──明暗丞久。学生時代に目の前に現れ、いきなり人のことを弟子入りさせてきた謎の女。
正直に言うと当時は『魔術師ってみんなこんななのか……?』と何度もドン引きしたし、修行と称した拷問紛いの特訓で死にかけたことも何度もある。けれども確かな事が1つだけあった。
それは、間違いなく、実力だけで言うなら全世界規模でも上から数えた方が早いということだ。
……そう、最悪なことに強いのだ。良いところは強いところで、悪いところも強いところ。
とどのつまり、よりにもよってこの人が暴走したら、止められる人は殆ど居ない。
「あの、丞久先輩……」
「あん? ンだよ」
ゆえにこそ、空中都市に現れた先輩に対して、この確認だけはしておかなくてはならなかった。
「……本物なんですよね? 連盟組織が技術の粋を結集させた先輩のクローンとかではなく?」
「なんでそんな発想が出た???」
「会う度に体のシルエットが人間離れしていくからですけど???」
だって生えてなかったじゃん! こないだまで角も翼も生えてなかったじゃん!!
【
「私だって人間なんだから、そりゃあ色々あんだよ。大人になるとな、なんかふとした拍子に角とか翼とかが生えたりすんだよ」
「直近で高濃度の放射線浴びました?」
「浴びてねえよ」
「あの〜今しなきゃいけない話ですかそれは!?」
と、腕の中で大人しくしているカナタちゃんが声を荒らげる。そういえば戦闘中だった。
「おっと、そういえばそうだった」
「いったん退くぞ、私がカバーする」
「頼みます」
「……だ、大丈夫なんですか? この人」
「気持ちは分かるよ」
「そりゃどっちの意味だァ?」
こちらに抱えられたままのカナタちゃんが不安そうに漏らすが、その心配は無用だろう。
「ったく、最近のお前らはなんつうかなぁ」
ガンナーを叩き潰した先輩が殿を務めているからか、ファイターとソードマンは真っ先に彼女を狙う。ため息混じりにぼやく先輩は、片手に握っているスレッジハンマー……状に固められた魔力の塊をヒュンと回してから、迫るそれぞれに対応する。
「私に、対する、敬意が足りてねェ〜ッ!!」
初撃でブースターを全開にして突っ込んできたファイターを真正面から叩き潰し、不死性を利用してファイターすらも巻き込むように飛来する刀剣をドーム状に緩く曲げた翼で逸らし、羽ばたき1つで急加速してソードマンの懐に潜り込み全身を大きく回転させた一撃を叩き込み近場のマンションまで吹き飛ばした。
「へっ。準備運動にもなりゃしねえ」
「えぇ……」
轟音と共に粉砕されたマンションの壁が崩れていくのを尻目に、先輩が気だるげに呟く。その3秒にも満たない刹那のやり取りを見て、引き気味に声を漏らすカナタちゃんが腕の中で更に縮こまる。
改めてこの場から離脱するために駆け出す途中、当たり前のように翼をはためかせて低空飛行している先輩に言葉を投げかけた。
「なんか先輩、刀を振り回してたときより動きにキレが出てますね」
「あー、わかるか? この力──【
「結局、力で叩き潰すほうが向いてたってだけの話ですよねそれ」
「技と力の両方を併せ持ってるだけだが?」
「力技の間違いでしょ……」
「なんか言ったか??」
「いえなにも〜〜〜」
後ろからの圧を流しつつ、ひとまず建物と建物の間に身を滑り込ませて息を整える。
「……さて、俺とシセルだけでウィルをなんとかするつもりでしたけど、先輩も来たとなると話が変わってくるんですよねぇ」
「えっ、シセルも居んの?」
「さっき刀剣に串刺しにされた挙げ句に爆撃されて吹っ飛んでいきました」
「情けねえ…………のは置いとくとして、だ。なら戦力は私、与一、シセルか。オマケにお前は荷物抱えたまま戦わないといけねえときた」
「すみませんね、一人だと動けないので」
「なんでだ? ……あー、足か?」
「はい」
「ま、動かねえんなら仕方ないか」
この人妙なところで異様に勘が鋭いな……
おそらくは、こちらがずっと抱えっぱなしでいて逃がそうとしていないことへの疑問を解消する答えを消去法で探り当てたのだろう。
「ふぅん。……ン〜〜、おい与一、お前んとこの悪霊が受肉したとかなんとか言ってたよな。あいつをこいつの護衛に残せば手が空くだろ」
「────。あ、その手があった」
「悪霊……なんて??」
「詳細を省くけど俺の中には悪霊が居る」
「お祓いに行かれては???」
なんて真っ当な意見なんだ……!
まあそれはそれとして。
「雅灯さん、起きてくださーい」
【あぁ〜い、なんでございましょ】
「うわ……なんか出てきた……」
踵で自分の影を叩けば、足元からぬるりと和服の女性が現れる。突如として現れた悪霊──雅灯さんを見て、カナタちゃんが口角をひくつかせた。
「また人が戦闘してる時に寝てましたね」
【受肉して以来、前より
「寝るならあとで。雅灯さんとのリンクを俺から切り離すので、こちらのカナタちゃんの護衛を頼みます。足が動かせないんですよ」
【まあ、それは大変】
寝ぼけ眼を手で擦る雅灯さんは、あくびを挟んでカナタちゃんを見やる。
【んではその辺の屋上付近で待機してましょうか。上からのほうが見通しもよくて敵の接近に気づけますし……じっとしててくださいね〜】
「へ?」
【行きますよ〜、【
「うわあああなんか出てきた────!!??」
雅灯さんがあっけらかんとした態度と動作で、自身の影から病的に真っ白な手を出現させると、ひょいとカナタちゃんを掴み上げ、そのまま近くのビルの屋上へと別の『手』を伸ばしていき、その伸ばした手の方に巻き取る形で浮上していく。
「与一さん、気をつけてください! ウィルは戦闘時のデータを集積して学習し、対象を仕留める為の能力を追加した新モードを作る機能を持っています! あまり特殊な能力で倒しすぎると、ウィルもまた厄介な能力を持つ新モードで襲い掛かってきます!」
「わかった、気をつけるよ〜!」
上に向かっていくカナタちゃんのそんな声がどんどん遠ざかっていき、やがてその場には先輩と二人だけになる。シセルはまだ来ないのか。
「……雅灯さんはあんなんでも頼りにはなるので大丈夫でしょう。あとは俺たち……とシセルの三人で、ウィルを倒していって、本体を引き摺り出して全部破壊しきるだけですね」
「そうだな。問題は、さっきの言葉通りだと、あんまりこっちの手札は明かせられねえってとこだが」
「そうですねぇ。俺ももう【引力】や【斥力】、【禍理の手】を見せちゃってるし、先輩のその角と翼の……【
建物の間から出て、雅灯さんとカナタちゃんの近くで戦わないようにと、更に別の方向に足を進めながら先輩と二人でそんな会話を交わす。
「っと、噂をすれば…………おおう」
「こういうの、なんて言うんでしたっけ」
「フラグってやつだな」
先輩と同時に足を止めて、思わずそう軽口を叩く。眼前十数メートル先の道路のど真ん中に、2体のウィルが立っていた──のだが。
その姿は、両手の甲の数センチ上に回転する八角形の円盤が浮いている、簡素なプロテクターのような防具を装備しているウィルと、本来の両腕に加えて肩甲骨辺りから更に2本の腕が伸びていて、その4つの手に白い刀身と黒い刀身の刀を2本ずつ握っているウィル。後者はソードマンの新モードだろうが、前者は……どっちだ? ファイターって感じではないな。
「これどっちがどっちを対応します?」
「向こうがどっちに来るかによる」
「ですよねぇ」
それとなくだが、八角形の円盤を浮かべている推定ガンナーの方は先輩を見ている気がするし、4つ腕のソードマンの方は余ったこちらを見ている気がする。……顔がのっぺらぼうのマネキンだから視線が分かりづらいってある意味利点だよなぁ。
「仕方ない、俺がソードマンを請け負います。先輩はあの八角形の円盤に気をつけてください」
「言われんでもわかっとるわ。……アレが射撃タイプだとして、
「前に真冬と結月が見てた古い映画で似たような奴が居ましたよ、腕2本を高速回転させてました」
「エピソード3が……古い……!?!?」
なぜ先輩がダメージを受けているんだ。
えげつないものを見るような顔でこちらを一瞥する先輩を横目に、こちらもソードマンと相対するように向き直りつつ九十九を手に取り白刃を伸ばす。
以前にこれを結月に見せたら、映画のアレとは違って超高温のプラズマブレードではないと知って勝手にガッカリされたのは余談だ。
「さて、真面目にやりましょうか」
「ジェネレーションギャップで私にダメージを与えておきながらよく言うぜ」
「勝手にダメージ受けたクセに……!!」
スレッジハンマー片手に苦々しい顔をする先輩に思わずそう言い返して顔を向けた──刹那、不意に、彼女の体のあちこちに、前から伸びる赤いポインターが無数に照射されていることに気がつく。
「────!! 防げ!!」
「ッ」
咄嗟に声を荒らげると、先輩は疑問も反論もねじ伏せて脊髄反射で全身を背中側から大きく展開した翼で覆う。次の瞬間、翼で庇った部分に当てられていたポインターの部分に、
「う、おぉう……!?」
「先ぱ──ッ!?」
先輩の心配をしようとしたこちらの体にも、ぞわりと怖気が駆け抜ける。その怖気の正体を辿るように視界を向けた先では、黒い刀を振るったソードマンの体が、空中に出来た
「……、……!!」
意識と視界のあちこちで、撃たれた先輩と八角形の円盤から弾丸を発射したガンナーの動きがわかるが、ソードマンの姿だけが虚空に消えた。
どこに、消えた。
──
「【
幼馴染に宿った、空間の裏側を通る移動技。それと感覚が似ていることに気がついたお陰で、背後から白い刀2本を振り被るソードマンの動きをかろうじて捉えることができ、こちらも九十九と【
「これは……思ったより厄介かもぉ……!?」
移動用の裂け目を空間に作る黒い刀と、攻撃用の白い刀の4刀流のソードマン。
オマケに先輩の方には、ポインターで照射した場所に無音の弾丸を撃ち込むガンナー。
急に跳ね上がる厄介さから感じ取れる、この空中都市を運用し続けているウィルの本体が、こちらを『敵』と認識したのだろうという確信。
果たしてビルの窓に突っ込んで射線から逃げる先輩とそれを追うガンナーを横目に、こちらも4つ腕で振り回す刀の対応をする事となるのだった。
「……これもしかしてファイターの新モードがシセルの方に行ってる可能性あるか……?」
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