きっかけになったのは、私がアクアに言われてした演技です。
学校が終わって放課後。ルビーはみなみと遊びに行くらしいので、今日の帰りは私とアクアだけです。と言っても、私もすぐ帰ってレッスンするので、一緒に帰るのは短時間ですけれど。
私も遊びに誘われましたが、行けないですね。いきなり言われてもアイさんに連絡は取れないので、当日に誘われて行くことはほぼないです。よほど緊急なら仕方なく行くこともありますけど、私としてはアイさんの方が大切ですので。
「役者の演技もできるのか?」
また難しいことを聞いてきますね・・・。出来なくはないですが、アイドルよりレッスンの期間が短いので、完成度としては微妙ですね。
「微妙に・・・?少しは練習してますけど」
「監督に有馬を勧誘した時の話をしたら、興味が出たんだとさ」
「あの怪しい泣き落としの話をしたんですか・・・?」
「雰囲気自体は有馬も褒めてただろ」
「何で知ってるんです?」
「有馬から聞いたんだよ」
「あれ絶対勘違いですよ。いきなり色々な情報ぶつけられて感覚がおかしくなった、とかじゃないですか?」
「監督はかなり期待してたぞ」
「期待してくれるのはありがたいですけどね・・・」
「そんなわけだ、平日の放課後で時間取れる日あるだろ?」
「今日、家に帰って予定確認したら連絡いれますよ」
休日はリアリティショーがあってアクアは忙しいですからね。私はレッスンに忙しいですけど。さて、アイさん相談しないと。
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アイさんから許可が出たので数日後の平日、放課後。
苺プロの一室には監督さんとアクア、私がいます。
「役者の演技、と言っても具体的に何か指示ありますか?」
「いや、指示はねぇ。ねぇが、わかりやすい演技の方が評価しやすい」
「わかりやすい、ですか・・・」
私が演技出来る程度にはわかる人物で、かつアクアと監督さんがよく知っている、評価しやすい人物・・・。もうこれ、アイさんしかいませんよね・・・。ほかの選択肢あります?ルビーとか?
ここでいい評価を貰えれば、監督さんの映画に出してもらえるようになるかも・・・?これは・・・お金の香り・・・!低予算でも数出ればお金になるでしょう!アイさんだって監督さんの映画から人気が増えたはず、逃がしませんよ・・・本気で行きますか・・・。
B小町というアイドルグループがあったんですから、衣装部屋くらいはあるでしょう、たぶん。そこ行ってアイさんっぽい衣装でも探して来ますか!
「ちょっとおめかししてきますね!」
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衣装部屋を探し当ててガサゴソ。衣装部屋だけあって、大量の服が置いてあります。そんなに大きい部屋では無いのが救いですね・・・。
「あ・・・」
ダンボールの中から見つけました。これ、似た服どころかアイさんの着てた服そのままでは・・・?思い出のために、取っておいたんですかね?
収納のために、ビニール袋に密閉されていたそれを取り出してみます。普通の服ですね、虫食いとかもないです。
(これを着てみますかね。サイズはどうなんですかね・・・?)
普通に着れました。衣装部屋の姿見で見ても、不審な点は見当たりませんね。自分で見てもアイさんにしか見えませんし。
(ふふふ・・・。アクアも監督さんも、私の外見と演技に怯えるといいですよ?映画の役を、山のように用意しておくんですね・・・!)
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アクアと泰志(監督)が待っている部屋の扉が開く。
「おうサヤ、遅かっ・・・」
入ってきた青年少女は軽い足取りで部屋の中の、低い舞台になっているような部分に座っているアクアの横まで移動し、その顔を覗き込んだ。
「おー、おっきくなったねアクア!私が最後に見た時はこんなちっちゃかったのに〜」
「は・・・?」
「どうしたの?お化けでもみた?不安なら、今日はママが一緒に寝てあげよっか?」
「ア、アイ・・・?」
「・・・もしかしてママの事、忘れちゃった?あちゃー、もっと構ってあげればよかったかな〜」
「アイ!」
「おっとと・・・。いきなり飛びついてきたら危ないよ?ママは逃げないからね」
「あぁ・・・!アイ・・・!」
「今日のアクアは甘えんぼさんだね。よしよし・・・」
この様子を見ていた監督が、恐る恐る声をかける。
「アイ、お前・・・生きてたのか・・・?」
「カントクー?私はあのくらいじゃ死なないよ☆」
「アイ・・・ん・・・」
「アクア、おねむなの?よしよし、いい子いい子・・・」
少女は舞台に座り、眠ったアクアに膝枕をする。優しくアクアの頭を撫でつつ、監督に声をかける。
「アクアは楽しく過ごしてる?」
「お前が消えちまった後、早熟は生き急ぐようになっちまった・・・。何かに追い立てられるみてぇにな」
「そっか・・・。ごめんねアクア、いいお母さんじゃなくて・・・」
「いや、戻ってきたんならいい・・・。早熟と妹、今後はしっかり面倒見とけよ」
その時、部屋の扉がもう一度開き、ルビーが入ってくる。
「お兄ちゃん!サヤちゃん来てるなら・・・えっ?」
「あ、ルビー!ルビーもこっちおいでー」
「あ、あれ・・・?ママ・・・?」
「ルビーもママの事、忘れちゃった?」
「忘れてない!ママ!」
ルビーがアクアのいない側に飛びつく。
「おっと・・・。アクアが寝てるの、起こしちゃわないようにね?」
「はーい!ママ、よしよししてー!」
「よしよし・・・。ルビーもおっきくなったね!」
「うん!ねぇママ、私もうすぐアイドルデビューするんだよ?」
「すごい!ルビーはアイドルになるって思ってたよ!」
「それでね?ママみたいにキラキラしたアイドルになるのが夢なの!」
「ルビーならなれる!だって、ママの子供だもんね!」
「うん!・・・ママ、今度はいなくならない・・・?」
「前はごめんね、いなくなっちゃって・・・。でも大丈夫!今からはずーっと一緒だよ☆」
「本当・・・?ママ・・・」
「ママを信じて。・・・ルビーもおねむかな?眠っちゃっていいよ、いい子いい子・・・」
「うん・・・おやすみなさい、ママ・・・」
眠った双子の頭を撫でながら、小さな声で。
「・・・ルビー、アクア・・・愛してる」
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今の状態は、両足太腿にアクアとルビー。この二人を完璧に騙せたので、もう十分ですよね。監督さんもなんか勘違いしてそうでしたし。私の髪にヘアピンついてますよ?
ちなみに、さっきのアイさんの演技ですけど、私はアイさんの思考を理解していません。なので私が思う、無敵のアイさんを演技した形になりますね。ナイフもミサイルも効かない、愛してるって子供に躊躇なく言ってくれる、本当に無敵のアイドルママ設定です。もはや人間は超越してます。
レッスンの時のアイさんもこれくらい私に優しくしてくれると嬉しいです、という願望も入ってたりして・・・。
「あの事件の後、なんで消えちまったんだ?犯人から身を隠すためか?」
「あの、監督さん・・・?私、サヤですけど・・・?」
「お・・・?ん?サヤ?」
「はい」
「・・・今の、アイの演技だったってことか・・・?」
「そうなるんですけど・・・」
監督さんが天井を見ながら、マジか・・・とか言ってます。残念ながらマジなんですよね〜。
「とりあえず仮眠室にアクアさん運んで貰えませんか?ルビーさんは私が運びますので・・・」
「・・・しょうがねぇな」
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あまり深く考えず、お金のためにアイさんの演技しましたけど、結構やばかったりしました・・・?アクアとルビーが、私のことを完全にアイさんだと思う可能性もあったり・・・?
・・・アイさんの演技しながら、二人にお金ちょうだい、って言ったらもしかしていっぱいお金くれます・・・?錬金術きましたかね?
アクアとルビーについてですが、どちらもふんわり、とても幸せな夢を見た、くらいの記憶しかありませんでした!よかったです・・・。勘違いされた日には、アイさんに顔向け出来ませんよ・・・。
監督さんからの評価はすごい高かったです。まず外見をほとんど合わせたので、多少のズレは雰囲気で許容してくれた感じですかね・・・?私、いっぱい役を貰えますよねきっと!アクアとルビーには夢だった、ということにしておいてくれるそうです。なんでも、二人には麻薬に近いもの、だそうで。
でも、私の嘘の、演技の愛でも。二人を少しでも幸せに出来たのなら、私も幸せですよ。二人が辛そうな時は、こっそり演技しましょうかね・・・?
誤字連絡、ありがとうございました!