とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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連盟組織アウトサイダーズ 1/3

 水角大学から【虚空渡り(ヴォイドウォーカー)】で直接連盟組織本部に向かおうとした秋山一行は、足元に開かれた出口の【門】を見てから、その先にある清潔感漂う白い床にダンッと着地する。

 

「──俺たちの目的はこっちに置いてきた細波の回収と、これから人質に取られる可能性のある白道、小雪、白百合、シロを保護することだ」

「私の別個体もですか……」

「お前ら本当に紛らわしいな。……とりあえず救助対象を白百合Aとする。お前は白百合Bだ」

「あらまあ」

 

 顔に刻まれた斜めの刀傷を指でなぞりながら、やや不満げにしながらも、白百合は特に反論はせず肩をすくめてから【王爻怨黎玉藻前(おうこうえんらいたまものまえ)】を発動した。

 狐の耳と尻尾を生やす白百合を横目に、秋山が腰の装置を経由して大型リボルバーを【要請(コール)】すると、一拍遅れて施設内に鳴り響くけたたましい警報を耳にして顔をしかめる。

 

「俺たちの侵入がバレたか。……となると細波たちも行動を始めるだろうな」

『ちゅーかさ、秋山さんってこっちに来ることとか合流地点とかの話はしてあんの?』

 

 真冬の肩に乗っている結月が、ふと秋山に問いかけると、彼は少し間を置いてから答えた。

 

「厳密にはあいつらが人質に取られるのは明日の話だ、今はまだ人質じゃない。だが余計な動きを取らせると敵に『こちらがその事を把握している』ことを把握されるからな、最低限の説明しかしていない」

『そんで?』

「連盟組織の地下からそのまま地下鉄に出られるルートがある、合流しつつそこから脱出する予定だ」

「それ、相手サンにもバレてんじゃねーの?」

「だろうな。よって、適宜排除しながら移動する」

 

 結月に続いてパーカーのポケットに両手を入れっぱなしのアビゲイルに問われて、秋山はあっけらかんと返しながらリボルバーを握る手に力を入れる。

 

「なるべく最短距離を移動する。俺が先頭、真ん中に有栖川真冬、その後に白百合B、一番後ろにはアビゲイル・ウィンター。結月は俺の近くで合金板を浮かせておけ、ソフィアには有栖川真冬の近くで臨機応変に対応してもらう。質問はナシだ、行くぞ」

『っす』

 

 急ぐように小走りで移動を始める秋山を先頭に、真冬と白百合とアビゲイルが駆け出し、結月が秋山の近くに飛びながら合金板を【召喚(コール)】して【浮遊】で操作すると、ソフィアが真冬の傍らを飛んで周囲を警戒しながらそういえばと口を開く。

 

『連盟組織だって一枚岩ではないでしょう。全員が全員敵ではないはずだけれど、どうやって味方かどうかを見分けるのかしら』

「施設内の連中が外から帰ってきた俺を見て武器を向けたらそいつは敵だ、殺せ」

『……わかりやすくていいわね』

 

 後ろを見ずに淡々と答える秋山に呆れ気味に返しつつ、ソフィアはアビゲイルに意識を向ける。

 

『アビー、敵は銃器を使うわ。あなたの魔力で全方位に壁を作ったまま移動はできない?』

「……やれるケドめっちゃ疲れると思う」

『そう』

「……」

『……』

 

 アビゲイルはソフィアにじっと顔を見つめられて、額に汗をにじませると絞り出すように言った。

 

「ヤリマス」

『頼むわね』

 

 ソフィアの有無を言わさぬ眼光に負けたアビゲイルが半泣きで全員を囲うようにドーム状に魔力を展開する光景を尻目に、真冬が呟く。

 

「ひ、酷え……」

『せっかく居るんだから使わないと』

「ソフィア、お前……与一と丞久さんの中間みたいになってきてないか?」

『…………。4割くらい誹謗中傷よ??』

「うるせえ、音が聞こえねえだろ」

 

 ジトッとした目を向けるソフィアだが、秋山が短く叱って黙らせると、彼は走りながら片手のリボルバーの銃口を次の十字路に向ける。

 

「後方警戒!」

 

 直後、そう声を荒らげながら、曲がり角に向けて躊躇いなく引き金を引く。

 ──瞬間、曲がり角の壁を貫通した銃弾が、向こう側に待ち構えていた男の頭を弾けさせた。

 

『うぉう!?』

「ここはもう敵のテリトリーだ、前進しながら各個撃破しつつ後ろから詰めに来る連中の対応もする!」

 

 ほんの僅かに飛び出ていた銃口を視界に入れたことで、相手の首から上の位置をおおよそで特定して壁抜きをした秋山は、ジェスチャーで結月に30センチ四方・厚さ2センチの合金板を敵の銃弾をある程度遮られる間隔で配置させる。

 

 ──瞬間、待ち伏せを看破された連盟組織の戦闘員たちが前後から現れ、それぞれが秋山たちに向けて一斉に銃を掃射し始めた。

 

「大した歓迎だな……! 結月、板動かせ!」

『アビっつぁんの魔力で弾速落ちてるからなんとなかる、けど、もぉおん!!』

 

 特殊合金の板が銃弾を弾けるとしても、それを操作している結月の思考は脳1つ分のみ。前後から飛んでくる銃弾をアビゲイルの膨大な魔力による弾速の低下で対応しながら、結月は背後を真冬の【虚空神話(ヴォイド)】による空間固定の壁に任せて、なんとか秋山周辺への着弾を防ごうと必死に動かしつつ、全員でとにかく先へと進むべく足を進めていく。

 

「【要請(コール)】、【要請(コール)】、【要請(コール)】」

 

 それを横目に、撃ちきったリボルバーに弾薬を装填するよりも、装填済みのリボルバーを再召喚する方が早いからと、秋山は6発撃ち終わっては捨ててその都度手に【要請(コール)】し直す。

 

「次を右に曲がった先の階段で下に行くぞ、下の階にはヴルトゥームの畑があるから警戒しておけ」

『『誰』の『何』がなんだって???』

「……あ、お前ら知らねえのか」

 

 当たり前のように跳弾で一人を射殺しながら、秋山が面倒くさそうに呟く。すると背後で、特定の単語に覚えがあったのか白百合が口を開いた。

 

「ある魔術師の遺体に乗り移ってる神格だ。目が見えてなくて、あとは植物の操作が得意だな」

「ああ、たぶん私は知ってます。植木鉢がどうたらと半狂乱になっていた頭のおかしい人ですよね?」

「……なんかこの前あいつがそんなことを愚痴ってたって丞久が愚痴ってたな。おそらくそいつだ」

『聞いてる分には危険人物である以外の情報が増えてないのだけれど』

「丞久が居ない時はコミュニケーションに難があるという意味ではシンプル危険人物だぞ」

『なんでそんなもん飼ってんだよ!!??』

「俺に聞くなよ……」

 

 こっちが聞きたい、と言わんばかりに面倒くさそうな顔をしているが、先頭で走っているがゆえに誰にもその心労を察してもらえない秋山。

 彼は真冬たちと共に戦闘員を殲滅し終わってから、案内通りに存在した階段で下の階へと下っていく。

 

「ここから下の区画は、このフロアの反対にある階段を使う必要がある。ヴルトゥームの『畑』はその途中にあってどうしても横切る必要があるから、迂闊に刺激しないように手早く────」

 

 ──と、最後まで言い切る前に。下りきった階段の先にあるフロア内に立ち込める生々しい鉄錆の臭いを嗅ぎ取って足を止めた。

 後ろからついて来た真冬たちも臭いに気づき、警戒心を一段階引き上げる。

 

「……なんだ、これ」

 

 言乃葉ミドリ(ヴルトゥーム)の大規模な地下畑の維持に電気を持っていかれていて薄暗いフロアの辺り一面を見て、全員の総意のように真冬が独りごちる。

 何故ならば、通路のあちこちに、戦闘員・研究員・非戦闘員問わず連盟組織の人間の死体が大量に転がっていて、赤い池を作っていたからだ。

 

「まさか、小雪さんたちが殺ったの?」

「向こうには細波青井(ショゴス・ロード)も居る、こうも凄惨な死体を幾つも残すほどお(・)行(・)儀(・)悪くねえよ」

『……溶かす的な意味で言ってね? それ』

「まあな。それに……こいつらの死に方が妙だ。撃(・)っ(・)た(・)形跡はあるのに、撃(・)た(・)れ(・)た(・)形跡が無ぇ」

「にしては、なんかそこそこの穴が壁やらに空いてるみたいだケド」

 

 後ろからひょこりと顔を覗かせるアビゲイルが、死体の近くにある穴を指さす。

 死体近くの壁や床にある5センチ程度の丸い穴。死体にも同じ直径の穴があり、全員が必然的に『人体が何かに貫かれ、壁や床にも突き刺さった』のだろうと察することができた。

 

「銃弾じゃあねぇな。もっと質量が大きい物体が高速で飛んできてる……矢、でもないな。槍か? 魔力で構築された槍を無数に飛ばしたのかもな」

『仮にそんな事をやるとして、出来る相手は限られているし、そもそも銃で武装できる組織の中で誰がそんな戦い方をする必要があるのかしらね』

「……とりあえず、本来の目的通りに合流を優先しては? こんなことをする敵が居るとわかった以上、守る必要が出てきてしまったわけですし」

 

 秋山の推測にソフィアが続き、さらに白百合が全員に聞こえるように方針を定める。

 

「当然そのつもりだ。足元に気をつけろよ、血溜まりばっかで滑りかねねえ」

「嫌ですねぇ、靴に血が染み込んで臭いが取れなくなりそうですよ」

「ンなもん買い換えろ。与一にでもねだっとけ」

「そうしましょうか」

「俺もついでにねだっておくか────」

 

 白百合の小言に返す秋山。彼はふと、通路の先からピチャピチャという等間隔の水音が聞こえてきて、片手のリボルバーの銃口を向けつつ片手を肩まで上げて背後に『止まれ』とジェスチャーする。

 

 通路の十字路、その曲がり角の奥。ピチャ、ピチャ、ピチャ、と水が跳ねる音が近づいてきて、秋山たちがそれが足音であると思案した──直後、ちょうど誰かが姿を眼前に現した。

 

「──おンやぁ? まだ生き残りが居たんだ。……いや、方向的に上から下りてきたのかな?」

 

 その人物──女性は、薄暗い照明の下で紅(・)い(・)瞳(・)を爛々と輝かせながら不敵に笑みを浮かべた。

 彼女が放つ異質な魔力に覚えのある秋山たちは、自然と、そ(・)れ(・)がな(・)に(・)なのかを理解する。

 

「てめぇ……無貌の神(ナイアルラトホテプ)か」

「ご明察ぅ〜。偶(・)然(・)に(・)も(・)、ちょうどつい最近、『私』の枠を埋めていたやつが居なくなって席が空いたからねぇ。ここの連中にさっさと座らせてもらった(招来してもらった)わけだ」

 

 女性、否。無貌の神の言葉を聞いて、秋山が逡巡を挟んだのちに事態を理解して口を開く。

 

「…………。そうか、春夏秋冬円花の肉体が若返ったあげくに『卵(魔力)』が失われた以上は、ナイがあいつに力を貸すのは分かりきっていた。春夏秋冬円花の弱体化、『卵』の確保、ナイの始末。連盟組織はそれらを全て行っていたわけだな」

「さあ、ねぇ?」

 

 カラカラと笑いながら口角を歪めるように笑う。肯定しないが言い訳もしないその態度こそが答えのようなモノだったが、それ以上に、照明の下に照らされる顔を見て、秋山の後ろから真冬が身を乗り出す。

 

「──おい、おい、おい……!」

「有栖川真冬、前に出るな」

「うるさい! ……お前、無貌の神……?」

「なにかなぁ」

 

 秋山に声を荒らげた真冬が、苦い表情で目を見開いて、驚愕ながら無貌の神を見やる。

 

「なんで、そ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)が出来る?」

「……ん〜?」

「連盟組織(おまえら)は……人の尊厳をなんだと思ってる……!? 与一の、あいつの人生を……っ、なんだと思ってやがる……!!」

「────。あ〜、もしかして、だけどぉ」

 

 強烈な敵意、殺意、怒り、悲しみ。そういった複雑な感情がぐちゃぐちゃに混ざった顔を向けられて、無貌の神は──にやにやとした表情をしながら、頬を指でつまんで伸ばしながら言う。

 

「この顔に見覚えとかあったりしますぅ〜?」

「…………。こいつ、まさか」

 

 会話の流れ、真冬の怒り。それらを横で見ていた秋山が、全てを察して僅かに表情を歪める。

 そして事情を知らないアビゲイルを除く結月とソフィア、白百合までもが、無貌の神の顔を見て既視感を覚えていた。──その顔に、どことなく見覚えがあるから。その面影を、知っているから。

 

 果たして全員が連盟組織の悪辣さに絶句するなか、真冬だけが、絞り出すように彼女の名前を口にする。

 

 

 

 

 

「──悠花さん」

「へぇ〜。こ(・)れ(・)に名前なんてあったんだ? なんてね。知ってるよー、そんなこと。あははは」

 

 真冬の問いに、無貌の神は無邪気に嗤う。

 ──桐山悠花。それは、真冬の家族に等しいとある探偵の、今は亡き母親の名前であった。




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