とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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探偵と少女は空の彼方へ 1/3

 篠原さんの復讐が終わってから二週間ほど。本格的な暑さが目立つ八月に突入したある日、久々の単独行動で外を歩いていたとき。

 

「……なんか聞こえない?」

【さあ? ……どんな音?】

 

 腰に吊るした、見ようによっては奇妙なアクセサリーに見えるであろう刀の柄だけの物体──九十九に音について問えば、逆に聞き返される。

 

「道路の奥の方から……これは、()()()か?」

 

 こちらがそう独りごちるように呟くと、そんな音がどんどんと近づいてくるのを感じた。

 続いてどよめく喧騒までもが徐々に近づいてくる気配を感じ、それとなく柄に手を添えてベルトから外せるようにしていた────瞬間。

 

「──くっ、ぉおおぉ……ッ!」

 

 ビルの隙間から、銀髪の女性が、抱えた何かを庇うようにして飛び出してくる。

 女性は苦悶の声を漏らしながら、腰や背中から()()()()戦闘機のようなエンジンを吹かして宙を舞い、こちらの方へ飛んで…………え゛。

 

「……なんか見覚えのある銀髪が見覚えのあるエンジン生やしてこっちに来てるんですけど」

【あなたって、毎回、()()()ね】

「俺がトラブルに巻き込まれるまでのタイムを計ったらこれが最速記録になりそうだなぁ……」

 

 ため息を吐きつつ、車から逃れようとこちらに飛んできて、道路に足の裏でブレーキを掛けながら着地した銀髪の女性は、気配に気付いて顔を向ける。

 

「ん。……!? よ、ヨイチ!?」

「や〜、久しぶり。──()()()

 

 銀髪の女性──シセル。いつぞやにグレイに連れてこられた、夫と息子を失った苦しみを利用されて危うく大量殺人を引き起こすところだった未来人。

 その正体は、特殊合金とウボ=サスラの細胞を混ぜて作った変異細胞(ナノマシン)と本来の肉体を置換した、元聖歌隊メンバーの魔術師である。

 

 ……改めて書き起こすと、めちゃくちゃキャラが濃いなこの人……? 

 

「ひ、久ぁ、しぶり、だ。ヨイチ……」

「キミはキミで波乱万丈な人生送ってるみたいで何よりだよ」

 

 いきなりの再会に、シセルは驚きが混ざった顔で言葉を詰まらせながらも挨拶を返す。しかし抱えている何かがもぞもぞと身動ぎするのを見て、表情と雰囲気を真面目に切り替えて言葉を続けた。

 

「──ヨイチ、いきなりですまない、この子を連れて逃げてほしい」

「ほんとにいきなりだな…………()()()?」

 

 よく見れば、その『なにか』は、シセルの両腕の中で丸まっている少女だった。

 白髪混じりの茶髪を風に揺らす彼女は、シセルが抱え直す過程で姿勢を変えこちらと顔を見合わせると、一拍の間を置いて口を開く。

 

「…………。こ、こんにちは」

「あ、はい。こんにちは……」

「挨拶はいいから早く逃げるぞ! まだあいつを振り切れていない!」

 

 そう言いながら少女をこちらに預けるように押し付けるシセル。まあ落とすわけにもいかないからと抱えるのだが、そもそもこの二人は何から逃げているんだ? ──と、確認しようとしたその時。

 

 唐突に、道路脇に停められていた車の屋根に何かが降ってきて、車体を大きくひしゃげさせた。

 

「……()()から逃げてるのか?」

 

 思わず呟くと、シセルは頷く。

 

「ああ。こいつの狙いは私の破壊とその子──カナタの回収だ」

「なるほど、ね」

 

 降ってきた何者か。それは全身に鎧のようなパーツを装着した──マネキン。

 そう、マネキンだ。そう形容するしかない、全体的にツルリとした質感の、顔の無い人型の存在が、パーツから蒸気を噴出させている。

 

「私が離脱までの時間を稼ぐから逃げろ、説明はカナタからしてもらってくれ」

「……あ〜〜〜、もぉ〜〜〜、仕方ない。任せるぞシセル! 【召喚(コール)】」

 

 謎のマネキンとの間にシセルを挟むように立ち回りつつ、傍らに創り出したバイクの前側に少女……カナタちゃん? を乗せて、ヘルメットを被せてから乗り込み、ハンドルを捻る。

 

 ──そして、マフラーからの轟音を合図に、背後でマネキンとシセルの戦闘が始まるのを尻目にこちらもカナタちゃんを連れて走り出すのだった。

 

 

 

 

 

 ──人目も憚らずの戦闘の後処理めんどくさそうだな〜……などと、脳裏で独りごちりながらバイクを走らせている途中、ハンドルを掴む形で腕の中に収まるように座っているカナタちゃんが言う。

 

「あの、ありがとうございます、わけもわからないのに手を貸していただいて」

「気にしなくていいよ、シセルとは知り合いだし。……それで、事情を話してくれるかい?」

「はい。……あ、私は空乃(そらの)哉汰(かなた)です。シセルさんとはかれこれ一週間くらい行動を共にしていて、()()()から逃げているんです」

「ふぅん。俺は桐山与一、探偵だけど魔術師もやってたりするからよろしく」

 

 カナタちゃんとの自己紹介も終わり、バイクで高速道路に入る。それから少しして、彼女はポツポツとこの事態の状況説明を始めた。

 

「私は元々、ある研究に参加していまして……それが特殊合金と特殊細胞の融合及び増殖と、汎用性のある兵器への転用でした」

「……特殊合金と細胞?」

「はい。軽く、加工しやすく、強靭。そんな合金と、とある神格の細胞を混ぜて、ナノマシンを作る研究をしていたんです」

「き、既視感あるな……」

 

 もしかして、だけど。シセルが春秋さんたちと未来で完成させた変異細胞(ナノマシン)技術って、この時代で別の人物も似たようなものを完成させていたのか? 

 

 ……いや、それもそうか。

 

 シセルたちが来たのはパンデミックが起きて人類が死滅した未来の世界。つまり、人類が滅んでさえいなければ完成するはずだった技術が、未完成のまま埋もれた世界でもあったわけだ。

 

「無尽蔵に増殖する変異細胞(ナノマシン)で兵器を作る。それはすなわち、自己増殖により破損を埋め、武器弾薬を作る、不死身のロボットを作ろうとした……と考えてくださればわかりやすいかと」

 

 カナタちゃんたちの技術由来なのか連盟組織の技術由来なのかは置いておくとして、要するにこの時代でもシセルみたいな存在を作ろうとしていたのか。

 

「不死身のロボットが、さっきのやつ?」

「はい。……研究の結果、あの子は人間の姿が最も安定する形状だと判明し、あんな姿になりました。そして私たちが戦闘データをインプットし、人間の戦い方をベースとした3つのモードを切り替えて戦う兵器になるように、調整を重ねていきました」

「モード?」

「簡単に分けると、刀剣を使うモード、手足を使うモード、銃器を使うモードです。しかしここで、問題が発生しました」

「でしょうね」

 

 古今東西、あらゆる状況において、生物兵器を作ろうとする変な組織は何かしらやらかすように出来ているのだ。そういうものなのである。

 

「問題、というと?」

「本来であれば組織の命令を受けてからでなければ動くことも戦うことも出来ないはずのあの子……()()()が、自分の意思で動き、3モードに新たな形態や能力を追加するようになったのです」

「名前付けたんだ……?」

「その、まあ、愛着湧いちゃって」

「湧いちゃったかぁ」

 

 この子もしかして結構ヤバい……? 

 

「さっきの形態も、格闘モードの派生です。全身にジェット噴射する小型エンジン搭載型のアーマーを纏い、高速機動で飛び回りながら格闘戦を仕掛ける、というコンセプトみたいでした」

「そんな感じの映画見たことあるなぁ……」

「おそらく他研究員のパソコンなどにハッキングして、データを盗み模倣したのかと」

「最悪すぎないかい???」

 

 映画データを閲覧して『これ真似できるなぁ』で真似したってことでしょ? 

 あのマネキン──ウィルの恐ろしさを察して、ハンドルを握る手にも力が入る。

 

「ちなみにウィルって殺せるのか? たぶんシセルの身体についても聞いてるだろうけど、殺すとなると木っ端微塵に消し飛ばすしかないよね?」

「それは、まあ……はい。シセルさんにも手伝ってもらって、何度か焼却したんですけど、本当にもう、どこかの部位が一片でも残っているとそこから肉体を複製して元の姿に戻るので大変です」

「そんな他人事みたいに……」

 

 そこまで話しているとき、ふと気になったことをカナタちゃんに問いかける。

 

「そういえば、そもそもシセルはなんでカナタちゃんのところにやって来たんだ?」

「ああ……どうやら自分と同じような変異細胞(ナノマシン)で肉体を構成している存在を感知したようで、いきなり研究施設に乗り込んできたんです」

「…………。それで?」

 

 こちらが嫌な予感を覚えながらもそう言葉を投げかけると、カナタちゃんは遠い目をしながら表情を『無』にしながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

「ウィルとシセルさんの戦闘の余波で研究施設は大破し、メンバー全員が文字通りに()()()を受けて病院送り。組織は壊滅となりました。それが一昨日の話で、今は常にウィルに追われている状態です」

「俺の知らないところで俺の知らない組織がなんか勝手に壊滅させられてる……」

 

 丞久先輩と円花さん以外で、こういうことやらかす奴、居たんだなぁ…………!




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