「──っていう状況なんですけど」
【今そっちに先輩居るんだ……】
「そういう感じの声のトーンはガチで嫌そうな時にしか出ないんすよね」
宿泊施設にチェックインした二人は、荷解きをしたのち、テーブルに携帯を立て掛けてビデオ通話をしていた。通話先の男性──桐山与一は、心底面倒くさいという感情を隠そうともしない声で言う。
【まあ、まあ〜~まあまあまあ。流石の丞久先輩も、ほら、子供には手は出さな………………い、と思う。たぶん恐らくきっと。俺の師匠だし】
「断言してくんねぇかなぁ〜?」
【……それで、連盟組織と先輩の間で情報共有がされてない可能性についてだっけ】
「あ、話逸らしましたね」
画面の向こうで視線も逸らしている与一は、咳払いを挟んでから、
【まず、『壇日市で起きた事態を把握していないからキミたちのことを知らない』という可能性は、ある。なぜなら俺は連盟組織所属の魔術師ではないから、俺が先輩の弟子だからって、優先的に情報を把握してくれるわけではないんだよ。あの人大雑把だし】
「それはまぁなんとなくわかりますけど」
光冷は指を立てながら話す与一の言葉に、一応の納得感を抱いて頷く。
【だけど、『太陽さんの母親が帰国してきたことを知らないからその時関わってた真殊ちゃんのことも知らない』という可能性は、
「そこは断言するんすね。なんで?」
2本目の指を立ててピースサインをしながら言う与一に対して、今度は真殊が反応する。
【丞久先輩は太陽さんのお母さんが邪神の魔力を宿した適合者だった頃の事件に関わっていて、国外逃亡に手を貸したり太陽さんとその件で契約したりと奔走していた張本人だからね】
「あ、そーなんすね」
【つまり、帰国してきたことを知らないはずがないんだよ。そういった情報を最優先で知らせてもらうのが契約内容の一部でもあるんだから】
「……なるほど、夏木先生のお母さんの帰国は丞久さんが知っていないとおかしいし、少なくともその件に関わっていた真殊の情報も纏めて知るはずだから、私はともかく真殊の顔や名前に反応していなかった時点で──組織に情報を隠されている事になる」
【あくまでも可能性で、確証は無いけどね。その辺は本人に聞かないと】
そこまで言って逡巡するように少し黙り込む与一は、壁の裏から飛んできた、ついさっきまで首があった位置を通過するように横切る赤々とした熱線をしゃがんで避けながら二人に告げた。
【あぶねっ。……で、いま先輩がそっちに居るって話だったけど、たぶんまたなんかのトラブルに巻き込まれるだろうから、それが終わってからこのことを話したほうがいいかもね】
「ん〜~と、それはわかったんすけど、さっきから後ろで何やってんすか?」
【ちょっとね。……と、先輩に関しては、こう言えば深刻さが伝わると思う。『小梅さんが帰国したことを太陽さんから聞いてますか?』って】
「小梅さん?」
【太陽さんのお母さんの本名】
さらりとそう言いつつ、与一は小さくため息をついてから、事態が厄介な方向に進んでいることを察して、気だるげな視線を斜め上に視線を向ける。
【……こっちはこっちで忙しいから、先輩との情報共有は遅れそうだし、申し訳ないけどキミたちの方で最低限の話だけはしておいてもらえるかな】
「そう、ですね。私たちも無関係ではいられないでしょうし、この件はやぶさかではありません」
光冷の言葉に画面越しに微笑を浮かべる与一は、そういえばと問いかけてくる真殊に反応する。
「そんで、通話切る前にこれだけ聞きたいんすけど、後ろで何が起きてるんすか?」
【…………。あ〜~、簡単に言うと復讐】
「ふ、復讐……?」
「それはまた。誰のっすか」
【ほら、赤霧市の件で
「あー、居たなそんなの」
「あのお爺さんが、ですか」
【そそ。あの人の復讐を手伝うことになっちゃってね。まあ2度目だからなんとかなるよ】
「なんで経験済みなんすかね」
【…………。おほほほほ】
真殊の真っ当な返しに、与一は苦情するだけだった。果たして通話も終わり、画面が暗くなる。
「……なんだろう、この、師匠が師匠なら弟子も弟子って感じの会話」
「とてもじゃないけど来てほしいとは言えなかったね。与一さんの方も大変そうだったし」
真殊の言葉に光冷が続き、部屋の中で二人のため息が重なる。ともあれ、次の目的は決まっていた。
「それじゃ、丞久さん探すかぁ」
「魔力の波長とかは『視』たから、探すのは簡単かも。とりあえず荷物を置いて外に出ようか」
「そぉ〜ね」
──携帯と財布だけをポケットに入れて、二人は宿泊施設を出る。光冷の【霊視】で丞久の魔力は把握している、とはいえ。
いざ離島『海神島』──中心に山のある大きな島の中から探し当てるとなると、それが難しいことだと理解するのに時間は掛からなかった。
「う〜~~ん……」
「どうよ、光冷」
「難しいなぁ。丞久さん、魔力操作が上手いみたいで、逆にその所為で周辺に痕跡が残ってない」
伊達メガネをズラして足元を凝視しながら歩いている不審者、もとい友人の姿を横目に、真殊は仕方ないとばかりに首を振る。
「めんどくさいなあ……ま、しゃーない。お次は人海戦術に頼るとしようか」
「人海戦術? 島の人に頼るの?」
「人っつーか鳥っつーか」
「……??」
疑問符を浮かべる光冷を連れて、真殊は建物の裏手に回ってから、チョーカーの留め具を外して緩めてから【呪言】を空に放った。
「──【カァ】」
「……え、なに???」
「まあ見てなって」
突如として謎の鳴き声をあげた真殊に軽く引き気味に問いかける光冷。それを無視して少し待機すると、二人の耳に、バサバサという羽ばたく音が無数に聞こえてきて、その正体を目にした。
「最近気づいたんだけど、【呪言】で鳴き真似するとその生き物が寄ってくるんだよね」
「うわ、これ……カラスを呼んだの!?」
「そうそう。んで、ついでに【探】させればいいって寸法よ……っていででででで!! 肩に止まるな頭に止まるな爪を食い込ませるなァ〜~!!」
「おお……」
バサバサバサバサ!! と何羽ものカラスが集まり、光冷の眼前で真殊の体が黒い塊になっていく。なんとか引き離して数羽に【呪言】を掛け、丞久を【探】させると、ズタボロにされた真殊が一息つく。
「よし、あとはこっちも足で探しつつ、あいつらに上から探ってもらえば時短になるでしょ」
「それにしても、よくあんな使い方思いつくね。他にも試したの?」
「んー。犬と猫とカラスは行けた。ネズミは試してないけど虫はたぶん無理。少なくとも『あたしが【呪言】でさせたいこと』を理解できる知性がないとそもそも【呪言】で命令できないっぽい」
「……なんかさらっとえげつないことやってない? これ下手したら人にも使えるよね」
「流石にやらんわ」
光冷の懸念に呆れ顔で返して、真殊は飛び去ったカラスたちを見送る。
「こういう島って、山の頂上か地下になんかが眠ってたりするのよね」
「それも、私たちでは対処できないのがね……」
そんな風に話しながら、二人も二人で、丞久を探すために歩き始める。
──電話番号のメモを貰っていたことを思い出すまで、あと30分。手元の紙切れよりも、自身の異能を使いたがる年頃なのだった。
──山頂を目指して歩いていた丞久は、静かな森の中で盛大なくしゃみを漏らす。
「ぶえぇっくしょおい!! ……与一の野郎が噂してる気がするな。今度お仕置きしてやるか」
当たらずとも遠からずな推測で弟子への折檻を予定する丞久。彼女は直感と経験則に従って山を登っていたのだが、暫くそうしていると、ようやくと拓けた空間に出る。そこは均された地面に加えて石畳で舗装されていて、最奥には和風屋敷が建てられていた。
「お、なんか発見伝」
「──おや。これはこれは」
「……あん?」
続けて、建物と丞久の間に立っている和服に身を包む少女が視線を向けてくる。
本来の色が抜け落ちたような白髪を伸ばしている少女は、丞久を見ながら、歳に見合わない大人びた表情で問いかけてきた。
「あなたは……
「は? 鍵? いや知らんが」
「おや、違いましたか。では……迷子?」
「少なくとも迷子ではねえよ」
「まあ。であれば…………どなた?」
「……調子狂うなこいつ」
妙な小娘だな──と脳裏で独りごちる丞久は、けれどもその少女の漂わせる気配の異質さをピリピリと感じて眉を顰めて警戒心を強める。
「──お前、魔術とかを知ってる側だな。少なくとも、なんらかの異能を持っているだろ」
「…………。なるほど、奇妙な魔力を持っているだけあって、あなたもこちら側でしたか。敵意も悪意も感じませんし、であれば話は早い」
「あ?」
「おっと、自己紹介がまだでしたね」
強めた警戒心を空回りさせるような独特のテンポ感で話の主導権を握る少女に、丞久は毒気を抜かれて、何度目かのため息を吐いて力を抜く
「私は
「……あー、おー。おん。明暗丞久だ」
「丞久さんですか。実はですねぇ、単刀直入で頼みたいのですが……」
少女──リコは、そこで言葉を区切ると、丞久を見上げて申し訳なさと好奇心を混ぜたような無邪気な顔と声であっけらかんと言い放った。
「力を与えますので、以前に
「なんて???」
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