とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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空中都市決戦 2/5

 ──ポインターが体のあちこちに照射され、きっちり1秒後に無音で弾丸が撃ち込まれる。

 

 オフィスを再現したビル内で避け続け、至る所に穴を空けながら逃げていたことで、丞久はガンナーの能力におおよその推測をした。

 

「ンなるほどぉ? ポインターの照射先に弾丸を()()()()能力か。でも【風神龍(イームーロン)】の翼は【森の黒山羊(シュブ=ニグラス)】由来の超高密度の硬質化魔力だから、弾丸をねじ込めずに弾かれちまう……ってところか」

 

 そう独りごちる丞久は、デスクを挟んで眼前数メートル先に立つガンナーを見据える。

 

「こりゃ与一が相手してたら大変だったかもな。流石の私でも生身に撃ち込まれたら穴空くかもしんねぇし、そろそろ潰させてもらうぜ」

 

 ガンナーの手の甲の上で回転しながら浮遊している八角形の円盤──弾倉であり銃口でもある、ある種の銃器をちらりと見てから、丞久は手に握るスレッジハンマー状の硬質化魔力を振り被った。

 

「検証、その1ィ!!」

 

 言葉の直後、振り抜かれるハンマー。

 ガゴォン!! と轟音を奏でてひしゃげながら飛んでいくデスクに、ガンナーは円盤を向けてポインターを照射すると、次の瞬間には音も無くボッとデスクに無数の穴が空けられる。

 

「弾丸をねじ込む射撃能力は、ポインターを当てた対象より後ろには貫通しない!」

 

 けれども、デスクの真後ろに居た丞久には一切の被害が無く、獰猛な笑みを浮かべながらハンマーを振るう。ガンナーもまた、顔の無い頭でその姿を捉えつつ、別のデスクを足場に天井スレスレまで跳躍して腕を丞久に向けポインターを照射した。

 

「検証その2ィ!」

 

 丞久は自身に照射されたポインターを遮るようにして、足元に敷かれたカーペットに指を突き刺し無理やり引き剥がして自身に被せる。

 すると、ガンナーの撃ち込んだ弾丸はカーペットに穴を空けるだけに終わり、その下に居た丞久は予想通りの結果にニヤリと嗤う。

 

「ポインターを当てる対象が後出しで遮られると、弾丸をねじ込む対象もそっちに優先される! こんだけわかりゃ十分だな……!」

 

 最低限の能力の検証も終わり、丞久はいよいよ仕留めに掛かる。気をつけるべきはポインターが生身の部分に照射されることのみ。撃ち込まれる弾丸は翼で遮れば問題ない。慢心ですらない事実として、ここまでの行動の全てでガンナーは丞久を殺せない。

 

「歯ァ食いしばれこの野郎……ッ!」

 

 ガンナーの着地に合わせてハンマーを叩き込む。それだけで勝てる。短い思考で最短距離を詰めようとした丞久は、両手で得物の柄をガッシリと掴み、ミシミシと軋むほどに力を込め────違和感。

 

「…………。あ?」

 

 着地直前の最後っ屁のように向けられる円盤のポインター。しかしてその照射される光が、()()()()()()()()丞久の胸元に当てられている。

 

「──ッ、ぉ……!?」

 

 不意に背筋に駆け抜ける、暫く振りに感じ取った、()()だけは絶対に避けなければならないという、歴戦の経験が警鐘を鳴らす()()()()

 

 無理やり足を床に押し付けてブレーキを掛け、翼で体を覆いながら射線上から逃れるように横に跳んだ──直後、その射撃は、どういうわけか、翼によるガードを貫通して丞久の右肩に穴を空けた。

 

「ぅおォ!? ──マジか、こいつ、一点集中で貫通力上げて来やがった!?」

 

 即座に穴を塞ぐように魔力を流し込んで硬質化させて蓋をした丞久が、ガンナーの見せた小手先の技に感嘆の声を上げる。なぜならそれは、間違いなく、本来の射撃能力の運用方法を超えた──ウィル本人の発想による新しい攻撃だったからだ。

 

「なんだよ、結構楽しめそうじゃねぇか……!」

 

 

 

 

 

 

 

 ──4つ腕のソードマン。その厄介さは攻撃用の白い刀ではなく、空間を裂いて『裏側』を移動する用……()()()()()()()黒い刀の方だった。

 

「くっ、ぬっ……危ねぇ──っ!?」

 

 白い刀2本による斬撃を、九十九と【召喚(コール)】した別の刀で捌いているところに割り込んでくる黒い刀。その黒い残像を残しながら迫る斬撃だけは避けないといけない。何故なら────

 

「くそっ……またやられた……!」

 

 思わず受け止めてしまった刀身が、一切の抵抗感すらなく、()()()と斬り裂かれて半ばから落ちる。

 

 そう、黒い方の刀は、空間に出入口を開ける為だけのモノではない。あの刀身自体に、触れた物体を飛ばす──()()()()能力があるのだ。

 こちらの刀で受け止めようとすれば、その部分がどこかに飛ばされて、中間が無くなった刀身は支えを失い折れたのと同じ結果を辿る。

 

 あんなもので体を切られたら? おそらく刀の斬撃の太さ分に切られたこちらの肉や骨だけがどこかに飛ばされ、結果として繋ぎが無くなったパーツが地面に落ちる。それだけは避けないといけない。

 

「ぬおっ、ちょっ、もうちょい緩めてくれると嬉しいかな……!?」

 

 オマケにこのモードのウィルは、4刀流が異様に上手い。右を振れば、振り抜いた直後の隙を埋めるように左の突きが飛んできて、それを避けようとした先にもう片方の右の薙ぎが来て、更にそれを避けた先に第二の左の斬撃。4発目を避ければ最初の右が振り被り直して──と、無限に斬り掛かってくる。

 

 ほどほどにこちらからも攻撃をねじ込まないと、永遠に斬り掛かられて攻めに転じることが出来なくなる。こういう時にノーモーションで割り込める【禍理の手】……は、雅灯さんを切り離したから使えない、と。重要な時に限って居ないんだからもう……

 

「ったく……こうやって相手の土俵に付き合うべきじゃないんだけどね、魔術師ってのは」

 

 そう言いながら、折れた刀を【召喚(コール)】し直して、九十九の刀身も改めて伸ばし、ともあれ防御と回避の優先順位を定める。

 

 とにかく黒い刀には触れてはならない、これは回避。白い刀には特に能力は無いけど非常に硬いから破壊は不可、オマケに切れ味も抜群。こちらは防御主体で回避を混ぜる。ウィルが戦闘マシーンとして作られたとしても、感情のような揺らぎがあるのなら、必ずこちらから攻めに転じるチャンスはある筈だ。

 

「────。来な、遊んであげよう」

 

 左手に脇差しサイズに刀身を縮めた九十九を逆手に持ち、右手に【召喚(コール)】した刀を握る。

 挑発に乗ったのかは分からないが攻めに来たウィルの動きを、【強化】した動体視力で捉えて──白い刀は切っ先で払い、黒い刀を体をズラして避ける。

 上下左右斜めから縦横無尽に迫る、白と黒の残像としか言いようがない高速の斬撃を、ひたすらに、弾いて避けて払って躱す。

 

「右、下、左斜め上、右下、右上、左……からのもう一度左、左上からの右下……!」

 

 斬撃に追いつくためにと無意識に攻撃方向をブツブツと呟く口の動きを無視して、突破口を探り当てる為に、ただただ捌き続ける。

 

 ……おそらくだが、ウィルにも感情と呼べるモノはある。自分で考えてモードを作る機能があるなら、副次的にでもそういった……バグ? ズレ? なんて言うべきかはともかく感情はあるはずだ。

 

 とどのつまり、ここまで徹底的に攻撃を対処され続ければ、いずれどこかで必ず……()()

 

 

「────。……!!」

 

 

 ほら来た、動きが少しずつ、単調かつ大ぶりになって来ているぞ。

 

 ウィル自身は気づけていないであろう微妙な動きの変化。あとは生まれた隙にこちらの刀身をねじ込めさえすれば──と、そこまで考えて、視界の端であらぬ方向に動く黒い刀の片方。

 

 なんで、切っ先で、()()()()()()()()()()()()()()んだ────

 

「──っごぉえ!?」

 

 刹那、横っ面を硬い物体にぶっ叩かれて一瞬意識が飛ぶ。こちらの体に衝突してきたそれは、見間違えでなければ、()()()アスファルトだった。

 

 

 ……こ、いつぅ……! 

 

 ──地面を斬り裂いて、剣速そのままの勢いでアスファルトを転送(飛ば)してきやがった……!? 

 

 

「や、ば、い………………っ」

 

 チカチカと星が明滅する視界で捉えた情報を脳で処理しながら、手からすっ飛んでいく刀と九十九を横目に、ウィルが振り被る白い刀をぼんやりと見やる。動け、何か、次の、一手を…………

 

 九十九、無し。【禍理の手】、無し。【引力】【斥力】【回転】、魔力玉を起動する一手に時間が掛かる。別の武器を【召喚(コール)】、同上。

 

 武器が無い。────。いや、ある。

 

「……一歩、踏み出せ……!」

 

 あるだろう、だって、今まさに……()()()()()()()()()()()得物があるじゃないか。

 

「人の、技術ってやつを、教えてやる」

 

 高速で飛んできたアスファルトにぶん殴られて程よく脱力した体を、ゆらりと前に倒すように、一歩踏み込む。そうして、あっけらかんとした動きで伸ばした手が、ウィルが刀を握る手に重ねられ、ぎゅるんと勢いを利用した流れで、その一振りを()()()()

 

 突進してきていたウィル、振り被られた刀の剣速。その全てを逆に利用して、文字通りの返す刀で刃を胴体に滑らせる。

 ただそれだけの動きで、果たしてすれ違いざまに、ウィルは真っ二つに斬り裂かれて地面に落ちた。

 

 

「──新陰流・無刀取り。……初めてやったけど、意外とやれば出来るもんだな」

 

 ズキズキと痛む体を落ち着けるように、ふうと一息つきつつ。奪い取ったウィルの刀を捨てて、地面に転がった九十九の柄を拾い上げる。

 

【あんまり私を手元から落とさないでもらえると嬉しいのだけど】

「いきなりアスファルトで殴られたら人は持ってるものを落としてしまうものなんだよ」

【それくらい耐えなさいよ】

「絶えるところだったんだよなぁ……」

 

 九十九の小言を流しながら、他二人の戦況をどう確認したものかと思案する。ひとまず先輩の方に合流しようかな、と考えたのもつかの間。

 

 ──ぼこり、と。

 

 こちらの手で斬り裂いて真っ二つになったウィルの死体が、膨らんで、再構築を始めた。

 

「おいおいおいおい……」

【気をつけなさい与一、威圧感が増しているわ。さっきの4つ腕より()()わよ】

「言われなくても分かってるよ」

 

 膨らみ、弾け、伸び、縮む。

 

 無駄を省くように肉体が作り変わり、背中には翼が生え、右手には西洋のロングソードが作られ、マネキンのようだった頭はひし形のフルフェイスヘルメットのような硬い材質に変化する。

 

 そうして完成した新たなるウィル……新モードのソードマンは、その翼で羽ばたいて宙に浮かび上がったかと思えば、右手に握る剣に魔力を込めてブゥゥゥンと鈍い音と共に発光させ──振るう。

 

【避けなさい、死ぬわよ!!】

「っ……!!」

 

 刀身に纏わせた魔力の光。それが剣を振るった動きに合わせて、斬撃として飛翔する。

 九十九に言われるよりも一瞬早く射程圏内から逃れようと回避した直後、頭上を通って飛んでいった斬撃は、まるで研ぎたての包丁で豆腐を斬るかのように、背後の建物を真っ二つにしながら空の彼方まで飛んでいってようやく消滅した。

 

「……手加減してくれたりしない?」

 

 

 

 

 

 無数の建物がズレた自重を支えきれず上半分を倒壊させる最中、こちらの言葉に対するウィルの返事は、2発目の斬撃だった。




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