──妖刀・九十九。改め、白刃。
白百合
果たして魔力のみで生成される刀身は、下手な金属よりも硬く鋭く、それでいて欠けた場合は即座に交換できる、以前よりも扱いやすい武器と化している。
【上1と下1、上は逸らしなさい、下は単発だから私で弾けるわ】
「了、解ッ!」
そんな白刃から響く声に従い、与一が左手を前方斜め上にかざして【斥力】を発動。
同時に右手の白刃に力を入れ、足を止めながら眼前の茂みから撃ち込まれたライフル弾に真っ向勝負を持ちかける。──振り抜いた刀身の半ばに衝突した弾丸は真っ二つに裂けて与一の左右を通り抜け、続けて木の上から放たれた無数の弾丸は半円状に展開された【斥力】とぶつかり外側へと滑るように逸れていく。
「場所は分かった……【韋駄天】!!」
即座に足に力を入れ、地面を爆発させるような踏み込みで急加速。
木の上に隠れていた傭兵に肉薄すると蹴り飛ばし、茂みに隠れているもう一人の方へと落下させ、勢いのままに二人纏めて白刃の刀身で差し貫き、柄から切り離して次の場所へと駆け出していく。
「次だ──さっさと終わらせて光冷ちゃんたちの話を聞かないとな」
与一がそう言ってその場から離れた直後、彼の背後で白刃と同じ色合いの白い爆発が起きる。
柄に流して形成していた刀身が、与一の魔力供給および制御から離れたことで不安定化し、その結果として込めた魔力がそのまま爆発力に変換されたのだ。
「常に一定の魔力を流さないといけないとはいえ、慣れると前より使いやすいな」
【でもやっぱり、物理的に刀身がある方が私的には好きなのよねぇ。早く用意してちょうだい】
「前向きに検討します」
【……今の私が刀身が無い所為で実体化できないことを幸運に思うことね】
「ヒエーッ」
外周を走りながらも、手元の柄から響く底冷えする声色に戦慄する与一は、工場内から響く戦闘音を察知して中に入ろうとしている残りの傭兵を見つけ、十数メートル手前で足を止めて姿を見せる。
「どうもー」
「……!
「なんて?? ──うおお危なーい!!」
篠原火毘也が雇っている傭兵。外国人で構成されているがゆえに、与一の把握していない言語での発音。しかしてそれが敵意を向けている意味合いであることは、銃口を向ける行動で把握できるため、向けられると同時に左手をかざして異能を起動する。
眼前に展開した半円状の【斥力】の表面を滑らせる形で弾丸を防ぎつつ、与一は左手首を軸に回転している3つの魔力玉の1つを右手首側に移し、さらに右手をかざして同時にもう1つの異能を起動。
「地面を対象に、方向を空中に向けてぇ……真上に、【引力】ッ!」
瞬間、三人の傭兵の眼前にある地面が、突如として内部から爆発したかのように弾けて空中にぶち撒けられる。反射的に射撃を中断せざるを得ない状況で、視界までもが塞がれた──刹那。
「──出力33%ずつ、ってね」
刀身を十数本も並べなければ届かない距離。しかして与一の振り抜いた白刃は、爆ぜて飛び散った土もろとも、三人の胴体を真っ二つに両断していた。
瞬間的に刀身を細く長く伸ばした遠距離からの斬撃。それが終わり、辺りには落下を始めた土がばらばらと音を立てて散らばっていく。
「……っふぅ。さて、中の問題は雅灯さんと葉子さんが何とかするだろうし、連絡し直さないとなぁ」
上着のポケットに入れていた携帯を取り出し、与一はそう言いながら壁際に歩いていき、ビデオ通話アプリから光冷へと電話をかける。
果たして電話の向こうで起きている問題の説明を受けた与一が、明暗丞久が関わっていることを知って苦い顔をするのだが、それはまた別の話。
──時を同じくして工場内。篠原の護衛で残った葉子と、与一の代わりにその場に残された雅灯は、プロの傭兵を相手にした戦闘を強いられる。
【わーっはっはっは! 食べちゃうぞ〜!】
けれどもその戦闘は、もはや蹂躙としか言いようがなく。与一の体から離れたことで変化した『手』を操る雅灯が、霊体ゆえに弾丸をものともせず、病的に白い腕──【
「お前らは、なんだ。変な連中だな」
「その枠に入りたくないんですけどね……」
「これを受け入れてる時点で手遅れだろ」
「それはまあ、はい……」
前で暴れている雅灯とは別に、特殊合金の防弾シールドを【
時折聞こえてくる
「どっちがワルモノなんだかな」
【……? 与一くんに敵対している相手に決まっているでしょう……?】
「そうかい」
篠原はあっけらかんとした物言いの雅灯をスルーして、傭兵を仕留めようと【
その後、鈍い打撃音が響き、一拍置いて壁に出来た穴の奥から中へと与一が入ってくる。
「これで全員ですかね」
「あ、与一くん。外の敵は?」
「終わりましたよ。電話も済んだので、あとは……篠原さんの弟だけですか?」
与一がそれとなく雅灯を影に戻しながらそう問いかけると、篠原は少しの間まぶたを閉じ、ギュッと目に力を入れてから、改めて開き言う。
「ああ。……お前らは外で待ってろ、俺が一人であいつとカタをつけてくる」
「いいんですか?」
「言っただろ、俺がアレを片付ける為に傭兵の露払いをしろってよ」
「……与一くん、どうしますか」
「……まあ、依頼主にそう言われると従わざるを得ないんで、言われたとおりにするしか」
肩を竦めながらも、与一は心配そうな顔の葉子にそう言って篠原に背を向けるように歩く。
「そうしろ。さっさと出てけ、こっからは兄弟水入らずだ。他人が居たら、アレも死ぬ前の本音も吐き出せねえだろうしな」
「とことん殺す気しかないですね……」
「…………。ふん、当たり前だろ」
そう言葉を吐き捨てた篠原は、工場の奥の個室へと足を運ぶ。
中に立っていた弟──火毘也は、傭兵を片付け無傷で現れた篠原を見て苦々しく表情を歪める。
「クソ兄貴がぁ……!」
「はん、バカみてえな弟の鳴き声も、バリエーションが無さすぎてそろそろ泣けてくるな」
篠原が皮肉気味に呟くと、火毘也は体から魔力を放出しながら声を荒らげた。
「クソ兄貴……! てめぇは昔から何でも持ってたよなぁ……! てめぇと比べられる辛さも理解できないクセに、あげくの果てに、てめぇは! 俺から!
「……叶海のことか? そもそも許嫁うんぬんってのは親父が決めたことだ。それにあの時点では篠原家の次期当主は俺かお前かすらも決まってなかった。ついでに言やぁ、選ぶ権利があったのは叶海だろうが」
「黙れッ黙れ黙れ黙れッ!! 【我が左腕を対価に炎の顕現を】!!」
ヒステリックに叫んだかと思えば、火毘也はそう唱えて右手の指先を銃口に見立てて篠原を狙う。言葉の通りに左腕が炎に包まれて皮膚を焼け焦がした次の瞬間、指先に灯った炎が篠原へと撃ち出される。
炎は真っ直ぐ篠原へと着弾し、凄まじい勢いの爆炎となってその身を包み込む。立ったまま全身を焼かれていく篠原を前に、火毘也は口角を歪めた。
「死んじまえよクソ兄貴! お前が居るから……俺は! いつまでも、苦しいんだよ!!」
「────。何でもっと早くに言わねえ」
「なっ……!?」
炎の中から響く声。全身を焼かれながらも、当たり前のように一歩ずつ歩み寄る篠原は、火毘也に驚愕の感情を刻み込みながら続ける。
「……最初っから、俺が嫌いだとはっきり言えばよかったんだ。それを分不相応に儀式に手を出し、許嫁に後始末をやらせ、一人で逃げ出して……何もかもが手遅れになった今になって言いやがって」
「ば、化け物か……!?」
「化け物? バカ言え。俺は単なる呪術師だよ」
恐怖心が勝り、火毘也のコントロールが途切れて炎が掻き消える。体のあちこちを黒焦げにして、顔の半分が焼け爛れながらも、篠原はその動きを止めない。後退りする火毘也が壁際まで追い込まれ、最終的には胸ぐらを掴まれ────篠原はヤマンソの制御を
「……! クソ兄貴、てめぇまさか……!?」
「──俺の幸運は、ガキの頃の時点でてめぇみたいな出来損ないを始末しなかったことで。俺の失敗は、ガキの頃の時点でてめぇみたいな出来損ないを始末しなかったことだ。
「や、やめ──────
──ドンッ!!! という爆発。天に登る火柱が工場を吹き飛ばし、その中心で炎が放出している元凶である篠原は、神経の一本一本に焼きごてを押し付けられているかのような強烈な激痛を味わいながら、自身の魂もろとも、火毘也の体と魂を焼き尽くしていく。
「が、ぁ、アァあぁああアァアア!?!?」
「あの世で叶海に詫びようぜ……バカ野郎」
本来なら辺り一面を炎の海にしていた爆発を上空に向ける最期のコントロール。
果たして篠原と火毘也は、外に逃げた与一たちの目の前で、兄弟間の恨みつらみや因縁の一切合切を、燃やし尽くしていくのだった。
──工場だった地点で、ようやくと爆炎が収束する。急激な気温の変化や上昇気流が影響してか、建物があったことも分からないくらいに綺麗さっぱり燃やし尽くしたこの場に、ポツポツと雨が降り始める。
「……もう少し話し合いの余地はあったはずだ、というのはタラレバですかねぇ」
「そうかもしれないですね。篠原さんは、きっと……どうせ死ぬのなら、弟さんとの決着を付ける形で……と思ったのでしょう」
爆心地とでも言うべき、篠原さんが居た場所。そこにあったのは、篠原さんの亡骸──隙間なく焼け焦げた、黒い骨の残骸だけ。
「ひとまずお疲れさまでした、篠原さん。真っ先に1抜けされちゃいましたね」
「私たちは……まだまだ死ねませんから。……ところでこの、骨は……どうしましょう」
「死後の扱いとか聞いておけばよかったですねぇ。そもそも回収でき…………ないか」
ふと篠原さんの骨に触れると、それらは炭のようにボロボロと崩れて、雨水に流されていく。
まあ……これはこれで、かな。水に流されて、地面に溶け込んで、自然の栄養になるのも、一つの終わりなのかもしれない。
「やっぱり、前回も今回も、復讐なんていい気分で終わるもんじゃないですね。──帰りますか、葉子さん。事務所で献杯でもしましょう」
「そうですね。……まさかこんな気分を2度も味わうとは、思わなかったけど」
たまには雨に濡れるのも悪くない。そう言い訳して、二人でその場から離れるように踵を返して歩き去ろうとする────その時。
「……ん」
ふと背筋に気配を感じて、一度だけ振り返る。
「……向こうで仲良く、ですよ」
「与一くん?」
「いえ、なんでもないです」
──篠原さんの傍に、ぼんやりと女性が立っている。その女性がこちらに向けて深くお辞儀をしたような気がしたけれど、きっと、気のせいだろう。
『完』
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