とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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さよならスワンプマン 7/7

「……まふゆ、さん、おろしてください」

「ほら、柵に掴まって」

 

 そっと降ろされた深景は、言われた通りに柵に掴まって立ち上がる。

 

 なんとか両足で立つも、手足のあちこちから黒くなった皮膚が──ショゴスの細胞が、ボロボロと崩れて粒子となって風に巻かれて消えてゆく。

 

「──深景ちゃん!」

 

 ふと屋上に、そう言いながら葉子が瓶を抱えた結月と共に現れる。顔どころか服のあちこちをも赤黒い色に染める彼女は、体が崩れ始めている深景に憐憫の眼差しを向けた。

 

「葉子さん、あの女を見ませんでしたか?」

「……いえ、見ていませんが」

「逃げたのは裏口か、窓からか……まあ、致命傷ですしあとでゆっくり探しますか」

 

 ため息混じりに呟いて、小雪は葉子と結月を深景の元に手招きする。

 三人と1体が集まるのを待ってから、深景はおもむろに口を開いて絞り出すように言う。

 

 

「……わたし、みんなのことが、すきです。わたしには、何もないけど……その代わりに、みんなで、わたしの中がいっぱいになりました」

 

 崩れてゆく顔でふにゃりと笑顔を作ると、深景は柵から手を離す。

 

「っ──深景」

 

 咄嗟に抱き止める真冬に支えられながら、深景が小雪たちを順に見て続ける。

 

「……はんばーがーは、味が濃かったです。ぷりくら、は……たのしかったです。まふゆさんの、言うように……温泉に、いってみたかったです。かなうなら、あとすこしだけ、時間がほしかった」

「そうね。もっと、時間があれば……もっと色んなところに遊びに行けた」

 

 あやすようにポンポンと肩を擦り、真冬は深景の言葉を一字一句記憶する。

 ほんの数日しか外に出られず、たったの一日しか交流できず。けれどもわずか数時間の旅路は、深景の一生にこれ以上ない程の想い出を作っていた。

 

「…………では、そろそろ、私は終わる……ので、最後に……一言だけ」

 

 真冬から離れて最後の力を振り絞って立つと、灰色の髪を風で揺らしながら深景は笑う。

 苦しみと辛さを──そして()()()()()()()()()というワガママを押し殺した、和らな優しい笑みで。

 

 

「────さようなら、大好きな皆さん」

 

 果たして深景は、最初から存在しなかったかのように、服だけを残して完全に粒子となって消える。

 

「……さよなら、深景」

 

 真冬の頬に流れた涙をからかう者は、この場には居ない。ふと気がつけば、鮮やかな夕焼けはもう既に、暗い夜空へと移ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ──腹に穴を開け、落とし子を失い、失血によりふらつく女は、ビルの窓から落ちて裏側に逃げていた。液体窒素を浴びた痛みと腹を貫かれた痛み、失血による倦怠感を我慢して、彼女は路地裏を歩く。

 

「……D班、輸血の準備をしておけ。…………D班? どうした、応答しろ」

 

 ホームセンターに配置させたのとは別に用意しておいた分隊に連絡するも、返事が返ってこない。訝しみながらも瀕死の体を引きずるように歩き、ようやくと移動用のワゴン車を視界に収め────

 

「…………なん、だと」

 

 暗がりの奥に広がったのは、残しておいたD班のメンバー全員が真っ二つにされて死体となって転がっている光景と、その真ん中に立つ白衣の女性だった。

 

「あ、やっと来た。お疲れ様で〜す」

「き……さま……!」

「いやはや、非魔術師一人、元警察官一人、生き人形1体、同族一人。計四人()()()すら殺せずに……ふっ、くくくく、高が鉄板に、自慢の力を防がれて……くっくくふふふっ、液体窒素ぶっかけられて死にかけるって、本当に凄いですよ貴女は」

 

 笑いを堪えようとして、けれども押さえきれずに口の端から嘲るような声が漏れる。白衣の女性──細波青井(ショゴスロード)は、事実として無様を晒している女を心の底から見下していた。

 

「…………」

「ああ、ちなみにこの人たちを殺したのは単なる事後処理ですね。ホームセンターの方に居た貴女のお仲間は元警察官の人が釘打ち機一つで全滅させちゃうし、いやぁ勧誘するならあっちでしたね。貴女はハズレも良いところだ」

「……っ!」

 

 反論しようとして、しかし口を閉じる。閉じるしかないのだ。なぜならば、負けて逃げてきたことが結果の全てでしかないのだから。

 

「まあ、成功しようが失敗しようが、報告しても姫じ……教祖様(リーダー)は貴女のことを採用しなかったと思いますよ。だって弱いんですもの」

「……何だと……?」

「炎と魔力に弱い、これは真人間も同じ。感電と凍結で動けなくなる、これも真人間と同じ。毒は効かないにしても、しかし硫酸でも浴びれば普通にダメージが行く。()()()()便()()()()止まりの人間なんて、貴女以外にも飽きるほど居るんですよ」

「…………」

白痴教(うち)の幹部には、それこそ狙撃能力しか能がない元軍人とか妖刀と契約してる人とか居ますけど、ぶっちゃけ貴女より使えますからね」

 

 カラカラと笑いながら、青井は今にも倒れそうな体をなんとか立たせている女を見る。

 ゆったりとした所作で両手を手首から指先までピタリと合わせながら不意に呟いた。

 

「ところで……随分と、辛そうですね?」

「──!!」

「楽にしてあげましょうか?」

「……はっ、役に立たなそうなら処分か。どこの組織も……名前が違うだけで根底は同じだな」

 

 にこりと、青井は文字通りに笑顔を貼り付けて笑う。合わせた手を胸の前で水平にする過程で右手を上にしながら、それぞれの指先で手首を触るような独特の構えを取ると、青井が合わせる手のひらの中で、ごぽごぽと空気の混じった水音が鳴る。

 

「では、さようなら」

「……クソ共が」

 

 ────バシュッ!! という鋭い音。振り抜いた右手の軌道に合わせて放たれた高圧水流が、短く罵倒した女の体を腹を中心に真っ二つに切断する。

 

 ずるりと上半身が地面に落ち、遅れて下半身が倒れる様を見ながら、青井は手首を振って水気を落とす。そしてビルの屋上を見上げて、細かい粒子が風に舞って消えてゆく様子を眺めながら言う。

 

「正直に言いますと、私はショゴスちゃんの逃げ切りに賭けてたんですよねぇ。ほら、ある意味では研究所で生まれた者同士ですし?」

 

 誰に言うでもなく独りごちる青井は、懐から携帯を取り出しつつ、足元に水状の体を薄く広げて女を除く他の死体を溶かし始める。

 

「なので、まあ、要するに運と危機感が足りませんでしたね。身の程を弁えて、程々の場所で程々に暴れていればこうはならなかった。あっもしもしー」

【終わったか】

「はぁい終わりました」

 

 じゅわじゅわと死体を溶かしながら青井が繋いだ電話の向こうから、数時間振りの男性の声──姫島の声が聞こえてきた。

 

「いやぁ姫島さんのようには行きませんねぇ。数日目を掛けてたのに駄目でした」

【そうか】

「……それで、桐山……与一クン? にちょっかいかけてこいって話でしたよね。殺してこいと?」

【馬鹿か】

「シンプルな罵倒が一番辛いんですよ」

 

 電話の向こうで、姫島は顔を覆いながらため息をついているのだろう。

 そんなイメージが容易く出来るやりとりを幾度となくしている青井は、次の言葉を待っていた。

 

【……桐山与一は無貌の神(ひととせまどか)のお気に入りだ。今現在の俺たちがこそこそ悪さ出来ている理由は、日本に顕現しているアレが、どういうわけか一人の男にご執心だからというだけに過ぎん】

「あー、結構ガチ目のLOVEなんですね」

【アレ系統の神格に、そんな感情があるとは思えなかったが……何事にも例外はある、か】

「そういうものなんじゃ? 私も人間の姿を取っているからか、わりと思考は人間寄りですし」

【とにかく、桐山与一と接触を図れ。ヤツが白痴教(こちら)側のことをどこまで把握してるか確認したい】

「ははぁん」

 

 ──なるほど。と脳裏で呟くと、青井は合点がいったように続ける。

 

「りょーかいしました。……そういえば、随分と無貌の神に詳しいですね」

【ああ。……ああ、まだ言っていなかったか】

「はい?」

【一つ、怖い話をしてやる】

「えっなんですか急に」

 

 姫島の声を耳にして、思わず身構える青井。それから一拍置いて、彼は言った。

 

【7年ほど前に、白痴教のとある支部に等身大の機械人形が運び込まれていたことがあとになって発覚した。支部の管理者はその人形を神のように崇めていたんだが……そいつは当時のまだ乗っ取られていない頃の春夏秋冬円花と、コンビを組んでいた明暗丞久の二人掛かりで破壊されたらしい】

「え?」

【その機械人形こそが、白痴教に入り込んでいた無貌の神────チクタクマンだったわけだ。さらりと喉元に迫っていた相手を警戒するのは当然だろう】

「…………ひぇ〜っ」

 

 背筋に氷を入れられたようにぞわりと身震いさせる青井。無いはずの鳥肌が立つのを感じて、思わず後ろを振り返り誰も居ないのを確認する。

 

「……うへぇ、マジで怖い話するのはズルでしょうよ。……全く、そろそろ彼女らが来そうなんで、私もう電話切りますよ?」

【そうか。夜道には気をつけろよ】

「だからさぁ〜〜〜!?」

 

 姫島のからかうような声を最後に、声を荒らげる青井は電話を切るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──あれから二日後、ゴタゴタしていたらしい小雪が探偵事務所に訪れてくる。

 ファイルを片手に、どこか妙なテンションの高さのままに口を開いた。

 

「反省会を始めまーす、ハッキング弾を装填した銃を登録して【召喚(コール)】出来るようにしておけばもう少し楽に戦えました。はい反省会終わり!」

「か、勝手に始まって勝手に終わった……」

『テンションがイかれてるけどどしたの?』

「クビになったか。あたしらとここで働く?」 

 

 奇行を前にどう対応するべきかと口角をひくつかせる葉子と、所長用デスクの縁に腰掛けてゲーム機を弄っている結月、そしてとりあえずとテキトーに淹れたお茶を置く真冬に小雪は言葉を返した。

 

「いえクビにはなってません。証拠隠滅の範囲内だった深景ちゃん──擬態ショゴスを助けたのがバレてしまったので給料が暫く3割引になっただけです」

『普通にキチぃやつじゃん』

「あと調べ物が徹夜だったので気分が高揚しているだけです」

「普通にキチぃやつじゃん」

 

 結月と真冬に一言一句同じツッコミをされながらも、そういえばと葉子を見やる。

 

「葉子さん、頭の怪我はどうですか?」

「ええまあ、酷くはないです」

 

 小雪の問いに、葉子は頭に巻いた包帯を指で触る。ホームセンターでは顔を鮮血で真っ赤にしていたが、それは額の傷が原因らしかった。

 

「額の出血は大したことがなくても派手に出ますからね、それにあの時は怒りも相まって興奮状態で、怪我の痛みも感じてませんでしたし」

「いやあ、凄かったですね。ホームセンターのあの惨状を見た記憶処理担当と清掃担当がえげつない顔してましたもん」

「その……すみませんでした……」

「とまぁそれはさておき──」

 

 と言葉を区切って、小雪がその手に掴んでいたファイルをテーブルに置いて広げる。

 

「あの時、周辺を索敵したところ、真っ二つにされたあの女の遺体を発見しました」

「……あたしらにすぐ帰れっつってタクシー呼んだのはそれが理由か」

『うげぇ、真っ二つ? あのダメージなら勝手に死んでたのに、わざわざ誰かが殺したってこと?』

「ええ。……それで、色々と調べたところ彼女の正体が判明したんですよ」

 

 そう言って、小雪は広げたファイルのうちの1ページを見せる。

 そこには事件の記事と小学生の顔写真──見間違えていなければ、それは深景を追っていた件の落とし子の適合者だった。

 

「──成宮(なるみや)杏子(あんず)。9年前、当時11歳だった彼女は突然失踪し、それから暫くして捜査は打ち切り。年数から察するに、当時4歳だった私と同じように誘拐されて、適合実験に利用されたのでしょう」

「あの液体を体に入れる……おぞましいですね。小雪さんもあの女性もよく生きてましたね?」

 

 葉子に問われて、あっけらかんと返す。

 

「私は全身の水分の7割くらいを抜かれましたが、成宮杏子は約3〜4割ほどでしょうかね。彼女の落とし子の量は私より少なかったので」

『小雪さんなんで生きてんの?』

「なんで……なんでですかね?」

 

 具体的な理由など、自分は愚か連盟組織のメンバーですら把握していないため、小雪は結月に聞かれても首を傾げるしかない。

 

「なんで生きてんの? はお前にだけは言われたくねえと思うぞ」

『いやぁまあそりゃそうだけど。ねー小雪さーん、私の体のこととかなんかわかんないの?』

「ん? ああ、そうでした、それも調べていたから寝られなかったんですよ」

『うい?』

 

 広げたファイルを閉じて、お茶を一口啜る。小雪はそれからデスクで最新ゲーム機の小型版を器用に扱っている結月を見ながら言った。

 

「とはいっても、現状把握できていることを纏めただけなんですがね」

『現状?』

「まずデフォルトで【浮遊】の魔術を息をするように扱えており、その自覚をしたことで物を持ち上げられるようになった。更には人格に人間時との変化は無く、食事・睡眠も行える。……ちなみに性欲は?」

『え、無いけど。これは人間の時から薄いから…………いやこの話はやめよっか』

「で、動くための燃料は少量の魔力と。ここまでの情報を纏めたとき、ふと思ったんですよ。──これは()()()()()()のでは? とね」

 

 その結論に、真冬たちは驚愕の表情でそれぞれが小雪の顔を見る。

 

『いやいやいや、私は人形オタクの女に魔術掛けられてこうなったんですけど???』

「確かにそうですが、彼女は外国から送られてきたメールに唆された側なんですよ。でもなぜ、黒幕(仮)はそんなことをしたのか? つまりこの魔術を作った人物には、わざわざ【人形化】というとてつもない魔術があることを我々にバラす理由がある」

「理由って?」

「それは知りません」

「おい」

「ですが、こじつけにも近い私の推察で、可能性を提示するとしたら2つ」

 

 真冬の言葉に肩をすくめて否定する小雪は、ジトッとした目を向けられながら更に続けた。

 

「1つは、情報を明かすことそのものが目的の可能性。2つ目は、魔術の実験をした可能性」

「……穴だらけですね、この推察」

「そうなんですよ葉子さん。これらの可能性には疑問がありすぎる。それはすなわち、どうしてあの女性にメールが送られ、結月ちゃんが狙われたのか」

「ランダム選出なんじゃねえの?」

 

 薄く笑いながらの言葉に、苦笑を浮かべる小雪のため息混じりの声が返ってくる。

 

「──と言われたらそれまでですけど。では敢えて、()()()()()()()()と仮定しましょう」

『あの人形オタク女が選ばれて、私が狙われて、【人形化】がこっちの魔術師組織にバレることには全部意味がある…………無理がない?』

 

 片手間で頭上にゲーム機を浮かせて遊ぶ結月を横目に、真冬と葉子が口を開いた。

 

「この際、バレるはバレるでも、誰に知られるのかが重要なんじゃないの。あたしらの一件で与一に、与一を通して秋山さんと小雪さんに」

「そして与一くんの先輩である明暗さんにも伝わった……これが目的だ、と?」

「…………。あの、真冬ちゃん」

「あん?」

「貴女のご両親、お元気ですか?」

 

 ふと、小雪の質問が真冬の神経を逆撫でする。疑っているのか? という怒りが湧いたが、けれども小さく深呼吸を挟んで返答した。

 

「小雪ちゃん! 流石にそれは……」

「いいよ葉子さん。──ま、疑うよな。人形化事件と魔術師(よいち)の中間に居るあたしの両親が、都合良く身近に居ないんだから」

「前に与一くんから聞いたことがありますが、確か海外に居るんでしたよね?」

「ん。母さんと親父──有栖川千夏(ちなつ)春秋(はるあき)は、イギリスで細菌やらウイルスやらの研究をしてる。昔流行った病気がもしまた発生したらどうするか……とか色々と考えてるらしいわ」

 

 思い出そうとして腕を組みながら視線を斜めに上げる真冬に、小雪は更に問う。

 

「魔術師である可能性は?」

「無い。少なくともガキの頃に魔術の『ま』の字も口にしてた覚えは無い」

「……考えすぎ、ですかねぇ。ごめんなさい真冬ちゃん、嫌な聞き方をしました」

「はっ、どうせ何時かは聞かれることでしょ。一瞬イラッとしたけど、一々気にしてられないわ」

 

 頭を下げる謝罪を受け取りつつさらりと流し、真冬は自分の分のお茶を啜る。

 彼女の言っていたことを脳裏で反芻させていた結月が、デスクの上で足を組みながら聞き返した。

 

『…………千()()()、真()……えっ、もしかしてそういうノリのやつ?』

「母さんがあたしの名前を考える時に、『私が夏だから娘は冬で!』って感じで決めたらしい。親父はイギリス人だったんだけど、そのあとに名前をこっちに合わせて改名したんだとさ」

『命名雑ゥ〜〜〜。有栖川家のそういう面白エピソードって他にないの?』

「そういうのは与一に聞いたほうが────そういやあいつ帰ってこねえな」

 

 ふと、そんな事に思い至る。二泊三日の旅行であるならば三日目の今日に返ってくるはずだし、何より()()()()の人物が連絡を寄越さないのはおかしい。

 

 そう思考して、真冬が口を開こうとしたとき、葉子の懐の携帯が着信を知らせた。

 

「……あ、噂をすれば与一くんからメールです。ちょっと確認しますね」

「なんであたしに送ってこないわけ?」

『めんどい拗らせしないでくれる?』

 

 幼馴染が自分ではなく別の女に連絡する光景を前に、真冬の眉間のシワがこれでもかと深くなる。

 メールを送られてきた葉子は睨まれていることなど露知らず、携帯を手に内容を黙読するのだが──彼女は真冬に負けず劣らずのシワを眉間に作った。

 

「……? どうしたんですか」

「いえ、あの……与一くんからのメール、なんですが……『未亡人の復讐を手伝うことにしたから帰るのが少し遅れるかも』……とのことで」

『なんてぇ?????』

 

 結月がすっとんきょうな声を出さなければ、小雪か真冬が代弁していたことだろう。

 葉子の読み上げた文面をそれぞれが頭の中で咀嚼して理解すると、全員が揃って呆れた顔をした。

 

「やっぱりあの子、()()()()人ですねぇ」

「あいつは妙な女としか関われない呪いに掛かってんのか?」

 

 いったい旅行先で何があったのか。その質問をしようにも、張本人は帰って来ない。

 

『……まあ、帰って来てから何があったか聞けばいいんじゃない? ソフィアも連れてるんだから変なことだけはしないでしょ』

「現在進行系でしてる気がするのだけれど……」

「私としても与一くんの奇行を一緒に確認したいところですが、そろそろ帰りますね」

『帰っちゃうの〜?』

「こちらも秋山さんと丞久さんが南極から帰って来るまでは、私が頑張らないといけないので」

「あ、見送りますね」

 

 ファイルを脇に抱えて、立ち上がった小雪は会釈してから玄関に向かう。

 葉子が見送りに行くのを見届けて、真冬がおもむろに携帯を点けて待受を見る。

 

「……これからも忙しくなりそうだわ。そこで見ててよ、深景」

 

 画面には、真冬と深景、葉子、小雪で腕を組み合わせて大きなハートマークを作り、中心で結月がピースサインをする写真が写っている。

 

 恥が混じってぎこちなく苦笑いする真冬、年相応ににこやかに笑う小雪と結月、成人している自分がやることなのかと恥じらいながらもポーズを取る葉子、そしてよく分かっていないながらも、未体験の遊びを楽しそうに経験する深景。

 

 その全てが、これ以上が存在しないとばかりに貴く煌めいていた。

 

 

 ──これは、一人の人間(まふゆ)と一匹の怪物(みかげ)が、もう二度と確かめようのない友情を得るまでのお話。

 きっと、深景という一人の少女が見せた笑顔を有栖川真冬が忘れることは、一生無いのだろう。

 

 

 

 

 

『完』




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深景 (0/♀)
・とある研究所で実験のために、既に死亡した人間の遺伝子情報を取り込まされて擬態させられたショゴス。擬態を維持するための『(コア)』を破壊された為に数日の命だったが、たったの数時間だけだとしても、かけがえのない想い出を得られて笑顔で消滅できた。

成宮杏子 (20/♀)
・小雪と同じように幼少期に誘拐され、落とし子の適合実験に利用されていた。
魔術師組織である白痴教の幹部になるためのテストを受けたが、小雪と同じ任務内容で研究所を潰そうとした際に鉢合わせし、抹殺対象の深景(ショゴス)を連れて行かれた為に追跡を余儀なくされる。
最期は落とし子を抜かれた体を細波青井に真っ二つにされて死亡した。

細波青井 (?/♀)
・数年前にオリジナルの細波青井の脳を取り込み、ショゴスロードへと進化した存在。
現在は白痴教幹部に属しており、定期的に有用そうな人物をスカウトしている。

姫島 (?/♂)
・白痴教の教祖。青井曰く、最強の魔術師。
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