──水角大学。丞久先輩と太陽さんを筆頭に魔術の存在を認識していたり厄介事に巻き込まれた事のある人が何人か居る大学。
以前ナイにクトゥグア爆弾を食らわされて崩壊し建て直したりと哀れなことになっていたのだが、そんな大学に、現在こちらの指示で集めた少数が、講義室の前席に集合する形で着席していた。
「さ、て、とぉ〜〜……これで全員ですかね。なんか呼んでないのに来てるヤツもいるけど追い出す時間も無いから置いときましょう」
「誰のことだ」
「キミだよエーリッヒ」
「……?」
「後ろには誰も居ないぞ」
なんで名指しされた本人の後ろに誰か居ると思ったんだ、エーリッヒさんの後ろにエーリッヒさんは居ないんだよ。……それはさておき。
「じゃあまず、俺が知っている限りでこれから起こることを全部話します」
──そう前置きしてから、早速と、この場の全員に明日起き
先輩と春夏秋冬さんが連盟組織に追われること、連盟組織が構成員を鉄砲玉にしていること、民間人すら巻き込んででも始末しようとしてること。
最終的に秋山さんと戦い、殺し、卵が割れ、魔力が溢れ、何もかもを消し飛ばそうとし、咄嗟に時間操作で意識を
荒唐無稽にも程がある話を聞いた者たちの反応は三者三様だ。この場にいるのは、こちらを除いて総勢十四人。教卓側から見て右端に先輩と春夏秋冬さん、そこから左に向かって光冷ちゃんと真殊ちゃん、エーリッヒ、深月。真ん中辺りに真冬と葉子さんと、机の上にソフィアと結月。そして白百合と太陽さんとアビゲイルと続いて、一番左端に秋山さんが座っている。
そのほぼ全員から感じる半信半疑といった感情。こちらへの信頼感を向けられているのと同時に、明日起きるとんでもない事態をまだ経験していないからこその疑わしいという当然の疑問。
「やっぱ、信じられない?」
「まあ、与一がンなくだらない嘘つくとは思ってないから本当のことなんだろうけど……ってのが、たぶんあたしらの頭の片隅にある感情だと思う」
真冬が全員の代表のようにそう口を開く。
「だよねぇ〜〜。といっても、まず俺の話を全員に受け入れてもらわないと次に進められないからなぁ……どうしたもんかな」
とはいえ、未来の出来事を知っているのは自分一人。他には誰も居ない。
「──楽しそうな話をしているじゃあないか。私たちも混ぜてもらえないかい?」
そんな風に逡巡していると、ふと講義室の外から、演技ぶった中性的な口調で誰かが乱入してくる。それは茶髪を後ろで括ってキャップを被っている女性──イス人である竹田さんだった。
「た、竹田さん……!? なんか呼んでないのに来た……!?」
「呼んでないから現状の共有に困っているのだろうに。だからこそ来たんだ、キミにはこう言えば伝わるだろう。──私もあの時間から来た」
「──!!」
「まあ話は中でしよう。ほらヒメたちも入りたまえ、お邪魔するよ。ありがとう」
「まだ何も言ってない……」
竹田さんがまくし立てながらずかずかと中に入れば、その後ろから生き人形が1体と人間が三人続いて入ってくる。生き人形は蛇神様、そして三人は、琴巳ちゃんとリオンちゃん──と、杖をついて歩いているヒカリさんであった。
「ど、どうもー……お気になさらず……」
気まずそうにペコペコと頭を下げながら後ろの席に座る琴巳ちゃんとリオンちゃん、春夏秋冬さんに視線を向けて訝しむヒカリさんが座るのを待ってから、教卓側に立つ竹田さんに先輩が問いかける。
「竹田、お前も与一と同じ時間から来たっつったな。つまり、見たんだろ? 『卵』とやらを」
「ああ見たとも。いやぁ、凄かったね。宇宙色の魔力が辺りにぶちまけられて、触れた箇所がどんどん削り取られたように消し飛んでいってね。同時に何者かの意識転送が行われたのを検知して、それに便乗して私もこの時間まで自分の意識を飛ばしたのだよ」
「そういや、白道から聞いたことがあるが、イス人は精神を別の時間に飛ばせるんだったな。ならその話にも信憑性が────」
思い出したように口を開いた秋山さんが、言葉を途中で詰まらせてふと気がつく。
「……竹田」
「なんだい」
「イス人は精神を過去や未来に飛ばせるんだよな」
「そうだね」
「なら、なんで、白道は……俺の身内のイス人は、同じように未来からこの時間に精神転移して逃げてきていないんだ。あいつなら、与一より先に俺に対して未来で起きる話を伝えられた筈だ」
秋山さんの言葉に、竹田さんは考えるように視線を上げる。……竹田さんに出来て、白道さんに出来ない精神の時間転移。こちらでも察せられる理由を、秋山さんが分からないわけがない。
おおよその答えを察しているような顔の秋山さんに、竹田さんはさらりと言い放った。
「イス人が危機的状況で精神転移を行わなかった理由は大きく分けて2つくらいだろう。1つは、あえて精神転移しないことを選んだ。もう1つは──する前に死んだか。果たしてどちらだろうね」
「…………。そうか。……そうか」
秋山さんはそう呟いて、考え込むように項垂れる。それを横目に話を次の段階に──すなわちこちらから攻勢に出るためのチーム分けをするための前準備として、『卵』への対抗策を考える段階に移る。
「さて、話を進めましょう。春夏秋冬さん」
「なにかしら」
「前回の俺たちが聞きそびれたことですが、『卵』を破壊する方法を教えてもらえますか」
「前回、の私からは聞けなかったのね。……聞きそびれたのでしょう? じゃあ言わないわけね、だって聞かれてないんだもの」
「この人、まだ度し難いポイントが出てくるの、一周回って凄いな……?」
あっけらかんとした態度で悪びれた様子もなく言う春夏秋冬さんに何とも言えない負の感情が湧き起こるが、それを呑み込んで話を続ける。
「じゃ、今聞きます。教えてください」
「いいわよ。……といっても、あれを完全に滅することは不可能だから、やれるとしたら、弱体化させて再度この身体に取り込み直すくらいね」
「具体的には」
「逆に聞くのだけど、なんであれが『卵』の形をしていると思う?」
「え゛」
──逆に聞くのだけど!?!?
「な、なんでって……趣味?」
「それだと7点ね」
「掠ってはいるんだ……」
包帯で巻かれて隠れた左目の傷を上から指で軽く掻いてから、春夏秋冬さんは答えた。
「あれは単なる魔力の塊。でも私はこうなった時のための安全策として、物理干渉できるようにと『卵』の形状に封印した。──孵化させられるからよ」
「孵化……?」
「孵化させる、というプロセスを挟むことで、魔力を軸に肉体を形成させる。極端に言えば、普通の攻撃で魔力を削れるようにするためよ。つまり前回やれなかったけど今回やれることは、外宇宙の神──
「────」
その言葉に、一瞬、後ろでヒカリさんが反応していたが、口を挟まないように小さくため息をついていた。ともあれ、目的ははっきりしたけど、まだまだ詰めるべき話は多い。その1つが────
「……で、その孵化をどうやって行うんですかね。そもそもどれだけ時間が掛かるんですか」
「問題はそこね。あなた、特殊な時間操作で過去に意識を飛ばしたのでしょう? 同じように『孵化するまで』の時間を飛ばせたりしないかしら」
「無理です。もう魔力が殆ど残っていない。……だよな? グレイ」
【ああ、その通りだ】
春夏秋冬さんの問いに返しつつ腰を軽く指で小突くと、傍らに後ろの壁が透けて見えるホログラムのような見た目のグレイが現れる。
「うげ」
「うわぁ」
「うわ出た……」
「うおぉ……」
【誰だい今「うげ」って言ったの】
すると、グレイの姿を見て、太陽さんと白百合、深月と真冬が順にうめき声を漏らした。そういえば、見た目は前に戦った人造神格と同じだもんな……ここに居ないけど小雪さんも同じ反応しそう。
【私の魔力はもう殆ど無い。せいぜい1〜2回【門】を開ける程度だ。──だが、生前の
「遺産?」
【
「ああ……赤霧市の時に足元に差したりしてたな。あれがまだあるのか」
グレイが言えば、あの場に居た白百合と深月、光冷ちゃんと真殊ちゃんが思い出したような反応をする。あの鍵を残していたとは、抜け目がないな。
「で、その鍵はどこにあるんだ?」
【…………。えー、と。どこだったかな】
「あのさあ」
【いや待て、なんとかって島なのだがね。えー…………妙な白髪の巫女に預けたのは覚えているのだが……「それもしかして海神島か?」
悩むそぶりを見せるグレイに、被せるように先輩が言うと、彼女は先輩の問いにようやく思い出したのか軽く手を叩いて「それだ」と返す。
【そう、海神島だ。生前の私はあそこの巫女に銀の鍵を預けておいたんだ】
「なるほどな。……そういやあの実年齢詐欺ロリババアも人の顔見るなり鍵がどうとか言ってきたし、そういうことだったんだな」
「実年齢……なんて??」
なんかいま凄いワードが飛び出なかった? と問いかけるよりも早く、先輩は更に言う。
「今回の戦いの要は銀の鍵を用いた『卵』の孵化だ。なら、チームは3つに分けることになるな。1つは鍵を取りに行くチーム、1つは連盟組織トップ……綿貫十兵衛をぶっ殺しに行くチーム、そして最後が──白道たちを救出しに連盟組織に潜入するチーム」
指を3つ立てながらそう言った先輩に、まず真っ先に光冷ちゃんが挙手した。
「鍵を取りに行くチームには与一さんが適任かと。それと私が案内役について行きます」
「決まりだな。チーム分けは最小限の少数精鋭が望ましい。与一、お前ら二人でさっさと島に行って、巫女から鍵もらって、『卵』の所に向かえ」
「……分かりました。残り2つは──「連盟組織には俺が戻る」
と、そこで、秋山さんが重々しく言いながらガタリと席を立つ。その目は言葉にするまでもなく「ついてくるやつは居るか?」と問いかけていた。
「んじゃ、あたしが秋山さんについてくわ。あと結月とソフィアも連れてく」
『え私もぉ!?』
『私は構わないわよ』
机の上でボケっと座っていた結月が、真冬にがしりと鷲掴みされ、流れでソフィアも頷く。それを見てか、太陽さんがアビゲイルの肩に手を置いた。
「アビー、お前もお嬢たちについて行って秋山をフォローしてやれ」
「え? あぁまァ、それは構わないケド」
「では私もついていきましょうかね。本当は与一さんの方に行きたかったですが」
アビゲイルに続いてにこりと笑いながら、白百合が小さく挙手する。そこで区切るように、先輩が強く手をパンパンと叩いて注目させた。
「あんまり大人数になると動きが鈍る、それ以上はナシだ。あとは十兵衛ぶっ殺しチームだが、これは当然私と春夏秋冬が行く。あとはどうだ?」
「そっちには俺がついていくぜ」
「では、あとは私も……ですかね」
「太陽と葉子か。まあ妥当だな。これで決まりだ、さっそく行動に移すぞ」
先輩の方には太陽さんと葉子さんがついていくことにしたらしく、そこでチーム分けも終わり──で納得しない者が一人居た。そう、エーリッヒである。
「おい、待て。残った私たちはどうしろと言うんだ? まさかここに待機か?」
「そもそも呼んでねえんだから来んなバカタレ。まさにその通りだ、お前らはここに待機。でもお前らにもやることはあるぞ」
「え、なんかあるんすか?」
チーム分けに入らなかったエーリッヒを留めつつ、深月の問いに先輩は視線を向ける。
「連盟組織から抜けてきた秋山と、連盟組織に追われてる私と春夏秋冬が、今ずっと同じ場所に居るわけだが。あいつらが何もしてこないとでも?」
「…………。ま、まさか……」
「俺らは予備戦力ついでの囮か」
先輩に対して口角をひくつかせるリオンちゃんと、その横でヒカリさんが察したかのように呟く。ニヤリと笑う先輩は、更に言葉を続けた。
「大正解。ま、向こうも私らが囮をここに置いてくことは分かってるだろうけどな、連盟組織の外の魔術師が敵対的である以上は戦力を割かないわけにはいかねえ。つまり秋山たちが多少楽になる」
「なるほどな。まあ、俺に関しては脚の問題もある。動き回るよりはここに残って迎撃するほうが楽だからそれでいいが」
「──そんじゃ、話も纏まったことだし行動するぞ。与一と光冷は私が【門】で島まで飛ばす。帰りの【門】は与一の方で頼むぞ」
「分かりました。行くよ光冷ちゃん」
「はいっ」
先輩が【門】を開いた向こうから、室内にも関わらず潮風を感じる。海神島……知らないところだけど、島というからには周りは海なのか。
「では皆さん、月並みな言葉にはなりますが──世界を救いましょう」
二人で【門】をくぐる直前、その場の全員に向けてそう言えば、全員の力強い頷きが返ってくる。それを見てから、改めて、光冷ちゃんと共に島へと向かうのだった。次こそはと、決意を新たに。
「うーし、行くぞ春夏秋冬。あと太陽と葉子。十兵衛の居場所はこいつが分かるらしいから車を【
「それはいいけど法定速度は守れよ、警察に扮した連盟組織メンバー差し向けられたら面倒だ」
「……? 全員血祭りに上げればよくない?」
「いやよくはないです」
太陽と葉子の返しにきょとんしながら、丞久は講義室から三人を連れて出ていく。
「あたしらも連盟組織本部に向かうか。行ったことあるから座標は分かるし──【
続けて真冬が【
島への【門】と連盟組織本部への穴が閉じ、講義室に静寂が訪れ、それから何かを捉えたのか、エーリッヒが静かに【
「【人払い】で他の人間が誰も居ないから分かりやすいな。早速囲まれてるぞ」
「まじっすか。……はぁ〜〜、与一さんたちが戦いやすいようにするためにも、囮は囮らしくやるべきことをやりますかぁ……」
ため息混じりに深月が言って、同じように【
「…………」
「お父さん? どうしたの?」
それらを見て興味深そうな眼差しをしていたヒカリが、何かを考えるように、講義室との出入口の方に視線を移したのを見て、琴巳が問う。
「いや。……
「え? ……え゛!?」
「あの、ヒカリさん、そういうのはもう少し早く言ってください……!?」
出入口とヒカリの顔を交互に二度見する琴巳とリオン。二人の娘に詰め寄られて、ヒカリもまた、何度目かのため息をついていた。
「……まあ、与一が呼んだ異能者らしいし、大丈夫だろ。たぶん」
『続』
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