「──いぃいよいしょおぅ!!」
周囲の建物もろとも両断せんと迫る斬撃を、白刃を伸ばした九十九を振るって弾く。
「よし運よく斬撃を弾けた」
避け続けていては好き放題に辺り一面を更地にしかねない斬撃を、いよいよ避けるのではなく対応しなければならなくなってから数分、何度目かも数えるのも忘れるほどに飛んでくる──『死』を、こちらも全力で弾くことで首の皮一枚繋いでいた。
「危な〜〜〜〜いよし運よく斬撃を弾けた」
【運だけで戦うのやめなさい】
「雅灯さん、もとい【禍理の手】があれば実力でなんとかなるんだけどね」
【駒として切り離した自分の判断に文句を言いなさい。それにしても……厄介ね】
「そうだな」
常に頭上を取り、斬撃を飛ばしてくるソードマン。見えているのかも呼吸できているのかも分からない、ツルリとしたひし形のフルフェイスヘルメットめいた頭部をこちらに向けている辺り、まあ認識できてはいるのだろう。そんな彼は、こちらとの接近戦を避けている……ように見えるのだ。
【厄介な敵として警戒されてるのかしら】
「俺を侮って雑に来てくれる方が助かるんだけどね。怖いなぁ、学習能力ってやつは」
さっきの4つ腕モードのようなあまりにも『殺し』に特化している姿にも対応されたからか、その対策として
「……もう一人くらい戦力が居ると助かるんだけど、たぶん音的にシセルは俺たちと真反対の方で戦ってるんだよなぁ。先輩もビルの中でガンナーとえんやこらしてるし、九十九は外に出られないし」
【今ある手札でなんとかしなさい】
「この先生スパルタすぎる……」
手元から聞こえてくる女性の声に苦笑しつつ、その声の主──鍔のない長ドスのような刀を握り直してから、先輩とガンナーがまだ居るであろう戦闘音の聞こえてくるビルの方を一瞥する。
【……何をする気?】
「うーん、ほら。たまにはさ、俺の方から先輩を巻き込むのも良いと思わない?」
【アレの性格からしてされるがままで終わるとは思えないのだけど】
「まあ〜〜……ね。そういう……後のことは、後で考えればいいじゃん」
【師匠が師匠なら弟子も弟子ね】
それ半分くらい誹謗中傷だろ……!
「そんじゃあまあ、
【いい? 与一、私の今の刀身も、言ってしまえば
「
会話の裏でしれっと魔力をチャージしていたソードマンが、次いでの斬撃を飛ばさんとして手に握るロングソードを振り被る光景を見ながら、こちらも両足に魔力を込めつつ九十九に込めている魔力の『形』を緩めていく。言うなればそれは、刀の刃の代わりに柄の上で揺らめく波──或いは、炎。
ぐにゃりと緩む刀身が、広がっていく。あとはこいつを叩きつけるだけ。
「行くぞ──【韋駄天】!」
こちらを狙う斬撃が飛んでくるのを合図に、ズンと踏み込み高速でその場から跳び上がる。
空中にセットした足1つ分に固めた空間を足場にして、ピンボールのようにジグザグに動き、斬撃を飛ばし終えたソードマンが刀剣を生成して飛ばしてくる前に、こちらの方が九十九を振り抜く。
「よっ……とォオ!!」
目に見える程の密度で具現化した魔力の塊と言っても過言ではない刀身がソードマンの全身を包み込み、【韋駄天】の速度も加わった一閃が、後方のビルへと押し込む形でその体を吹き飛ばす。
「このままッ……ビルまで押し込む!」
あえて刀身を緩めたのも、ソードマンの体を包んで身動きを取れなくするため。
先輩には悪いけどこいつはこちらだけで倒すのは骨が折れる、こっちもガンナーの相手頑張るからそっちも頑張ってくださいね……!!
──と。そこまで考えて。
ビルの外壁が迫る直前、ふと、嫌な予感が脳裏を駆け抜けて肌が粟立つ。
……そう、肝心な選択肢が、よりにもよってこのタイミングですっぽ抜けていたのだ。
──向こうも同じ事を考えて、ガンナーをこちらに押し付けようとしている可能性を。
「ッッッだァらっしゃあオラァい!!!」
果たして、ビルの中から、そんな勇ましい声と共にハンマーを振り抜いた先輩に叩き出されたガンナーが、こちらが叩きつけたソードマンと接触。
双方の勢いは言うなればアクセル全開のトラックのようなもの。そうして衝突した2体のウィルは、空中で潰れたトマトのような姿に変えた。
「……あァん?」
「──え゛!?」
「うわびっくりした!?」
「ぐえーっ!?」
続けて返す刀でこちらに手刀を振るった先輩によって地面に墜落させられ、こちらの意識が一瞬だけ途絶える。たぶん……ここに来て一番のダメージ……これじゃないかなぁ……!!
一拍遅れて近くのアスファルトに肉片と血のようで血には見えない、赤っぽい液体がぶち撒けられ、こちらの隣にタンッと先輩が着地する。
「なんだお前、もしかしてアレか? 私にあいつぶつけて楽しようとしやがったな?」
「ど、どうせ自分だって俺にそうしようとしてたクセに……!」
「師匠はな、そういうのをやっていいんだよ。でも弟子がやるのは生意気だから駄目」
「傲慢不遜が過ぎる……」
「文句があんなら私より強くなれバーカ」
そう言いながらも、先輩はハンマーを肩に担いで潰れたガンナーとソードマンの混ざった死体をじっと眺めて警戒を解かない。
習うようにして立ち上がりながら九十九の刀身を整い直して構えると、その警戒が正しかったかのように、2体分の死体は突如として震える。
「今度はなんだよ、ったく」
「こいつらは俺たちとの戦闘を学習して、新しい能力を作る。……だとしたら、まさか」
「へっ。私たちを殺すための新モードになろうとしてるってわけかァ? だったら──」
と、そこで言葉を区切ると、先輩はハンマーを両手で握って腰を落とし足に力を入れた。
「死体そのものを今潰す!!」
先輩がそう声を荒らげて、震えている死体目掛けて全力でハンマーを振り下ろす。その即断即決は正しく、しかして、一手遅い。
「っ……ちィっ」
振り下ろそうとしたハンマーを、先輩は直前で止めてバックステップし、こちらに戻ってくる。
その眼前で、死体だった物体は液状に溶けたかと思えば、重力に逆らうようにして空中に浮かび上がり、形を整え、球のように固まっていく。
視界の奥からも飛んできた別の液体までもが混ざり、そして、その赤い球は滑らかであり、強烈な違和感と異物感を放つ。
空を飛ぶための翼。
鳥のような鋭い足。
赤々と赤熱した両手。
凹凸のないフルフェイスヘルメットのような丸い頭の側頭部には、『へ』の字の曲がった鋭い角が2本、左右対称に生え、更には頭上に天使の輪のような細い円が回転している。
怪獣のようであり、人間の姿を保ちつつ、遠巻きに見れば天使にも見えなくはない。
けれども確かに、それは、これまでのウィルとは違うウィルだった。おそらくこいつこそが、これまでの分身体を操っていた本体なのだろう。
「これは……なんて呼ぶべきなんでしょうかね」
「さあな。──
「先輩のセンスにしては比較的マシですね」
「は?」
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