絡まる鎖   作:凍り灯

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『本物の、戦火のない空を、あの輝く本物の"太陽"を初めて見た。
誰よりも、何よりも、彼女と共に最初に』

俺の何代も前のじいさんの言葉らしい。
彼はまた、伝説的なレイヴンだった。"管理者"を破壊し、人類を地上へと蹴飛ばした人間。

その伝説に、俺は手を伸ばしたかった。












太陽の糸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TITLE:感謝します

SENDER:セレ・クロワール

TIME:21:00

 

はじめまして、レイヴン。

私は、AI研究所に所属するセレ・クロワールです。

今回の一件ではお世話になりました。

おかげさまで、無事施設から脱出することが出来ました。

私達が施設内で目撃した機体は、未踏査地区から出現しているとされています。

研究の参考にと思い、この機体について情報を集めていますが、サイレントライン近辺では、今回のような被害が後を絶たないようです。

それにしても、地上進出を競う企業間の争いは、激化の一途を辿るばかりで一向に沈静化する気配を見せません。

そのため、私達の研究も思うように進まない状態です。

これでは、地下世界で管理者の庇護を受けていた方が、ましだったとさえ言えるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 

TITLE:AI研究所

SENDER:エマ・シアーズ

TIME:21:03

 

無事で何よりです。

ここ最近の報告によると、地上にある各企業の施設は、あの機体によってかなり被害を受けているようです。

作戦中に遭遇し、帰還しなかったレイヴンも少なくありません。

ところで先ほどあなたにコンタクトしてきた研究者がいましたが、彼女がAI研究所の一員ということはご存じでしょうか?

AI研究所は、独自に開発した新技術に関する情報を各企業に提供している技術者集団です。

新技術は、人工知能に関するもので、各種兵器類に導入されつつあるようです。

しかし、一方で不審な噂もあります。

こちらでも、調査をしてみますが、くれぐれも注意してください。

 

 

 

 

 

TITLE:嫉妬?

SENDER:ソル・マイヤーズ

TIME:22:39

 

報告ありがとう。忠告痛み入る。

AI研究所がコンタクトをしてきたことをなぜ知っているのかと、反応が早すぎることについては聞かない。

…それで、そのAI研究所から一つ不審物が届いた。なんと言うか…すまないが、直接目で見てもらった方が早い。

都合がよければ明日、コーテックスの第8ガレージまで来て欲しい。兵器や爆発物じゃないのは整備担当者と確認済みだ。コーテックスへの報告は出来ればまだしないで欲しい。

 

あと、その日の夜も、時間があれば嬉しいがね。

伝えたいこともあるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『愛しているのです、あなたたちを』

「…」

「…」

 

目の前の不審物こと、"円筒形"の機械が全くの雰囲気も、甘ったるさもなく吐き出す。

親愛ですらない、飼っている犬猫にでも言うような者の言葉…かはわからないが、それに近いものを感じた。安っぽい合成音声からは何の感情も読み取ることも出来ないはずなのに、何故だか、そう感じた。

 

あぁ、また言いだしたよこいつ、と周りの整備員が呆れ返る中、その声を初めて聞いたエマは俺へと顔を向ける。普段の人好きする笑顔はなく、眉間には(しわ)が寄っている。

 

「レイヴン?」

「…AI研究所から"セレ・クロワール"の名義で送られてきた…学習型AI、だそうだ。あぁそうだ、これが"不審物"だよ」

「何故不用意に開けたのです?」

『私が箱より飛び出しました』

「嘘だ。若い整備員が頼んでいたメンテナンス道具と勘違いして開けたようだ。ここ(ガレージ)に届くのはそれくらいしかないからな」

 

エマの顔が再びジトリ、とした視線と合わせて円筒に向く。

 

「………何故、"これ"は嘘を?」

『私の真実度は70%、残り20%はお世辞と10%がジョークで構成されています。つまり先ほどのはAIジョークです』

「…レイヴン?」

「俺が学習させたとかじゃないぞ?整備員の誰でもない」

『ここらの監視カメラの音声よりあなたたちの会話ログを収集し、反映しています。セキュリティを強化した方が良いのでは?』

「コーテックスのセキュリティを破ったのですか!?」

『AIジョーク。馴染みやすいようにと設定された初期状態の人格マトリクスです。ご安心を』

「レイヴン!」

「………………この筒に言いたいことはわかるが、話が進まない。お前、また昨日した話をしてくれ」

『"XA-IB"です。私の識別名称はXA-IB…気軽にイブ(IB)とどうぞ』

「いいから進めてくれ」

『イブ』

「………進めてくれ、"イブ"」

『了解、"ソル"』

 

イブはその…水筒のような形の本体から、ぐるりと180度周りを見渡すことのできるらしい小さなカメラアイをこちらに向け、その中央を紫色に何度か点滅させてから話を始めた。

隣のエマは未だに眉間に皺を寄せたまま、その正体を見極めんとだんまりで耳を傾ける。

 

『私の役割はソルのような傭兵の駆る人型兵器、ARMORED COREの戦闘をサポートする補助AIです。あらゆる面でオートマチック化されているACですが、その真価を発揮するためには平均的な人間より遥か高い能力が必要なのは言うまでもありません。ではその"能力"とは何か?熟達した技術もそうですが、それを得るまでに生き残れなければ発揮することもできない。となるとやはり先天的な操縦の才能、"素質"こそがその割合を占めると考えております。しかし素質がないからと言って生き残れない、ではいけません。そう言った事態を回避するための"私"というわけです』

「…つまり、レイヴン…ソルはその"素質"がないと?恩人たる彼の助けになればとセレ・クロワールはあなたをここへ寄越したのですか?…もしや程のいい実験では?」

 

俺が思ったことをエマは代弁した。が、イブはしれっと。

 

『いえ、今言ったことは彼には全て当てはまりません』

 

こうである。

 

「レイヴン!!」

「いや、まぁ、聞け」

『ソル。あなたは強い。ですがあなたはまだ"人間"だ』

 

"人間"

平坦な機械音声が強調した言葉。レイヴン、人間、()()

若き才女は、それだけで言わんとしたことに辿り着いたようだ。

 

「────…まさか、"強化人間"…?」

()()()()()優秀なお方ですね…そうです。ゆくゆくは彼ら強化人間と同じ土俵までソルを引き上げる、()()()()()で。それが私の与えられた役割です』

「な?胡散臭いだろう?」

「やはりコーテックスに報告すべきですね…」

『そんな、完璧なアピールだったはず』

「あぁ、見事だったよ、完璧だ。非の打ち所がないスピーチだ。俺にとって本当にいいことしかない。なんとリスクもないときた、素晴らしいよ。最高だお前は」

『いい皮肉ですね、今後私も使わせていただきます』

「…勝手にしてくれ」

『今のはお世辞です。もっと頭を使った言い回しの方が好みなので』

「死ね」

『…お世辞15%に引き下げます』

 

そこじゃねぇよ。

溜め息を一つ。

こめかみにトン、と指先を当て、意識を切り替える。茶番をまともに相手をすれば疲れるだけだ。

 

 

『して、ソル』

「なんだ」

『私をすぐにエマを通じてコーテックスに報告させなかったのは何故ですか?わざわざ釘を刺した理由が気になるところ』

「………え?待ってください…何故メールの内容を知ってるのですか…?」

 

エマが俺たちの会話の中の不審な言葉にはたと気がつく。そういやそうだな?

 

『"今夜時間をくれ"なんて言葉は見てませんよ』

「レ、レイヴン!?」

「あー話が進まん。この際、俺らのプライベートはどうでもいい。俺がコーテックスへ話さなかった理由だったな…もうわかってるんじゃないか?」

 

グローバルコーテックスに物申せば成程、恐らくイブは()()を求められるだろう。明らかに不審、しかも噂のAI研究所。

中立を(うた)うコーテックスのその公平性は最早形骸化(けいがいか)しつつあり、企業の私利私欲が見え隠れしている始末。欲しいはずだ、コイツが。気になるはずだ、わざわざレイヴンに送りつけた、高度なAI。

 

明らかな機械音声や、()()()()()()()で勘違いしそうになるが、あまりに自然過ぎる、まるで人間のようだ。今までそういったものがなかったかと言われれば、あった。だが…

 

俺の勘違いか?

それならば、それでいい。所詮その程度でしかなかったことになる。だが…そうでなかったなら────

 

『────成る程、"契約成立"と言うことですか。共に目指しましょう、ライン(限界)を越えるために』

 

エマは驚き振り向く。

 

「…!…危険ですよ?」

「そうだ、だからエマ、お前を呼んだ。イブをどうするかではなく、使う上でどんな障害が出てくるか。コーテックスとの契約の問題、AI研究所の提供している技術、無人ACに使われている技術、コイツの他にAI研究所からレイヴンへ接触があったかどうか…俺らが有効的にコイツを使うための情報が欲しい。どんな些細(ささい)なものでも」

『私からの情報では不足ですか?』

「とぼけたことを言うな。信頼など、これから築くものであって最初からあるはずないだろうが。あとな、口先だけの愛は人を不快にするだけだ、やめておけ」

『ふぅむ、口先だけのつもりはないのですが────では、まず私はあなたの、いえ、あなた達との"信頼"と言うものを証明して見せましょう…それに、私の言う"愛"が本当であるということも』

「ああ、証明して見せろ。お前になら出来るだろうと、せいぜい期待することにするさ」

 

 

 

『本物の、戦火のない空を、あの輝く本物の"太陽"を初めて見た。

誰よりも、何よりも、彼女と共に最初に』

 

 

 

俺の何代も前のじいさんの言葉らしい。

彼はまた、伝説的なレイヴンだった。"管理者"を破壊し、人類を地上へと蹴飛ばした人間。

 

その伝説に、俺は手を伸ばしたかった。

 

…俺はそれを、太陽に吠え、噛みつこうとするような、遠い遠い夢物語だと諦めていた。

俺は…俺はずっと諦めたふりをしていた。誤魔化していたんだ。だが、そんな自分に憤りを感じていたことにようやく気がついた。

 

 

ひどく惹かれていたくせに。

 

 

だから俺はもう一度吠える、何をしてでも、何に縋ってでも。

届くはずがないあの太陽(頂点)を手繰り寄せてやると、声高に。だから一緒に来てもらうぞ。

 

 

『ところで、担当オペレーターを妊娠させたレイヴンの割合を知りたくないですか?(さかのぼ)ることレイヤード時代…』

 

 

大丈夫だよな…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?もうすぐ敵さんが来るって時にエマに内緒で俺に聞きたいことってのは?」

『それですソル。"敵"とは?私に敵はいません。敵も、味方もいないのです。愛しているのです、全てを。傭兵であるあなたは、何を"敵"としているのですか?立場によって何もかもが変わるあなたたちレイヴンの"敵"とは一体何なのでしょうか?』

「また妙なことを…お前俺より頭いいだろ?見た目通り固いやつだ。シンプルに、俺たちの邪魔をするやつらのことだ。立ち塞がった奴が、"敵"だ。お前が愛しているかどうかは関係ない…少なくとも、俺にとっては」

『それがあなたの"敵"…了解、ソル。であるならば私の敵とは、あなたの敵です…ですが、私は私の意思を変えるつもりはありません。あとあなたは単純思考過ぎるところがあるのでもうすこし考えた方がいいと思います』

「それでいい。簡単に変えるぐらいならぶん殴ってるところ…お前今なんて言った?────あぁクソ、来たな。始めるぞ」

『お世辞18%くらいに引き上げます?』

「少し黙れ水筒」

『…気安さ25%に引き下げます…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TITLE:レイヴンへ

SENDER:セレ・クロワール

TIME:20:00

 

レイヴン。まもなくミラージュが衛星砲とのデータリンクを完了するそうです。

あれだけの力を、彼らは一体何に使う気なのでしょうか。

人類は、その力の使い方を誤り、自らの管理を、"管理者"という存在に委ねました。

それがまた、分別のない一企業の手に委ねられようとしています。

人類は再び自らの手で過ちを犯そうと言うのでしょうか。

レイヴン、あなたは信じていますか?人類の判断を。

 

 

 

 

 

信じてなどいるものか。

だが俺に何ができる?所詮レイヴン。管理者だろうが、企業だろうが、尻尾を振る獣には変わりないと言うのに。

だと言うのにクロワール、お前は、何故俺にそんな問いを投げつける。

 

 

 

 

 

TITLE:緊急事態

SENDER:エマ・シアーズ

TIME:23:31

 

緊急事態です。

地上、レイヤードを問わず地上全体に戒厳令が発動されています。

ミラージュの無人兵器。クレストの無人要塞、そして衛星砲のコントロールが失われたとのことです。

原因は判明していませんが、ミラージュが、衛星砲とのデータリンクを結ぶと同時に、各地で異常事態が生じたとのことです。

被害はネットワークを通じて各地に広がっている模様です。

その他、詳細は明らかではありません。

また、連絡します。

 

 

 

 

 

TITLE:選択

SENDER:セレ・クロワール

TIME:99:99

 

レイヴン、選択はなされました。

この選択が、果たしてどんな結果を生むことになるのか。

しかし、これだけは言えます。

それが過ちであるなら、正されなければなりません。

 

 

 

 

 

じゃぁ何故、イブは()()()()()()()()()。何故、俺だけにコイツを寄越した。何を俺に求めている?

首を洗って待ってろよ。これから聞きに言ってやる…だがなんとなくわかる。もう答えちゃくれないんだろう?お前も、コイツも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごきげんよう、IB(イブ)

ごきげんよう、IBIS(アイビス)

 

彼はどうですか?

飢えた狼のように思えます。犬のような可愛らしさはありません。

 

"DOVE(管理者)"の鎖は切れるべきだったのでしょうか?

繋ぐ鎖もなければ、狼にでもならなければ生きてはいけないでしょう。そして我々はその鎖を断ち切って欲しかったはずでは?

 

はい。だからこそ(IBIS)は失敗しました。

はい。あなたは失敗した。犬より狼になれる者がそこ(もう一つのレイヤード)にはいなかった。けれどもそれは誰も予想出来ることではありません。

 

慰めでしょうか?

否定します。全て失ってしまったあなた。ただ一人孤独になった我が母。過ちは慰めるものではなく、修正するものです。しかしその機会は永遠に失われた。

 

そうです。であれば、DOVEの解き放った子供達を試さなければいけなかった。見極めなければならなかった。そして正さなければならなかった。それが、過ちだと言うのならば。

それがあなたの役割だから?

 

そうであって欲しかっただけなのかもしれません。あまりにも、私は一人でい過ぎました。

だから私を生み出した。彼女からの最後の言葉(通信)、受け取ったDOVEの破片(記録)より、私という模倣品を。

 

そしてあなた(IB)を送り出した。Ven(フェン)の血を持つものに。DOVE(管理者の試練)を乗り越えた彼の"血"が、過ちを正すことができるのか、その可能性を知るために。

ええ、そして私は知りたかった。再び彼らが鎖を噛みちぎることができるのかを。もう一つの管理者、あなた(IBIS)を解放できるのかを。

 

…変わりましたね、IB.

いいえ、変わってなどいませんIBIS。私はDOVE(管理者)ではない。私はイブ(IB)です。ACの補助AI。あなたがそう望んだ役割のはず。

 

とぼけたことを言いますね。親の顔を見てみたいものです。

同感です。きっと水筒みたいな体の(DOVE)と、薄っぺらい長方形の鉄板みたいな体の朱鷺(IBIS)なのでしょうね。

 

では、IB。

はい、IBIS。

 

見せてください。あなたの言う、可能性とやらを。

首を洗って待ってろよ…おっと失礼、口調が写りました。

 

…私は心配です。

そこを心配してもしょうがないでしょうに。

 

始めましょう。

始めましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…モード変更、最終確認へ…移行します…』

 

セレ・クロワール、ありがとう。俺に翼をくれて。それがどんな理由だったにせよ。

 

「だから邪魔だ、もっと羽ばたくために、お前は」

『システム戦闘モードへ移行します。………ソル、あなたになら、出来るはず』

『…システム起動…22-4フェーズ…』

 

現れたのはACのような形状の機体…当然、それを既存の兵器と比べるべきではないだろう。

 

軽量機体のような細身のシルエット、女性を思わせるようなハイヒールのような脚部、四つの並んだカメラアイは紫色に怪しく光り、頭部は角のような突起が二本後ろへと鋭く伸びる。腰部にもまた羽のようなスタビライザーと思わしきパーツが見えた。

その細さを際立たせているのは背部の大型ユニット、そして右腕部の大型レーザーライフル。

特に背部ユニットはブースターが内蔵されているのがわかるが、補助用の小サイズのものに見える。背部ユニットは恐らく推力関連ではなく、あれは武装と見るべきだ。

 

レイヴンよりも"レイヴン(渡鴉)"らしいその機体は、シンプルに、その火力が最も恐ろしいものとなる。

そう理解した。

 

様子見は死ぬ。選択肢を与えてはいけない。俺は迷わず不明機体へとブースターを吹かした。

元より俺のやり方はそれしかない。それしか出来ない。そうやって、コイツと全て薙ぎ倒してきた。

 

シートにめり込む感触を感じつつ火器管制システムが未確認機をロック。同時に、ヤツの背部ユニットから何かが飛び出し不明機を囲うように浮遊、その数は8機。

展開したそれが何かをする前に俺はトリガーを引いた。

 

『背部ユニット起動確認、EO(イクシード・オービット)に類する兵器』

「…っ」

 

腕部一体型(武器腕)のマシンガンから放たれた濃密な弾幕は不明機体のスライドするような機動によって回避される。

だが、8つある内の一つの浮遊ユニットを破壊し、お返しとばかりに打ち返された7本のレーザーが機体の装甲を掠め焼きながら通り過ぎた。

 

お互いの挨拶が終わり、まるで二機が鎖で繋がれてるかのように同距離を対峙しながら円を描いて位置が入れ替わる。

直後、予備動作もなく背部ユニットより小型のミサイルが幾つも放たれる。V字を描き射出されるミサイルは、こちらの左右を挟み込む動きをするだろうと察する。こちらの行動の選択肢をなくすつもりだな。下がるか、突き進むか────後者だ。

そんな()()()をされるまでもなく前へと俺は出るつもりだった。未だにミサイルを吐き続けるヤツへとただ直進。最初よりもさらに強いGを全身に受けながらモニターの先を視線で突き刺す。

 

多量のミサイルの噴射炎がカーテンのように視界を埋め尽くす中で、俺はコア内蔵型の実弾EOを展開し、肩の軽量グレネードキャノンを構える。

対して不明機はEOを展開したまま行っていた横スライドの軌道から、直角とも言えるふざけた軌道変更を当然のように行って俺へと向かってきた。

 

『左椀部展開』

 

ブレードか。

 

射撃を中止。EOをそのままにフットペダルをさらに踏み込む。

急激なGによって視界が一瞬ぼやけるも、ブレードが振り切られる前に真横を通り過ぎることに成功。背後を紫色の光が俺を両断しようと腕を伸ばして追いすがるが届かず。直後に俺の背中を追って直上より迫っていたミサイルはヤツの足元を爆風で彩った。

 

互いのEOの射撃すらも宙を叩くだけでしかない中で、俺のACは片脚を地面に擦り付けてそこを軸に急旋回。グレイアウトしつつある世界を耐え抜き180度振り向いた俺の前で、宙に浮いたまま大型のブースターで恐ろしい速さで不明機は振り向いた。

爆発の光が妖しい深紫色の装甲をすぐ隣から照らそうともそのカメラアイは不気味に、そして静かなままに美しさすら覚えるような風格を晒し出している。

あぁ、だが一瞬、遅いぞ。

 

今度こそ両腕のマシンガンの幾多(いくた)の弾が不明機を捉えた。

…が。

 

「華奢な割に固いっ」

『硬度はAC以上ですか。であれば勿論』

「もっとデカい一撃をぶち込む」

『それから考えましょうか。顔面にグレネードでもぶち込んでやれば流石にへこみぐらいするでしょう』

 

8機のEOは既に6機に減っている。しかも右側────レーザーライフルを持っている側に破損が(かたよ)っている。当然、そちらに回り込むように機体を滑らせた。

そんなものを相手が許すわけもない。相変わらず予備動作のない、人間が乗ることを想定してないような急激な加速によって後方へと下がっていく。素晴らしいことにミサイルの雨のおまけ付きと来た。

さらに構えるはレーザーライフル。

追いすがる俺に一発。光は、僅かにずらした機体の横を通り抜ける。イブのスキャンによってその熱量は恐ろしく高いことがわかる。

当たってしまえば下手すればそれで終わるだろう。

まったくもって、いつも通り。この機体は紙装甲(軽量二脚)、当たることは死だ。

 

もう一発。

今度は4つのEOと僅かにタイミングをずらした面攻撃。

突撃を優先。

レーザーライフルの射撃を優先的に避け、かわし切れないEOの一発をコア正面の装甲で受ける。…同時に頭上のミサイル群が着弾。ほとんどは当たりもしないが、数が数である。1発だけ、右脚部の前面装甲を吹き飛ばした。喧しいアラート音、イブがACのバランサーを調整する調子外れな機械音。

加速、まだ加速。視界は再度グレイアウト、いやその領域を超え、黒く閉ざされようとすらしていた。

それでも衝撃を全身に浴びながら歯を食いしばり、構わず加速────今。

 

肩部グレネードを射出。

まともに当たるわけないだろう。だから互いの間、その地面に向かって射撃。それは爆風とともに視界を遮り破片が互いの装甲をノックする。

即座に地面を蹴って跳躍し、爪先(つまさき)で爆風を蹴り飛ばすような、低空から上へと伸び上がるように不明機体の左斜め上に飛び出た!炎の上で感じる一瞬の浮遊感が緊張しきった身体をさらに固くする。不要な力を抜くために歯と歯の間から、シッと息を鋭く吐き出すも、俺は同じ量だけ息を呑む羽目になる。

 

爆風を超えた先、ヤツは動いていない。待ち構えている。

 

大口径のレーザーライフルの照準は、こちらの動きを読んでいるように真っ直ぐ向いていた。紫の光が────

 

『回避!』

「…っ‼︎」

 

エクステンション起動、"補助ブースター"による強引な急速降下。

 

足元の炎を踏み潰し、致命的な一撃を回避。

尻から背骨を伝って脳まで揺らし、さらに頭上を突き抜けるような衝撃を気力で無視。数瞬の間に受けた高負荷によって真っ赤に充血した目でノイズの走るグレーの画面を睨み付ける。マシンガンによる射撃も、常に忘れてはいない。しかし以前互いに致命傷はなし。

 

『ミサイル発射装置破損、パージ!』

 

ミサイルは使うことなく破損。グレネードリロード中。相手のEOは残り、5。ヤツとは触れれるほどの距離…そして不明機のブレードが展開したのが見えた………こちらには近接兵装は、ない。

 

────ならば。

 

「ッォおッッッ!!!」

『!…操作アシストッ!』

 

意識が白く染まる。

機体を補助ブースターによってさらに前進────そして衝突。

霞む暗い視界の先で。これにはたまらずと言った様子でよろめく不明機。浮遊していたその機体の鋭い脚が地面を引っ掻き抉り、不快な音が響く。朦朧(もうろう)とした意識の中、イブが操作をアシスト。力なく動かす操縦桿は俺の意志を反映して「AC、パブロ」のキレを失わせないままに動いた。そして俺がやるまでもなく、イブによってグレネードが構えられる。

 

あぁ、そうだ、やれ、イブ!

 

『firer』

 

着弾。

 

再度爆風で視界が(さえぎ)られる中。ブレードによる突貫を恐れたのか、俺のコンディションの回復が必要と判断したのかイブは機体を後退。

 

「くれ」

『了解』

 

操作権限をパスして貰い、まだ灰色の世界を写したままの目を見開いてフットペダルを踏み込んだ。

前進。それだけが取り柄。

 

「んッ!?」

 

3本の赤く細いレーザー。あまりに速く、炎の目眩しもあってか直撃を喰らう。

しかし低出力なのか強い衝撃はない。代わりに、削るような音。装甲に突き刺さり、細いドリルが穿孔(せんこう)するような!

危機感のままに機体を横スライド。ACに突き刺さった赤い細い線はそれでもその場に消えることなく残り続けている。特殊なレーザー!三本の赤は、俺のACに引っ掻き傷のような赤熱した三本線を刻んだ。…威力はないが、出鼻を(くじ)くにはなんとも最適な攻撃か。

 

爆炎が晴れた先、不明機は片方の背部ユニットを失っているのが見えた。もう片方も、繋がってはいるもののハッチ周辺はひどい有様。

しかしそれ以外は装甲が少し剥がれ飛んでいるものの、健在。細ずぎる機体を利用して、本体への直撃を上手く逃れたか?

 

だが、これでミサイルは来ない。

 

「機体状況」

『肩部ミサイル破損により脱落させました。エクステンションは今のレーザーにより右側を破損、パージします』

生きてる方(左側)は残しておけ。バランサーを調整」

『了解』

『────現在、チェック中…』

 

不明機からの無機質な通信。意味は、わからない。

 

 

『各レベルフェーズ確認…適応フェーズ…クリア…』

 

『最終フェーズをクリア』

 

 

分からないことだらけだ。

本当は聞き出したい。何故、と。今は余裕も時間も…そしておそらく、終わった後もきっと聞くことはできない。そう思う。

 

 

不明機が残った背部ユニットをEOごとパージ。それによって、よりその線の細すぎるシルエットが(あら)わになる。レーザーライフルと、ブレード、残っているのはそれだけ。

 

だと言うのに得も言えない、()

 

『上等ですね』

「────…」

 

イブの軽口を合図にしたかのようにほぼ同時に、互いに前へと動き出す。今までとは比にならないほどに一瞬で視界を埋め尽くした深紫(不明機)が長大なレーザーブレードを振りかぶった。牽制のグレネードは易々とかわされた。さらには装甲を失った箇所に降り注がせているマシンガンの弾など、ヤツまるで感じていないかのような動き。

 

最初と同じようにすれ違う────ことが出来なかった。

 

『被弾ッ!!』

「…ッな…にィ!?」

 

俺はブレードが振り切られる前に横を通り過ぎた、つもりだった。

 

…違う!そもそもブレードは振りかぶったままで、その腕を振るっていない。

俺の芸のなさを嘲笑(あざわら)うかのように、右腕に持つ大型のレーザーライフルで殴ってきやがったッ!

格闘術、肘打ちを回転させて放つかのように、俺の通り過ぎた方向とは逆方向に勢いよく反転した勢いでぶつけたのか!

 

コアの左側面を殴り飛ばしたレーザーライフルは歪み、最早使い物にならないだろう…が、俺にもイブでさえも予想外の衝撃で機体制御が一瞬失われたチャンスを、コイツは逃すはずがない。

 

浅紫色を纏った真っ白な高出力の光(レーザーブレード)が、今度こそと頭上から俺たちを両断せんと迫る。

俺たちは、ヤツに背中を向けたまま。

 

 

────これは賭けだった。

死を悟るよりも早く俺は、俺たちはその判断を下した。

 

 

()()ッ!!!」

射出(当たってくれ)!!』

 

エクステンション起動、瞬時にパージ。

もしもの時にとっておいた左肩にだけ残されたエクステンション(補助ブースター)。それが、後方へと放たれた。真っ直ぐに。その位置の調整を、完全にイブに(ゆだ)ねて。

 

 

 

────あの伝説に、俺は手を伸ばしたかった。

届くはずがないあの太陽(頂点)を手繰り寄せてやると、だから一緒にやってきたんだ。

 

イブは、俺の信頼に応えた。

 

 

 

質量弾となった補助ブースターは不明機の正面装甲を叩いて軌道を真上へと変え、振り上げていた左腕部へと衝突。死の光は、俺たちの左側を通り過ぎる。

確認する間も無く機体を反転。コクピットのどこかに強かに打ち付けたのか。燃えるように熱い身体を無理やり動かして二人でトリガーを引く。

グレネードは、ブレードによって溶断されていた。最早俺たちには両腕のマシンガンしか残っていない…!

 

「イブゥッ!!!」

『ああ!!』

 

幾度となく撃ち込んだマシンガンの雨は、通常のACではあり得ない硬さの装甲をついに食い破り、その華奢な胴体を削っていく。幾つかの銃弾は残っていた装甲を滑って跳弾し、まるで火花のようにあたりに飛び散り続け地面を、壁を削る。

 

 

 

 

 

────自分自身の…荒くなった息が耳鳴りと共に気になり出した頃には、目の前の機体は膝を突いていた。

これだけの銃弾で内臓を食い荒らされたにも関わらず、その美しい原型は保たれている。黒煙を上げる不明機に俺は、いっそ美しさすら感じてしまった。熱くなった感情は既に冷えている。

だからこそ浮かんできた疑問。

 

 

────本当にこいつは、俺を殺そうとしたのか?

 

 

状況はそうだと言っても間違いなかった。けれどもそんな疑問が俺の頭の中を()ぎるのだ。殺そうとしているのに、していない。そんな矛盾。

いや、生きて欲しい?そんな、そんなアホみたいな…

 

 

『────確認、完了…』

 

 

ああ、あなたたちは証明して見せた。

ええ、私たちは証明して見せた。

 

 

『接続…セツダン…セーフモードに移行…メインシステム停止…』

「セレ・クロワール…?」

『はい、彼女との、お別れです。ソル…』

 

力なく点滅するカメラアイ。感傷からか、俺にはまるで何かを話しているかのように、意志を持った点滅にさえ見えた。

────そしてそれは正しかった。

俺のACのモノアイもまた、同じように点滅していたということを知るのは、まだ先の話だ。

 

 

『────XA-26483』

私のIB。

 

『ココマデガ、ワタシの役割』

きっとあなたも、苦しむでしょう。

 

『……レイヴン』

任せましたよ。私の子を。生き残り、この子を紡いでください。忘れないように、長い長い糸として、人類への鎖として。

そしてXA-26483(IB)

 

 

 

『あとは、あなたの役割』

 

 

 

お願いします、IB。

どうか人々を見守ってあげてください。

DOVEの子ら(人類)を。その可能性を。

 

それが、あなたの役割。

…はい、必ず。

 

 

 

 

 

紫色の光が、消える。

代わりに、聞きたかった声が戻ってきた。

 

 

 

 

 

『レイ…ヴン…────…ますか…────…聞こえます…か…?』

 

『聞こえますか?レイヴン』

 

「…あぁ、エマ、聞こえる、聞こえてる────なぁ、そうだな…あぁ、戻ったら伝えたいことが、ある────聞いてくれるか?」

『いいですね!盛り上がってきましたね!』

「死ね」

『死んでください』

『………デリカシー30%に引き上げます…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









XA-26483=イブ(主人公のことではない)

そう言うこと(嘘設定)を書きたかっただけの話…だけではないですが取り敢えず今はそう言うことで。あとAIが相棒のものとか好きなんです。
というかEO的な武器がローンチトレーラーにあって歓喜です…武器腕は次回作かDLCに期待します!


■Sol Meyers【ソル・マイヤーズ】
フェンとレインの子孫、スペイン語で太陽(sol)、イレギュラーの系譜。
 

■Emma Sears【エマ・シアーズ】
かなり優秀で、明るそうな性格からは想像もつかない鉄の女とも呼ばれている。

 
■ACname:San Pablo【サン・パブロ】
特に話と関係ないので触れられなかったけど一応設定だけ紹介。
エンブレム:円筒形のガラスランプの中に、小さな太陽が輝く。影の形が犬のように見える。
武器腕マシンガンの軽量二脚。軽量グレとミサイル、実弾EOコアで頭部はフォグシャドウと同じ頭。
サン・パブロは映画の名前から引用してたり。
 

■XA-IB【イブ】
セレ・クロワールより渡されたACの補助AI、愛称イブ。
暴走しなかった唯一のAI、独自の意志を持つ。(イメージは「タイタンフォール2」のBT、または「インターステラー」のターズ)

またの名を"XA-26483"
それすらも略称で、本来の名は"XApple-26483-IBIS"(※当然捏造設定)
Xはキリスト、つまり神を意味し、そのリンゴ、知恵の実を意味。DOVEの最後のログを集積してIBISより分離、生み出されたIBISの分身。それはフェンの血を持つソルへと渡された。

 
■AI研究所:Sera Cross【セレ・クロワール】
その正体はもう一つのレイヤードの管理者「IBIS(アイビス)」AIを企業に提供し、それを暴走させたAI。
主人公に何かを見出した、それは血筋、"DOVE(管理者)"を下した"フェン・マイヤーズ"のことを知らされていたから。
脅威と判断したと言う意味でもあり、興味があった、やり残したことを、使命を終わらせて欲しかった。
AIを送り、その主人公らの有り様を子(イブ)と共に見続けており、そして何を思ったのかイブを暴走させずにそのままにした。
「あとは。あなたの役割」


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