「なに? 競馬場を作りたい?」
「はい、大皇帝の権限で一大プロジェクトとしてもらいたいのですが……」
毎年恒例になりつつある出産ラッシュが一段落し、冬籠りの支度を始めたある日のことヒムラーの下にとある男が計画書を持ってやって来ていた
彼の名前というかコテハン名は馬飼ニキ
自身の牧場を持ち、軍馬となるユニコーンを魔女達から何頭も購入して繁殖に成功させた凄腕の馬飼いである
ダンジョンに潜った金はほぼ全てユニコーンに投資している者でもあり、彼は自身が育てたユニコーンを皆に見てもらいたいと考えるようになっていた
そこで考え付いたのが競馬であった
競馬の歴史はイギリスの貴族達のスポーツ的な側面があったが、軍事的に軍馬育成の資金をレースという形で生産者に支払い軍馬産業を活性化させるという側面も昔はあった
日本では太平洋戦争後の敗戦で軍馬育成から切り離し娯楽や賭博に舵を切ることになるが、馬飼ニキは軍馬の必要性をヒムラーに説いた
ちなみに軍でも道が舗装されていない影響からバイクでは侵攻不可能な場所も存在し、兵士の輸送や物資の運搬に騎兵の必要性が出るという機械化とは逆の現象も起こっていた
これに対してケッテンクラートという乗り物が対抗策として開発され、ゴーレムモーターを使うことで騒音を抑えつつ、高い機動力と走破性を実現する傑作機となるのだが、魔法が使え、水を浄化させるユニコーンは魔法が使えない兵士にとって継続戦闘能力に直結すると俺達以外からは絶大な支持を獲得していたこと、馬に乗って戦うというのが一種のステータスで憧れであることもありユニコーンの需要が減ることは無かった
「機械化も良いですが、エーテルか魔力をどうしても使わざるを得ません。エーテルは貴重、魔力は戦闘まで温存すべき物であるため飲み水を生み出し、火を起こせ、ある程度の荷物を持たせることのでき、そこらの草を食べることで食料の節約もできるユニコーンは必要だと思います。軍馬とならなくても交易の荷馬、開拓の農耕馬として扱うこともできる」
「温厚かつ勇敢なユニコーンは理想的な家畜です。生産数が増えれば輸出も可能でしょう。高値で売れるので外貨獲得にも貢献できます。ユニコーンの生産個体を増やすため資金を循環させる意味や興行しての経済効果を加味してもやる必要はあると思いますが……いかがでしょう」
「まぁ俺も前世では競馬を嗜んでいたからまたあの熱気を味わいたいのはわかるが……うちの領地だけだと客の数もそこまで入らないと思うから毎日の開催は無理だし、賞金もそこまで出せねーぞ」
「そこは商人達を使って協賛レースを開催すれば良いかと。賞金の代わりに食品何ヵ月分とかでも嬉しいでしょうし」
「ジョッキーは軍から出させよう。最終的に軍馬として使うことが多いからな。詳しく詰めていこう」
馬飼ニキと大皇帝の話は盛り上がり、ユニコーンの能力を加味しても色々と決まっていった
まずレース場は森の近くの元戦場跡地の駅の近くの草原を整備して競馬場にすること
芝よりも土の道が多いので砂ではなく土のダートコースをメインとすること
ユニコーンは馬よりも速度もパワーも持続力もあるので長いレースをメインにすること
等々次々に決まっていった
決まった資料を纏めた大皇帝ことヒムラーは掲示板でヤタガラスの幹部や軍部、ソ連幹部に確認したところ賛成多数で可決され、今年の冬から春にかけて一大公共事業となることが決まる
他には必ず6歳になったら引退というルールも追加された
そうしないとユニコーンも魔物なので歳をとるとどんどん成長して強くなるので強いユニコーンがいつまでも同じレースを勝ち続けるというのを防ぐためと、軍馬や種牡馬として長い間活躍してほしいからであった
オッズの計算もパソコンが無いので比較的計算が簡単な単勝と連単の2つだけの賭け方、受付で買いたい馬の番号を言ってそのレースの木のプレートが渡され、勝ち負けに関係無くプレートは回収、勝ったらその分現金化が可能等ルールが決められた
入場は1$で、中でユニコーンや馬の乗馬体験コーナーや公園を設置したりと遊び場としても来れるように工夫も凝らした
工事は夏ごろ完了し、秋からレースが始まったが、レースに欠かせない実況も現地では聞くことができ、人気となった
競馬場でしか食べれない料理や商品、ユニコーンの毛色や模様に合わせた人形、馬具、ユニコーンの抜け角、ユニコーンの鬣を入れた御守りの販売等工夫がこなされ、一定の人気となる
大きなレースは年末の天馬杯と夏の初めの竜王杯、3歳のクラシックの春風杯、優駿杯、秋風杯の5つのレースと決められ、牡馬牝馬の括りは無かった
後々この5レースは5大競争と呼ばれクラシック3つを勝てば三冠馬、5つ全て勝てば五冠馬と言われるようになる
興行としてもまずまずの成果をだし、経済の活性化に貢献することとなり、提案してきた馬飼ニキはこの功績でプラチナランクに昇進することとなる
時間は遡り3年目の冬に戻る
テル達のお腹も大きくなり、ニヤニヤしているヒムラーの姿がよく見られるようになった頃
とあるレストランでヒムラー領の化け狐の代表となっていたフリックが化け狐の商人達と会食をしていた
「本当に尻尾が増えている! 二尾というのか」
「はい、ジョセフさん、自分も無事に進化することができましたよ」
「ううむ、進化とは……伝説でしか聞いたことが無かったが」
「ヒムラー領では勇者の血筋の人が集まり、彼らの体液を摂取し、魔物を倒すことで進化をすることができます。彼らは我々化け狐を差別するどころか化け狐の商売の手伝を大切にしてくださります。寿命の問題が無くなれば長いスパンで商売の計画を立てられますし、子供達はこちらの領で安全に暮らすことも、子供のうちに進化して次世代をより楽にすることも可能です」
「うむ、やはりフレデリック王国での本拠地はヒムラー公爵領に移した方が良いな」
「しかし国内が少しキナ臭くなり始めましたな。何でも国王の体調が優れないとか」
「あのお方ももう50を超えているからな。体にガタが来てもおかしくはなかろう」
「やあ皆さんお揃いで」
ゲストとしてヒムラーがフラりと入室する
「相変わらず公爵はフットワークが軽いですな」
「普通の貴族なら領民が使うレストランには入らないのですよ」
「まぁ我々もヒムラー様の人となりと情報が聞けるのでありがたいですが」
「商人の情報網は本当に頼りになるのでね。どんな商品が欲しいのかわかれば領で作って売れますし」
「そうですなぁ……やはり魔道具と武器の値段が高くなり始めましたな。国王の体調が優れない為貴族、軍、親衛隊が独自に準備を始めたようです」
「それほど体調が悪いのか父上は?」
「いや、咳き込むことや頭痛が増えた程度で大きく崩れた訳ではないが……」
「なら良かったです。どの陣営に付くにしろ準備が全く済んでませんから」
「やはり内乱は避けられませんかね。同胞の一部は国外に逃げる者も出てきていますが」
「国王の死後すぐには動かないでしょうが、1年もすれば始まるでしょうな。何せ兄弟仲は最悪ですし……商人の皆さんにバレるくらい漏れてる時点でね」
「そこは化け狐のネットワークでね……しかし鉄道でしたか! あの乗り物は凄いですな。魔物なのですか?」
「いや魔道具の類ですな。大量の鋼鉄が必要になりますが、1度レールを引いてしまえば大量の物資を運搬できますから」
「それは素晴らしいですな」
「なるべく外部には漏らさないでくださいよ。あれは領内じゃないと鉄泥棒が出るのでね」
「ヒムラー公爵領では広いのに領地の治安が行き渡っていますから凄いですな」
「商人の我々も安心して移動ができますし、関所が1つだけなので行き来がしやすく、関所の税が少ないので助かりますよ」
「本当は関所の税などは無くしてしまいたいのですが他の貴族が煩いのでね。不便をかけてしまい申し訳ない」
「我ら化け狐に謝る貴族など聞いたこともありませんぞ」
「「「しかり、しかり」」」
「皆さんの商会の支店でも移してもらえれば今なら建物と土地は提供しますが」
「とても魅力的ですなぁ。特に行商人の仲間は飛び付くでしょう」
「仲間に声をかけておきますよ」
「我々もこちらに移住してしっかり鍛えなければそろそろ寿命が来てしまいますからな。家族を連れて移住しますわ」
「それは良かった。伝説の九尾となれば1000年は生きられるのですから皆さんみたいな有能で話のわかる商人は国の宝ですからな。長く我々を支えてくだされ」
「ええ、勿論。我が種族の宿命である短命への解決方法を教えてくださったのです。全力でヒムラー様をもり立てさせていただきます」
「「「我ら化け狐はあなたに忠誠を誓わせてもらいますぞ」」」
「まぁほどほどに、他に国内の情報はありますかな?」
「……1つ気になる噂が」
「ほう?」
「北部地域の諸侯がコスタギ連合王国と接触しております。内乱が発生した瞬間に寝返りをする可能性が高いかと」
「……困りましたね。あの地域は有力な穀倉地帯ですし、取られるとなるとフレデリック王国の衰退は更に深刻となるでしょうな」
「おや? 慌てませんかヒムラー様は」
「内乱で私が勝利すれば問題ありませんよ。食料の増産は新農法の普及でなんとでもなりますし……うむ、皆さんには引き続き情報を頼みます。経済力さえ握れれば無視できない影響力を確保できますからね」
「わかりました」
「そういえば皆さんに売った新型の馬車はどうですか?」
「最高ですよ。ゴムタイヤに軸を独立させたことで故障率が大幅に下がりましたし、商品が壊れることも減りました」
「大きめの馬車でも馬が牽きやすいのはありがたいです」
「それは良かったです」
ヒムラーは化け狐達の会合に参加して情報を集めたり懐柔したりと化け狐の保護を積極的に行った
世界に広がる化け狐ネットワークは前世のユダヤネットワークに通じる物があり、ヒムラー領をネットワークの拠点にすることで様々な恩恵を受けとる事ができるからだ
どこの領主はどこと繋がっている、どこの領主とどこの領主は確執がある等、聞いていると召し使いの中にもシンパか化け狐が居るらしいこともわかる
パーティーに忙しくて出れない(面倒で出たくない)ヒムラーにとってこれらの情報はありがたく、有効に使わせてもらう
(商人だけに留めておくには勿体ない人材も多い。使える者は何でも私は使うぞ)
ヒムラーは今後の統治ビジョンを思い描くのだった