荒廃したサイバーパンク世界で百合を護ろうとする男と、それに恋する少女達の物語   作:霧夢龍人

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百合を嗜む男、始動

百合は尊い。

その心情は、男の殆どが共有できるものだと思う。例えば、可愛い女の子達が手を繋いだりハグをすることを百合という人もいれば、キスやその先の行為を望む女の子同士のことを百合と呼ぶ人もいる。

 

だが俺は、どちらの意見も正しく、そして間違っていると思う。

 

なぜなら───

 

「フォーーー!?!?ここで告白すんの!?まじ!?きぃやぁーーー!!!」

 

純白の装いをするように身体を覆うベッドシーツ、その中で俺は興奮を抑えきれず歓喜の声を上げた。

我ながらキモイと思うが、それは仕方ない。

 

推しカプが涙を浮かべながら抱き合って告白するシーンに興奮しない百合好きがいるか?いや、いない。

何年も相手のことを考えて、気持ちを伝えるか葛藤し、そして悩んだ末に告白する・・・俺はそういう“流れ”を百合だと思っている。

 

女の子同士の恋愛も、それ以前の友人としてのスキンシップも、百合じゃないとは言わないが、やはり百合好きとして最も嬉しいのは恋が実る瞬間だろう。

 

数年前に百合に目覚めて以降、狂ったように百合作品を読み漁った俺は、家族にも呆れられるほど百合を愛した。

 

お陰で“癌”の進行が遅くなり、結果として死滅してしまったらしい。百合は万病に効くとは、まさにこのことだ。

 

「神!このタイミングの告白は神でしかない!ありがとう神よォ!!」

 

テンション高く発狂し続ける俺。

誰もが待ち望んでいた瞬間であり、画面の向こうに映る女の子達にとっては、形容できないほどのドキドキと不安が身を取り巻いているだろう。

 

たかが創作?関係ない!

今期最高の百合アニメと言われる『とある希望に満ちた日々を願って』に関しては、百合好きでない者でも楽しめてしまう魅力がある。

 

美麗な作画や、可愛い女の子達。そして何より、ストーリーがめちゃくちゃいいんだよ!引き込まれるというか、ヒロイン達に感情移入しまくりで、ヒロイン達の気持ちが痛いほどよく分かる。

些細なことで悩んだり、ふとした瞬間にドキッとしたり・・・あまりの尊さに思わず浄化されそうになる。

 

恋という感情に戸惑いながらも、少しずつ見つめ合っていくのだ。

 

そしてその恋は、今ようやく実ろうとしていた。

 

「よし!そのままキス!キスしろぉーーー!!」

 

顔を赤くしてお互いを見つめる二人の女の子を画面越しで見つめながら、暗く閉ざされた部屋で俺は渾身の祈りを捧げた。

女の子たちの恋の行方を見守って約数ヶ月。このキスを見届けたら、俺は死んでもいいとすら思っている。

 

というか最後を見るまで死ねない(使命感)

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

 

深夜テンションもあるだろうが、ついに恋が結ばれるという瞬間に直面して、俺のテンションは最高潮になっていた。

 

自分で言うのもなんだが、俺はアニメは静かに見れないタイプである。ちなみに漫画や小説も静かに見れない。

叫び上がる気持ちが抑えきれずに、思わずベッドから身を乗り出してしまうのも致し方ない。

 

その気持ちを知ってか知らずか、画面の中の二人の女の子の距離はどんどん狭まっていく。

 

そしてそのまま───視界が暗転した。

 

「・・・へっ?」

 

目は開けている。

なのに何故か真っ暗で何も見えなかった。

 

例えるなら部屋を真っ暗にした時に、目が全く慣れていないまま部屋を見渡しているような、そんな感覚。

 

首を動かそうと藻掻いてみるが・・・駄目だ、動かない。

 

「お、おいおい。どういうことだよ」

 

暗闇の中で半ばパニックに陥りながら、必死に身体を動かそうと藻掻く。

 

そして───意識が覚醒した。

 

今まで暗かった視界が急に開け、頭痛がするほどの情報が目に飛び込んでくる。

だがそれはいつも見ているような“普通”の景色じゃない。というか、今いる場所すらいつもと違っていた。

 

「わっつはっぷん?」

 

脳内を埋め尽くす疑問の文字。

なぜならそこには、何かの部品と思しき残骸が山のように積み上がっていたからだ。

 

車、船、飛行機・・・エトセトラエトセトラ。

 

分かる範囲でも数え切れないほど積まれたそれは、ガラクタのように捨てられそこら中に散乱している。

鉄が錆びたような臭い。それと、ガソリンが混じった臭いが辺りから立ち込めていて、思わず鼻を抑えた。

 

くせぇ、と愚痴を一つ零して辺りを見渡す。

 

「・・・なんじゃこりゃあ」

 

上を見上げてもキリがないほどの高いビル、ビル、ビル。それらが数え切れないほど建立し、ネオンのようなライトが明るく照らしている。

だが、その全てが全く機能していないのが建物自体の雰囲気で推し量られた。幾つかは崩れかかっているのか、罅が入っていた。

 

人の気配は全くしないから、ゴーストタウンとでも言えばいいんだろうが、一つだけ確かなことがある。

 

明らかに日本じゃねぇ・・・というか、こんなに高い建物がこの世に存在しているわけがない。ブルジュ・ハリファが建ってるのがアラブだと言うなら、似たように大きな建物が並んでいるこの場所はアラブということになって、そうなると俺は今アラブに居ることになる。

 

日本からアラブだぞ?

飛行機で行っても10時間以上はかかるだろうし、そもそも何で俺はアラブに連れて来られたんだ?

 

ドッキリ?いやいや、ただの一般人の俺が?実は俺が認知していないところで、とんでもないイケメン俳優であると世間に共有されていたとして、アラブまで運ぶか?

ちゃんちゃらおかしいだろ、普通に考えてそんなことありえない。

 

でもそのありえない事が現実で起きている。

 

例えアラブでないにしろ、いい意味でも悪い意味でもこの国がとてつもなく発展しているのは分かる。サイバーパンク、それも荒廃してるタイプの国だ。

 

わかる情報はそれだけ。それ以外は特に何も・・・何も?

 

「あ、あれ・・・『NANA(ヘキサゴン)』って書いてないか・・・?」

 

眼前に映る情報。ネオン以外に光るものがないため良く見えないが、NANA(ヘキサゴン)と書かれたロゴと今にも倒壊しそうな建物が、薄く照らされたネオンの明かりだけを頼りに明滅していた。

 

NANA(ヘキサゴン)』とは、通称“Neutral accept neo administrator”を略したものだ。新しく揺るがない意志(中立的)をもって自身の心を管理することを受け入れよう、という思想に基づいた社会設計がモットーの会社で、世間からの評価が高い大企業───ということに“なっている”。

 

そう、なっているんだ。

 

「ハハ、おいマジかよ。これが・・・転生ってやつ?」

 

俺は既に察していた。

NANA(ペンタゴン)』というロゴを発見し、周りの風景と重ね合わせて思考を巡らせた結果、俺は答えに辿り着いていた。

 

転生。最近、といってもかなり前から擦られ続けていたラノベの十八番だが、俺は結構好きだった。

死んだら百合を眺められる世界に転生したいな、なんて考えてたくらいには結構好きだった。

 

だけどこうして今、自分がその場面に遭遇したとしてもどうすれば良いか分からない。

 

「それもまさか、さっき見てた『とある希望に満ちた日々を願って』の世界かよ・・・」

 

NANA(ペンタゴン)』と書かれたロゴに、サイバーパンク風の荒廃した世界。現実世界ではありえないと言わんばかりのスクラップ達と、人の居なさすぎる街並み。

 

断定は出来ないが、十中八九『とある希望に満ちた日々を願って』の世界だろう。もしかしたらこの作品と似たような作品の世界かもしれないが、現状は───略して『とある日々』の世界に転生したと仮定する。

 

仮定したとして、どうだろう。

まっっっったく嬉しくない。

 

だってこの作品普通に人死ぬし、命軽いし、エロもあるけどグロがほとんどの世界だ。まぁ、だからこそ女の子達の淡い恋心の儚さと美しさが際立つ世界設定ではあるんだが・・・一般モブみたいな俺が生き残るのは難しいと思う。

 

てか死ぬ。

 

『とある希望に満ちた日々を願って』と言った名前からも分かる通り、一般モブにとっては夢も希望もない世界でしかないのだここは。

だから願って祈るしかない。

明日も明後日もその次の日も、自分が生き残っていることを。

 

「・・・ハードすぎじゃない?」

 

もしかしたら俺はもう詰んでるのかもしれない。

アニメの世界に転生してみたいと願うことはあるが、なんでこの世界がチョイスされたのか疑問でしかない。

 

主人公達ですら生きるのに精一杯なのに、男の俺が生きるなんて不可能だ。百合アニメなんだから女の子達には(ある程度)優しい世界だが、男はもうただでさえ軽い命が、鳥の羽よりも軽くなっている。

 

『とある日々』の男性キャラなんて、一度登場したかと思ったら次の話で嫌がらせかのように死んでるからな。

 

つまり俺も嫌がらせみたく死ぬ可能性が高い。

 

「・・・いっそここで死んだ方がマシか?」

 

どうせこの先、生きても男に厳しい世界なんだから生きる方が苦しくなってくる。

ならいっそ、ここで早々に死んだ方がいい。

どうせ百合を嗜んでいなかったら癌で死んでいたんだから、今更だしな。

 

ほうっとため息を吐いて、鉄の山に近付いて首を掻き切れそうなスクラップを探す。数分ほど辺りをガサゴソと荒らしているうちに、バールのようなものを手に入れた。

 

鋭い切っ先がネオンの光で反射し、鈍く光っている。

 

俺はそのまま、その切っ先を首に躊躇なく打ち付け───ようとした手を止める。

 

「おい待て、俺もしかして・・・『とある日々』の最期のキスシーン見てなくないか?」

 

俺がこの世界に転生?してくる前に見ていたモノであり、俺が転生してきた世界だろう『とある日々』。

生きにくい世界で必死に命を繋ぎ、女の子同士で協力して生き抜いていくサイバーパンク世界。淡い恋と儚い命をちらつかせながら、美麗な作画と声優の名演技によって引き立つ作品の完成度。

 

俺はこの作品に魅了され、最後の最後で主人公とヒロインが長年の恋心を吐露し、キスをするシーンを見ようとして───恐らく死んだ。

 

キスシーンを拝めずに死ぬ。それは百合を嗜む俺からすれば、死よりも重い拷問に等しい。

 

つまり何を言いたいかと言うとだ。

 

「くっそ、ここで死ねねぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

流石にこのままでは死ねない。というか未練タラタラである。

最期のキスシーンを拝むまでは、俺は生き残りたい。例えそれで死にかけようと、百合好きとして百合のために死ねるなら本望だ。

 

だから死ぬのは今じゃない。

 

俺が目指すのは最良の結末(ハッピーエンド)だけだ。だからヒロイン達が自由に恋愛し、生きることを謳歌して欲しい。

そのためなら身体や命だって捧げてやる。

 

この世界がアニメでどれくらいの話の時間軸かは分からないが、それでも俺は生きる。

 

「俺の死に場所は、主人公とヒロインのキスシーンを拝んでからだ」

 

自分の胸に叩きつけるように俺は───“一目(イチモク) (レン)は”堂々と宣言した。

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