とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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外宇宙的卵と春夏秋冬円花 5/7

「秋山さ──どぉうわ!?」

 

 与一が声を掛けようとした瞬間、容赦なく撃ち込まれた弾丸が、顔の真横を通り過ぎる。

 

「あー、もう説得とかそういう段階の話じゃねえからな。ここまで来ちまったからには、俺らが死ぬかお前らが死ぬかのどちらかだけだ」

「そんなわけ……、……! 秋山さん、俺か真冬が白道さんたちを助けに行けば──」

「その程度の浅知恵が向こうに見抜かれないとでも思うか? ンなことしたら俺の首が物理的に飛んであいつらも射殺されて終わりだ」

 

 秋山は与一にそう言いながら、もう片方の手にも大型リボルバーを【要請(コール)】して、それぞれを与一と丞久──の、背後に居る真冬と円花に向けて引き金に指を置いている。

 

「俺の役目はお前らの始末。……と、言いたいところだが。例えば────そこの翼と角が生えてるバカが俺を足止めしている内に、残りが中に侵入することを防げるほどの実力は、俺には無いわけだ」

 

 言葉をそこで区切ると、秋山の視線が丞久とぶつかる。言いたいことを察した丞久は、逡巡を挟んでから重々しく口を開く。

 

「…………。与一、二人を連れて上に行け。こいつは私が相手する」

「……、…………っ! ……任せます!」

 

 ギリ、と歯を噛み締めて感情を押し留めた与一は、その言葉を待っていたとばかりに自身に向ける銃口を下げた秋山に一瞬悲痛な顔を向けるが、それでも目的を優先してマンションの中へと走った。

 

 残った丞久は、両手にスレッジハンマー状に固めた魔力の柄を握りながら言葉を続ける。

 

「ったく、嫌な決断させやがって。うちの弟子はああ見えて繊細なんだぞ?」

()()()、意外と繊細だからか?」

「……さあ、どうだかな」

 

 ()()を突かれて渋い顔をしつつも、丞久は向けられた銃口に意識を向ける。

 

「まあ、でも、なんだ。こういう機会ってそうそう滅多に来ねえだろ」

「あん?」

 

 おもむろに独りごちる秋山が、左手のリボルバーを魔力に分解して手を空けたかと思えば、右手のリボルバーの銃口を下げ、左手を撃鉄に添える。

 

「──訓練の組手とは違う、仲間同士の、全力で全開で本気の殺し合いなんてのは」

「そうそう滅多にあったらダメだろ」

「そりゃそうだ」

「……へっ」

「くくくっ」

 

 小さく笑い合い、沈黙。

 

 まるで居合抜きの直前のように秋山の顔が下に垂れていき、けれども丞久に向ける洗練されながらも強烈な殺意が突き刺さる。

 

 双方に無言のまま、ハンマーを握る丞久が腰を落とし、秋山が握るリボルバーがだらりと垂れ下がり────合図もなく、しかして全く同じタイミングで、丞久が地面を蹴り砕く勢いで踏み込み、秋山の右手もまた──爆発する。

 

「──っづぅおぉオオオ!!!」

「避ぉ、っ──け、やがった!?」

 

 秋山の握るリボルバーから、一瞬で放たれる6発の弾丸。引き金を引きっ放しにしながら手で撃鉄を弾いて連射する、いわゆるファニングショット。

 それを()()()()()で行いシリンダーの6発全弾を撃ち切った秋山は、地面スレスレまで倒れ込む勢いで前屈みになっていた丞久に避けられたことに驚愕しつつ、撃ち切ったリボルバーを捨てて新しい銃器を【要請(コール)】すると、小ぶりの短機関銃(サブマシンガン)を丞久の動きの少し先をなぞるように発射。

 

「銃が取り柄なのも考えもんだなァ、秋山ァ! 銃口見てりゃどこに弾が来るかは分かるんだよ!」

「わかるのと避けられるのは別の話だろ……!」

「文句あったら当ててみろばぁ〜〜〜か」

「──なら、そうさせてもらうか」

「あ?」

 

 不意に、ガラリと雰囲気を一変させた秋山が、そう言いながら足元になにかを【要請(コール)】したかと思えば同時に【要請(コール)】していたスイッチを押しながら、衝撃に備えるように体を背ける。

 ──刹那、視線を足元に向けた丞久もまた、ぞわりと背筋に流れる直感に従い真上に跳躍した次の瞬間。丞久が居た位置を巻き込むようにして、凄まじい速度で数百もの鉄球が放射状に放たれ、背後にあった壁や駐車場の車に大量の穴を空けていく。

 

「クレイモア地雷……!?」

「飛んだな、空中に」

「──っちぃ……ッ!」

「お前が羽ばたくより俺が撃つのが速ぇよ」

 

 それは、丞久に直線的な動きをさせて移動コースを絞るための追い込み漁。

 秋山は言葉を口にしながらも、既にその手に握る筒状の銃の引き金を引いていた。

 

 ボシュッ! という気の抜ける音とは裏腹に、羽ばたこうと翼を動かした丞久の元へと放たれた弾丸は、咄嗟に体を包むように曲げた翼にぶつかると、ちょうど丞久を包むような爆発を起こし、炎と衝撃でその体を落下させて車の屋根に叩きつける。

 

「……っ、づ、ごほっ……おぉうぉうおう」

「これだけやってまだ原型留めてられんのお前と与一くらいじゃねえのか」

「……げほっ、これで終わりかァ?」

「そんなおねだりにお応えして、こちら、出力最大のレールガンでございます」

「クソ、ったれがァ……!!」

 

 煙の向こうで叩いた軽口に全力で返答した秋山の手に握られる、遠巻きに見ると白いH形鋼に肩当て(ストック)と引き金を取り付けたようなライフル。しかしそれは、そんな生易しい表現で許される物体ではない。

 

 本来であれば大型になってしまう軍事開発兵器であるレールガンを半ば無理やり小型化させ、魔力圧縮結晶を電力として扱い鉄球を超高速で発射する、連盟組織で開発された高火力銃器である。

 

 普段であれば民間人への被害を考え出力を意図的に落としている()()を、あろうことか、秋山は今──出力最大と宣った。

 

 とどのつまりは本気で丞久を殺すつもりの攻撃。であるにも関わらず、丞久自身にはいまだ、秋山を殺す覚悟が()()()()()()

 

「…………、……、っ〜〜〜、……!!」

「どうしたぁ、この期に及んでまだ覚悟決まってねえのか。こりゃ確かに()()だな」

「うる、せえ……」

 

 覚悟が出来ていない。出来ていないから、もっと上手く対応できた筈の攻撃を受け、地面に落とされている。それを見抜かれて、焚き付けられている。

 

 ──いま、ここで、覚悟を決めろと。

 

「──っふぅ〜〜……」

「…………」

 

 深いため息をついた丞久を見て、纏う空気が変わるのを肌で感じ、秋山も意識を切り替える。

 

 既に照準を合わせられたライフル型レールガンの最大出力であれば、本来のレールガンと殆ど変わらない。であれば、取るべき対応は自然と限られる。

 

 丞久は短くそう思案して、翼を前に伸ばして自身の盾にしつつ、その形状を楕円のように曲げる。そして翼の中で形成したハンマーを握り、深く深く深く重く踏み込み、ただひたすらに直進。

 

「っ────ふッ」

 

 鋭く息を吐きながら、発射。バッ────という電撃が真っ直ぐ伸びていく奇妙な音と共に、もはや視認することも怪しい速さの鉄球が丞久の翼に突き刺さる──()()()()()、その表面をガリガリと削りながら逸らされ後ろに流れていく。

 

 避けられないならば、当たる前提で動く。そうして敢えて柔く受け止めて流した鉄球が背後の彼方に消えていくのを目で追う余裕もない丞久は、秋山に肉薄してハンマーを全力で振りかぶる。

 

「ぉおォォォおおォオオオ!!!」

「接近戦でもなぁ……銃の方が速ぇんだよ!!」

 

 発射と同時に凄まじい衝撃が全身を襲う筈だったレールガン、を、手放して後方に勢いのまま投げ捨てると同時に、秋山は丞久の肉薄を予想して既にその手にリボルバーを【要請(コール)】していた。

 

 果たして一手早く、撃ち出された弾丸が、丞久の腹に突き刺さり背中に抜ける。

 

「がっ────っ吹っっっ飛べェ!!」

「少しは怯みやがれ……ッ!?」

 

 だが、丞久は止まらない。

 

 予防に予防を重ねて左手に【要請(コール)】した防弾シールドの上からハンマーを叩きつけられた秋山は、背後の壁をも破壊する勢いで、マンション内を貫通しながら、反対の外まで吹き飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──代わり映えのない通路を走る人影が4つ。秋山小雪を先頭にしてシロ、白百合、そして殿を務める白道が、連盟組織本部の中を駆けていた。

 

「白道さーん、こっちで合ってますよね?」

「ああ、もう1階層降りた先の非常出口が地下鉄と繋がっている」

「私がクロを帰すときに話したやつですよね。彼らにもう抑えられてる可能性は?」

「さあね。可能性は高いさ、その時その時で対応を変えるしかあるまい」

 

 白百合の言葉に返す白道は、長時間走り続けているのとは別の疲労感でため息をつく。

 

「やれやれ、ついに来るところまで来たと言わざるを得ないな。そのうち内部分裂か何かで自己崩壊するだろうと思ってはいたが、こうも露骨に殺しに来るとはね。どうやら秋山クンが死んだか、そもそも最初から人質(わたしたち)を殺すつもりだったか。後者だといいが」

 

 そう言う彼女と小雪の手には、既に何度か発砲している突撃銃(アサルトライフル)が握られ、正当防衛とはいえ既に何人もの連盟組織構成員を殺害している。

 

「どちらも良くはないのですがね……しかし今日の朝からいきなり秋山さんを押さえたと思ったら、仲間を殺せだなんて……どうしてこんなことに」

「少なくともつい最近入ったばかりの白百合とシロクンはとばっちりもいいところだ。だからこうして逃がそうと走っているのだろう」

 

 連盟組織に所属していて、少なからず人には自慢できないような事をしてきている以上、白道は自身が碌な末路は迎えないことは察している。

 だからこそ、自分から殿を志願し、小雪を前に立たせ、双方で白百合とシロの盾になれるようにと陣形を組み走っていた。

 

 ──そして。

 

「……! く、そ……っ」

「え? ──あっ!?」

 

 背後から追いついてきた構成員たちの手に握られた無数の銃器。それらを見た白道は、現在の位置から()()()()()を把握して、持っていた銃を捨てて両手で白百合とシロを前に突き飛ばし──壁に埋め込まれた緊急ボタンを殴るように押す。

 

 直後、怪物の侵入あるいは火災を遮るための分厚いシャッターが天井から落ちるように下りてきて、自身と小雪たちを遮る壁を作る。

 

「!? なっ……白道さ────」

 

 数秒の出来事ののち、突き飛ばされた二人と下りてきたシャッターに反応して振り返った小雪が、はめ込まれた防弾ガラス越しに見たのは。

 

 

 

 ──無数の弾丸に貫かれて至るところから血を噴き出させる、白道の背中だった。

 

 

 

「……が、ぅぶっ……ごぼ」

 

 貫通した弾丸が壁と防弾ガラスに浅く傷をつけ、遅れて白道がもたれ掛かるようにシャッターに背中を預けて座り込む。

 白百合とシロ以上に顔を青ざめさせた小雪が、思わずその背中に縋り付くように駆け寄った。

 

「は、くど、さ……白道さん! 白道さん!」

「……ぶっ、ごほっ……逃、げろ、小雪クン、二人を、連れて……全部から……」

 

 後ろが見えていないがゆえに、シャッター越しに聞こえる小雪の悲鳴に対してうわ言のように呟く白道。無機質で無言の構成員たちが一歩ずつ近づいてくる光景を前に、更に彼女は小雪に言う。

 

「白道さん……だって、そんな……」

 

 ガラスの奥に見える白道の体のあちこちからは、だらだらと鮮血が流れ落ちていく。誰が見ても致命傷だとしか言いようのない負傷。閉じられたシャッターはすぐには開けない。明けたところで、次の銃撃を防ぐ時間が無い。間に合わない。思考が矢継ぎ早に流れていく。どうすれば? そこまで考えた小雪の思考を纏めるように、白道の優しい声色が耳に届いた。

 

「…………楽しかったよ、血が繋がっていなくても……本当の、姉妹になれた、みたいで」

「っ……、……っ、小雪さん、行きましょう」

「はやくいけ、私のこうどうをむだにする気か」

 

 一度強くまぶたを閉じた白百合が、シロと共に小雪を無理やり引っ張るようにしてその場から離れるべく走り出す。連盟組織の裏切りのような内部抗争、人質を取られた秋山への丞久と円花の殺害命令、約束を守ろうが守るまいが、殺される所だった自分たち。

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ、ぅ……ぉ……ねぇ、ちゃん……」

 

 様々な感情がぐちゃぐちゃに混ざり、無形の落とし子を体内に飼っていて精神年齢が成熟していたはずの小雪ですら、この時だけは、本来の幼さが表に出てきていて。──果たして背後からは、シャッター越しのくぐもった銃声が響いていた。




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