「で、このあとどーすんだ?」
「お前とボクと与一で徹底的に連盟組織を叩き潰して真っ平らにする」
「冗談はよしてくれ……」
目が
円花さんの冗談に聞こえない冗談を流しながら、改めて今後の予定を考えようと、蚊帳の外だった先輩を交えて話そうとした──直後。
「……っ、ぅ、ぉっ────」
「円花さん? 大丈夫ですか?」
突然、円花さんの頭がガクンと揺れて、たたらを踏む。危うく転びそうになりながらもバランスを取った彼女は、数秒の間を置いてから、咄嗟に支えようと前に出たこちらの顔を見上げてきて──
「…………」
「だ、大丈夫ですか? 円花さん?」
「…………。…………あぁ」
ぱちくりとまばたきをして、周囲を見回してから、まるで
「
そう言って、誤魔化すように背中を向けて顔を逸らした。……んんん??
「この魔力は無貌の神と……アフーム=ザーね。だとすると、現状は……直接話すしかないかしら。──悪いのだけど、やることが出来たからここからは一人で動くわ」
「え゛」
「落ち着いたら、連絡するから」
「え、えぇ〜〜??」
何か……何かが、おかしい。その違和感を追求するよりも早く、円花さんは片手間に一人分の大きさの【門】を作り、その向こうに消えてしまった。
「……えぇ〜〜……」
「なんだあいつ、急だな」
あっさりと残された先輩と顔を見合わせて、気になった質問を投げかける。
「先輩、なんか円花さん変じゃなかった?」
「ンまぁでも、あいつは常に変だからな」
「いや自己紹介を聞いたわけじゃなくて」
「はァ〜〜〜〜〜ん!?!?」
奇声を上げる先輩はともかく。
「……またナイの魔力が混ざったわけだし、意識が混濁した……とかかな」
「さぁな。……っつーかあいつどこ行きやがった? まさか単独で連盟組織にカチコミしに行ったとかじゃねぇよな……流石に無謀だぞ」
「…………。ですね!」
「お前いま絶対『無貌の神だけに?』って言おうとして一瞬悩んだだろ」
「そんなわけ、ないじゃないですか……ッ!!」
「人の顔を真っ直ぐ見ながら言えば誤魔化せると思うなよバカアホ弟子」
とかなんとか言いながら、これ以上河川敷に居たところでやることも無し。下手したら不審者が二人でなにかやってると通報されかねないので解散することになった──の、だが。
この時はまだ、想定できるはずも無かった。まさか今から数日後に、円花さん────
──円花さんが縮んだりナイと別れたりと、短くも濃い時間を過ごしたあの日から五日。
「っだァ〜〜もぉ〜〜うるせぇ〜〜!! 知らないっつったら知らないの! バカ!!」
「荒れてんなぁ。また
事務所の固定電話の受話器を叩きつけ──ると壊れるからそっと置いて通話を切ると、ソファで寛いでいる真冬が寝転がりながら聞いてくる。
「ああ。なんか、円花さんに続いて先輩まで居なくなったと思ったら、
「それもう半分犯罪でしょ」
「全部だぞ」
円花さんならまだしも、ついには先輩まで居なくなったからか、連盟組織の方からここ数日のあいだ頻繁に捜索の依頼をされていたのだが、こちらとしてももう連盟組織に対する信頼が薄れているため、態度には出さないようにしながら断っていたのに。
さしもの連盟組織もなりふり構う余裕が無くなったのか、こちらの携帯で着信拒否したからって、いよいよ事務所の固定電話に鬼電してきやがった。
こりゃお次は、事務所に直接下っ端を送り込んで
「…………。だぁ〜〜〜……仕方ない。真冬〜、出かける準備してー」
「はいはい。丞久さんを探しに行くわけ?」
「連盟組織側にせっ突かれるまでもなく、そもそも探すつもりではあったからね」
立ち上がって上着を羽織って携帯だけをポケットに入れ、ベルトに付けた、引っ掛けたものを取り外ししやすい特注フックに九十九の柄頭をぶら下げる。
「流石の先輩でも、自分が働いてるところの構成員を殺してでも逃げ回る、というのはおかしい。そうするだけの理由があるはずだ」
「まあ、ねぇ。丞久さんにもその辺を弁える理性はある…………あったっけ?」
「あったと仮定して動くしかない。……おそらく様子がおかしかった円花さんの身に何かあったな、たぶんあのあと連盟組織に直帰してやらかしたと思う」
「……どいつもこいつも、先祖が猪なの?」
たぶんそう、部分的にそう。
──と、あんまり先輩たちの陰口を叩くのもよろしくはない。改めて真冬の準備が終わるのを確認してから、二人で事務所を出て外に向かう。
「そういえば、葉子さんとソフィアと結月は?」
「あ〜、葉子さんが連盟組織の支部に射撃訓練に行けないからって暇してたから、どっかに出かけてくるって。三人とも呼んどく?」
「いや。大人数で捜索すると目立つし、今は少数で動こう。なんかあったら呼ぶ感じで」
「ん」
バイクとヘルメットを【
「与一、丞久さんと円花さんの居場所に何か心当たりでもあるわけ?」
「連盟組織の人たちが交換条件として今現在の先輩の位置情報を教えてきた。そこを起点に、
「雑ぅ〜〜。……ん? ねえ、与一」
「真冬もわかった? 今の話の
バイクを走らせながらの会話、その中にある違和感に気付いた真冬の声が続く。
「もしかして
「と、考えるべきだろうね。っていうか猛獣2匹を放し飼いにしてるようなもんなんだから、そりゃ位置を把握できるようにするのは当然だよねぇ」
以前、ナイに乗っ取られていた時は、おそらくその追跡手段を見破られていたから追手を差し向けることが出来なかったのだろう。
などと話しながら法定速度ギリギリの速さで急いで向かうと──不意に視界の奥で、見覚えのあるスーツ集団がビルに入っていくのを見やる。
「あ、連盟組織の下っ端たちだ」
「えっどこ?」
「あれあれあれ。あのビルの入口」
「ほんとだ。……あそこに丞久さんたちが居るってこと? こんな街のど真ん中に?」
「人前なら連盟組織も迂闊に手を出せないと考えたか、何か事情があるのか……」
全員が入っていくのを見送ってから、近くにバイクを停めて入口に近づく。
近くには他の建造物が無数にあり、歩道では通行人が行き交い、道路では車が忙しなく走り回っている。……人が近すぎるな。
「俺だけで先に入る。真冬は外で待機して、周囲への被害に気を配っててくれ」
「……大丈夫なワケ?」
「…………。まあ、交渉の余地なく殺るしかないとなったらやるだけだ。可能な限り無力化を優先するけど、最悪の場合は俺も連盟組織と敵対することになるかもしれな────」
──チリ、と。嫌な予感が首筋を掠める。
即座にビルを見上げた、次の瞬間、連盟組織の下っ端たちが入っていったビルの上階部分で突如として、ボンッッッ!!! という大爆発が発生した。
「爆っ!? ……人、車……破片──真冬ッ!」
「わかってる。【
「【部分顕現:ヨグ=ソトース】!」
異能の発動に合わせて金髪と銀のメッシュの比率が反転した真冬と反射的に背中を合わせ、ビル上階の爆発で振り注ぐ瓦礫やガラス片から守るべく、見える範囲内の人や車の上に傘のように形状を固定した空間を設置していく。最後に自分たちの上にも設置した──直後、辺りに人を殺しうる凶器が振り注いだ。
「っ……! 真冬、周辺の被害は!」
「見た感じゼロ! っつうか、いったい何があって爆発なんかが起き……」
そんな真冬の言葉を遮るようにして、道路のど真ん中に、ダンッと何かが着地する。
「──ごほっ、げほっ……っンの野郎……なんつー真似しやがんだ……!」
それは、角と翼を生やし、両翼で自身を包み爆発から身を守りながらビルから脱出してきた、つい最近見た覚えのある姿。
翼のあちこちに煤を付けた体を立ち上がらせた人物は、こちらに振り返り顔を顰めた。
「……ん? げっ、お前らかよ」
「『げっ』はこっちのセリフなんですよね」
「この人毎回こんな感じだな」
「真冬も居んのか……ったく」
人物──丞久先輩は、【
少女もまた見覚えのある人物……というかまあ、予想通りに円花さんなのだが。
──なぜか円花さんは、左目を中心に、顔の左半分を隠すように血の滲んだ包帯を巻いていた。
「二人とも、何があったんですか」
「それについてはあとで話す。ここを離れるぞ、連盟組織のやつら……いよいよ民間人を巻き込むことすら躊躇わなくなりやがった」
辺りをちらりと見回すと、先輩は円花さんに移動するようにジェスチャーしてこちらと真冬も連れてこの場から離れるように歩き出す。
しかし今の言葉を聞いて、一つ、どうしようもなく最悪な事実が脳裏を過った。
「……まさか……!」
「ああ。さっきの爆発は、入ってきた連盟組織の下っ端どもの
連盟組織が、二人を捕まえる以前に、殺すために、民間人を巻き込んで部下を自爆させた。──これまでと、あまりにも違いすぎる。
魔術師の組織、連盟組織。そこは国と民間人を守るための組織のはずで、だからこそ先輩もこちらも怪しみながらも協力してきたのだ。
それが、今になって、どうしてこんな事をし始めているのか。そんな疑問に答えるように、不意に円花さんが口を開いた。
「元々、連盟組織はこういう組織よ。今でこそ関係者が増えすぎたから行儀が良くなったけど、昔は普通に犠牲者出すのも許容範囲内だったわ」
「…………
足を止めて、そう問いかける。前回はナイとの再融合で意識が混濁してたのかと思ったけど、今は確信している。こいつは、円花さんじゃない。
「あら、わからない? 私は
「少なくとも、俺の知ってる円花さんはそこまで丁寧な人間ではないぞ」
現場から離れてしばらく。背後でけたたましいサイレンの音が幾つも聞こえてくるのを余所に、円花さんの姿をした『何か』は、右目だけでこちらを見上げると、目尻を細めてあっけらかんと言った。
「だから、私は
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