領主の館として言われた建物は……質素でした
増築の工事をしていると兵士さんは言いますが、村と村の間にあり、利便性は良いが……とても領主の館とは思えない広さでした
「独特な作りをしていますね」
「和洋折衷建築と言ってね、まあ、今中に案内しますね」
門をくぐると広い庭に野菜が植えられていた
「公爵様が作っている野菜でね。暇な時に土いじりをしているよ」
「そうなのですか?」
室内に入るとメイド達が働いていた
「ごめんください。お姫様方をお連れしました」
「あ、はい! ただいま!」
すると私達より幼いものの整った顔のメイドが現れた
「ゼロさんお久しぶりです。何かありましたか? メイドさん達が慌ただしく働いていますが」
「別口の来客がいらしていまして、それとお姫様達3名の住む部屋の清掃をしていまして」
「あぁ、なるほど。では私はここまでで!」
「任務お疲れ様です。引き継ぎましたゼロと言います。一応ここのメイド長をしていますが、雇い主はヒムラー公爵様ではなくセシリア様でございますので悪しからず」
「は、はぁ……」
「応接室にお通ししますので少々お待ちください」
貴族は普通お城か館に住むが、公爵なのにそこらの商人よりも小さな家に公爵様は住んでいるとは思わなかった
まぁ部屋を増やす増築をしているようで、執務室と思われる部屋の奥の通路の壁が取り払われ、骨組みが見えていたりした
応接室も飾り気はあまり無く、テーブルと椅子に暖炉とその上に真っ白なお皿が飾られてあった
メイドさんがセシリアさんを呼びに出ているので私達は椅子に座り待つが
「真っ白なお皿ですね……光沢があってとても綺麗」
「お姉様、天井を見てみてください」
「天井?」
サキに言われて天井を見ると丸いリングの光源が光輝いていた
「魔道具ですかね? 魔道具は武器に使うのが常識ですけど……領民が使えるほど普及しているとは」
「質素に見えますが、快適に暮らせる工夫が至る所にありますね。壁も白い壁紙が貼られていますし」
サキと話していると扉が開き、ドレスに身を包んだ女性と執事の男性、先ほどのゼロと呼ばれたメイドさんが入室してきた
メイドさんはトローリー(食事やティーセットを運ぶ台車)を押して入ってきて、紅茶と焼菓子が出された
「初めましてウッド家のお姫様方、私はヒムラー公爵領の領主代行をしておりますセシリアと申す者でございます。以後お見知りおきを」
「執事をしておりますパウロでございます」
「改めましてメイド長のゼロでございます」
「ウッド家長女のテル・ウッドです」
「次女のサキ・ウッドです」
「三女のトキ・ウッドです」
「その……皆さんもお若いですね」
「ええ、今私達は12歳になります」
「そ、それは……」
「このヒムラー公爵領では能力が全てですわ。能力が有れば若くてもこうして使われますの」
「そうですか、失礼しました」
「いえいえ、若いのは事実ですしね。さて、ではお三方のこれからの事をお話しますわ。一応人質という立場となってしまいますが、基本領内は徒歩で移動できる範囲は自由に動いて貰って結構です。書類仕事等を手伝ってくださった場合は賃金もお出しします。お小遣いとして多少のお金と無理の無い範囲での衣食住は保障しますわ」
「それは……ありがとうございます」
「私としてはヒムラー領とウッド領の融和の象徴になっていただきたいのですがね。ヒムラー様は色々開明的ですが、人の話を良く聞く方なので聡明なお三方とは話が合うと思いますわよ」
「そ、そうなのですね……そう言えば来る前にヤタガラスという組織に登録したのですが、詳しくはセシリアさんに聞いた方が良いと言われたのですが」
「まず私達の領地について話しますわね。まずヒムラー公爵領には大きな組織が4つあります。ヤタガラスとソ連、自警団、学校です」
「ヤタガラスは他の領土では商業ギルド、鍛冶ギルド、冒険者ギルド等のギルド関連を全て統合した組織で、その業務は多岐に渡ります。公共事業等もこのヤタガラスに依頼を出すことで行ったりします。ヒムラー領では公務を円滑にするためにはこの組織が無ければ始まりません。巨大な権限がある組織なので現在代表はヒムラー様がなっています」
「ソ連はソビエト連合の略称でソビエトとは異国の言葉で共同体を意味します。農業の協同組合で農業の大規模化、効率化、人材の円滑化、資金や資材の投入配分を決めたり、作物の研究をしている組織です。農業という根幹を支える組織ですね」
「自警団。騎士団がヒムラー領では認められて居なかったので自警団と名乗り、領内の警察権と防衛、関所の管理、兵器の開発を行う組織ですね。騎士とは別の階級等があるので指揮系統は少し複雑ですが、トップはヒムラー様です」
「学校は教育を行う機関で様々な事を学ぶことができますわ。お三方も時間があるので学んでみてはいかがでしょうか……とこんなところですかね」
「税収は穀物等の物納ではなく現金で行っていますわ。経済が回れば回る分だけ税収が多くなる仕組みで、経済の規模を大きくすることと回転率をあげるいわゆる好景気にする事を目標にしていますの」
「ず、ずいぶんと画期的な税ですね」
一般的にはその年の農作物の収穫量と領民の家族の数……人頭税とか地税と呼ばれる土地の広さに応じて支払われる事が一般的で、あとは商業ギルドがある場所は商業ギルドからの上納金も税となることがある
「ただこの方法だと多くの事務員が必要ではありませんか?」
「ええ、必要ですわ。ヒムラー領には約350名の事務員が居ますの」
「さ、350人!?」
「副業として雇われている人が殆どだけど多くの事務員……お金を計算できる人員を配備することでお金による課税方法を実現しているの」
「ヤタガラスはその税についての処理をしている組織でもあるわ」
「そ、そんなに領民に権限を与えているのですね……画期的だ……」
「勿論着服しようとか不正しようとする奴もたまに出るけど、私財没収の上で追放になるから死罪の次に重い罪ね。まぁそんなことに手を染める必要の無いくらい豊かにすれば良いって話なんだけどね」
「主な産業は農業、ダンジョンで取れる魔物の素材の加工業、石鹸や磁器と続くわ……そうね全体でこれぐらいの収支よ」
セシリアから出された書類を確認する
普通税収なんかは機密資料で隠されると思ったが……
「え? ウッド領の2倍近くの税収!? なのにこれ程豊かなの?」
「嘘偽りはありませんわ。まぁ豊かかどうかはこれから生活していけばわかるでしょうし……あぁ、そうそう。お三方の世話役を紹介しますわ。入ってらっしゃい」
ガチャと扉が開く
白い翼、頭上に浮くリング
「て、天使!」
「お嬢様方、私でございます。騎士カルロでございます。訳あってこの様な体となりましたが忠義は未だにウッド家にございます。どうか今一度私をお使いください」
「カルロ!? カルロお姉ちゃん!?」
「はい、カルロでございますトキ様」
カルロは年齢が近いトキとよく遊んでいた騎士であり、2人は特に仲が良かった
「どの様な姿になっても私達の領民であったことには変わりません。忠義を受けとります。騎士カルロ。よろしくお願いしますね」
「は、はい!」
こうしてカルロ含めた4名が公爵宅に住むようになった
彼女達がどの様な生活を送るかはまた別のお話……
ヒムラー公爵宅見取り図