「ふぅ、予想よりは冷夏による冷害で収入は落ちましたが肥料と冷害に比較的強い品種を植えることでダメージは最小限となりましたね」
全国的な冷害により多くの国で作物の発育不良が発生し、食料の不足が懸念された
ヒムラー領ではソ連(農業組合)首脳部の的確な判断、緑の魔法と呼ばれる品種改良することができる魔法で作物を冷害に強い品種に改良していたのを田畑に植えたことによりサトウキビ以外のダメージは最小限に収まった
サトウキビは発育不良による糖度不足で想定の50%ほどしか砂糖を得ることができなかったが、予備の砂糖大根が皮肉にも冷害のため増収となったことでサトウキビ農家以外はなんとかなった
サトウキビ農家はソ連とヤタガラスが買い取り額を補助金を投入して値段を上げたことで去年のような余裕は無いが暮らしていけるだけの資金を手に入れることができた
そして行商人達から隣のウッド領にて武器や鎧が高値で売れるとの報告から戦争が近いとヒムラーは判断
部分動員を決め、普段ダンジョンに潜っている者を中心に臨時で魔法部隊を幾つか作り、俺達約100名、魔物200名、志願した魔族50名の混成部隊の連携訓練が数日間行われた
「ペテル様、準備が整いました」
「うむ、では森を抜けてヒムラー公爵領に侵入し、村を2つから略奪する。多少の私略も許可しよう」
「「「は!」」」
ウッド領の騎士団は良くも悪くもこの世界では平均的な部隊であった
指揮官や下士官となる馬上騎士50名、従者150名、魔法使い50名の250名からなり、他100名が物資の運搬や警備をする部隊であり、他領民兵として650名の男の農民が駆り出されていた
小競り合いは5年ぶり、この規模での戦争と言える事態は実に7年ぶりであり、世代交代が進んでいたが大半が20代前半で構成されていた
ちなみにであるが能力主義かつ男女問わずの開明的なのがウッド領騎士団の特徴であり、騎士団員の5分の2が女性であった
なるべく戦争では後方の輸送部隊の警備に就かせられる事が多かったが、それでも女性騎士の半数は前線で戦うことに今回決まっていた
「事前の偵察では我がウッド領に接する森を抜けた場所に簡易な空堀を掘っている事が確認できた。部隊を2つに分け1部隊が敵と接触している間に堀を渡り、側面から攻撃を仕掛ける。敵は寡兵でありどこかを集中して守っていると思われるからどちらかがぶつかり次第どちらかが側面から襲うことを徹底しよう」
「「「はっ!」」」
「別動隊指揮官はヴーザ頼む」
「わかりました」
ペテルは別動隊指揮官として軍歴30年のヴーザを使命
その日は森の前で夜営を取り、翌日侵攻が開始されたのだった
ヒムラー公爵領では元自の俺達が集まり既に作戦を始めていた
そもそも150名の自警団のうち俺達は30名、元自の俺達の数は10名と少なく、名目上の大将も隠居騎士のグラットとしていたが、次々にできる新兵器とそれを使った有効な作戦を考える若者達の意見を最大限に聞き入れていた
(馬鹿騎士達はダンジョンで屍となったらしいが、この場にあいつらが居なくて本当に良かった。地位を笠に着てろくに作戦の意味も知らずに変更する可能性もあったからな)
「飛行円盤機ハウニブⅡ5機を空中監視に使い、遠方から敵を索敵、それを特殊な魔法で我々に伝達し、敵主力部隊にこちらの機動部隊をぶつけて撃破。部隊が複数だった場合、片方or複数魔法兵達により足留め、こちらの主力で機動力で勝つぞ」
「「「おう!」」」
元自の俺達は何の因果かドイツの将軍の名前の者が多く、今回部隊指揮を取る元2佐だったヒンデンブルクは各員に命令をする
空中偵察から戦闘は始まっていた
ハウニブⅡ3号機は空中偵察任務を遂行していた
貴重な強化ガラスでできた除き穴(UFOの下にある丸いやつ)の鉄板を取り、身を乗り出して双眼鏡で敵を探す
ハウニブの弱点として視覚が悪いことがあげられる
全面をガラス張りの操縦室を取り付ける改良案が出ていたが試作量産型のハウニブⅡ攻撃機はそんな欠点を解消するために床の装甲を一部ガラス窓にし、有事の際には鉄板を取り外して地上を見ることができた
どうしても側面のガラス窓からは円盤の羽と呼ばれる出っ張りで地上が見えないからである
そんなハウニブⅡだったが、3号機が偵察任務を無事に遂行することとなる
「機長! 森の中を行軍する一団を発見。ポイントDに向かっているのとポイントIに向かう2つの部隊を発見。規模は不明」
「規模は不明か……どちらが多いかわかるか?」
「すみません木々に隠れていて上手く識別できません」
「よし、木々で敵も上空は見づらいハズだ、上空監視を続ける。他のハウニブと司令部に連絡する」
「「「了解」」」
「ハウニブⅡ3号機より連絡、敵団確認するも規模の判別つかず、ポイントDとポイントIに向かい前進中」
「……Dポイントは鉄条網が無いエリアだな。よし、魔法部隊はIポイントに、機動部隊はDポイントに集結引き付けて攻撃するように。近代火砲を旧式の軍隊にぶつけてやれ」
「「「は!!」」」
「静かだな」
「ペテル様の訓練の賜物です。農民兵もペテル様の人徳で付き従う者が多いため規律違反も少ないですし」
「森を抜ければ堀が見えるハズだ。一気に前進するぞ」
「は!!」
森を抜けたペテル達が見たのは堀の中に身を隠す敵の兵隊達であった
「なにやら筒の様な物を出しているように見えるが」
「虚仮威しでしょう。数は多くありません」
「よし、では……突撃!」
ペテルは先頭に立ち、兵士を鼓舞する様に前進を開始した
騎馬騎士達がそれに続き、農民兵達も全力で走る
魔法使い達はそれを援護するために詠唱を始める
「うぉぉぉぉぉ!!」
私は雄叫びを上げながら突っ込むと、ババババンと敵方から音が鳴ると同時に視界が暗くなった
知るよしもなかったがペテルはこの時弾丸が首と頭に命中し、首から上がもげていた
ぐらりと残った体が同時に撃たれていた愛馬と共に地面に転がる
ほぼ同時に突っ込んでいた騎士達も体に穴を無数に空けるか、馬に命中して落馬することになる
美しかった女騎士は無様な肉塊へと変わる
司令官達が死んだことを農民兵達は気がつかない
それに死神の鎌が振り下ろされた
ドドドドド
低い独特の音をたてながら機関銃とガトリング砲、そして
ドン! ドン!
戦場の女神と前世で呼ばれていた大砲が発射された
農民達は自分が死んだことに気がつかずに上半身や下半身が吹き飛び、辺りに血の水溜まりと肉でできたオブジェクトを量産していく
比較的後方にいた魔法使い達は初撃は火砲が農民兵に殺到していたことで難を逃れたが、すぐに彼らの後を追うことになる
キュラキュラキャラ
塹壕を乗り越えて敵の背後に回り込むように鉄の怪物は動き出す
魔法使い達は逃げようにも前方からは弾丸が、側面からは戦車が迫る
魔法使いは盾の魔法が使えるため小銃の弾を何発かは防ぐが、それは数秒命が延びただけであった
戦車の機関銃と前面からの機関銃とガトリング砲による掃射により盾の魔法の範囲外から弾丸が体を貫いていく
戦場に五体満足のウッド領の兵士は誰も居なかった
「よし、処理班を残してポイントIに急行するぞ」
バイクやトラックに乗り込んだ兵士達は移動を始める
一方ヒムラー側がIポイントと呼んでいた場所でも戦闘が行われていた
「どうなっている! こちらが敵の主力だったのか!?」
戦場で待っていたのは魔法の嵐であった
巨大な火災旋風が押し寄せ、熱湯の雨が降り、雷で肉を焦がし、巨大な氷山が出現する
「ヴーザ様危ない!」
従者に私は突き飛ばされ、振り向くと従者は炎の球が直撃して生きたまま燃やされていた
「ヴーザ様! このままでは我が方は全滅です!」
「魔法使い達は何をしている!」
「熱風により喉を焼かれて呼吸困難で転がっております! 我が方既に指揮下にいるのは100を切っているかと」
「ペテル様の別動隊がきっと来てくださる! 何としてでも耐えるのだ!」
「奴ら堀を飛び出して攻めてきたぞ!」
「うぎぁぁぁ!」
槍を構えて彼らが突っ込んできた
「応戦しろ!」
「だめです! 農民兵達がパニックになっています!」
「ええい! 私自ら活路を切りひら……」
どちゃり
ヴーザの頭上から石柱が降り注ぎ、ベチャリと音を立てて潰れてしまった
冒険者として鍛えた志願兵達は強く、パニック状態の敵兵を圧倒し、機動部隊が到着する頃には捕虜の確保まで終わっていたのだった
「はぁ……はぁ……はぁ……」
Dポイントで奇跡的に生き残った魔法兵の少女は両腕を欠損し、脇腹にも穴が空いていたが、治癒魔法が得意だったこともあり、奇跡的に生き残ることに成功していた
俺達の治癒ではないため流した血まで増えることはなく、貧血状態であったが、森の中に逃げ込むことに成功した
「500人も居たのに……生き残ったのは……私だけ……」
少女は絶望しながらも騎士としての誇りと意地でペドロ様にこの敗北を伝えなければと1歩……1歩と歩いていた
「お腹の傷が中々治らない……くそったれ!」
痛みで気絶しそうなのを堪えながら森を抜ける
半日で抜けれた森は傷だらけの少女にとってとても広く広大に感じた……
しかし、森を抜けようとしても体が動かない
「動け、動けよ足!」
足を動かそうと力を入れたときジュルんと何かが飛び出した
傷口が開き大腸が体外に出てしまったのだ
こうなってはもう助からない
「何もできずに……死ぬ? ……せっかく騎士になったのに……任務を何としてでも遂行しなければ! 死ねない!」
しかし、飛び出した腸も血も戻らない
「あ……が……」
どさり
少女は薄暗い森の中でも命が尽きることとなる
しかし、彼女の執念が天に通じたのか
『……これは?』
肉体を捨て、魂となった存在に少女はなっていた
『動ける……伝えなければ……ペドロ様に』
足の無い霊体となった少女は進み続けた
「何で突撃したかなぁ」
「いやぁいけると思いまして……すみません」
「死者がでなかったから良かったが負傷者が50名も出るとはな」
「死にものぐるいの兵士は恐ろしいことを身に染みてわかりました」
ウッド領の兵士の死者730名 行方不明245名 捕虜25名
捕虜も無傷の者はおらず生きている者は軽く治癒されて牢屋に入れられた
死体は状態が良いものは医療のための検体だったり錬金術の素材にされ、状態がわからない物は浄化の後に肥溜めに入れられた
Dポイントでは死んだことを認知できなかったためかオバケも殆ど発生せず、多くは錬金術(ホムンクルスの)素材に活用されることとなる
こうしてヤクルの森の戦いと呼ばれるヒムラー公爵領の防衛戦は完全勝利で終わることとなる
特筆すべきは死亡者が多すぎてペドロ卿に情報が届くのは数日後の事となり、それも決死の覚悟の少女のオバケによるというどうしようもない物であったが……