とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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探偵と少女は空の彼方へ 2/3

「与一さん、このまま高速道路を経由して隣街に向かってください」

「目的地がそこなの?」

 

 シセルが時間稼ぎをしている裏でバイクを走らせながら暫くすると、カナタちゃんが提案する。

 

「はい、今は誰も使ってない旧研究施設の設備を使って、『上』に向かいます」

「……『上』??」

「それについては到着してから話しま────」

「──!」

 

 説明を後回しにしようとしたカナタちゃんが、何かの気配を察知したように右を向く。

 するとそこには、パーツの節々から煙を吹かして水平に飛んでいる人のシルエット──否、ウィルが、片腕をこちらに向けている姿があった。

 

「ウィル……! っ、シセルさんは!?」

「シセルは……まあ大丈夫だと思う」

 

 大方、時間稼ぎを悟られて逆に逃げられた、ってところか。死んではいないはずだ。

 

 ──続けて直後、ウィルがこちらに向けた手のひらでボコボコと肉が膨れ上がったかと思えば、どんどんと無機質な形状に整っていき、果たしてそれは金属製の突撃銃(アサルトライフル)へと変貌して銃口が向けられていた。

 

「おいおいおい……」

「──えっ、ちょっ、ウィル? 私が居るの忘れてない? ちょっとウィル??」

「キミもしかしてシセルともども抹殺対象にされてる可能性ある??」

「いやそんなまさか…………」

 

 腕の中でハンドルにしがみつきながら、カナタちゃんは口角をひくつかせる。

 けれども無慈悲にトリガーは引かれ、反対車線を挟んだ向かいから容赦なく弾丸が撃ち込まれた。

 

「チョォワァ〜〜〜!!?」

「──【斥力】」

 

 ポケットに入れている魔力玉に魔力を通して込められている異能を起動。

 3つのうちの1つを遠隔操作で引き寄せ右手首を軸に周回させながら、その手をウィルに翳し、バイクを包むように半円状の力場を展開する。

 

「ひぇえぇっ!?」

 

 次の瞬間、(ひょう)が窓を叩くようなバチバチバチ!! という小気味よい音と共に弾丸が弾かれていき、その音に驚いてカナタちゃんが素っ頓狂な声を上げて身を縮こまらせた。

 

「さぁてぇ……ひとまず牽制、【禍理の手】」

 

 弾丸を弾きつつ、上着の影からずるりと這い出た無数の『手』を勢いよく射出。

 しかしウィルは一度射撃を中断し、全身のパーツの小型エンジンをフル稼働して推進力を高め、空中でのらりくらりと避けていく。

 

 やがて空中で【禍理の手】の鎖が絡み合い、勢いが失われて道路に落下。こちらもそれを魔力に分解して消してから…………お、アレが使えそう。

 

「食らっとけ、【引力】!」

 

 姿勢制御で上空に飛び上がった状態をキープしながら追ってくるウィル。

 ()()()()()()()()にある高速道路の案内標識とウィルを【引力】で繋げて全力で行使すると、固定されていた標識がメキメキと音を立てて剥がれ、強力な磁石同士を近づけたような威力でウィルへと飛来。

 

 互いに引き寄せ合うように発動した【引力】の速度は対応しづらい。間違いなく直撃するだろう──そう思っていたが、ここでウィルが対応する。

 

「……うっそぉ」

 

 そう、向こうからぶつかられるのではなく、加速することで()()()()ぶつかりにいったのだ。

 

 言うなれば、フルスイングされたバットが速度と威力を発揮する前に途中で止められたようなもの。結果、ウィルが案内標識に衝突するのではなく、案内標識をウィルがぶち抜いた形で突破され、破壊された標識の残骸がガラガラと道路上を転がっていった。

 

「俺の手札は多いようで少ないからなぁ〜〜、もう少し汎用性ある遠距離攻撃を用意しておくべきだったか。【引力】とか【斥力】とか【禍理の手】は大味すぎる……とすると」

「……! 与一さん、上! 上!」

「上?」

 

 最悪の場合はハンドルをカナタちゃんに任せてバイクから離れて接近戦に持ち込もうか、というところまで考えていた時。

 ふとカナタちゃんの慌てたような声に引っ張られてウィルを警戒しながら上を見る。

 

「──ぅぉぉぉぉぉぉォオオ!!!」

 

 遠くからぐんぐんと近づいてくる怒号。その声の主は、遥か上空からピンポイントでウィルの背中に飛び蹴りを叩き込み、彼の体をアスファルトに埋める勢いでめり込ませていった。

 最後に背中を足場に大きく跳躍すると、声の主はこちらの乗っていたバイクの後ろにストンと着地して銀髪を揺らし、深く息を吐き出す。

 

「っハァ〜〜〜……! すまない、()()()()()()()()の相手が思いのほか手こずってしまってな」

「……? 今なんか恐ろしいこと言った?」

 

 銀髪──シセルが後ろで疲れたようにそんなことをぼやく。するとカナタちゃんが、今まで言い忘れていたかのようにあっけらかんと言った。

 

「────。あ、すいません、ウィルは分裂して個別に行動できるって言い忘れてました」

「流石にちょっと怒っていい……!?!?」

 

 そういう重要情報はあらかじめ言ってくれる?? というか車体が大きめとはいえバイクに3ケツはけっこう無茶なんだけど……!!? 

 

「ウィルが自分から切り離した変異細胞は時間経過で劣化して最後には崩壊するんですが、肉体を100%ずつ分裂させると、ある程度は崩壊を遅らせた分身体として戦闘させられるんです」

「ヨイチとカナタを追った方が本体で、私は残った分身2体とあの場で戦っていたワケだ」

「……ちなみにウィルとほぼ同じ肉体のシセルも同じこと出来るのか?」

「まあ、出来ないことはない」

 

 こわ……

 

 まあ何はともあれ、これで少し時間は稼げたか。あまり信用できなくなったとはいえ、街中での戦闘と高速道路での戦闘の事後処理を頼むためにと、連盟組織にカナタちゃんたちのことを伏せつつ情報を送りつつ、我々は彼女の指示でくだんの旧研究施設へとバイクを走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──ウィルから逃げて暫く。街中……という程でもない、むしろやや外れた位置にある古ぼけた建造物に到着してバイクのエンジンを切る。

 

「ここか、目的地」

「はい。まだソーラーパネルとかが生きていて、内部電源はついたままの筈なので……あっちの入口から入れると思います」

「へぇ。……? カナタちゃん?」

 

 一番後ろに乗っていたシセルに降りてもらい、こちらも降りると、説明していたカナタちゃんがじっとしていることに気がつく。

 

「どうしたの?」

「……ああ、いえ。すみません、伝える暇が無かったのでまたしても言い忘れていたんですが──」

「──カナタは歩けない。()()()()()なんだ」

「…………。なるほど、そうだったんだ」

「はい、そうなんです」

 

 言いづらそうにしたカナタちゃんに代わって、シセルがそう告げる。よく見れば確かに、逃げる時に勢いのままにバイクに跨がらせたカナタちゃんの下半身は不自然なほどに動いていない。慌てていたとはいえ、気づけたはずだったな……

 

「……もしかして、ウィル──というか変異細胞(ナノマシン)の開発って(それ)をなんとかするために?」

「ええまあ、そうですね。()()()()()()()、最初はそのつもりでした。周りは最初から兵器にするつもりだったみたいでしたけど」

 

 曲げた指でコツコツと動かない足の膝を叩いて自虐気味な笑みを浮かべるカナタちゃん。

 すると、シセルが彼女の座るバイクの傍らに自身の細胞を変異させて形成した電動車椅子を作り、ひょいと体を持ち上げてそこに座らせた。

 

「私の変異細胞も分離すると劣化して最後には崩壊するが、短時間であればこうして自由にパーツを形成して完成品を創り出せる」

「こういう変異細胞でカナタちゃんの足をなんとかするとして、具体的にどうなるんだ? 足を機能するように変異細胞と置換させるのか?」

「それは追々煮詰めていくしかない。足を作り替えるのか、こうやって自分の変異細胞の増殖と変異を利用して車椅子を作らせるのかは、カナタ自身の細胞と変異細胞の相性を確かめないといけない」

 

 電動車椅子の電源を入れながらそう言葉を紡ぐシセルを横目に、こちらも魔力玉を左手に移して右手で刀の柄を握りながら周囲を警戒する。

 

「今後の話はウィルをどうにかしてからにしましょう。さ、施設に侵入しましょう。おそらくまだ私のIDカードで開けられますから」

「はいはい、車椅子で変なとこに乗り上げないように気をつけてよカナタちゃん」

 

 手元のレバーで車椅子を発進させるカナタちゃんを筆頭に、足元に注意しながらシセルと後ろをついていく形で歩き始める。

 

「それにしても、シセルも人助けに精を出してるのは関心だな」

「ん? ……ああ、まあ、な」

「……なに、カナタちゃんに対して特別な事情とか感情があるわけ?」

 

 こちらがからかうように問えば、シセルもまた、少し困ったように頬を指で掻くと。

 

 

 

 

 

 

 

「──私はきっと、息子とカナタを、重ねてしまっているんだろうね。私の息子も……下半身不随で家から出られない状態だったから」

 

 そう言って、懐かしむような、悲しむような。そんな複雑な感情を綯い交ぜにした顔で、シセルは儚げな笑みを浮かべていた。




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