荒廃したサイバーパンク世界で百合を護ろうとする男と、それに恋する少女達の物語   作:霧夢龍人

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救いの先に、尻

遠くから飛来した鮫は、勢いよく俺の右腕に噛み付いて暴れ出す。俺は鮫に勢いよく後方にぶっ飛ばされながら、ガジガジと腕を食われかけていた。

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ッ!!!・・・ぐっ、おい!そんなに俺の腕は美味しいかよォっ!!」

 

背中側がタイルに引きずられ、背中側の皮膚が丸ごと捲り上がる痛み、そして依然としてその鋭い鮫の歯が、俺の腕を喰わんとばかりに何度も咀嚼する。

弱点を見通す目(ウィーク・アイ)】を使って弱点を探したいが、この痛みが何十倍も引き伸ばされるのは勘弁だ。

 

ぶっちゃけ今も痛みと衝撃で頭がトビそうなのに、そんな拷問みたいなことやってられない。

 

「らァッ!!!」

 

鮫の衝突した勢いが止まり、咀嚼する鮫に向かって思い切り蹴り上げる。

だが・・・硬い。何度蹴りあげようと、肉体とは思えない硬さの皮膚が衝撃を吸収しているようだ。

 

・・・あの時俺が鮫を殺せたのは、鮫が自身で衝撃を吸収できずに衝突したダメージをモロに食らったせいで、弱っていたのだろう。

 

だが今の鮫はダメージらしい傷を追っていない。

 

「れ、蓮くん!?何でボクを庇って・・・いや、今はいい!その鮫はボクが片付けるから───っ!?」

 

鮫相手に抵抗していると、飛ばされた衝撃から回復したらしいルクセリアさんが飛び起きて、此方に迫る・・・が。

その行く手を遮るように、赤と銀を合わせたようなローブをつけた人間がルクセリアさんの眼前に現れた。

 

ローブの人間の右手には細かな装飾をした剣が握られており、纏う雰囲気は強者のソレ。抗えない恐怖心が、その場にいるだけで煽られる。

 

「・・・っへぇ、なるほど。キミがこの鮫を呼び込んだのかい?」

 

『答える義務は無い』

 

「ふーん?そうかそうか───じゃあ殺す」

 

そう言うや否や、相対するローブの人物は剣の切っ先をルクセリアさんに向け、ルクセリアさんな何も無い空間から少し眩い金色の剣を取り出した。

 

そして・・・激突。

ルクセリアさんが剣を振るい、ローブの奴はそれをいなす。普通に見ても追い切れないほどに加速した剣の速度は、幾数にも重なって見えるほどだった。

 

「くそっ、参ったな。これじゃルクセリアさんには頼れないか・・・」

 

あぁ見えて、ルクセリアさんは強い。

一人で何百人、何千人と後の戦争で殺し、序盤では主人公よりも圧倒的に強い師匠ポジションだった。

15倍の世界で見ても身体が追いつかなかった鮫の突進を、ルクセリアさんはいち早く感知して俺を庇える程の余裕があった。

もしルクセリアさんがあの時、俺を庇っていなければこの鮫は今頃挽肉になっていただろう。

 

しかしローブのやつもかなりの手練のようで、ルクセリアさんに食い下がっている。

 

「でもこのままじゃ・・・っいてぇなぁおい!!」

 

生意気にも噛み方を変えてきて、さらに痛みが増す右腕。もはや噛まれている先の感覚がないが、肩の方まで喰らおうと咀嚼してくるのでかなり痛い。

鮫の方はある程度弱ってきたのか、俺の打撃が少し入るようにはなったが・・・このままじゃジリ貧だ。

 

やはり俺一人じゃ駄目なのか───そう諦めた時だった。

 

「・・・なんだ、コレ」

 

『 G u r a a a ?』

 

体の芯から温まるような感覚と、それに比例して鮫の噛むスピードが弱まる・・・いや、噛めなくなっている?

気のせいかと思ったが、体の芯に燻る熱が強くなる度に、鮫は驚いたように咀嚼を止めた。

その姿に疑問に思いながらも、俺は鮫に思い切り蹴りを入れる。

 

すると今度は、ドゴンッ!という聞いたこともないような鈍い音が、蹴った鮫の肉体から響いた。

 

『 G A A A A A A A !!!!??』

 

たまらず鮫は絶叫。血反吐を吐きながら俺から離れた。

噛まれた右腕はもはや手の形をしていないほどに悲惨な形状をしていたが・・・攻撃が、通った?

 

今まであんなに通らなかったのに?

頭を埋め尽くす疑問。そしてその疑問に答えるように、【アビリティ】が勝手に表示される。

そこに記載されていたのは、【発情する精神(ヒートアップ)】という軌跡(スキル)の効能。

 

触れた者を強制的に発情させることが出来る。それは老若男女問わずに効果を発揮し、あらゆる耐性をも突破する。また、触れた面積によって自身の身体能力が全て上昇する』という出鱈目な性能をしている力に、ヒントは隠されていた。

 

「ハハハッ、おいおい。もしかしてこれ、人間以外にも作用するのか?」

 

老若男女というのだから、人間限定だと思っていた。しかしどうやら、人間以外の全生物が対象らしいということが、今の出来事から理解出来る。

 

「あんだけ噛み付いて離さなかったんだ。そりゃあ【発情する精神(ヒートアップ)】が発動するわけだ。さて、鮫くん・・・良くも今までやってくれたなァ!」

 

ジリ貧だと思っていたが、どうやら俺のターンのようだ。込み上げる笑みを抑え、悠然と拳を構えた。

 

そして・・・振り下ろす。何度も何度も振り下ろす。

その度に拳と鮫の肉体が触れてより強固に、そして頑丈になっていく。

 

「永久機関が完成しちまったなァーーーッ!!」

 

『G u ッ!? G a ッ!?』

 

右手でも左手でもお構いなく、鮫の硬い肉体を潰す。右手の突き出た骨が鮫の肉体を裂き、堅牢な左腕が尽くを打ち砕いていく。

 

そんな俺の横で、ルクセリアさんとローブの人間の決着も着こうとしていた。光を反射する金色の剣が、凄まじいスピードでローブの人間に迫る。ローブは辛うじてそれを弾くが、それも予期していたのか弾かれた勢いで下段を凪いだ。

瞬間、上がる血潮。

 

『ぐうっ!?』

 

「キミィ?ボクに挑む割にはそんなに大したことないね?あれあれ、さっきまでの威勢はどーおしたんだい?」

 

この時点で勝負の行く末は決まっていた。

体勢を崩したローブ相手に、ルクセリアさんは容赦なく追撃を続ける。

上段───切り上げからの水面切り───勢いそのままくるりと翻って逆袈裟───今度は畳み掛けるように袈裟斬り───に見せかけたフェイントで、突きを繰り出す。

 

切り結んだ尾を引く剣が、赤と銀のローブに紅を作り出していく。それは一つじゃ物足りず、ルクセリアさんが剣を振るう事にその紅は量を増していった。

ローブもその攻撃に焦りを見せ始め我武者羅に剣を振るうが、当たらない。むしろ剣を振るう瞬間の隙を利用され、新たな傷を増やしていく。

 

そして───決着。

 

『あ、ぁぁ・・・あ"?』

 

「小手調べにはちょうど良かったよ、キミ」

 

フェイントのような斬撃、斬撃のようなフェイントを幾重も織り交ぜた剣技が、ようやくローブの喉元に迫り・・・峰打ちの要領で、トンっと打ち付ける。

崩れ落ちる身体に、銀色の剣が力なく落ちる。

 

片や瀕死、片や傷一つないルクセリアさん。

勝敗は圧倒的だった。

 

「はは、まじか」

 

途中で追いつけない速度で戦い始めた両者に目がいくも、俺の振り下ろし続けた拳は未だ止まらない。

 

「蓮くん!大丈夫・・・そうだね、うん」

 

慌てて駆けつけたルクセリアさんも、俺の様子を見てちょっと引いていた。え、なんで・・・?

 

『あ、アレ何!?』

 

『きゃあ!人が倒れてるわ!』

 

俺が永遠と鮫をシバキ続けていると、周りに野次馬が集まってきた。一回目と二回目では、場所も違うため集まって来る人間も違う。

だが一人だけ、一回目の時も二回目の時も野次馬として見に来ていた奴がいた。

ふつうなら偶然で済む話だが、ソイツは一回目の時こう言っていた。

 

『もしかして死んでるの・・・ルクセリア様じゃないっ!?』と。思い出して欲しい。あの時ルクセリアさんは頭が喰われていて、胴体しかない状態だった。それなのに、どうしてルクセリアさんと分かった?

 

服装?いいやまさか。血に濡れていた上に、周辺地域管理事務局長(ラ・ルガメンテ)の紋章な背中側に付いている。

つまり、“背中側”から倒れて見えないはずの紋章から、どうやってルクセリアさんだと認識したのか?

 

それはきっと、ソイツがルクセリアさんに気絶させられたローブと繋がっていた“スパイ”だからだ。

第一、ルクセリアさんを殺すなら『座標転移装置(ワープゲート)』で転移した時を狙えば良かった。なのにそうしなかったのは、“出来なかった”からだ。

 

このスパイがルクセリアさんの知り合いに近しい人物なら、パトロールに行く時間も帰る時間も分かるはず。ただ今回、俺というイレギュラーが居たからパトロールの時間が早まったせいで狙うことが出来なかった。

だから、出てくるタイミングを伺える服屋で待ち伏せして襲ったんだ。

 

そしてこのスパイは、その出てくるタイミングを尾行してローブの男に指示を出していたのだろう。

野次馬として近寄ったのは、無事にルクセリアさんが死んでいるか確認するため。今回も野次馬として来たのは、恐らくローブの男の状況確認といったところだろうか。

 

まぁ、なんにせよ逃がすつもりはない。

 

俺は既に事切れた鮫の亡骸をおいて立ち上がる。ルクセリアさんは野次馬達に説明をしているようだが、そのスパイはルクセリアさんの背後に忍び込んでいた。

 

手元に光るのは、毒々しい何かが塗られたナイフ。

 

「アイツっ!」

 

てっきり状況確認だけして逃げると思ったが、どうやら違うらしい。なりふり構ってられないのか、大勢が見ている群衆の中で暗殺しようとしているらしい。

 

俺はそれを見て駆け出そうとした───が。

 

「もしかして、ずっとボク達のことストーカーしてたの、キミ?」

 

事情を説明していたルクセリアさんが急に後ろを振り返って、今にもナイフを突き立てようとしていたスパイの腕を掴む。

そして、おもむろに剣の切っ先をそのスパイに向けたかと思うと───一瞬で細切れになった。

 

「・・・は?」

 

切った瞬間は見ていない。いつの間にか鞘に戻っていた剣から察するに、本当にただ“斬った”だけだろう。

それなのに見えなかった。恐らく、【弱点を見通す目(ウィーク・アイ)】で見ても視認出来なかったに違いない。

 

「あぁごめんキミ達、今の子は気にしないでいいよ。多分さっきの子、売国奴だからさ」

 

小さな肉片だけになった女に背を向けて、再びルクセリアさんは事情を説明し始める。

暫くすると納得したのか、群衆たちはあれやこれや同じく見に来た人達と話しながら戻って行った。

 

現代日本なら絶対にこの程度じゃすまないし、きっとルクセリアさんを恐れて近寄らなかっただろうが・・・この世界の常識はやはり合わない気がする。

 

「ごめんね、助けに行けなくて・・・って、腕も怪我してるじゃないか!?大丈夫かい!?」

 

「へっ?あぁこれですか?いやまぁ、頭が欠損するよりかはマシなので大丈夫です」

 

「いやいや、そんな大怪我で言われても!・・・あ、もしかして。ボ、ボクを庇って?」

 

「・・・違います」

 

「そう、か。ボクのせいか・・・借りが出来ちゃったみたいだね」

 

負い目になられたら困るので否定したが、どうやら見透かされているらしい。確かに一歩間違えたら頭からパク、だったからなぁ・・・【弱点を見通す目(ウィーク・アイ)】なんていう軌跡(スキル)を授けてくれたあの女性には感謝である。

 

でもやはり、ルクセリアさんは俺の腕のことを気にしているようで、しきりに視線を向けている。

 

「そんなに気にしないでくださいよ、ボクだって気にしてないんですから」

 

「だ、だって!・・・しょうがないじゃないか」

 

「でも本当に気にしてないんですよ。それに、俺の右腕の欠損でルクセリアさんの命が守れたなら、むしろ安いくらいです」

 

なんなら死ぬことも覚悟していたくらいである。それなのに、右腕がボロボロになるだけで欠損はしていないし、この世界の技術なら死ぬ以外は治るはずだ。

それよりも俺の体で推しの命を、そしてルクセリアさんの安全を守れたならもう言うことはない。

 

「・・・キミってもしかしてタラシの類い?」

 

「え、何でですか」

 

「いやちょっと・・・きゅんときた」

 

「え?」

 

言われた言葉を理解するのに時間がかかり、思わず聞き返す。

が、言われた言葉は先程と全く変わらなかった。

 

「だーかーら!キミにきゅんときたの!分かる!?」

 

「・・・おっふ」

 

「どうしてくれるのさ。ボクはライラ先生一筋なのに・・・」

 

どうしてと言われても、俺的にはライラ先生とイチャイチャチュッチュしてくれた方が嬉しい。そのためなら命すら辞さない覚悟がある。

 

「ま、まぁまぁ。それ吊り橋効果ってやつですよ。すぐに収まりますから!」

 

「でもでも!きゅんときたのはホントだよ!?」

 

「疑ってませんて!第一、そんなこと言うんだったらライラさんに言いつけますよ?」

 

「ヴッ・・・それはやめて」

 

何とかしてルクセリアさんを落ち着かせる。

ライラさん、出汁に使ってすみませんと謝りながら、その感情はまやかしですと言い続けて・・・気付いた。

 

もしかして俺───百合の間に挟まってね?

 

「あ、ぁあ・・・うそだ、そんなまさか・・・いや、いやぁぁあ!!!」

 

「へっ!?ちょ、急にどうしたのさ!?お、落ち着いてくれよ!ほら、おっぱい揉む?それともおしりの方がいいかい?ねぇ、ライラ先生はおしり派だったけど、キミはど「遠慮しますぅーーー!!!」」

 

結果、数時間ほど逃げ回った俺は本気を出したルクセリアさんに捕縛され、『身体機能保全施設(メディカルセンター)』へとドナドナされた。




なおこの後、スキルの反動でとんでもない痛みが襲う模様。
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