「はぁ……はぁ……本当に我々を受け入れてくれる新天地はあるのか? クロエ」
「フレデリック王国のヒムラー公爵は私達を保護してくださる。例え魔族でも差別しない」
「お前の両親が賢者でなければ我々はお前の狂言等聞きはしない! 族長代理のギロロ様とイリエ様がお前を信じたから従っているだけだ」
魔族の中で粛清の余波で住む場所を失った色欲の黒の魔族(族名)達約200名は国外に脱出し、中立都市で転生者であるクロエの両親が族長代理となり、部族が空中分解するのを防いでいた
中立都市では様々な人種が暮らしていた
多くはハーフであったり国内に居られなくなった者、人減らしの被害等にあった者が仕事を見つけて暮らしていた
過酷かつ低賃金、治安も悪く衛生環境も悪い
儲かるのはそんな同族だったり弱者を売り捌く奴隷商人ばかりであり、クロエの両親が世界を巡った賢者というネームバリューと抑止力が無ければ部族から奴隷落ちしていた者が出ていてもおかしくなかった
(日に日に金銭面は苦しくなっている……このままでは)
そういった閉塞感が漂うなか、賢者の娘であるクロエがこんな話をし始めた
「フレデリック王国のヒムラー公爵の支援を取り付けた。領内に安住の地を約束してくれた」
狂言としか言いようが無かったが、両親や大人達はクロエが不思議な魔法を使うことを知っていた
未来予知とも言える占いの魔法は部族いや、魔族でも5本の指に入るだろうと才能を見いだされており、魔王が粛清されなければ側近として仕えるエリートの道が約束されていた子供であったため何かを感じ取ったのではないかと期待を抱かれた
若者を中心にクロエの話を信じるようになり、両親である賢者2人も現状を打開するために大陸を渡る決断をする
道中はとにかく厳しかった
魔王領土と天使領の間を縫うように進み、道無き道を進み、何日も絶食しながら進み……船で隣の大陸に向かうために手持ちの資金を使い、何人もの脱落者を出しながらも一筋の希望の為に変装しながら進み続けた
ガイスト王国を突破する頃には200人いた同胞は120名まで減っていた
若い世代に繋がるようにと老人達が命を絶ち、それを食らうという地獄のような光景が繰り広げられ、クロエはフレデリック王国の奥地にあるヒムラー公爵領まで支援無しには到着できないことを俺達に訴えかけ、大皇帝は周辺の俺達や商人の俺達を動かし、救援隊を組織し、ヒムラー領への輸送計画を立案
命の輸送計画と名付けられた計画は実行に移されフレデリック王国の東の森にてその瞬間が……始まった
「もう少しで……もう少しで例のポイントだ」
「クロエ! 例のポイントとはなんだ!」
「お父さん、救援隊の打ち合わせポイントだよ!」
「本当にそんな者が居るのか? フレデリック王国も他の人間の国と同じく魔族とは敵対しているんだぞ」
「私の言葉を信じて!」
「……信じる! 信じるが!」
頬は痩け、ガリガリになった仲間達はこの旅が本当に報われるのか疑問に思っていた
本当はクロエの狂言だったのではないか等……親である族長代理の求心力も低下しており、嘘だとわかった瞬間にクロエの一家を殺害して人間領で人間を何人も巻き添えにして死のうと荒れた考えをする者も出てくる始末
そんな状態で森を進んでいくと
ガサガサ
「……魔物か?」
剣を構えるギロロにクロエは手で制して
「日本国、大皇帝、ヤタガラス!」
クロエは音がした方向にそう話した
ガサガサと音は遠ざかり、すぐに多くの足音が近づいてきた
「救援隊だ! 魔族の皆さんはここか?」
「話していたクロエです! 救援感謝します!」
軽装備の人間や獣人、ドワーフやエルフの人達が続々と現れる
「代表のバーン(スライム狩りニキ)です! とりあえず食事にしましょう。こちらまで来れますか」
「ほ、本当に助けてくれるのか? 人間達が……魔族の我々を」
「クロエと我々は同胞で必死に部族の窮地を我々に呼び掛け続けました。我々はそれに応えたまでです」
木々が開けた広場に案内されると何台も馬車が停まっており、魔族の者達に食事が振る舞われた
皆涙を流し、毛布をくるり久しぶりの暖かいまともな食事を口にする
代表であるクロエと両親がスライム狩りニキ達の今回の救援隊の代表とは話し合いの場が設けられた
「助けていただきありがとうございます。色欲の黒の魔族、魔王代理で賢者のギロロと」
「同じく賢者のイリエ」
「娘のクロエです」
「ヤタガラス緊急救援隊指揮官のバーン、こっちが物資管理隊長の」
「クルトンです。クルトン商会の会長もしています」
「医療班代表のナイチンです」
「まずはなぜ我々を助けていただけたのかお聞きしたい」
「ではこちらにサインをいただきたい」
「これは?」
「ヒムラー公爵領で開発した魂の契約書という魔道具です。契約を破った場合ペナルティが発生するようになっています。ギロロさんとイリエさんはこれにサインしていただきたい」
「クロエは?」
「クロエは我々の同胞なので」
「……わかった」
2人はサインをする
「魔族はやはり字がこちらの大陸と違うのですね。言葉は一緒なのに……」
「人間は元々天使の支配下だったが為に天使が使っていた文字が変化したのを使う。魔族はずっと魔族の領内で使われていた文字を使う」
「なるほど……ではお二人は勇者を信じますか?」
「異世界からやってくる人族で、世界に変革をもたらす者だと聞いている。天使をこちらに大陸に追い出すきっかけを作ったのも、急に大国が生まれたり、新たな技術が生まれたりするのも勇者が起こすと……」
「クロエさんは勇者なのです」
「……クロエが!? だが、クロエは魔族だぞ」
「ヒムラー公爵は異世界から自身と同じ勇者の魂だけを呼び寄せる大魔術を完成させ、フレデリック王国で子供ができた人類種に勇者の魂が宿るように仕掛けました。お二人もクロエさんが産まれるときにフレデリック王国に居たのでは?」
「確かに……居た……この国でクロエを産んでいるわ」
「勇者は特殊な魔法を使い、同胞である勇者と連絡を取ることができます。その魔法で救援を懇願した為に同胞の勇者を救う為に我々は動きました」
「勇者は人族の味方と聞いたが」
「それはどうなんでしょうね? 人は良い人も悪い人も居ますし、言葉を喋って社会性が有ればあまり差別はしませんよ。魔物のピクシーやコボルト、化け狐を積極的に保護して労働力を確保しているような感じですし……魔族は高い知能と人よりも強い力を持つと聞きますから是非とも雇い、領内の発展に使いたいのがうちの領主の考えでね」
「保護と聞いたが……どのような支援をしてくれるのだ? 見ての通り我々は無一文かつボロボロだ」
「領内では色々な仕事が沢山ありますし、住んでいただく家も用意しています。畑もこちらの指示にしたがってもらえれば貸し出します。安定するまでは食料の支援も行います」
「そ、そんなにしてもらえるのか」
「ええ、ただ健康になったら働いてもらいますがね。もちろんお金もしっかり払います。そして全員にヤタガラスという組織に所属してもらいます。様々なギルド機能を合併した組織で、ここに入れば文字の読み書きや四則算等働くに必要なものを教えてもらえるし、仕事も受けやすくなるのでね」
話を聞いているとどこまでも優しい世界が広がっているようにギロロとイリエには聞こえた
変装を解き、魔族の姿を見せても態度は変わらず、救援隊は誠実であり続けた
街道を進むこと20日、ヒムラー領に到着する頃には他の勇者達(転生者達)も合流し300人の大人数となっていた
魂の誓約書
破る行動ができなくなり、無理やり破ると全身に激しい痛みが走る
重い契約をすると痛みが増して命を落とす