「……同じ時間を繰り返してる、ねぇ。あーそういう感じか。めんどくさいよねこういうの」
【経験済みだったのか】
「経験済みなんですね……」
「しなくて済むならしたくないよこんなの」
かなり前にあった真冬とほなみの一件を思い出して渋い顔をしつつ、姿を晒したヘビ人間一行のリーダー格に視線を向けて問いかける。
「それで、おたくらはなんて呼べばいいんだ?」
【そうだな。俺のことは
「さいで」
リーダー格──ウワバミは、それから背後に集合させた8対のヘビ人間に意識を向けながら言う。
【それと、こいつらは俺の部下だ。アオダイショウ、シマ、ジムグリ、ヤマカガシ、ヒバカリ、シロマダラ、マムシ、タカチホと呼べ】
「いやどれが誰だよ?????」
【……これだから素人は困る】
「こちとらヘビ人間を判別できるほどの関わりがないんだよバカ野郎」
むしろ言われてすぐ判別できる方が怖いだろ。
「はぁ。……で、だ。同じ時間を繰り返してるって話だけど、具体的にはどうなっている?」
【そうだな。簡単に言うと、午後12時を開始地点として、その翌日の午後12時頃にある出来事が起きてから時間が戻り、また前日の午後12時に目を覚ます……といったところだ】
「今は?」
【現在は初日の午後14時頃だな。つまりあと22時間後に俺たちはまた初日に戻される】
「……その時間が戻る体験を、あなた方は何回繰り返しているんですか?」
こちらの問いに続いて光冷ちゃんが質問すると、ウワバミは考えるように視線を上げた。
【
「うわぁ……」
「それは、なんとも……」
あっけらかんとした発言に、流石に引いてしまう。しかし同じ一日をそれだけ繰り返すというのは妙だ。言っちゃあなんだが、こいつらの戦闘能力はそれなりに高い。さっきの打ち合いでそれは察した。
だからこそ、この怪物×9体が居てもなお解決できない敵が居る──そう考える事ができる。そのレベルの敵、ということは…………
「島……海…………敵って
【そうだ】
「マジかぁ……」
「……タコ??」
それとない確認。即答され、頭を抱える。
そっかぁ〜〜〜……相手はクトゥルフかぁ。ちょっと参ったな、確かにこちらも先輩ほどじゃないにしても高い能力は持ち合わせてはいる、が。
……じゃあ神格の中でも上位に位置する海神に勝てるか? と聞かれたら悩んでしまう。「勝てます!」と即答できるほど自惚れてはいないからだ。
「あの、タコというのは?」
「クトゥルフっていう邪神が居てねぇ。そいつのビジュアルが頭にタコ被った巨人って感じなの」
「…………」
こちらの説明に、光冷ちゃんが思い至る事があるのか、ウワバミのように思考を巡らせる。
「クトゥルフ…………。……! ウワバミさん」
【なんだ】
「それの体は、五体満足ですか?」
【ああ。殺されるわけにもいかないからな、遠巻きでの確認になるが……その通りだ】
「その確認は……なに?」
「ああいえ、負傷でもしていたら倒しやすいだろうなあと思いまして」
「そりゃまあ、そうだけども」
しかし無傷っぽいとなると、そんな贅沢は言えないか。それでも、来てしまったからには戦うしかないんだ。あとは場所と時間だけ。
「明日の12時に時間が戻るっていうのは、何が起きて『そうなる』んだ?」
【……人間の女、幼い巫女だ。そいつを、アレの元に小舟で向かわせる流れになる】
「────。なにぃ?」
【俺に怒りを向けるな。そしてその巫女はアレに船ごと殴り潰されて死に、その瞬間に時間が戻る】
「……つまり、その子の死がトリガーになるのか。……ほなみの時と同じようなもんか」
七千五百回以上も子供が殺され続けている事実になんとも言えない怒りが沸き立つ、が。今はその激情を抑えて今後のここでの予定を考える。
「…………。…………。よし、明日クトゥルフをぶっ倒そう。時間が惜しい」
【即決だな】
「今言ったが時間が惜しいんだよ、こっちはこっちで外の世界が滅ぶかどうかの瀬戸際なもんでね」
【ほう。俺の居ない間に外も騒がしくなったか】
「……そういや、お前らは20年以上前からここで繰り返してるんだよな。そもそもいつの時代からこの空間に来たんだ?」
こちらの問えば、ウワバミは考えるように小さく唸ってから逆に聞いてきた。
【お前たちの目線で、今は西暦何年だ?】
「え、西暦──年だけど」
【ふむ。……俺たちはその60年ほど前の時代に居た時にここに閉じ込められている。つまり我々は来た年代が違う。事が済めば、おそらく帰る場所も
「そういうもんか。……まあその辺は一旦置いておこう、解決したあとの話を今しても意味がない」
【全くだ。しかし早速明日、となると……お前たちにはやってもらうことがあるな】
「やってもらうこと、ですか?」
小首を傾げる光冷ちゃんに、ウワバミは言った。
【例の巫女に会ってこい。本人に協力を要請したほうが話が早く済む】
──夜。ウワバミの部下のヘビ人間2匹に案内で目的地に向かうべく、洞窟内と繋がる下水道を通って島中央部の村に向かった与一を残して留まった光冷に、ウワバミが問いかける。
【小娘。さっきの質問の真意はなんだ】
「……クトゥルフの体について、ですか?」
【そうだ】
資源採掘に使われていたのであろう洞窟内の一角。そこに置かれた木箱を椅子代わりにして座る光冷が、傍らに常に置いている刀の鞘に指を這わせながら、隙間から振り注ぐ月光の下に佇むウワバミに返す。
「……どうやら私たちは、これからこの空間内でクトゥルフを撃退し、封印することになるらしいです」
【…………。どういうことだ?】
「あなた方にとっての未来で、私はこの島でとある魔術師によって
【その負傷は、あの男が
「そういうことに、なるのかと」
ですが──と続けて、光冷は悩むように思考を回して言葉を続ける。
「もう既に過去で封印されたクトゥルフが未来で倒される場面に
【時間と因果がおかしい、ということか。……しかし、そう複雑に考えることでもあるまい】
「と言いますと?」
【現時点でその事実に伴う矛盾と破綻。そういったモノがあるとして、それが原因で俺たちの存在が危ぶまれていないのであれば、今のこの状態こそが正しい流れということだ】
「…………。理論と現実が食い違えば、間違っているのは理論の方、ということですか?」
【さて、な。そう思ったのならそういうことだ】
ウワバミの言葉に思案して、光冷は頭の中で渦巻く複雑な思考回路を押し出すように深く息を吐く。
「……それと、与一さんには『クトゥルフの左腕を切り落としたことで封印できるようになった』ことは伝えないでください」
【わかった。知らずに行動してもらって結果としてそうなるのと、知ったうえでそうなるように意識するのとではパフォーマンスも変わるだろうからな】
「ありがとうございます。あと、ウワバミさん」
【なんだ】
少しの間を置いて、改めて光冷はそういえばと言葉を投げかけた。
「例の巫女……おそらく私が知っているであろう異能者の巫女さんについてなんですが、先ほどの『協力を要請したほうが話が早く済む』とはどういう意味なんですか?」
【ああ、あれか。単純な話だ、あの子供は────
──と、そこまで言ったウワバミと問いかけた光冷の耳に、足音が4つ聞こえてくる。
2つのペタペタという素足の音。そして2つの、靴で地面を踏み鳴らす音。万が一を考えて静かに武器を手に握る光冷とウワバミたちヘビ人間グループは、洞窟の奥から月明かりの下に現れた人影を見た。
「ただいま〜」
「──ほう、ほう。なるほど。まさかこの島にこんな所があったとは驚きですね」
人影──与一が、幼い子供の手を引いて、後ろにヘビ人間2匹を連れて現れる。その子供は、白と赤の巫女服を身に纏う少女だった。
「……え゛」
【言っただろう、話が早いと】
「どうもこんにち……こんばんは〜! 巫女のリコです。どうやら明日、私って死ぬらしいですね!」
「いやぁ、凄いねこの子。俺たちの事情を聞いて二つ返事で協力してくれたよ」
苦笑する与一の横でにこやかに笑う少女──リコ。未来で光冷が見た白髪の巫女と同じ顔をした黒髪の少女を前に、ウワバミもまた、呆れ気味に言葉を呟くのだった。
【……よりにもよって、犠牲者本人がこの島で一番話が通じるのだ】
「ええ……」
【俺たちにクトゥルフを倒せる力が無い所為で、事情を話したところでどのみちこいつが死んで時間が戻るから意味のない行為になってしまっていただけなのだがな。……だが、お前らのお陰で活路が見えたぞ】
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