とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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正当なる復讐に信念を 10/10

 あれだけの事がありながら、世間は特に大事だと騒ぎもせずに事件を流して行く。

 連盟組織の隠蔽術すげ~~~、と思いつつ数日後、さも当然のように運営が続けられている総合病院から出てきた葉子さんを出迎えた。

 

「葉子さん、どうでした?」

「ああ与一くん。それが……」

 

 と言って口ごもる。何を隠そう、どうやら生きていたらしい異形にされていたストーカー……井坂さんは、ここに搬送されていたのだが。

 

「……井坂さん、目を覚ましたんですけれど……記憶を失っているみたいで」

「──証拠隠滅されたか。こっちの記憶処理とは別の時限爆弾でも仕込んでたな……?」

 

 話を聞くに、この病院に勤めていた頃の記憶が無くなっているらしい。死ななかっただけマシだと言うべきか、はたまた。などと考えていると、出入口付近の屋根を支える柱の裏からぬっと先輩と秋山さんが顔を覗かせてくる。

 

「……お~つかれ~い」

「記憶操作係の魔術師の配備、偽の証拠のでっち上げ、世間の印象操作用のサクラの用意……めんどくせぇったらありゃしねえ」

「大変ですね」

 

 さんざん人を面倒事に巻き込む連中の気苦労だが、こちらとしても疲れているのでざまあみろと言えるほどの余裕は無い。

 

「……あ、私の方で『上』に言っといたから、たぶん今日か明日には与一の通帳に振り込まれてるかも。確認しといて……」

「なんでなんもしてないのに先輩まで疲れてるんですかね」

「したわ。今回の事件が何が原因で起きたかを説明するための資料を作ったわ。お前にわかるか? 日本特有の安っぽい恋愛ドラマの脚本みてぇな愛憎劇めいた内容を打ち込む作業の辛さが」

「うーん俺は絶対に連盟組織には入らない」

「そうしろ……」

 

 完全に目が死んでいる先輩にさすがに同情せざるを得ない状態で、その横で何かの連絡を受けてか携帯を耳に当てていた秋山さんが、同じく死んだ目で先輩を見て口を開いた。

 

「丞久」

「聞きたくねえ」

「残念なお知らせです」

「聞きたくねえ~~~!!!」

 

 両手で耳を押さえながら柱に頭突きする先輩に、秋山さんは無慈悲にも言葉を続ける。

 

「南極で未知の魔力反応があったらしい。なんでもベースはショゴスだけど海底のダゴンの一部と混ざって細胞が変異してるとかなんとかで変なことになってるってよ」

「ま~~~~~たダゴンか、しゃーないぶち殺す…………ん? ショゴス?」

「どうした海産物絶対殺すウーマン」

「いや、南極で、ショゴス……ってつい最近どっかで聞いたこと────あっやべ」

「お前今『あっやべ』っつったか?」

「いんやぁ~~知らね~~。おらさっさと行くぞー、ったく誰だよ『【門】を覚えれば活動範囲広がってもっと人助けできるじゃねえか』とかほざいた間抜けはよぉ……」

「お前だお前」

 

 ……志だけは本当に立派なんだよなこの人。

 

 

「はぁ~あ~あ。上からはアイツを探せ、私は私で探し人アリ。社会人は辛いぜ」

「アイツって? ああ、なんか極悪人を探してるとかなんとか言ってましたっけ」

「お前にゃ関係──無いけど一応聞いとくか、葉子にも聞くけど、『上』が園崎ヒカリって男を探してんだけど知ってる? 太()()猟で陽狩(ヒカリ)、まあ名前の方は偽名だろうな。当て字っぽいし」

「ヒカリ……んやぁ知りませんね。葉子さんは聞き覚えあります?」

「いえ。それは、どなたなんですか?」

 

 葉子さんの問いに、先輩は苦い顔をしたあとに、ため息をついてから返答した。

 

「前に軍と警察と魔術師で連盟組織を作って国を守ろうとしてる、って話はしただろ? その魔術師側の人間で創始者の一人なんだけど、17年前くらいに居なくなったらしい」

「自由すぎない?」

「追手を差し向けたけど全員気絶させて逃げ切ったんだと。私の方にも万が一見つけたら始末しろって命令が来てるんだけどなぁ……風の噂じゃ単純な身体能力で超高速移動するらしいから探すのは物理的に無理だろってことで諦めてる」

「暗殺者組織みたいなことしてない?」

「魔術師なんて暗殺者とイコールだろ」

 

 言っちゃったよ。しかし、園崎ヒカリ……ねえ。まあ頭の片隅にでも入れておこうか。

 

「……そんじゃあまあ、私らももう行くわ。なんかあったら連絡しろよぉ」

「しても出ないじゃないですか」

「────。あっはっは」

 

 先輩は果たして、言い訳すらせずに足元に作った【門】で逃げるように落下していった。一緒に落ちた秋山さんの着地はどうするんだろうなあと思案するが、管轄外なので祈っておこう。

 

「…………」

「…………」

 

 と、騒がしい人たちが居なくなって、病院の前で一拍の静寂が訪れる。

 

「さて、と。葉子さんはどうします?」

「私は……ここ数日、葬儀やら家のことやら退職やらでバタバタしてたから一度帰ろうかと」

「あ、辞めちゃったんですか」

「復讐のために非正規の手段で調査して、不法侵入して銃刀法ガン無視で戦って、バケモノになったとはいえ犯人を射殺したのは普通にアウトですからね……これが私なりのケジメです」

「さいですか」

 

 幸薄そうな儚げな微笑でそう言って、出入口付近の屋根の下から空を見上げた。

 

「俺も帰って……少し休むかなぁ。幼馴染の方で起きた事件の詳細も聞きたいし」

「そうですか。じゃあ、その……また」

「はい。また近いうちに」

 

 先んじて駐車場の方に歩き出し、手を振る葉子さんの視線を受けながらその場を去る。

 またしても事件が起き、それに巻き込まれ、死人も出たが──なんやかんやと解決したのもいつものことか。そろそろ新しい魔術か武器を手元に置いておくべきかもなぁ、などと考えていると。

 

『…………よいち』

「お、ソフィア。久しぶりに喋ったね、初めて保護して名前聞き出したとき以来かな?」

 

 バッグからするりと抜け出て、こちらを見ながら顔の高さに浮かぶソフィアが言う。

 歩くのに合わせて後ろ向きで飛ぶソフィアは、視線を右往左往させて指をもじもじと突き合わせ、鈴を転がすような声で控え目に続けた。

 

『……ようこは?』

「葉子さんならお別れだよ。向こうにも向こうなりにやることがあるだろうし」

『…………もう会えないの?』

「それは……どうだろうなぁ、別に今生の別れではないから会えるには会えると思うけど」

 

 そういえばこの子、葉子さんにかなり懐いていたなぁ。眼前を浮遊しながらも、ソフィアは可愛らしい困り顔のままこちらをじっと見つめる。

 

「なんだい、じっと見つめてきても可愛いだけだぞ。言いたいことがあるなら口にしなさい」

『…………もっと、一緒にいたい』

「────。ん~~~~」

 

 それこのタイミングで言うことかな~~~~!? とは口にしないようにしつつ、かといって『ダメなものはダメ』、は教育ではないし……

 

「はぁー、まったくワガママちゃんめ」

『…………』

「葉子さんに断られたら潔く諦めるんだぞ」

『…………! うんっ』

 

 ぱっと表情を綻ばせるソフィアを両手でキャッチして肩に乗せてあげてから踵を返す。

 幸運にも人は居ないが、成人男性が約30センチの人形を持ち歩いている光景は、おそらく下手な神格と遭遇するよりホラーだろうなぁ。

 

 

 

「──あら与一くん、忘れ物?」

「ああいや、ちょっとね……ほらソフィア」

 

 葉子さんから見れば、せかせかと早歩きで戻ってきたように見えるであろう。

 不思議そうに小首を傾げる葉子さんに、肩から離れたソフィアが近付き、しかして口ごもる愛娘に代わって用件を代弁してあげた。

 

「うちの愛らしい娘が、どうやら葉子さんとまだまだ一緒に居たいようでしてね」

「へぇ……そうなの? ソフィアちゃん」

『…………うん』

「────!? し、喋った……!」

「ああ、その子普通に喋れはしますよ。基本的に極度の無口なだけで」

 

 初めて声を聞いたからか、葉子さんは思わず軽くのけ反るほどに驚いていた。

 それから少しの間を置いて、ソフィアの言葉を反芻した彼女はクスクスと上品に笑う。

 

「ふふ、あのねソフィアちゃん。明日にでも、また事務所に行こうと思ってたのよ?」

『…………そうなの?』

「ええ。だって、元々次の就職先は与一くんの事務所にするつもりだったんだもの」

「えぇー、そうなの?」

「あらそっくり」

 

 あんぐりと口を開けて驚くソフィアを肩に乗せて、帽子越しに頭を指で撫でながら続ける。

 

「でも、そうね。一緒がいいって言ってくれて、少し嬉しかった。ねえ与一くん」

「はい?」

「今から行っても、邪魔じゃない?」

「いえ全然。そうでもなければ、娘のワガママなんて許容しやしませんよ。では改めて車持ってくるのでソフィアと待っててください」

「この間の車?」

「いえあれは今頃プレスされてる頃ですよ、今回のはレンタカーです」

 

 あれ一応、深き者(ディープワン)のアジトから強奪した盗難車だからね……。盗難届を出す奴はもうこの世に居ないけど、上から着地したりで車体がベコベコのボロボロだから捨てるしかなかった。

 

 

 

 

 

 ──駐車場に歩いて行く与一の背中を見送った葉子は、快晴の秋空の下で口を開く。

 

「ソフィアちゃんって、元々は人間だった……のよ、ね?」

『……うん』

「やっぱり、誰かに魔術を掛けられたからそうなっちゃった、ってことでいいのかしら」

『……覚えてない、けど。たぶん』

 

 ソフィア自身、与一と出会う以前の記憶が無く、ただ漠然と自分が幼い子供だったという自覚しか頭の中に残っていなかった。

 改めて問われても、いったい自分が何処の誰なのかは、欠片もわからない。

 

『…………何も、わからない、けど。かぞくとして扱ってくれるよいちは、すき』

「へぇ~、ふふ。そうなんだ」

『……ようこもすき』

「そっか。……そっかぁ」

 

 子供の無邪気な好意に、思わず葉子の頬が緩む。すると、不意に吹き荒れた一陣の風が、肩に乗っていたソフィアを巻き上げた。

 

『…………!?』

「あっ!? ソフィアちゃん!」

 

 ぶわりと宙に舞ったソフィアは、自分の意思とは違う形で浮かび上がった所為か浮遊能力を使えない。空中で不規則に回転し、落下を始めた辺りで────ぽすりと誰かの手に収まった。

 

「──おっと」

『…………!!』

 

 それは少なくとも、葉子の手ではなかった。赤の他人に掴まれ、ソフィアは反射的に体を硬直させて人形の振りをしている。

 

「……ふぅん。なるほど、ね」

『…………っ』

 

 片手で握ってじろりと見下ろす女性。その妖しく輝く紅い瞳に射抜かれ、まさしく蛇に睨まれた蛙のように動けず、握ったまま伸びた親指が首に触れたところでふと声をかけられた。

 

「あ、あの~」

「ん?」

「ソ……のお人形、返してもらえませんか?」

「ああ、これキミの?」

「いえ知り合いから預かってるだけで────」

 

 飛んでいった先に駆けつけた葉子は、振り返った女性を見て言葉を詰まらせる。

 日本人なのだろうが、紅い瞳を含めて、可愛らしさと美しさの良いところだけを煮詰めたような人間離れした美貌に惹き寄せられる。元警察官としての精神力で持ち直してそれとなく体を見ると、そちらもどこか不思議な格好だった。

 

 まず、全体的に黒い。コートやその中のシャツ、スカート、タイツ、ブーツまで。

 その全てが、拗らせた学生でも中々しないような漆黒で統一されている。

 

 黒いロングヘアーも相まって、後ろ姿だけではただのシルエットにしか見えないだろう。

 けれども女性の美貌が、その格好をただ『痛々しい』のではなく『ミステリアス』に昇華させているのは間違いなかった。

 

「ところでこの人形、喋らなかったかい?」

『…………!!』

「いぃぃぃやいやいやそんなわけ……ないじゃ……ない、です、かぁ!?」

誤魔化すの下手かい……ま、そういうことにしておこうか。風には気を付けなさい、()()()()

 

 胸に押し付けるように返されたソフィアを両手で支えて、無傷であることにホッとする葉子だったが、ふと違和感を覚えて顔を上げる。

 

「あの、どうして名前を────」

 

 そう問いかけた葉子だったが、ほんの数秒のうちに、漆黒の女性は姿を消していた。

 

「居ない……」

「葉子さーん、ソフィア~」

「あ、与一くん。あの……全身真っ黒コーデで目が紅い女性を見ませんでした?」

「? なんですそれ、コスプレイヤー?」

 

 車で戻ってきた与一に質問するも、なんのこっちゃと首を傾げられる。

 白昼夢だったのだろうか、とすら逡巡しながらも、葉子はとりあえずと助手席に乗って、ソフィアをダッシュボードにそっと置く。

 

 

 

 

 

 そうして病院から離れて行く二人と1体を、屋上から件の女性が見下ろしていた。

 

「……フン、与一クンにすり寄る悪い虫め……と言いたいところだけど、面白いモノも見られたし許してあげよう。私は慈悲深ぁい神様なんだ」

 

 紅い瞳を細めて、不機嫌そうにむすっとしている女性──春夏秋冬 円花は、そう言って屋上の縁に足を揃えてしゃがみこんでいる。

 

「しっかし、日下部蓮司にはガッカリだったなぁ、折角魔導書の解読能力とムーンビーストやシャンタク鳥の召喚・従属の魔術を前払いで与えてあげたのに、取り立てる前に死ぬとは」

 

 視線だけを動かして敷地内の地面や出入口、その向こうのロビーに大穴が空いた研究施設を見やり、呆れと嘲笑の混ざった顔で、懐から黒い結晶を取り出して太陽の光に透かす。

 

「……はっ。くだらないアンド効率悪すぎ。数十人犠牲にしてやっとこさ命のストック1個ってところかな、暇潰しにも……なりゃしないっ」

 

 円花は立ち上がりながら上に放った結晶を、虚空から呼び出した三節棍を抜刀のように振り抜いてスパァンと殴り砕く。

 

「日下部蓮司に限らず、人って拗らせすぎるとああなるのかなぁ。大して才能があるわけでもないのに分不相応な力に手を出して、周りを頼らないから中途半端な長命程度が終点になる。不老長寿の魔術ならちゃんとあったのに」

 

 そこまで言って、もう完全に興味が無いかのように、三節棍の真ん中を持って両端をぶらりと垂れ下がらせる。しかし一転して、愉快そうに表情を歪ませながら言った。

 

「それに引き換えあの人形ちゃん……面白いなあ、アレやっぱり人間だよね。『人形に命が吹き込まれた』わけでもなく、『そういう小人みたいな種族』でもない。なんらかの魔術でああなったわけだから……つまり、重要なのは()()()()()部分であって()()()()()ことは本質ではない」

 

 風になびく髪を片手で押さえながら、円花は虚空に三節棍を消して遥か遠くを見渡す。

 

「『人間を変異させる過程で人形のような材質になってしまう』から、便宜上【人形化】と言うしかない……面白い魔術だ。なにより、これは間違いなく今の時代では作れない魔術だなぁ。あまりにも高等過ぎる。文字通りに次元が違う…………うーんこれは後回しかなぁ」

 

 自分だけが陰で関わったところで、それが与一らに良い影響を与えるとは思えず、一先ず今首を突っ込む話題ではないか──と。

 円花は懐から取り出したメモ帳の『後回しリスト』の付箋が貼られたページを開いた。

 

 そこには要警戒の場所や施設の名前が書き込まれており、その下には何人かの人名が書かれていた。円花はペンで、一覧に更に追加する。

 

 びっしりと書き込まれたページになんとか隙間を見つけて書き込んだのだが、『お人形ちゃん』と書いたその文字の近くに、『有栖川 春秋(はるあき)』や『姫島(ひめじま) 陽狩』など、どことなく見覚えのある名前が並んでいたのは、まさに──神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 ──数日ぶりに事務所に招かれた葉子さんをソファに座らせ、テーブルに契約書を置く。

 

「葉子さん、生々しい話になっちゃうんですけど、警察官時代の給料って幾らでした?」

「本当に生々しいですね……えっと……だいたい40万前後、でしょうか」

「じゃあもう上旬ですし、とりあえず今月の分で20万出しますね。来月からは月始めに40万出しましょう。ああ、それとは別に基本的に依頼による歩合制ということになってますので」

「──ちょっと待ってくださいね?」

「足りませんでしたか?」

「いえ、むしろ払いすぎでは……?」

 

 契約書を書きながら相づちを打っていた葉子さんは、こちらと契約書を二度見する。

 後頭部に寄りかかって上から契約書を覗き込んでいたソフィアもまた、その頭を上げる動きでぐわんぐわんと振り回されていた。

 

「葉子さんもいずれわかりますよ」

「えっ」

「生きるか死ぬかの戦いや事件に巻き込まれる度に、通帳に非課税かつ大量の口止め料が振り込まれていることへの恐怖というものが……」

「えぇ……」

 

 ここまで言えばわかるだろう。払いすぎ、ではない。払わせてほしい、が正しいのだ。

 おそらくだが今後も舞い込むであろう事態を解決すれば、葉子さんに支払う給料以上のお金がまた振り込まれるに違いない。

 

「まあそんなわけで、お金がどうのこうのという問題はお気になさらず。契約書書けました?」

「あ、はい、どうぞ」

「んじゃあコピー取って……はい、これで今日から探偵助手ですね~」

 

 契約書をファイルに入れてキャビネットに突っ込み、改めてデスクに向き合うように腰かける。それからふと、事務所のチャイムが鳴った。

 

「……初仕事ですよ葉子さん、お客さんを出迎えてきてください」

「は、はいっ」

「緊張なさらず。挨拶の言葉は『桐山探偵事務所にようこそ。ご依頼ですか? ご相談ですか?』となっているので噛まないように」

 

 緊張の面持ちで玄関の方に歩いていった葉子さんだが、頭にソフィアがしがみついているのにも気付いていないようだった。言わなかったのも悪いけどまあ、別に、害はないからいいか。

 

 せいぜい葉子さんの第一印象が『人形好きを拗らせてそうな人』になるくらいだ。

 

 

 

「与一? ごめん合鍵忘れて────」

「桐山探偵事務所にようこそ。ご依頼ですか? ご相談ですか?」

「……あ?」

「ん?」

 

 ボソボソと小さく聞こえる声。葉子さんが対応している相手は……なんか聞き覚えあるな、と思っていると、唐突に怒声が響いた。

 

「……………………。誰!?!?」

「えっあっ、今日から探偵助手をすることになりました、楠木葉子と申します」

「…………ていうかソフィア居るし、それに楠木って確か……」

「あ~~、その~~……どうぞこちらへ」

 

 あ、説明を諦めたな。

 

 玄関の方から戻ってきた葉子さん──と、その後ろに幼馴染こと真冬がついてくる。

 

「よい『こらこらこらこら~~~! 誰よあの女! 真冬というものがありながら~~!!』

「もごごご」

「……与一、説明してくれない?」

「するからちょっと待って」

 

 続けてリュックから飛び出してきた結月が、顔面に張り付いて頭をべちべち叩いてくる。なんとかひっぺがして、一度お茶を淹れてから三人でソファに向き直り、一から説明をした。

 

 

 

 最後に葉子さんがうちで働くことになったところで締めると、どことなくムッとした顔で、葉子さんを一瞥した真冬が口を開く。

 

「じゃあ、あたしもここで働く」

「え~~~~……あの学園、学生のバイトは許可してくれてるの?」

「あそこわりと緩いのよ」

「へぇー。って言ってもなあ、別に助手は二人も要らないしなぁ」

 

 ──絶対働くとか言うと思った。とは口に出さず、更に眉間のシワを深くする真冬を見る。

 相変わらず、過保護にされるのが嫌で、かといって距離を置かれたくないと考える、猫のように愛くるしいワガママな奴だ。

 

「──わかったわかった、基本は土日祝日のみ、本格的な契約は卒業後、バイト代は応相談。これで良いならこれに記入しな」

「……! ……いいの?」

「自分で提案しといて何言ってんだか」

 

 一応、自分が反射的にワガママを言った自覚はあるのか。真冬は渡した紙で顔の下半分を隠し視線だけでこちらを見てくる。

 

「……ふっ」

 

 それがどうにもおかしくて、小さく笑ってからお茶請けを出しに台所に向かう。

 果たして探偵助手が一日で二人も増え、今後も続く非日常の異常事態に立ち向かう味方が増えたことが幸運となるのかはわからないが。

 

 ともあれ、先輩があちらこちらで働かされているし、しばらくは平穏を謳歌できることだろう。──しかし、呑気にそう考えていたのを後悔することになるのは、まだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

『完』




お気に入りと感想と高評価ください。



南極で、ショゴス……あっやべ
・新生歩5/5を参照


楠木葉子 (24/♀)
・署長の父が居る警察官。父の背中に憧れて警察の道に進んだが、コネで仕事をしていると思われたくないが為の、自分の為の努力をしていることに疑問を抱いていた。殺害された父の仇を討つために与一たちを頼り、犯人を殺害したのちにケジメとして警察を辞め、現在は桐山探偵事務所で真冬と共に探偵助手を始めることとなっている。

楠木遊吾 (54/♂)
・とある警察署の署長。危険な研究をしている元友人を止めるためにと証拠集めをしていたが、行動に移す前に殺害された。

ギルバート・ロジェール・篠崎 (54/♂)
・遊吾と蓮司の友人にしてイギリスと日本のハーフ。蓮司の研究の一環で30代くらいに若返るなどの超常現象に関わっていたが、脅す為に用意した爆薬を勝手に使い遊吾を殺害したことで止める方向に考えを改めた。最期は与一たちに寝返って共に戦ったが、蓮司の攻撃により死亡する。

日下部蓮司 (54/♂)
・今回の犯人。ずっと好きだった遊吾の妻の病気を治そうとしていたが間に合わないと判断し、死者蘇生の研究へとシフトした正気を失った男。最期は与一や丞久たちに命のストックを削られ、葉子の拳銃がトドメとなり死亡した。

井坂ことり (27/♀)
・日下部蓮司に憧れと好意を向けていた、ストーカー気質の院長秘書。蓮司に捨て駒として利用され与一たちを殺す為にと差し向けられたが丞久の手により一命をとりとめたものの、『日下部蓮司と関わっていた範囲』の記憶を失ってしまった。なお、退院して家に帰ったらストーカーグッズと知らない男の声を使った目覚まし等が置かれていて、過去の自分に困惑するのは余談である。
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