二人が床に降りた──直後。バンッと屋上と中を隔てる扉を蹴破り外に躍り出る人影が、振り返りながら後ろを追っている人間大のムカデにドドドン! とリボルバーを3連射していた。

 

「……そろそろ、脇腹が痛くなってきたぜ」

「秋山さん……大丈夫すか」

「あの、腕千切れてますけど」

「気にすんな、細波に拾いに行かせてる」

 

 右腕が付け根から無くなっている秋山が、そう言って撃ち切ったリボルバーを捨てて、シェルターから離れた位置から届く戦闘音の方角に顔を向けながら、軽く引いている二人に言葉を続ける。

 

「ちょうどいい、腕とライフルが届き次第、俺は与一の援護で狙撃の体勢に入るから援護しろ」

「……あ? 援護? なにからっすか?」

「ん」

「……『ん』?」

 

 真冬からの問いに、秋山はあっけらかんとした顔で足元を指さす。──瞬間、ビシリと十数メートル離れた位置で入った亀裂を破壊するようにして、下から三人の女が飛び上がってくる。

 

「【ギャァ〜〜ハッハッハァ!! どうしたどうしたァ!? お疲れですかぁ!?】」

「ついていくわたくしの身にもなってください」

「つくづく、化け物だな……!」

 

 下の区画から幾つもの天井をぶち抜いて屋上に追いついた三人──丞久とイデア、ショウを見て、秋山は心底面倒くさそうに言った。

 

「──こいつらから、死ぬ気で、俺を守れ」

「…………味方を味方から守らないといけないってなんなんだよ」

「なん……なんでしょうね?」

 

 秋山の言葉にげんなりとした顔をする真冬に、白百合もまたなんともいえない顔で返す。

 そうしていると、不意にそれぞれの耳がジュルジュルという水音を拾う。

 音の方に視線を向ければ、器用に右腕とレールガンを白衣──に変形させた肉体の一部──に巻き付けた細波青井が、騒ぎに乱入してきていた。

 

「秋山クゥン、レールガンと腕拾ってきたぞぉ。砂に埋もれてて探すの大変だったんだからな」

「細波、来い!」

「……やれやれ、ショゴス使いが荒くて困る」

 

 青井の姿を見て即座に屋上の縁に駆け出す秋山に、彼女は追従する。

 残った真冬と白百合が盾になるように中環の位置に立つのを尻目に走る秋山は、レールガンの先端にあるひしゃげた二脚を外して青井に言う。

 

支え(バイポッド)……は折れてるか。細波、そこに座って体を固めておけ。肩に銃身を乗せる」

「それ撃つとき私痺れませんか?」

「知るか。耐えろ」

「『耐えろ』!?!?」

 

 雑な扱いに抗議しようにも、秋山が言いながらレールガンの銃身を既に肩に乗せてきているために、青井は仕方ないと頭を振って大人しくする。

 

「まったく。私の扱いの雑さについては置いておくけれど……桐山与一クンの戦闘場所は位置的に数キロ先ですよ?」

「だから?」

「いえ、当てられるのかなぁと」

「はん。誰に言ってやがる」

 

 青井の肩に乗せたレールガンを、左膝を立てて座り膝に乗せるように添えた左手でしっかりと握りながら、秋山が鼻で笑ってスコープを覗く。

 

「引き金を引く指さえ残ってるなら、残りの手足が千切れていようが当てられる」

 

 限界まで倍率を上げたスコープの先で、白く輝く刀を振るってショウと打ち合う与一を見て、秋山はそう言いながら口角を緩め────隙を生み出すための1発を撃ち込むべく、その指を引き金に置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──空気を押し出すような圧の【斥力】を、白刃で斬り裂く。

 

「おぉおおぉおぁ!!」

「っ……!」

 

 足の裏や背中で魔力を爆発させた勢いで前へと体を押し出して接近し、撃ち込まれた魔力玉を切り捨てて返す刀の逆袈裟を振るう。

 再度【斥力】で押し返そうとして不利だと悟ったのか、ショウは敢えて異能を切って自由落下で避け、後ろに回り込むように宙を跳ねてこちらの体を引っ張る。──お次は【引力】か。

 

「まだ、まだ、まだ……こんなもんじゃないだろ、全力で来い! ショウ!」

「ハッ。……酔狂なやつめ」

 

 こちらも敢えて【引力】に引き寄せられて接近し、白刃を叩きつけるように振り抜くと、ショウは斬撃の軌道に置いた魔力玉で迫り合う。

 

「知ってるか、この白刃は、魔力の割合が崩れると……爆発するらしい」

「お前、まさか────」

 

 こちらの言葉に口角をひくつかせるショウが離れようとするより早く、わざとバランスを崩すように魔力を流し込むと、言った通りに刀身が一瞬まばゆく輝き、双方の体を包むように強烈な爆発を起こす。

 

 空中で光が爆ぜ、互いに弾かれ合い空中を高速で吹き飛ぶが、一手早く立て直したこちらが、再度手に握る刀に魔力を流し込み白刃を形成──させるための割合を急激に上昇させていく。

 

【──! 与一! やめなさい!】

「均一であれば、白刃を形成できるんだよな。じゃあ、例えば魔力の割合を33:33:33で100にしたら、刃の大きさと威力を引き上げたまま……刀身を、形成出来るんじゃないか……!?」

 

 全身に駆け抜ける激痛と、焦ったような九十九の声。それらを無視して、大上段に構えた巨大な刀身を携える刀を、空中で体勢を立て直したショウに向けて空間を割るような圧と共に振り下ろす。

 

「っ────ぐっ、ぬぅ……おぉおぉおお!?」

「そろそろ、幕引きといこうかぁ……!!」

 

 さしものショウでも驚愕を隠せないのか、これまでの中で一際慌てたような声を出しながらも彼女は両手をかざして異能を行使してくる。

 

 ショウの体に衝突する寸前で、見えない壁にぶつかったように急停止する刀身だが、それでも止めきれずに少しずつ、【斥力】との鍔迫り合いとなり押し合いが始まる。……いや、それだけじゃない。

 勢いを留めようとしてくる時に感じる、この複数の感覚からして、恐らくショウは峰側に【引力】を配置して、こちら側に引っ張ることで押す力と同時に刀身を押さえ込もうとしているな。

 

「舐めるな……私がこれまで、何人の白百合(しっぱいさく)を取り込んで魔力の純度と量を底上げしてきたと思っている……! お前の魔力が尽きるまで、押し合いを続けてやってもいいんだぞ……!!」

「っ、くっ、そっ……なんつう馬鹿力だよ、先輩に負けず劣らずか!?」

 

 ここまで来て……ここまでやって、なおも届かない。こちらとは違う執念と努力が、こんなにもショウを強くして……()()()()()()()()()()のか。

 

 ──せめて、あと一手。あと一手だけでいいから、ショウの思考と魔力リソースを割けさえすれば。

 

 

 

 そう思案した、刹那。

 

 

 

 視界の端、遠く向こうで、パッと光が灯る。それから超高速回転する金属の塊が、ピンポイントで、ショウ目掛けて飛来してきた。

 

「なん……くぉおっ!!?」

 

 反射的に横に手を伸ばしたショウの手のひらを起点にした【斥力】と【回転】。こちらの白刃を留めながら彼女は、着弾する寸前だったレールガンで撃ち出された鉄球の勢いを緩めようとしている。

 

 ──けれども、止まらない。止められない。それもそうだろう。その弾丸は、さっきシェルター内で止めたライフル弾とは速度も威力も重さも違う。

 

 そしてこれこそが明確な『隙』だった。

 

「今、だ……!」

 

 こちらもまた、注いでいた魔力の供給を一瞬で打ち切り、白刃の形成を終わらせる。

 

 そうするとどうなるか。

 

「な、ん──!?」

 

 ──巨大な質量と勢いの白刃を受け止めようと力んでいたショウの体が、前にカクンと()()()()()。当たり前だ、突然押しあっていた相手が居なくなれば、勢い余って転びそうになるに決まっている。

 

「ショォォォォォウ!!!」

「っ……ぉごっ!?」

 

 そこから更に上へと跳ね、空中に固定した空間を【韋駄天】で蹴り砕きながら加速。思わず口から飛び出した怒号と共に、こちらもショウの土手っ腹に足の裏を突き刺す勢いで跳び蹴りを叩き込む。

 

 斜めに落下していく途中、ショウは腹に叩き込まれた足を掴むが、【回転】でへし折られるよりも早く砂漠化した地面に着弾し、砂をぶちまけながら互いに錐揉み回転して跳ねていき、どこかの埋まっていたのであろうビルの屋上に衝突する形で止まる。

 

「がっ!?」

「うぐっ……!」

 

 経年劣化していてもコンクリートはコンクリート。ドゴォ! と鈍い音を立てて同時に屋上の床にぶつかり停止して、もはや痛くない場所が存在していない体を、鈍い動きで起こして立ち上がる。

 

「ぜ、ぇ……はぁ……っ! ここまで、やるか……普通……! 暴れ馬め……!」

「ごぶっ、げほっ……そりゃ、どうも」

 

 足を引きずり、力が抜けそうな腕を力み直して。ショウの方へと歩こうとして、ふと──パラリと頬から何かが落ちる。それを指で触れば、気がつく。

 

「────。()()か」

「……どうやら、お互いに()()らしいな」

 

 頬の肉が欠けて、灰のように崩れている。それが指を当てた先の顔の抉れからわかるように、視線の先に立つショウの体のあちこちにも、長年放置された民家の壁のような亀裂が走っていた。

 

「ふぅ……。九十九、悪い」

 

 恐らく、こちらの体のあちこちにも亀裂が入っているのだろう。互いに時間が無いと分かれば、不思議と最後の戦い方も似てくるようで。

 

【与一、あなた何を……】

「最後までとことん相手に合わせようって決めたんだ。だから、使ってあげられなくて悪い」

 

 腰に挿していた鞘をベルトから外して、刀身が折れた刀を収めて屋根に突き刺すように立てる。ショウはこちらのそんな行動を見て、呆れと感嘆の混ざった微妙な顔で笑みを浮かべて両手を握った。

 

「底抜けの阿呆だな、お前は」

「ま、よく言われる」

 

 顔を見合わせて、そんなことを言い合いながら、握った拳の片方を伸ばし、構えて腰を落として摺り足でリーチを縮めていく。

 

「あの白刃での攻撃でなら楽に勝てたんだ。自ら得手を捨てて、後悔するなよ」

「よく言うだろ、後悔先に立たずって。後悔も反省も、全部終わってからすればいい」

 

 まさか最後の最後で、決着を殴り合いで決めることになるとはな。こちらもこちらで、自分の行動に心底呆れた苦笑が思わずこぼれる。

 

 

 

 

 

「問おう。お前は、何者だ?」

「──(おまえ)の執念を、打ち砕く者だよ」

 

 ──果たして、ショウとの最後の一戦が。ただただシンプルな殴り合いが。己のエゴを押しつけ合う最期のコミュニケーションが、始まるのだった。




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