とある探偵たちのクトゥルフ神話事件簿   作:兼六園

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人と神格の境界 2/6

 ムスッとした表情の少女が二人、上着と顔をボロボロにした状態で、会議室に並んで座っていた。

 

「で、どっちが勝ったんだい」

「私だ」「ボク」

「あ?」「は?」

「うんうん、喧嘩するほどなんとやらだね」

 

 机を挟んで対面に座る白道は、二人の少女──丞久と円花を横目に報告書を読んでいる。

 ビル内の敵性魔術師30名中27名死亡、3名重軽傷。それは先んじて侵入した円花による犯行であり、重軽傷者は丞久に助けられた者たちであった。

 

 ──なるべく生け捕りにしろと言っておくべきだったか。と脳裏で独りごちる白道は、ガタリと席を立つ円花に視線を向ける。

 

「ボクは次の仕事まで寝る。……()()、部屋には来るなよ。来たら殺す」

「わかったわかった」

 

 しっしっ、と手を手を振る丞久にフンと鼻を鳴らして返し、円花はボロボロのコートを脱ぎながら会議室の扉をバタンと閉める。

 肘をついてため息をつく丞久は、肩を竦める白道と顔を合わせて苦笑をした。

 

「円花がちゃんとキミの名前を覚えているじゃないか。なにかコツでも?」

「【障壁】をぶっ壊して、何発か顔面にぶち込んでやっただけだ。……あいつの部屋に行ってマジで殺された奴とか居んの?」

「彼女を気に入らないからとイタズラしに行って半殺しにされた奴なら何人か居るよ」

「学ばねえなあ。まあ、円花はなんというか、言うなればクソガキだからな」

 

 痛みと疲れで軋む体を動かして、ぎこちなくコートを脱ぐ丞久は、円花の言動と行動を思い返してそう評するしかなかった。

 

「──なんで組織に入ってすぐの私があいつと組まされたのか、については良く分かった。だってお前らに()()()()()()()()んだからな」

「…………そうだね」

「円花が幼稚なのも、バケモノ扱いばかりで人として接してきた奴が居ないからだろ。能力が能力だからあいつ自身もそれを受け入れてるのが救えねえ」

 

 丞久の言葉に、白道は何も言い返さない。なぜならその通りだからこそ、言い返せないのだ。

 

「……でも、そんなあいつが白道の名前は覚えてるってのはそういうことなんだろ」

「だと、いいのだけどね」

「ひとまず今後は、組織に慣れながら円花の相手もするって感じか。同年代があいつ以外に居ないのは私としてもキツいもんがあるな……」

 

 連盟組織は軍と警察と魔術師の集まりであるため、その大体は成人している。

 けれどもふと、丞久はそういえばと訓練室で見た子供の姿を思い出した。

 

「そういやぁ、あの子供は誰なんだ?」

「……ああ、御剣(みつるぎ)クンか。あの子は御剣リオンと言ってね、グールと魔術師のハーフなんだが……血が好物の変わり者でね。今は教育中なんだ、暫くしたら構ってあげてもらえるかい」

「ふーん。ま、考えとく」

 

 丞久はそう言って円花と同じように立ち上がると、凝り固まった関節をほぐすように腕を回す。白道を残して部屋を出て、組織内に宛てがわれた自室に向かう途中、なんとなく円花の顔を思い返した。

 

 

「……こんな扱われ方をしてたら、そりゃあ、私に()()()()よな」

 

 敵性魔術師を巻き込んだ戦いの最中、自分について来られていた丞久を前にした円花の顔は、嬉しそうだった。期待していたのだ。

 

「仕方ねえから、仲良くしてやるか」

 

 ──向こうにその気があるならな。とは付け足さず、胸に秘めておくのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 ──早くも1年が経過し、丞久が連盟組織に馴染んできた頃。食堂でラーメンの炒飯セットをかっ喰らう彼女と円花に白道が言う。

 

「白痴教、って知ってるかい」

「知らん。丞久は?」

「知らね〜〜〜」

「だろうね。……簡単に言えば、魔術師が作り上げた宗教団体だ」

「へー。それを私らに潰してこいと」

「厳密には違う」

 

 資料を取り出した白道は、それをテーブルに置いて二人に見えるようにする。

 無遠慮にラーメンを啜る円花の口許から飛び散るスープがピチャピチャと書類に跳ねて、白道の額に静かに青筋が浮かび上がった。

 

「世間一般における白痴教は健全な宗教団体だ。けれども裏では魔術師らしく暗躍しているわけだね、キミたちには……これを見つけてほしい」

「なにこれ、等身大の人形?」

「センス悪っ」

 

 書類の束をずらして見せた写真。大きな人形が建造物に運び込まれる光景とそれを運んでいる男の姿を写したそれを、二人は訝しむように眺めた。

 

「白痴教のとある支部に運び込まれたモノなんだが、こちらの調べによると、あの人形は神格である可能性が高いと判断された」

「人形……神格、といえば……無貌の神か? チクタクマンとかいう名前のカラクリ人形があいつの別の姿だったはずだが」

「それをボクらに潰してこいと」

「血気盛ん過ぎやしないかい」

 

 これが思春期か、と見当外れの思案をしつつ、白道は汁の跳ねた書類を束ねて二人に渡す。

 

「……さて、食べ終えたら向かってくれたまえ。()()()()()()()()()()()()()()()()が、魔術師の宗教団体に無貌の神が介入するのは不安だからね」

「了解了解。まあボクらが行くのが適任でしょ、うちの連中ザコばっかだし」

「そんなことばっか言ってるから孤立するんだろ、お前なぁ……」

 

 丞久と円花は席を立つ白道を見送って、それから食べ終えるやいなや書類に記されている住所を確認して円花が【門】を開く。

 

 近場に転移した二人は、都心に建てられた白痴教支部──宗教団体の施設の存在に呆れた顔をして、それから片手にそれぞれ刀と三節棍を喚び出してから静かに【人払い】を展開した。

 

 

 

 

 

 

 

 ──施設に隠されていた地下、そこに広がる裏の顔。白痴教信者に紛れていた魔術師たちの存在を前にして、丞久と円花──間違いなく最強の一角と言っても過言ではない二人は蹂躙していた。

 

「ザコ、ザコ、ザコ。一つ飛ばすまでもなく全員ザコ……あーあー。つまらない」

「お前が相手なら大抵の敵は雑魚だからな」

 

 飛んでくる魔術を首を傾げて避けつつ、円花は左手で印を結ぶ。右手に握る三節棍で槍を構えて接近してきた魔術師を殴り飛ばしてから、一言呟いた。

 

「【完全顕現:星の精】」

 

 その言葉の直後、十字路の左右に隠れていた魔術師の二人──男女が見えない何かに締め付けられながら持ち上げられる。

 

「っ、なん……!?」

「がッ!? す、吸わ、れ……」

 

 魔術師たちの体に巻き付いている何かが、不意にその()()を突き刺すと、()()は二人の血液を吸い出して、見えない体の輪郭を浮かび上がらせていく。

 

「やり過ぎるなよ、ほどほどで解放しろ」

「えー、めんどくさ……4割くらい吸ったら解放させるか」

「死ぬわバカタレ」

「おッぐ」

 

 拳で頭を殴られて、円花は渋々と血を吸われてぐったりしている魔術師たちをすぐに解放する。

 床に倒れる二人を置いて先を行くと、最奥にある頑丈な扉を目にして、顔を見合わせた丞久が代表してドアノブを捻り開け放つ。

 

 するりと中に入った丞久と円花がそれぞれの得物を構えながら周囲を見回すと──二人の侵入を感知したかのように暗い部屋がライトアップされる。

 パッパッパッと手前から奥に順番に点けられていくライトに照らされたのは、写真で見た通りの機械仕掛けの体に衣服を身に着けさせた人形だった。

 

【「……来タか」】

「へー、今どきの機械は喋るのか」

「喋る機械ならペッパーくんとかが居るだろ」

【「一緒にスるナ」】

 

 豪華な椅子に座っていた人形は、そう言ってカラカラと音を立てながら起き上がる。

 ハットを被り、ロングコートを着込み、人形──無貌の神(チクタクマン)は、顔に該当する部分でグルグルと回る歯車を二人に向けて、無いはずの口で言葉を続けた。

 

【「連盟組織は優秀ダ。だかラ、()()()()姿を見せレば食いつクと思っテいた」】

「ふん、わざと姿を見せて怪しませたって言いたいのか? これからボクらにぶっ壊される奴がしてやったりみたいに言うなよ」

【「春夏秋冬円花。知っていルぞ、私ハ、お前に会いタかったノだからナ」】

「お前モテモテじゃん」

「嬉しくないんだけど」

 

 そう言いながら、二人はそれとなく奇襲を気にして辺りを見回し続ける。

 円花は万が一を考えて展開していた【人払い】の範囲を『施設を覆う大きさ』から更に拡張して────足元から感じ取った強烈な違和感を感知して、隣に立っていた丞久の襟首を掴んで後ろに投げた。

 

「なっ」

「……(コス)いやり方しやがって」

【「さア、遊ぼウか」】

 

 チクタクマンが指をくいっと上に向ける。その動きに合わせて床を粉砕しながら現れた蛇のような怪物──忌まわしき狩人が、円花をその大口で噛み砕かんばかりに咥えて外へと飛び上がる。

 

「く、そっ、たれ……!!」

 

 もう1匹の忌まわしき狩人が床を砕いて現れると、チクタクマンはそれに掴まって同じように飛び上がろうとする。

 

 丞久は反射的に【黄衣の王(ハスター)】を起動しながら刀を逆手に持ち、羽ばたいて飛翔するその体に刃を突き刺して相乗りするのだった。




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