とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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とある探偵たちと外なる神話事件簿 3/4

「……げほっ、ゴホッ。ぅお゛ぉ〜〜全身が死ぬほど痛えんだけど……!」

 

 アザトースに吹き飛ばされて、ビルからビルへと貫通し、いくつもの仕事用のデスクを吹き飛ばしてようやく止まった丞久が、骨が軋む感覚に気だるげに呟きながら起き上がる。

 

「……くっそが、あんなもん再封印なんか出来んのかよ……まあ出来なきゃ人類滅亡なわけだが」

 

 一瞬脳裏をよぎる『与一は本当のことを言っているのか?』という疑念を即座に振り払い、ビルの外壁に【風神龍(イームーロン)】の翼を突き立てる形でガリガリとブレーキを掛けながら落下して外に出る。

 

「与一は嘘つかねえもんな。私らと違って」

 

 皮肉と自虐を込めた独り言を呟いた丞久は、それからふと、アザトースと与一の戦闘している方向に向かおうとしている二人の人物を見かける。

 色の濃さが違う金髪をそれぞれが長く伸ばした少女と女性。──それは見間違いでなければ、大学で分かれて秋山たちと共に別行動しているはずの、真冬と白百合その人であった。

 

「お前ら何してんだ??」

「……!? うおっ、丞久さん!?」

「真冬、お前……ちょっと目を離した隙にロックなことになってんなぁ」

「あなたのロックの基準どうなってるんですか」

「白百合は白百合で……また傷増やしてんのかよ」

「好きでこうなったわけではないのですが……」

 

 左前腕が無い真冬と、腹の穴を焼いて塞いでいる白百合。ズタボロになった二人が向かう方向を見て、丞久は察したように苦笑する。

 

「その怪我でよぉくやるなぁ」

「……ええ、まあ。私の命の使い方は、決まったようなものなので」

「こいつほど覚悟ガンギマリなわけじゃないけど、出来ることの一つや二つはあると思ったもんで」

「…………。そういや与一から聞いたけど、白百合って【重力制御】で相手の拘束とか出来るよな」

「出来ますが」

 

 即答した白百合の言葉を聞きながら、丞久は疲労で少しずつぼんやりし始めた頭を回して次の一手を考えると、思いついたように口を開いた。

 

「受肉したアザトースの魔力を、わけあってあの場に留める必要がある。アレが見えるところで待機して、合図を出したらすぐに全力の【重力制御】を撃てるように構えておいてくれるか」

「わかりました。【王爻怨黎玉藻前(おうこうえんらいたまものまえ)】の尻尾も残してありますし、瞬間的に九本全てを燃焼すれば出力1000%を出せるでしょう」

「えっそれそういうシステムだったんか」

「そういやなんかそんな感じだったな……」

 

 初耳で驚く丞久と、いつぞやに白百合ショウとの戦いで巨大ムカデを相手に尻尾を燃焼した魔力ブーストをしていたなと思い出す真冬。

 ともあれ丞久は、置いてきた与一を心配し、一足先に戻るためにと翼を広げてバサリと羽ばたく。

 

「流石にそのレベルの怪我人に無茶させられねえんだけどな、状況が状況だ。……言うしかねえんだ、無茶でもなんでも、ここまで来たからにはやれよな」

「わかってます。必ず追いつくので、先に行って与一さんを手助けしてきてください」

「魔力が十分なら【虚空渡り(ヴォイドウォーカー)】で飛ぶけど、こっちも魔力切れ寸前&失血死寸前って感じだからな……」

 

 青い顔をしている真冬の冗談にもならない発言に苦笑いをして、丞久は飛ぶ。その手にスレッジハンマー状に固めた魔力を握って、ただひたすらに、羽ばたいて羽ばたいて羽ばたいて加速していった。

 

 

 

 

 

 

 

【ふんぬっ……ぐぎぎぎぎぎぎぎぃ〜〜!!】

 

 両手を前に突き出して、雅灯さんが頭から血が出そうなくらいの形相で踏ん張っている。

 工事用ライトで作った巨大な影から大量に伸ばす【悪神の手(イゴーロナク)】の『手』がアザトースに掴みかかっては、伸び切ったゴムが限界を迎えたかのようにあっけなくぶちぶちと千切れていった。

 

「雅灯さん、頑張って!!」

【そんなヒーローショーの応援じゃないんですから……流石にちょっともうこれ以上はキツいですって〜〜〜っ!!?】

 

 雅灯さんはイゴーロナクと契約していた時の指を取り込んだこちらの体を軸に誕生した悪霊がシュブ=ニグラスの原液100%を注入された結果受肉した、二重の負の魔力を持つ人型神格と言っても過言ではない。

 そんな存在が『キツい』と断言するほどの、受肉したアザトースの魔力という超質量の押さえ込み。時間で言えばあと十数分くらいだろうか、シセルには作業を急がせているとはいえ、まだあと一手──いや、二手ほど必要になるだろう。

 

「……俺一人で一手分。残りもう一手くらいは、それこそ神を信じるしかないって感じだな」

【っ、よ、与一くん?】

「拘束が限界になったら解除してください、次の時間稼ぎを俺がやります」

 

 そう言いながら、こちらも九十九の柄を掴んで上段に構え──白刃を形成する魔力の比率を変える。

 

 すなわち、桐山与一の魔力と、雅灯さんとナイのが混ざった陰の魔力と、イデアと蛇神様のが混ざった陽の魔力の3種類を、333%ずつ。

 

 それから九十九という妖刀の柄自体の1%を含めた、合計1000%の最大出力。万全でない状況で撃てば魔力の過剰放出による人体崩壊を引き起こしかねない危険な一撃を、今ここで全力でぶっ放す。

 

【……死なないでちょうだいよ?】

「死ぬ気はないけど、死ぬ気でやらなきゃ勝てないからなぁ……それに、今きっとここ以外のどこかで、俺以外の皆が死ぬ気でやってるんだ。俺だけがやらない理由が無いからさ。──だから、やらなきゃ」

【はいはい。あなたはそういう人間だったわね】

「ふっ、よくわかってんじゃん」

【これは呆れてるって言うのよ、おバカ】

 

 これは手厳しい。脳裏でそう独りごちて、構えた柄から放出される膨大な量の魔力が刀の刀身に固まってゆくのと、それに伴う重量を感じ────雅灯さんの声を待つ。

 

【っ──与一くん!!】

「────行くぞォォォ!!!」

 

【悪神の手(イゴーロナク)】の『手』に苛立つかのように、不意にアザトースの動きが激しさを増す。このまま動かれれば道路のこの直線上から外れてしまうと判断し、こちらも掲げた巨大な白刃を振り下ろす。

 

 刀身自体の自重を含めた自然な振り下ろしは、アザトースのぶよぶよぐにょぐにょとした、弾力のありそうで、けれども金属よりも硬いナニカである体と衝突し、切断しようとするこちらに抵抗するように辺りにバチチチチチチ!! と激しく火花を散らす。

 

「──っ、う、ぉ、オォオオォオオオ!!!」

 

 魔力を絞り出すような、過剰放出にならないギリギリの一撃。それでも踏ん張りが足りず、こちらの体が少しずつ後ろに押し返されていく。

 

「与一!!」

【与一くん!】

 

 と、そこに。【悪神の手(イゴーロナク)】を維持したままの雅灯さんと、後方の空から着地した丞久先輩が現れ、背中を手のひらで押してくる。

 

「づ、ぅ重ぉっ!? ダイエットしやがれ……!」

【いったいこれ、何キロ……いや、何トンあるんですか……!?】

 

 先輩と雅灯さんに後押しされて、なんとか踏みとどまりつつも、それでもまだ足りない。なにか……なにか、あと一手、このアザトースを押し留める一手が必要なのに……ッ!!

 

「っ、与一、最後のダメ押しをお探しかぁ?」

「あるん、ですか? そんなものが……!」

「ああ、ある。あるけど、たぶんちょっと大変なことになると思うから死ぬ気で踏ん張ってほしい」

「もうしてる!!!」

「────。だとよ、お前ら!!」

 

 そう声を荒らげる先輩。すると、視界の端で、建物の屋上に立つ二人が居た。

 それは薄い金髪を揺らし、左腕が無い少女と、腹に焼け焦げた傷跡を作った、狐耳と尻尾を生やした女性。──大怪我を負っている真冬と白百合が、アザトースを見据えて引き気味に口角を歪めて笑っている。

 

「あ、あいつら……!?」

「与一さん!! 全力の【重力制御】を撃ちます! 巻き込んでしまいますが構いませんか!」

 

 九本の尻尾全てを燃やし尽くし、瞬間的に膨れ上がった膨大な魔力を起点に、4つの巨大な魔力球でアザトースとこちらを囲うように線で繋いだ三角錐を形成しながら白百合は問う。

 

 ……なるほど、これがダメ押しの一手か。

 

「──やれ!!!」

 

 これが、必要ならば、躊躇う理由が無い。そう合図を口にした──刹那、黒紫の魔力で包まれた辺り一面が、アザトースの体ごと、ズンッッッ!!!! という重さに押しつぶされそうになる。

 

「ぐおっ、おおおっ……がァアァアアア!!?」

「きっっっ、ついっ、て、内臓が、潰れ……!」

【オゴゴゴゴゴゴゴ…………】

 

 真っ先に雅灯さんが轢かれたカエルのように地面に倒れ、残った先輩に背中を押されながら、なんとか白刃を形成した柄を掴んでアザトースを押し留め続ける。全身の穴という穴から血が噴き出そうな感覚と共に、思わず焦りの声が口から漏れる。

 

「し゛、セ゛ル゛ゥ゛……!! はや゛く、して゛、くれ゛……ッ!!」

 

 魔力放出、アザトースという質量との相撲、【重力制御】の圧力。いよいよ足と指先の感覚が無くなりそうになってきた──瞬間、耳に入れていたワイヤレスイヤホンから、ノイズ混じりの声がする。

 

【ヨイチ! 準備万端だ!】

「撃゛て゛!! 【門】、を゛、ひら゛く!!」

 

 即座に合図を出して、片手を後ろに向ける。重圧で伸ばした腕が小枝のように折れそうになりながらも、なんとか伸ばして、そうして【門】を開くためにグレイの空間操作を利用する。

 

 ──果たして遥か後方、ビルの外壁に、青い空間……太平洋の海面が現れるのと、アザトースの体に一瞬のうちに砲弾が突き刺さり、貫通し、【門】の向こうへとすっ飛んで行くのは同時だった。

 

「っ……解除します!」

「ぐぇ、えっ、げぶっ、ごぼっ、おえ……」

「ぐえええっ」

 

 白百合の声が、遠くから聞こえる。

 

 同時に【重力制御】が解除され、僅かに体が軽くなったような感覚と、勢い余って飛び立てそうな感覚に襲われながら、白刃に流した魔力を解除して刀身を消し去ると、逆に体は後ろに居る丞久先輩を潰すように背中から地面に倒れていた。

 

「……っ、どうだ……アザトースも、これなら……」

 

 そう呟きながら、【門】が魔力切れで勝手に閉じる感覚を尻目に上体を起こす。視線の先に居るアザトースの土手っ腹には、レールガンの弾に貫かれて出来た大穴がある。単なるレールガンじゃなく、魔力で【強化】された渾身の1発は、これまでの戦闘のなかで一番効果てきめんに思えた────が。

 

「……嘘だろ」

 

 それでもまだ、アザトースは動いている。

 虫の蛹のような体に穴を空けられながら、まだ生きている。どうやればこんなもんを殺せるのか──と。そこまで考えて、思わず口許が緩む。

 

「って、バカか、俺は……殺すのが目的じゃないんだ。俺たちの役目は、あくまで……時(・)間(・)稼(・)ぎ(・)。──そうですよね?」

 

 誰に言うでもなく、もう一度仰向けに倒れて空を見上げる。こちらと、アザトースと、さらにその奥の空中。そこに見える、一つの黒い人影。それを見て……死ぬほどの安心感に、どっと脱力する。

 

 

 

 

 

「────。俺たちの、勝ちだ」

 

 その宣言に応えるように、上空から落下してきた少女が、アザトースの体に着地すると──立体的に展開した魔法陣で全体を包みながら言った。

 

「封印、開始──ッ!!」




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