とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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『愛を込めて、春夏秋冬の花束を 1/4』をまだ読んでいない方は、先ずはそちらからご一読ください。


とある探偵たちと外なる神話事件簿 1/4

 離島での謎のタイムスリップを経て、銀の鍵を獲得したのも束の間。

 時間も残されていないなか、空中機動で目的のマンションの屋上に向かう途中、チカチカと光の反射が顔に当たり、そちらを見やれば高層ビルの真ん中辺りの部屋から誰かがこちらを呼んでいた。

 

「……! ようやく来たのか」

 

 誰が呼んでいるのかを察して、一旦そちらに軌道を変えて、開けてある窓にホールインワンするように着地すれば、そこには二人の人間が居る。

 

「久しぶりだな、ヨイチ。キミは相変わらずバカげた機動力をしているな」

「シセル。来てくれて助かるよ」

「私もいますよ〜」

「カナタちゃん……!」

 

 無数の鉤爪付きの触腕でオフィス内のスペースを確保するように色々な物を端に寄せている銀髪──シセルと、その隣には一人の少女──空乃哉汰(カナタ)ちゃん。空中都市での一戦以降顔を合わせていなかったが、そのあと今回の件で手を貸して欲しいとメッセージを飛ばしておいたのが功を奏したらしい。

 

「あ、それが脚の代わりなんだ?」

 

 ──ふとカナタちゃんの背中に視線をやると、そこには尾てい骨辺りからシセルがよく使うムカデのような帯のような金属の物体が伸びていて、その先端が床に刺さる形で彼女の体を持ち上げ支えていた。

 

「はい、神経接続で変異細胞(ナノマシン)の特殊合金を繋いで脚の代わりを生成できるようにしています」

「それ大丈夫なのぉ……??」

「? ええまあ。変異細胞(ナノマシン)は肉体から切り離すと劣化して消滅しますが、逆に言えばこうして肉体と地続きであれば消えませんから」

「いやそういう話じゃ……まあいいか」

 

 前に結月と真冬がサブスクで見てたクモのヒーロー映画の2作目でこんな感じの敵が出てきたような気がするけど、近くにシセルが居るし問題ないか。

 

「──それで、これからの計画だけど、空中都市でウィルに撃ち込んだ時みたいに本(・)来(・)の(・)大(・)き(・)さ(・)のレールガンを構築して発射準備するとして、どれくらいの時間が掛かりそうだ?」

「もう既にこのビルの上下の床をくり抜きながらパーツの形成と組み立てはしている……が、1発だけ撃つ、という制限でならそう時間は掛からない」

「そっか。なら頼む、相手は外宇宙の神の魔力だからな、ドデカい1発が必要になってくる筈だ」

「キミの戦いは日を追うごとにスケールが大きくなっていくな……」

「なんでだろうね……」

 

 不思議なことにね、なんか、こうなっちゃった。

 

「はぁ〜〜あ、ただのいち探偵が、気づけば世界の命運を懸けた戦いに挑まなきゃならんとはねぇ」

「出世しましたね」

「したくないよぉ〜」

 

 苦笑するカナタちゃんの皮肉にやや悶えつつ。最終確認を兼ねて、目的のマンションとこのビルの位置関係を考えながらシセルに聞く。

 

「このビルから、目的の『卵』があるマンションはあっちだ」

「ああ」

「で、レールガンを最大出力でぶっ放すとなると……この直線上の道路を射線にする必要がある」

 

 ビルの窓からマンションの方角を指差し、道路の方へとずらす。マンションからビルのすぐ外にある道路は……南に1キロくらいか。

 

「こうなると……あの、俺が孵化させた『卵』をここの道路まで押し込まないといけないんだけどさ」

「そう、なるな」

「その後もレールガン完成から発射まで押さえなきゃいけないんだよな?」

「……そうなるな」

「────。これ誰に訴えればいいんだ???」

 

 これ、こちらが単独でやらなきゃいけないの、だいぶおかしくない!!??

 

「それと、もう一つ問題がある。発射したレールガンの弾を当てられたとして、貫通するであろうその弾をどう受け止めるかだ」

「……あ、そっか。レールガンは初速の時点で秒速2000メートルを超える、最大射程200キロの兵器ですもんね。外宇宙の神の魔力──受肉させた魔力に着弾してそこで潰れるならまだしも、貫通するとしたら街中を一直線にめちゃくちゃにしながら遥か先まですっ飛んでいっちゃいますね」

「あー、あぁー。……グ(・)レ(・)イ(・)、なんとかなる?」

【ん。出来んことはないな】

「…………。うん?」

 

 とんとん、と腰を叩けば、歯車型の魔法陣が浮かび上がり、そこから更に灰色髪の少女が現れる。

 その姿を見て、一拍置いてからグレイが驚愕に顔を歪めて眉をひそめ、口角をひくつかせるフルコースのような表情をした。

 

「うわぁまた変なのが出てきた」

「…………グレイ……!」

「? シセルさん、知り合いですか?」

 

 雅灯さんと似たようなものだと思ったのか、グレイの姿を見て引き気味だったカナタちゃんは、シセルの反応を横目に小首を傾げる。

 

【まあ、簡単に言えば、私はシセルがこの時代に来た元凶みたいなモノだからな】

「…………。ああ、そうだ。……が、今はその話は置いておこう。お前が愉快な存在に成り果てた事についてはあとで語らうとしようか」

【ふ。そうするか。……さて、レールガンの弾丸をどうするか──だったか。簡単な話だ、私の空間操作で、ここから道路の直線上の端にある対面のビルの外壁に【門】を作って、誰も居ない太平洋のど真ん中にでも繋げてやればいい】

 

 グレイがそう言って、手のひらの上にボール大の【門】を作り、その向こうに青い水面を見せる。ただまあ、それにも問題があるわけで。

 

「でも、今のグレイは俺が未来から精神を時間移動させるための無茶で魔力がほとんど無い。発動できるとしても、弾丸が発射された瞬間からの数秒だけ。タイミングを間違えるわけにはいかないぞ」

「ああ。だから、これを持っていけ」

「ん?」

 

 問題点の話し合いを進めると、シセルはそう言いながら手のひらに何かを作って投げ渡す。受け取ったそれは、耳にフィットする形のワイヤレスイヤホンのようなそれは通信機の類いだろう。

 

「耳に入れておいてくれ、発射準備が完了したら私の方から通信を飛ばす」

「わかった。通信が聞こえたらすぐにグレイの魔力で【門】を開くよ。……どんな状況になっていようと絶対に開く。だから、俺がピンチだったとしても、心配だからって踏みとどまるなよ?」

「──ああ。キミを信じよう」

 

 通信機を片耳に突っ込みつつそう言えば、シセルはふっと笑って頷く。

 準備も終えて、改めてマンションに向かおうと窓枠に足を引っ掛け、【韋駄天】を発動しようとしたそのとき、背中に声が掛けられる。

 

「ヨイチ」

「どうした?」

「……いや。まあ、なんだ。──いいか? ヨイチ、たとえこのあとキミが負けて、この世界が滅ぶことになるとしても、この一件でキミに協力している者たちがヨイチのことを恨むことはないよ」

「────。だと、いいけどね」

 

 跳ぶ直前。ふと見えたシセルの顔は、穏やかで優しい、母親の顔をしていた。……夫と息子を殺された恨みつらみを乗り越えて、今ここに立っているのだから、本当に大したもんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 ──コンクリートジャングルの都会ゆえの、ビルやマンションという足場を踏んで、【韋駄天】で加速していくと、数分で目的地に到着する。

 前回の未来でも訪れたマンションの屋上には、巧妙な魔術的な結界で姿を隠蔽された、凄まじい密度の魔力の塊──『卵』が鎮座していた。

 

「グレイ、頼むぞ」

【ああ、任せろ】

 

 懐から銀の鍵を取り出すと、霊体のグレイが姿を出し、傍らに浮かばせたその鍵を操り『卵』の近くの床に挿してガチャリとひねる。

 

 瞬間、『卵』を中心に、時計盤と歯車を組み合わせたような魔法陣が現れ、とてつもない魔力の本流が渦巻き始めた。

 

【『卵』が孵化をする時間まで早送りする。気をつけろ、与一。ここから先は何もかもが初見だ、本体ではないにしろ外宇宙の神の魔力に肉体を与えればどうなるかわかったものじゃない】

「わかってる。……どちらにせよ、何をしようが何もしなかろうが、こいつを放置すれば世界は滅びるんだ。春夏秋冬さんがこいつを封印しに来るまで、可能な限りリソースを削り続けるしかない」

 

 ──と、そこまで言ってふと違和感。

 

「……あれ、春夏秋冬さん、『弱体化させてからなら取り込み直せる』みたいなことは言ってたけど、具体的にここに封印しに来てくれるかどうかは明言してなかったような気がするんだけど」

【…………。してなかったな、少なくとも私も聞いていなかったが】

「え、来るよね? あの人来るよね??」

【知るか。だが……受肉した『卵』と戦っていれば異変には気付くはずだ。最悪の場合はヤツの所に誘導することになるが】

 

 突如として発生した新たな問題。春夏秋冬さんとのちゃんとした話し合いが済んでいない──ということに気づいた、刹那。

 

「……ん? 今『卵』が動いたような────」

 

 ガタリ、と。時間操作の魔法陣の中で『卵』が揺れたような気がしたその直後。──なにか、見えない質量に押し出されるようにして、こちらの体がマンションの屋上から弾き飛ばされる。

 

「っづ、ぉっ!?」

 

 空中で身をよじって、空間操作で足場の空間を固めてそこに着地したことで、ようやく気がつく。

 

 ──マンションの屋上を埋め尽くすように、ずんぐりむっくりとした質量の塊が蠢いていたのだ。

 

「なん、だ、これ」

【……孵化したぞ】

「え。じゃあ、これが……外宇宙の神の魔力?」

 

 ぐねぐね、うねうね、と蠢いて、形を定めようとしている、宇宙を虫の蛹に押し込めたような形状の、宇宙色をした『なにか』。

 それは、どこに顔があるのか、目があるのか、人格や意識があるのかもわからないながらに、こ(・)ち(・)ら(・)を(・)見(・)る(・)と、背中に該当する部分に翼のような形状の物体を伸ばして──羽ばたき、飛び上がった。

 

 当然、ちょっとしたビルくらいの大きさの物体が飛ぼうとすれば、飛行機が飛び立つ瞬間を間近で見ているような暴風が発生する。

 

「うおぉおぉおおぉお!!?」

 

 固めている空間の上で死ぬ気で踏ん張っていると、外宇宙の神の受肉した魔力──魔王・アザトースの体が浮かび始める。

 マジで飛ぶ気なのか? と思案したはいいが、そこで疑問が生じた。

 

「飛ぶ、って、どこに……??」

【…………。……!! 与一! ヤツを落とせ! このまま飛ばせたら逃げられるぞ!!】

「なん……、……! そうか、まずいッ!!」

 

 本気で慌てているグレイの言葉で察する。──こいつ、宇宙に行こうとしているのか、と。

 

「【韋駄天】!」

 

 ドンッ! と空間を蹴り砕く勢いで加速し、跳び出し、更に固めた空間を足場にジグザグに跳んでアザトースを追い抜き、上空でこちらに向かって飛び上がってこようとしている姿を見下ろす。

 

「……っふぅー、九十九、やるぞ」

【あら、やっと出番かしら】

「出し惜しみはナシだ、叩き落とす!」

 

 頭を地面側に向けて、空側に向けた足の裏で固めた空間を踏み、【韋駄天】による加速を加えた超速落下を始める。

 

 そして、手に握る柄に白刃を形成した──次の瞬間、視界の端から、音の壁を突き破る速度で黒い物体が高速で飛行し接近してきた。

 

「……! 先輩!?」

「与一ィィィ! 私が合わせる、全力でやれ!」

「──はい!」

 

 こちらとアザトースを交互に見て、何をするべきかを一瞬で理解した先輩が、【風神龍(イームーロン)】で羽ばたき速度を増しながらその手にスレッジハンマーを作り出し両手で強く握る。

 

「──うおぉおォオォオオッッ!!」

 

 軌道を変えてこちらに追従するように横並びになった先輩と、ほぼ同時に、それぞれが白刃とハンマーを振り抜く。

 おおよそ受肉してカテゴリーでは生物の範疇に収められたはずの肉体から、響くはずがない金属のような感触と、ガキィ────ン!! という甲高い音と共に、アザトースの体は逆再生するような動きで落下し、眼下のマンションを潰し、ゴロゴロと幸運にもシセルたちがいる方角へと転がっていく。

 

「……先輩、アレを南に1キロ押し込んで押さえ込んでください。シセルがレールガンを用意してます」

「…………。おう」

「先輩?」

 

 一度足元に空間を固定して着地し、上空から見下ろす形で今後の動きを説明しようとすると、先輩は横でバサバサと羽ばたいて空中に静止しながら、こちらを見て悲痛な顔をしていた。

 

「どうしました?」

「……なんでもねぇ。うっし、与一」

「はい?」

 

 先輩は切り替えたように顔を振ってから、ハンマーを握っていない左手をこちらに突き出して言う。

 

 

 

 

 

「──世界を救うぞ」

「そりゃあ勿論。やりましょう」

 

 こちらもそう返して、九十九を左手で握り、空けた右手の拳を先輩の左手とぶつけ合う。

 ──二度も世界を滅ぼさせはしない。ただ強くそう心に誓って、アザトースを追うためにと、空間固定を解除して先輩と一緒に自由落下を始めた。




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