とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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正当なる復讐に信念を 8/10

『お~い、もちょっと寄ってくれない?』

『……なんでいきなり写真撮ろうとするんだよ、それもこんな暑い日に』

『いいじゃーん、どうせ来年卒業したらみんなしばらく会えないんだもん』

 

 カラカラと気持ちの良い笑みを浮かべる少女が、カメラを構えて三人の青年のうちの一人に言う。一人は学生にしては彫りの深い顔つきで、一人は白人特有の顔をニヤニヤとさせ、一人は心底面倒くさそうに気だるげな表情をしていた。

 

『遊吾は警察でしょ、ギルは軍で……蓮司は研究者だっけ? ……なんで研究者?』

『……なんだっていいだろう。写真を撮りたいならさっさとしてくれ、僕は暇じゃないんだ』

『そりゃアレだろ、(みどり)ちゃんの病気を治したいからってことだろ』

『ふーん。そりゃご立派だけど……普通医者じゃないの?』

『他人事みたいに言うなお前』

 

 翠と呼ばれた少女は研究者志望の青年──蓮司に眉を上げて興味深そうに問う。

 

『……元々、人の寿命の研究に興味があったんだ。キミの病気のことはそのついでだ、別に治すために研究者になるわけじゃない』

『男のツンデレきめぇ~~~』

『おい翠、あんま言ってやるなよ』

 

 遊吾が嗜めるように言い、蓮司もふてくされたように「ふん」と鼻息を鳴らしてそっぽを向く。呆れ気味に頭を振った翠は、ギルに目線を送りながらカメラを構える。

 

『私だって別に死ぬ気ねぇしぃ、可愛い娘を産んで専業主婦やるっつー夢があんだからね。おみゃーらも勝手に警察なり軍人なり研究者なりになって人助けしてくださーい』

 

 翠が可愛らしい顔をイタズラ小僧のようにニヤリと歪めてカメラのレンズを向けると、ギルが遊吾と蓮司の肩に腕を回してぐいっと寄せる。纏まってフレームに収まったその隙を見逃さず、一瞬遅れて、パシャリという音が奏でられた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──研究室の一角で、男……日下部 蓮司は、一枚の写真を眺めていた。

 三人の青年。殺害()()遊吾、共犯者のギル、そして元研究者の自分。写真を撮ったあの子はもう居らず、残されたのは、かつての青春には戻れない男の哀れな執念だけである。

 

「蓮司、まだやるのか」

「……何をだ」

「まだ、翠ちゃんを生き返らせることを諦められないのか。研究者の一人が逮捕されて押収された魔導書を取り返すためだけに遊吾を殺して、娘を孤独にさせてまでやることがそれなのか?」

「…………。昔にも言っただろう、僕は命の研究をしていただけだ、翠の病気を治すのはそのついでだった。彼女を生き返らせるのも、研究の成果を形にするためでしかない」

 

 蓮司は濁った瞳でギルを見る。ギルもまた、変わり果てた親友に、哀れみの目を向けた。

 

「かつてなら、また照れ隠しかよって笑えたけどな、今のお前は明らかにおかしいんだよ。どこまでが本音だ、どこまでが建前だ? お前はなんだ、お前は……『誰』なんだ?」

「僕は……日下部蓮司、死者の蘇生と不老不死を目指す……()()()だよ」

「────。そうかよ」

 

 もう、目の前の男が、わからない。ギルは──ギルバート・ロジェール・篠崎は、わなわなと口を震わせて、けれども次の言葉が出てこず、踵を返して背中を向けた。

 

「……じゃあな、蓮司」

「…………ああ」

 

 そのまま研究室を去る背に視線を向けて、蓮司はその顔を手元の写真に落とす。

 

「人の寿命と若さを他人に移すことは出来るのに、その先へ進めない。……何が足りないんだ、まだ使っていない人間は…………」

 

 いや、と呟いて、はたと気づく。まだ使っていない人間なら、ここにいるじゃないか、と。

 

「……ここに来る魔術師たちを始末すれば、新しいサンプルにもなるか。やり遂げなければ。始めてしまったんだ、立ち止まれないんだよ」

 

 足元に展開した魔法陣の中心で、そう言いながら魔術を起動する。何十年と時間を費やそうが、彼の心にはずっと、ずっと、大事な友との日々だけが残っていて、もはやそれだけが原動力であると言っても過言ではなかった。

 

 けれども、蓮司はたった一つだけ。一つだけ、見落としてしまっていた。それは──どうして翠は、彼女は。不治の病に侵されながらも、いつまでも元気であろうとする振る舞いをやめなかったのか……ということへの疑問。

 

 ひねくれた彼には終ぞわからなかったのだ。それが、彼女なりの、『自分が死んだあとも病気の件を引きずって生きて行くのはやめてほしい』というメッセージだったのだということを。

 

 

 

 

 

 

 

 ──病院の横、と言ってもそこそこ間に距離のある研究施設に訪れると、ふいに膜を通り抜けたような感覚を覚える。十中八九、研究施設を中心に【人払い】が使用されているのだろう。

 

 夜中にも関わらず明るくライトアップされている研究施設を、しかし周りの人間が変だと思うことはない。敷地内に車を止めて全員で降りると、建物の入口近くに人が立っていた。

 

「……ようやく来たな、待ってたぜぇ」

「お前は…………名前なんだっけ」

 

 署長宅で散々ボコボコにしてくれやがった例の白人は、こちらの問いにずっこけた。

 

「あれ、名乗ってなかったか。ギルバート・ロジェール・篠崎、ギルって呼んでくれ」

「はあ、ギルさんね。それで、わざわざ重装備で出迎えてくれて、何がしたいわけ」

 

 ギルバート……ギルさんは、まさに軍人かのような重装備で、胸元にはマシンガンを吊るしている。何が目的なのかと身構えると、一拍置いてからあっけらかんと言った。

 

「日下部から寝返った。中を案内してやるからアイツを始末するのを手伝ってくれ」

「…………はぁ?」

「あいつの実験で若さと寿命を手に入れたけど、いよいよ付き合えなくなってきててな。それで考えたわけだ、勝ち馬に乗ろう! ってな」

「清々しいくらいの手のひら返しだなぁ……これどうします?」

 

 先輩たちに顔を向けると、顎に指を当てて逡巡していた秋山さんが代表して質問する。

 

「────。お前は、どの程度有益な情報を流せる? まずは前払いで戦力を話せ」

「そうだな、蓮司……日下部の名前な? あいつは他人を信用しない質だから研究員は元々そんなに居なくて、それも【人払い】で追い出してある。今の施設は地上5階のこの建物をダミーとして使ってて、実際は地下で研究をしてる」

「敵は?」

 

 そう聞くと、後ろの施設の方に親指を指してギルさんは説明を続けた。

 

「1階のロビーから地下2階までは大量のムーンビーストがガードしてる。蓮司は一番広い地下5階でお前らを待ち受けるつもりだろうな」

「ムーンビースト共を無視して下まで向かう方法はないのか?」

「少し離れた所にある緊急用エレベーターなら地下3階まで直通だ、俺もそこから来たが、あいつならアレを使うのも想定済みだろうからルートを絞られてると仮定しておくべきだろうよ」

 

 ……施設内にもエレベーターがあるだろうし地下1~2階に配置するの無駄じゃないか? とも思ったが、どうやら地下は後から拡張工事で追加されたものらしく、地下3~5階はエレベーターで行き来できるけど地上1階~地下3階までは階段しか無いらしい。な、なんだその建設……!? 

 

「魔術を用いた実験を万が一にも人に見られないようにしつつ、侵入者対策(こういうとき)用に後から追加した、ってとこか。事前に宣言しておいただけあって厳重だな……私と秋山で1階から順にムーンビーストを始末して下に、与一たちに先に地下5階に向かってもらって日下部の相手を────」

 

 先輩がそう言って纏めようとしていたその瞬間、ふと空気が変わる。ほぼ同時に上を──研究施設の屋上付近を見上げ、そこからなにかが降ってくるのを視認した。

 

「全員前に跳べ!」

 

 その言葉を口にしながら施設側へと大きく跳躍する先輩とそれに続く秋山さん。そして一手反応が遅れた葉子さんを米俵のように肩に担いでこちらも同じように跳ぶと、わずか1秒後に全員を施設とで挟むようにして異形が落ちてきた。

 

「……ちょっとギルさん!?」

「いやいやいやいや知らん知らん知らん!!」

【────────!!!!!!】

「……づっ、ぅおおっ!?」

 

 ギロリとギルさんを睨むが、本当に知らないのかもげそうな勢いで首をブンブンと振る。

 その直後に、フィクションに出てくるいわゆる獣人をそのまま4メートルくらいに拡大したような異形が凄まじい声量で咆哮し、あまりの勢いに背後で施設の窓ガラスに亀裂が走った。

 

「う、うるせぇぇぇっ!?」

「……! お前ら伏せろ!」

 

 続けて、咆哮に混じって聞こえてきた先輩の声に従って、抱えていた葉子さんを地面に下ろすついでに伏せたのだが──視界の端で、片手で耳を押さえたまま動けないでいた秋山さんだけが異形の振りかぶった剛腕を避けられず。

 

「っ──仕方ねえ」

 

 散弾銃を庇うために両手でばんざいするように頭上に持ち上げ、太い腕による凪ぎ払いを胴体で受け止めて、秋山さんは殴られた拍子に施設内に吸い込まれるように吹き飛んでいった。

 

「あ、秋山さーーん!?」

「事前にかなりの魔力を注いで【障壁】を貼っといた、あのくらいじゃ死にやしねえ」

 

 ──それより。と続けて、キンキンと耳鳴りのする状況で異形を見据えると、先輩はこちらを見ないままに手短に指示を飛ばしてきた。

 

「二度は言わない! 三人で地下5階に行け!」

「っ……頼みます、葉子さん! ギルさん!」

 

 葉子さんを立たせ、まだ耳鳴りがするのか頭を振っているギルさんの背中を押してその場から離脱。そのままギルさんの案内で、地下3階に直通の緊急用エレベーターに乗り込むのだった。

 

 

 

 

 

 ──残った丞久が、眼前の異形と対峙する。グルルルルと唸り声をあげる異形は、ふと剛腕を振り回したかと思えば、苦しむように頭を押さえて絞り出すように声を発した。

 

【────ウッ、ウウアアア……ゼ、ゼェェンゼェエエエ……ド、ドオオオジデェェェ】

「……先生?」

 

 男とも女とも取れるくぐもった声。「先生、どうして」、そう聞き取れた丞久は、まさかと呟いて苦しむ異形に問いかけるように言った。

 

「お前もしかして例のストーカー秘書か?」

 

 その問いへの答えと言わんばかりに振り下ろされた拳を、丞久は当然のように頭上に掲げた腕で受け止める。体から溢れ出た黒い魔力が腕にまとわり付き、彼女は押し返すように力を込めて腕を振るう。するとサイズ差からは信じられないほど、大げさかのように異形は弾き返された。

 

「なんだ、お姉さんと相撲でもしたいのか」

 

 異形を見据え、施設の1階から聞こえてくる銃声混じりの戦闘音を尻目に、腕に纏わせた黒い魔力を全身に行き渡らせて一言呟く。

 

「【森の黒山羊(シュブ=ニグラス)】」

 

 両の側頭部に固まった魔力が獣の角のように伸び、丞久の左目の瞳孔が長方形に変わる。

 異形もまた、自分よりもはるかに小さい存在が、自分よりもはるかに強い力を持っていることを認識して警戒するように後ずさりした。

 

「【どうしたaaa? 掛かってこいよooo」】

 

 女の声と甲高い音が混ざった、エフェクトが掛かって語尾が伸びる独特の声と共に、丞久が手のひらを上に向けて手首を曲げる。

 露骨な挑発に、異形は警戒よりも怒りが勝ったようにして、真っ直ぐ飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──ティン、という間抜けな音が鳴り、エレベーターの扉が開かれる。

 研究施設地下5階、そこは……なんか、こう、ものすごい広い空間だった。ちらほらと辺りにはデカい箱や太いチェーンが残っているが。

 

「ここは……なんなの」

「元々は資材の保管とかをしてたとこだな」

「ああ、そう。いやてっきり今回のために作られたバトルフィールドなのかと」

 

 上の二人は……まあ大丈夫だろう、あんな殺しても死ななそうな人と既に一回死んでる人が負けるビジョンがいまいち見えないし。

 ともあれ、エレベーターから出て中に歩いて行くと、節電していたのか薄暗い空間がバッバッバッと連続して点けられた照明で明るくなり、白を基調にした清潔そうな空間に変わった。

 

「……あの、ギルバートさん」

「なんだぁ?」

「私の母は、どんな人だったんですか?」

「え、えー、あー……………………」

 

 なんでそこで口ごもるんだ。葉子さんの問いにどう答えたものかと言わんばかりに視線を右往左往させるギルさんは、やっとこさ口を開く。

 

「…………本当に病弱なのか疑うレベルでゴリラみたいな人だったよ」

「?????」

「いやほんとに凄かったぜ、俺も遊吾も蓮司も翠ちゃんの合気道でありえんくらいぶん投げられて、いったい何度死ぬかと思ったことか」

「本当に病気だったんですよね???」

 

 パワフルだなぁ。端から聞いているだけでもどんどん人物像があやふやになって行く葉子さんママのゴリラエピソードを聞きつつ、落ちている身長と同じくらいの長さの鎖を拾っておく。

 

「そういや小僧、お前武器は?」

「殴る、蹴る、その辺のやつの3つ」

「……これ持っとけ」

「まあどうも」

 

 ベルトから外した軍用マチェットを鞘ごと投げ渡され、一応受け取っておくと、それを合図にしたかのように物陰からのそりと影が動いた。

 

 

 

【──これが、生命の果ての姿か】

「あん?」

「……蓮司、か?」

 

 証明の光で生まれた影が、くぐもった声を発する。やがて姿を現したのは、外で見たのとほとんど同じ、獣人のような異形だった。

 

「貴方が、日下部蓮司……父を、殺した……!」

【──遊吾の娘か。ああ、そうだ。僕が殺した。そして次は君たちだ、実験用のサンプルが必要なんだ……もっと、質の良い……命が……】

 

 ぶつぶつとそんな事を言って、巨躯をこちらに向けて歩み寄る。内ポケットからソフィアを取り出して葉子さんの肩に乗せつつ【強化】を起動し、横目でギルさんがマシンガンを構えるのを見て視線を異形となった日下部さんに移す。

 

「命の蘇生と不老不死を目指しておきながら、その終着点がただ怪物になるだけ?」

「……なにか、気になることが?」

「ああいえ、なんというか……違和感が」

【────!!!!】

 

 けれどもその違和感の正体を探るよりも早く、咆哮と共に日下部さんが突っ込んでくる。

 ゴウゴウと空気を押し退けて、凄まじい勢いで突撃してくる日下部さんは、障害物だったコンテナを殴り付けて転がしてきた。

 

「ちっ」

 

 舌を打ちながらも、射程から逃れるように走るギルさんを見て葉子さんを抱えて反対に走る。さっきまで三人で立っていた所をガンゴンと嫌な音を立てながら転がっていくコンテナを見送り、物陰に葉子さんを下ろしてから別のコンテナに跳躍して上を取るようにして鎖をくるくると回す。

 

「ぃよいしょお!!」

【づ……ぐっ】

 

 遠心力で高速回転させた鎖を振るい、先端をバチィンと頭に叩きつけると、魔力を込めていたのもあってかそこそこのダメージになったらしい。僅かにぐらついた頭に、続けて断続的な発砲音に続いてマシンガンの弾丸が突き刺さる。

 

「全然効いてねぇ……!」

「葉子さん! ハッキング弾!」

「はいっ!!」

 

 物陰から顔を出した葉子さんが拳銃を覗かせ、発砲してバスバスと弾丸が腹の辺りに刺さり、弾に刻まれていた術式が日下部さんの体に染み込むように流れて行く。

 

 これでギルさんの銃も通用するだろう……と思案していると、辺りを見回していたら、病院からちょろまかしたのかちょっとした子供ほどもある大きさの酸素ボンベを発見した。

 

「お、ラッキー。──二人ともぉぉぉっこれを撃てぇえええっ!!」

 

 医療用と書かれたそれをひょいと持ち上げて、思い切り日下部さんの方へとぶん投げる。

 言いながら投げたから反応できたか怪しかったが、日下部さんの頭上まで飛んだボンベに、数拍遅れて発砲音と共にカンッカンッカンッと穴が空いて────爆発した。

 

【ぐっ、うぅ……おぉおおぉお……!?】

 

 炎に包まれ、悲鳴に近い呻き声が、メラメラと燃え盛るそれの中に消えて行く。

 4か5メートルはある巨躯は倒れて動かなくなり、それから少しして、ブシュー! と勢いよく消火用の薬剤が壁や地面から射出される。

 

「あっけなかったが、これで終わりか」

「……死んで、しまいましたか」

「────。うーん……」

「与一くん?」

 

 薬剤が煙のように日下部さんの死体を包み姿を隠す。けれども、どうにも、違和感が拭えない。だってそうだろう、()()()()()()()

 

 そのまんま思ったことを伝えると、二人は首を傾げて聞き返してきた。

 

「それは、どういう」

「蘇生だのと命をテーマに研究していながら、こんな高が殺せば死ぬような怪物程度を終着点にするのは変ですよ。()()()()()()()()()()()()()、って時点でおかしい」

「謙遜しすぎな気はするが、自分の実力を把握できてんのはマシな部類か。まあ確かに、呆気ないと言われればおかしい……のか?」

「とすると、考えられるのは2つ」

 

 人差し指を立てて続ける。

 

「1つは魔術の暴走、実力に合わない魔術を使用してあの体になってしまった」

 

 そして人差し指に続いて中指を立てる。

 

「2つ目は、あれで正しい魔術である。つまり日下部さんにとってのゴールがアレの可能性。もしこっちだったとしたら────」

 

 と、そこまで言って、薬剤の煙の向こうで、もぞりと影が動いたのを横目で捉える。

 指を立ててない方の手で懐の軍用マチェットを引き抜くのと、それに『何か』が衝突して火花を散らすのは、全く同時だった。

 

「──あ?」

 

 ほとんど脊髄反射だった為か、自分でも今、何をしたのか反応に遅れる。

 片手が無意識のうちにマチェットを抜いていて、直撃コースから逸らした『何か』が背後の壁に突き刺さり、ようやく何が起きたかを理解する。逸らしたそれは、異形の指だった。

 

 鋭い爪を弾いた際に火花が散っていたのだろう。太い枝のような指が一本。それが、手にある十本の指の内の一つだったとしたら。

 

「ソフィア!!」

『…………!!』

「え? きゃっ」

 

 声を荒らげると同時に【強化】の範囲を身体能力のみから神経伝達速度と反射神経にも広げ、予想通りに煙の向こうから飛んできた異形の指の数本を避け、一本をマチェットで弾く。

 

 視界の端で意外にも力強く飛ぶソフィアに引っ張られてコンテナの裏に引き摺られて行く葉子さんを見つつ、視線をギルさんに移し、なんとか庇えないかと踏み込んだものの。

 

「──が、ぁ」

 

 時既に遅く、ギルさんの体は、杭のように鋭く触手のように伸びた指に貫かれていた。

 

【クッ、フフフフ、より強く……より鋭く、進化だ、徐々に進化して、やがては不老不死へと辿り着く。生命の選別を……僕が行う……いつかは至れるかもな、神の座に! ふっ、はは、はははは、ハハハハハハ!!】

 

 遂には力に呑まれたのか、日下部さんは──いや、ただのバケモノは煙を払って下品に笑う。炎に包まれていた毛皮が辺りに散乱し、その体は、3メートルほどに縮んでいる。

 

 伸ばされた指も縮み、元の獣じみた異形に戻ると、穴だらけのギルさんは床に倒れて血溜まりを作る。それらを見て、不思議なほどに、自然と胸の内から出た言葉を口にするのだった。

 

 

 

 

 

「……下品な力だな」




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