デモンズアーカイブ   作:聖成 家康

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『迷い込む(invited)』

 

「アビドスのみんなー! 暑いけど元気ー?」

 

 砂塵佇むアビドス自治区。

 そこを(事実上は)自治しているアビドス高等学校廃校対策委員会の部屋が、一人の女性によって勢いよく開かれた。

 

 黒のシュシュで纏められた長い紫の髪に、紺色の瞳。引き締まりながらも肉付きが良い肉体はスーツに包まれており、タイトスカートから覗く白い脚から、彼女の健康度合いが見受けられる。

 

「今日ね、エンジェルでアイスの安売りしてたから、みんなで食べよ――」

 

 先生はビニールから取り出した箱アイスを手にした状態で、ぴた、と動きを止めた。

 

「お、おー……先生。いらっしゃい」

 

 小鳥遊ホシノを含む対策委員会の生徒たちが、円陣を組むように何かを取り囲い、神妙な顔つきでそれを見下ろしていたのだ。

 

 

 その何かとは――男だった。

 

 

「す……」

 

 

 先生は硬直から暫くし、徐々に口を開き始める。

 

 

「砂狼ちゃんでしょどうせ!! また人さらいして!!」

 

「ん。先生、確かに私が持ってきた」

 

「男の人だよ!? 君たち女の子だよ!? 何されるか分からないんだよ!? 私の時とは違うんだから!!」

 

「大丈夫だよ先生。この人ヘイローないし」

 

「そういう問題じゃないの!」

 

 一人騒ぎ立てる先生。セリカ、アヤネ、ノノミはその光景を微笑ましく眺めてから、再び床に伏せたまま動かない男に視線を落とした。

 

「黒見ちゃん、奥空ちゃん、十六夜ちゃん!! 誰でもいいから説明して!!」

 

「せ、先生落ち着いて……実はですね……」

 

 

 アヤネの説明を聞いても尚、先生は納得いかない様子だった。

 

「つまりは……“砂狼ちゃんがライディングをしてました”。そして“倒れてるこの人を見つけました”。結果“こうなりました”……」

 

「ね、簡単でしょ」

 

「あのね小鳥遊ちゃん。キヴォトス人には分からないかもしれないけど、男の人って怖いんだから……! なにするか分からないよ!?」

 

「揺らさないでぇ」

 

 肩を掴まれ、ぶんぶんと揺らされるホシノ。

 

「で……この人“大人”でしょ? どうするの、先輩」

 

「先生のように連邦生徒会関係の人には……見えませんし」

 

 セリカの言葉で、ノノミは再び男に視線を落とす。

 

 その男は青い作業服のような衣服で身を包んでいる。こんな制服見たことがないし、何より、彼は生徒ではないように見える。

 

 先生とアビドスの先輩は頭を抱えて、この男の対処法を練った。

 

「あ、あと先生。この人がこんな物を持っていたのですが……見覚えは?」

 

 アヤネが机の上に置かれてあった不思議な機械を、先生に見せた。

 

 それは赤い管のような物が伸びるバックル型のデバイスと、スタンプに酷似したアイテム。

 

 どちらも、先生は身に覚えなど無かった。

 

「うっ……ぐぅぅ……!?」

 

 男が唸り声を上げ、先生は生徒たちを自らの背後に集めて、弱いくせに臨戦態勢をとった。

 

「こ……ここは……?」

 

 男はむくりと起き上がり、蹌踉めきながら床に足をついた。

 

「こ、ここはアビドス高等学校。な、名乗りなさい! あなたは何者ですか!?」

 

「先生なんか口調変だよ」

 

 男は名乗るよう言い渡されると、真面目そうな顔つきをより一層そうさせながら、口を開く。

 

「ブルーバード隊長。門田ヒロミだ。助けてくれて、感謝する」

 

 

 

「ブルーバード……?」

 

 

 

 

 

 門田ヒロミは、記憶を辿った。

 何故自分が女子高校生に囲まれるに至ったのか、その経緯を――。

 

 

 そうだ、俺は不審な人影を追って一人で現場に突入しようとして――

 

 

 ヒロミは思い出し、独りでに拳を手のひらに乗せる“ひらめきポーズ”を炸裂させた。

 

「あ、あなたはどこの学校の人ですか?」

 

「学校……? ええと、大学は――」

 

 大学名、高校名、一応中学名まで出しても、先生らしき人とその後ろに隠れる生徒らしき少女達は納得いっていない様子だった。

 

 どこか引っかかるヒロミの視線は、机の上に置かれてあったバックルに吸い寄せられる。

 

「……これは!!」

 

 二、三歩前に出たヒロミ。

 見覚えがあり過ぎるバックル――デモンズドライバーと、蜘蛛のクレストが刻まれたバイスタンプを手に取った。

 

「君たち、これをどこで?」

 

「あ、あなたが持っていましたが……」

 

「奥空ちゃんしーっ!!」

 

 メガネの少女の言葉が本当だと言うのなら、直前で自分は“変身”しようとしていた、という事になる。

 

 

 ――何故だ?

 ――事件は続いていたが、仮面ライダーに変身するような事態は無くなった筈。

 

 それなのに何故、俺はこれ(ドライバー)を持ち歩いている?

 

 

 ヒロミは考えれば考えるほど、眉間にシワが寄り、見るに絶えない表情になっていった。

 

 

「……あまり此処に長居するわけにもいかない。短い間だったが、世話になった。またどこかで会おう」

 

 

 ヒロミはそう言い残し、対策委員会の部屋を飛び出ていった。

 

 

 暗雲が去り、ひとまずの安堵を得た先生は、集めた生徒たちを解放した。

 

「も、もう今度は簡単に行き倒れなんか拾っちゃ駄目よ」

 

 

 

 学校を出たヒロミは、灼熱の日光に晒されたまま、直立不動を続けていた。

 

 

「ここは……どこだ」

 

 

 記憶の最後。自分がいたのは深い、深い森の中。怪しい人影をそこで見たために、森の奥にある廃墟まで単独で赴いていた筈……。

 

 遠くに見える高層建造群(ビルディング)は、とても現代の東京とは思えないほど発展しているように見える。

 

「おかしい……何かがおかしいぞ」

 

 動かなければ始まらない、と思い、ヒロミはひとまず歩いてみることを決心する。

 

 

 しきりに移り変わる住宅街。家はたくさん建っているが、人の気配が全くない。道路の至る所に砂が散らばっているし、とても日本とは思えない光景が、ヒロミの目の前には広がっていた。

 

(俺は知らず知らずのうちに海外へ……? いやいや、有り得ん)

 

 狩崎――いや、せめて大二と連絡さえ取れれば。

 そう思い立って胸元を(まさぐ)ったが、レシーバーを納めてあったホルダーはすっからかんであった。

 

(なんということだ……)

 

 早くも八方塞がりである。

 

 ヒロミは頭を抱えたまま、近くにあったコンクリート壁にもたれかかった。

 

(このままでは事件が闇の中に……いや、その前に犯人たちの思うがままになるかもしれないのだぞ……)

 

 指の隙間から、清々しいまでの青天を見つめていると、人の気配を察知し、すかさず警戒態勢を取った。

 

 視線を向けた先にいたのは、二人の女子生徒。ヘルメット被ってはいるが、まだ子供だというのが見た目からして分かった。

 

「君たち、すこしいいか――」

 

「うるせぇなおっさん!! あたし達を舐めてるとぶっ飛ばすぞ!!」

 

 ヘルメット少女の一人がアサルトライフルを構え、怒号を飛ばしてきた。

 

 突然の出来事にヒロミは出そうとしていた言葉を引っ込める。

 

(……何故こんな子供が……銃を……?)

 

「邪魔すんなら消えてもらうぜ! ここは今から、あたしらカタカタヘルメット団の戦場になるんだからな」

 

 ヒロミは歯を食いしばり、こう言い放つ。

 

「遊びでこんな事をしているなら今すぐやめろ。さもないと、取り返しがつかなくなるぞ」

 

「大人が!! ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」

 

 少女が発砲しようと、トリガーに手をかけた。

 

 ヒロミは足蹴を放ち、彼女の手からアサルトライフルを飛ばす。

 もう片方も、射撃の寸前で銃を手放させ、無力化させる。

 

「う、うそだろこいつ!! ヘイローもないのに……!!」

 

「お前もしかして、アビドスの回し者だな!? だったら覚えておけよ」

 

 アビドス――確か俺がいた学校の校門に、そんな文字があったような、とヒロミは二丁のアサルトライフルを捨てながら思う。

 

 

「アビドスは今日こそ終わりだ! あたしらカタカタヘルメット団が、終わる寸前のお前らを始末してやる!!」

 

 

 三流のような台詞を吐き捨ててから、少女たちはトンズラしていった。

 

 

(アビドスは終わり……か)

 

 

 ヒロミは地に落ちた銃を見据え、考えに耽った。

 彼女らは自分を助けてくれた。少なくとも、優しい心を持ち合わせるいい子たちなのだろう。

 

 そんな子達が、()()()()()で傷ついていいはずがない。

 

 

 ヒロミはすかさず踵を返し、来た道を全速力で逆走していった。

 

 

 

 

 再び戻ってきたアビドス高等学校。

 

 その校門前では、大量のヘルメットを被った生徒が銃を持って大暴れしていた。

 

「なんてことだ……!!」

 

 ヒロミはその凄惨たる光景に、噎せ返りそうな程の怒りを覚えた。

 

 こんな平凡そうな街で、自ら争いを引き起こすなど――。

 かつての自分が見てきた光景と現状を重ね合わせると、腸が煮え返るような強い感情が込み上げてくる。

 

 すぐ止めようと動き出したヒロミが見たものは、もっと驚くべき光景だった。

 

 先程の生徒たちが出てきて、各々の銃火器を持ってして、暴徒たちの制圧を始めたのだ。

 

 銃弾を浴びせられた暴徒は次々倒れていき、その光景はまさに――。

 

(なぜ学生が銃を持っている……!? 俺は本当に海外に来てしまった――いや、ここはそもそも()()()()()()()世界なのか!?)

 

 ヒロミは頭が爆発しそうになり、重々しい一歩を踏み出し、それを皮切りに戦いの中へ身を投じていった。

 

 

「……! ねえ、危ないよ! 下がってて」

 

 

 彼の存在に気づいたシロコが、アサルトライフルを構えたまま彼に忠告した。

 

 

「断る!! この状況を、みすみす見逃すことはできない!!」

 

 

 暴徒たちの注目が彼に寄せられる。すぐにでも蜂の巣にされても、おかしくはなかった。

 

 

 

デモンズドライバー!!

 

 

 

 彼の腰に巻き付く、禍々しいバックル。

 

 シロコ、そして暴徒たちの目の色が変わった。

 

 そしてヒロミはホルダーから取り外したバイスタンプを構える。

 

「我が命に誓って、お前たちを止める!!」

 

 

『Spider!!』

 

 

『Deal……!』

 

 

 赤く発光したスタンプは、ドライバー上部の『デモンズレッドパッド』へ押し込まれた。

 液晶が発光し、彼の足元へ四角形のビジョンが投影される。

 

 どこからともなく舞い降りてくる、一匹の蜘蛛。

 ヒロミはスタンプを大きく空へと掲げ、渾身の一言を言い放つ。

 

 

「変身!!」

 

 

 スタンプは勢いよく、前部の『オーインジェクター』に押し付けられた。

 

 

『Decide up……!』

 

 

 重々しい電子音の後、蜘蛛が悍ましい量の糸を彼に巻き付けていく。

 やがて、彼の肉体に装甲が纏われていった。

 

 

『Deep…!』 『深く』

 

『Drop…!』 『落ちる』

 

『Denger…!』 『危機』

 

 

 

『仮面』 『Rider!』 『デモンズ!』

 

 

 

 複数の蒼き複眼が不気味に輝き、命を懸ける仮面の戦士――仮面ライダーデモンズが、そこに顕現した。

 

 

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