土曜日。お昼過ぎにドレッサーが届き、空けておいた(最初から部屋がスカスカだったわけじゃないですよ?)スペースに配置してもらう。
(わー引き出しいっぱい・・・。コスメの種類を覚える前に、コスメを入れた場所を覚えないと・・・。わぁー覚えることいっぱーい・・・)
この後はその引き出しに入れるプチプラを買いに行く予定が入っていると考えると、アイドル・・・になる前の女の子になるって思ってるより遠い感じがしますね・・・。
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プチプラを買いに大きめのお店に買いに行く時の服装をどうするか、という話し合いがアイさんとあったんですけども。
(あの、アイさんそっくりファッションは前回の件があるので控えたいですね・・・。なんとか言い訳を考えますか・・・)
というわけで、買いに行くお店には体力を増やすために走っていきますということに。アイさんはお揃いにしたいと文句を言っていたけれど、行って帰って3時間は厳しいですということでお許しをいただきました。アイさんフォームは走るのには向いてなさそうですし!走るなら40分が二つで済みます、帰りは走れるか怪しいですけど。
あと、買った帰りにカラオケに寄って行こうということに。アイさんが私の歌唱力を評価してくれるそうです。やばい、B小町で歌えるのまだ一つしかないですよ・・・。
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お店でプチプラを選んでいただけなのに数時間もかかり、カラオケについた時にはすでに夕方。ついでに私はかなりヘトヘト、一曲歌うのが精一杯って感じです・・・。
部屋としては大きい部屋が余っていたので、そこをお願いしました。でも、いつも空いているわけではなさそうなので、ダンスの練習には違うところを考える必要がありそうですね。
「さて、サヤ!一曲は歌えるよね?採点してあげる、歌ってみて!」
「は、はい!えっと、検索してっと・・・」
曲を入れて、マイクを掴む。下半身はボロボロだけど、上半身はまだなんとかって感じ。アイさんに見せつけてやりますよ!
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歌い終わってアイさんの顔を見てみる。判断に迷う顔してますね・・・。
「そうだね・・・。いいとこもあるけど、音程が悪いとこもある感じ。採点としてはまあまあ!要練習!」
「まあそれはそうですよねー、取り立てて私、自分の歌が上手いと思った事ないですし・・・」
「じゃ、今から言う曲を入れて欲しいな!」
アイさんに言われた3曲を入れる。あれ、全部B小町の曲。
入れたのを確認して、アイさんが楽しそうな声をあげる。
「今からここはライブ会場!私、星野アイからサヤに送る、初めてのソロライブ!本気でいくから、しっかり目に焼き付けてね☆」
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一曲目が始まる。当然だけど、アイさんはマイクを使えない。でも、歌い始める前からアイさんの雰囲気は凄まじいものだった。まだ何もしていない、なのに引き込まれる。目が離せない。これもオーラなの?
アイさんが一曲目を歌い、踊り、そして舞う。マイクを使っていないのに、よく響く声。アイドル、というものを私はまだよく理解していなかったみたい。なぜかというと、私自身がアイドルというものに興味が無かったから。なりたい人は多少はわかる。アイさんも言っていたけど、女の子の花、夢みたいなものだから。私がわからないのはそれにお金を支払う方。アイドルを見ていて何が楽しいのか理解できなかった。だって、何の利益があるの?その利益は、現物としてあるもの?そんな形としてないものに、お金を支払う?
アイさんはカラオケのステージという、非常に安っぽいものの上で歌い踊っているのに、全くそうは見えない。アクアも言っていたけど、ズレずにいられない。あまりに強い光の前で、人は、ただ焦がされるって。今ならこの意味が、わからないこともない。歌っているアイさんを見ているだけで、胸がドキドキする。本来ならアイさんはドームで数多くの人の前で踊っていたはずの人物なのだ、それがこうして私1人のために踊ってくれている。罪悪感もあるけれど、今ただ、アイさんを見ていたかった。
二曲目が始まる。一旦静かになり、そしてまた歌い出す。トップアイドル、アイさんを見るためにお金を支払う、アイさんという火に吸い寄せられる蛾。私は蛾は蛾でもクジャクヤママユなのだ、安くはない。それでも、アイさんを見たいと思う、この気持ち。今は、お金を支払う気持ちが少しはわかる。
私はアイさんの表現している感情、表情、その他全てが嘘であると知っている。この体は嘘でできている、とか言っちゃう人だよ?最後の方でも、何が本心で何が嘘かわからないとか言ってるし。でも、全力で嘘を、愛を吐く。その愛の言葉は嘘かもしれない。でもその嘘を本当にするために頑張って積み上げた努力は本物だって思う。今、アイさんを間近で見ていてそう感じる。
アイさんが今歌っている曲や一曲目の中にも、そう言った感情を表現した文面は出てくる。愛だったり、好き、だったり。でもアイさんが好き、もしくは愛してるのはアクアとルビーだけのはず。今言っているそれらは、その時に発見した感情をコピーして使用しているに過ぎない。その他の感情、表情も、何かのコピーなのだろう。私はそうだと知っているはずなのに。嘘だと知っているはずなのに、心が揺れる。不思議な感覚。
3曲目が始まる。私の中にある、もっと見ていたいという気持ち以外にもう一つ、気持ちが出来つつあるのを私は感じていた。
それは、私もなれるならなってみたい、という子供っぽい願望。どれだけ道のりが大変なのか、そういったことを理解していないただの願い。
(今まではお金を稼げそうだから、だったけど。アイさん、すごい楽しそうだし・・・。アイドルって面白いのかな?)
アイさんは楽しそうに歌い踊る。それを見ている私にも、楽しい気持ちが伝播してくる。これも嘘なのだろうか。私にはわからない。
もしかして私が将来、貢ぐ、という気持ちを伝播できるようになれば、日本中の人が私にいっぱい貢いでくれたりして?
私がこのレベルのアイドルになれるのか、それは私にはわからない。アイさんと私は同じような顔。歌と踊りの才能はわからないけど、アイさんは努力の子だったらしい。なら、私も努力すればなれるのかな・・・?
(わからない・・・。けど、アイさんは私にトップアイドルになれるって言ってくれたし・・・)
ただなりたいだけなら、普通のアイドルでもいいのかもしれない。でも私には、いくつか判断基準がある。
信条1.2は、アイさんがなって欲しいと言っていたのだから、問題ないのならなってこいと。迷惑かけたのだから、返してこいと。
信条3は、前世の経験からいくと、ただのアイドルではお金にならない。アイドルになるなら頂点になる必要があると。
罪悪感の影が叫ぶ、悲しみをばら撒いた分だけ、それを埋めることをしろと。それが贖罪の一つになると。
私の心が願う、トップアイドルになりたいと。
これらから総合すると、私が目指すのは・・・。
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3曲目が終わり、アイさんがこっちに話しかけてくる。
「どうだった?私のソロライブ!」
「とってもすごかったです!目が離せませんでした!」
「よかったー!サヤ、アイドルの給料には興味があっても、それ以外には興味無さそうだったからさ。これで少しでも興味が出てきたら良いなって」
「私のことをよくご存知で・・・。でも、そうですね。私、決めました」
「なにを決めたの?」
「私は・・・」
ーーこの言葉は、私の中では今後、重い意味を持つだろう。私が見捨ててしまった無敵のアイドルに対して、宣誓を行うのだから。それでも私は、この言葉を口にしたかった。これより後に、私がこの願いを、諦めてしまわないように。それに、この願いは叶えないと私の予定通りのお給料にならないのだ、絶対に達成しなければならない。そのための、楔。
アイさんの目にしっかりと視線を合わせて、私の願いを口にする。
「私は、アイさん・・・星野アイと!肩を並べるアイドルに、なってみせます!」