今回の戦争で最初に大皇帝ことヒムラーは領土の拡大に意欲的ではなかった
というのも俺達とヤタガラスを中心とした経済が出来上がっていたが、効率化や最適化の真っ只中であったり、まだまだ1つ1つの村自体が拡張できる余地があり、更には鉄道計画まで出ていたので貿易の権利や鉱物の優先的購入権、ヤルクの森の領有化程度で済ませる気でいた
それが軍の意思により敵だった領主は射殺、領主の家族を確保し、村々の臨時代表達に武力で威圧して離反を防ぎ、ウッド藩領を吸収することとなった
一応貴族的な価値観に合わせると今回の軍の行動は称賛されるべき行動であり、領主の射殺はいささかやり過ぎではあるものの、嫡男及び領主が居ない領は実質的に支配者不在とみなされ合併しても特に問題視されないのも大きい
しかも今回は仕掛けられたのを返り討ちにして逆襲して占領したという形なので領主を殺した悪名もそこまで大きくならなかった
領土を奪われる形となった南部諸藩連合だが、貴族の寄合……旧世界だと神聖ローマ帝国諸侯に相互防衛協定が付いていた形なので土地だけ広い辺境の領土が少し取られても取られた領主が悪いとされ、奪還に動くことはなかった
奪還に動かなかった理由としてはウッド藩領以上に冷害の影響を受けていた各藩は軍事行動を起こす余裕がなかったというのも大きいが……
ヒムラーは直ぐにフレデリック王宮に対外戦争の勝利と領地の獲得、防衛の為の騎士団の創設許可等を貰うため数人の事務官と護衛を引き連れて王都へ急行
その間の領内統治や占領地の統治はコテハン名お嬢様が代官として働くこととなる
「さて、何から始めましょうかね」
「お嬢様、まずは飢えている民に食料を供給し、支配者の移行を知らせるのが最初では?」
「そうですね。それに村の統治を行う代官の俺達の選定をしないといけないですね」
「死骸の処理もしなければなりませんし、旧領主家族や神官達の扱い、騎士団残党の扱い等もあります」
「ふむ……よし、今回の合併で人口問題が一応解決? したということで人口問題に対応していた3人もこの問題を対応させましょう」
「では直ちに呼びますね」
「お願いしますわね冥土さん」
「はい!」
「ということで俺達が呼ばれたと」
「ええ、問題解決の頭となる人手が足りないのでね……」
「食料問題は今回の戦争で食い手の約1000人が亡くなったので足りるでしょうが、若い働き手を失った農民が多いのですよね」
「一応ソ連(農業組合)にこちらの農業方式で農民だった約650名の働き手を失った場合の農業生産量の試算をして貰いましたが、約35%の減収となると言われましたね。こちらがその書類です」
「来年が例年通りならばその収穫量でも飢えることはないでしょうが、こちらの領土との格差が出てきてしまいますね」
「反発は出るでしょうが、農地を買い取り、大規模農業に組み込みましょう。今までよりも多い賃金が出るとなれば不満も少なくなるでしょう」
「あとは衛生問題やトイレの問題から新モデルの家を建築しそちらに移って貰いましょう。古い家を取り壊し農地との接続や交通の利便性を上げなければ」
「大量の未亡人と子供はどうする?」
「石鹸工場や磁器工場で吸収できる数も限られますが」
「旧時代的で嫌ですが、子供は住み込みで師弟関係を結ばせ後々の職人を育成する方法を取りましょう。もしくは自警団……いや、騎士団になるんでしたね。それに若年兵として入隊させて訓練をさせてみてはどうでしょうね」
「確かに軍は兵士不足に悩んでいたが、親が殺された恨みが向かないか?」
「10歳で成人となるくらいこの時代の子供達は嫌でも現実が見えています。私怨を優先して行動を起こす者は少ないでしょう」
「子供は良いとして未亡人らは?」
「女性でもできる仕事に就いて貰いましょう。事務官がどの組織、部署でも不足していますから読み書きと四則算を覚えさせればどこでも雇うでしょう。ダンジョンの荷物持ちとして潜らせるのもアリですね」
「兵器工場でも人手が不足していますのでそちらに回してもよいのでは?」
「確かにそうですね。ではそれでいきましょうか」
「強制的な移動に従わない者はどうしますか?」
「武力と強権を以って対処します。個々人の自由で全体の利便性を落とすのはよろしくありませんから」
「共産主義的ですね……いや国家社会主義的ですか? お嬢様」
「ホワイトニキ、どちらでも良いわ。我々の仕事は合併した領地の安定化と使えるようにすることよ」
「俺達は南部にあまり住みたがらないでしょうな」
「鉄道を通せば解決するわよ。新たに入植してきた俺達を優先的に南部に送るわ」
「あとは物流の強化の為に森を切り開いて道を作る必要がありますね」
「収穫が終わった後だから公共事業として進めましょう」
「あとは……旧領主の家族ですか」
「15歳、14歳、12歳の娘が居たわね。あとは公爵婦人か」
「領民に対してどう思っているか調査をし、フレデリック王国の一般的な貴族達の様なら実家に帰すのが一番穏便かしら? 領民の事を思う人々なら融和策としてヒムラーに纏めて娶って貰いましょう」
「うわ、ヒムラー様の妻になりたい俺達から反発がありそうですね」
「あいつらはヒムラー様ではなくヒムラー様の権力を見ているからダメよ」
「あら? 一番ヒムラー様の妻に近いとお嬢様は見られているけど?」
「やはりこの世界では貴族の血筋の方が正妻や側室は固めた方が良いわ。私はヒムラー公爵の領土の事を考えると妻になるという選択肢は無いわ」
「お嬢様……」
「まぁ今回もし娶ることになられても側室でしょう。正妻はヒムラー様が決めるカードにした方が良いからね」
「お父様とお兄様が亡くなった?」
「はい、ペテル様は侵攻軍を率い討ち死に、ペドロ様は領内に侵攻してきた敵軍の魔法により戦死を遂げられました」
「まぁ、なんてこと!?」
「「「お母様!」」」
私、テル・ウッドはウッド領ペドロ卿の長女であり現在15歳で成人の儀式を迎えたばっかりの小娘だった
貴族ではあるが領民との距離を大切にする父の意向で領民達との距離も近く、それは兄であるペテルがこの領土でも大いに期待され、人気者になるのに一役買っていた
騎士団でも頭角を現した兄に対して、私はいたずら好きのお嬢様と呼ばれ、よく城を抜け出して領民達と遊んだり、農作業の真似事をしていた
父はよく困ったものだと言いながらも私の遊びを許し、いつも母に叱られるという毎日を送っていた
私の真似をしてか、次女のサキ、三女のトキも外で遊ぶようになり、私達を領民達はお転婆様方と呼び親しんでいたように感じる
父は名領主ではなかったが、開明的であり、少しずつ領土を良くしようと努力していた
「領民が居てこその領主や貴族だ。それを忘れてはならないよ」
これがペドロお父様の口癖であり、領民から慕われていた
今回の侵略も領民達が飢えないように配慮した結果であり、敵も新興領主で騎士団もない集団と聞いてお兄様は手柄を上げて帰ってくると思っていた
……しかし、結果は最悪であり、お父様、お兄様は両名が死亡、現在各村に敵の兵隊が進駐し始めているらしい
「お嬢様方はお逃げを!」
「逃げてどうするのです。領民は逃げられないのですよ。私達が逃げてしまったら残った領民達が酷いことになるかもしれませんわ」
「し、しかし!」
「サキ、トキ、お母様を寝室に送ってください。私は進駐してきた者達に対応します」
「「わかりました」」
「ジル爺、進駐してきた軍の代表者に面会を依頼してください」
「っ! は、はい!」
「……領民あっての領主たれ、貴族たれ……今動けるのは私しか居ないのですから」
天幕の中、ヒムラー領自警団司令のグラットと副司令のヒンデンブルク、指揮官の俺達が天幕に詰める中、領主の娘が面会を求めていると知り、面会に応じた
心が折れたウッド領の騎士団員を使い、兵士を送って占領の旨を各村に伝えているが、反抗も織り込み済みであり、その場合は武力による威圧をもって従わせるしかないと思っていた
「さて、どんな娘が来るのやら」
「とんちんかんな事を言い出さなければ良いが……」
領民達によるとウッド藩の領主は善政を敷き、領民達からの人気が高かった様で、これ以上領主家族を殺したりすれば徹底抗戦になる可能性もあったためにできるだけ穏便に済ませなければならなかった
「近代兵器は強いが、殺しすぎてしまったな。今度は指揮官だけを狙える狙撃銃の開発をした方が良さそうだ」
「余剰人員が居ませんよヒンデンブルク副司令」
「うむ……」
「いらっしゃいました。テル・ウッドという名前らしく、護衛は騎士1人、使用人1人になります」
「よし通せ」
「は!」
「お初にお目にかかります。ウッド藩領主の娘テルでございます」
「司令官のグラットだが、儂はお飾りでな。こちらのヒンデンブルク君が実質的な司令官だ」
「ヒンデンブルクです。よろしくお願いします」
ヒンデンブルクと名乗った男は背丈はあるがとても若かった
兄よりも1回り……もしかしたら私よりも若いかもしれない
周りを見ると同じような若い兵士ばかりであった
兄はこんな若い兵士に討ち取られたと考えるとさぞ無念であったと思えた
「今回は交渉の場を設けてくださり感謝致します」
「うむ」
「まずそちらから我が領に対する条件を聞きましょう」
彼らが語るのは以下の通りだった
・領主不在となったウッド藩とヒムラー公爵領の合併
・亡くなった農民達に対しての補填
・領地改革の実施
・基本通貨をフレデリック王国の$(ドルニエ)に合わせること
だった
私達領主の家族を処刑するといったことは考えていないらしい
普通敵国の領主ならば統治に邪魔な前領主の一家は処刑してもおかしくないからである
「……農民に対しての補填とは?」
「現在確認が取れているだけでも農民兵約600名が戦死しているため旧ウッド藩の農地を維持するのは不可能と判断しております。ただ、それではもしこの寒波が続いたり、不作が翌年も続いた場合領民が飢える可能性が高いため食料の支援を行い、それにともない領地改革を実行したいと思います」
「……侵略して逆襲されたこちら側がお願いをするのは心苦しいのですが、私の命はどうなっても良いので……どうか領民が苦しむことの無い処置をお願い致します」
「可能な限り善処しよう」
「……兄や父の亡骸は晒すのでしょうか?」
「いや、君の兄君は亡骸の損傷が激しく、こちらで弔わせてもらった。他の亡くなった騎士達も同様だ。鎧等は返却できるが……」
「受け取らせてください。遺品として家族に渡れば反発も少なくなるでしょう」
「うむ、で、君の父君は君達が弔う方が良いと判断した。今亡骸はレベル審問官が保管している」
「……わかりました。晒し者にされてもおかしくない中、最大限の慈悲を感謝致します」
「君達家族の処遇は追って指示を出す。城にて待機していてください」
「ありがとうございました」
「なるほど聡明なお方だ」
「ご家族が亡くなって辛いだろうに現実が見えていた立派な方だったな」
「やはりヒムラー公爵様との婚姻の現実味が帯びてきたな」
「領内の発展のためならばヒムラー公爵様も私を捨てて娶るだろう。テル様も領民の為ならば私を捨てて動けるお方だ」
天幕に残った指揮官達はテルの行動と言動を褒め称えた
そして整った容姿と大皇帝の立場から側室としてはとの意見が直ぐに出るに至る
グラットもヒムラーの嫁というか子供はなるべく早く欲しかったので指揮官達の意見が一致し、今回の事を直ぐに領主代理をしているお嬢様に報告するのだった
城に戻ったテルは妹達が泣いているのを見つけてしまう
なぜ泣いているのか聞くと自身達の母が早まって毒で自殺してしまったらしい
貴族的考えの抜けきらなかった母はどうしてもお父様との考えが合わない事があったが、お父様が亡くなる緊急時に領内で団結しなければならないこのタイミングで一人逃げてしまった母をテルは軽蔑した
「……私達3人でなんとしてでも領内を守るのです。サキ、トキ。力を貸してください」
「「うん!」」