また、2話後にアクア視点を予定しております、苦手な方はご注意ください。
家に向かって走る私の頭の中には、カラスの疫病神から聞いた言葉が響いていた。
「私が彼女に言った言葉は多くない」
「貴女が死んだ後、アクアとルビーの落ち込みようは凄まじいものだった。ルビーは心に大きな傷を、アクアは自殺まで考えていたよ」
「この世界で貴女を認識できる人間はあの子だけ、それ以外に認識できる人間も生き物もいない」
「じゃあ、アクアとルビーに貴女のことを伝えた後に、あの子が死んだら・・・貴女は子供たちへ、二度目の別れを贈るんだね」
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階段を駆け登り、自室の扉を開け放つ。こちらを向いたアイさんは、驚いた表情をしている。
「わ、サヤ?どうしたの、そんなに慌てて?」
「アイさん・・・私はどうしたらいいですか?」
「えっ?なになに、どうしたの?」
「アイさんが子供に会いに行かないのは、どうしてですか?」
「・・・深い理由はないよ?」
「嘘です。アクアとルビーに会いたいって思ってますよね」
「・・・どうしてそう思うの?」
「だって、アイさんは子供を愛していますよね?ならアイさんは絶対、会いに行きたいはずです。会話したいはずです。それに・・・この話題を出した時から、アイさん、ずっと泣きそうな雰囲気ですよ・・・?」
雰囲気が違う。聞かれたくないことを聞かれた雰囲気。私にすらわかる、取り繕えていない。愛を初めてしっかり認識した相手に、アイさんが会いたくないはずがない。
なんとなくアクアとルビーに対する反応が薄かったのは、これ以上興味を持ってしまうと話したくなってしまうから。苺プロに行かなかったのは、会うと伝えたいことが溢れてしまうから。
いることを伝えた後に、何らかの理由で私が死んでしまったら、もう一度子供達と別れることになってしまう。アイさんからは見ることはできるけど、伝えることはできない。アクアとルビーからは、見ることも話すことも、感じることもない。
ここで、私は死にません、と言えたらどれほどよかっただろう。しかし、私は一度死んでいる。お腹に刺さる感覚を、私は知っている。
人間、何かを得た時よりも、失った時の方が遥かに心理的影響を受ける。プロスペクト効果と似たようなもの。
アイさんと再び話せた時の心理的喜びより、再び失ってしまった時の心理的苦痛の方が断然大きいと言うこと。
だからアイさんは、死ぬ間際に初めてわかった自身の愛にすら嘘を吐き、心を嘘でもう一度覆い隠そうとした。アクアとルビーに自身の存在を知らせないために。
二度目の別れを、愛する子供に与えない為に。
黒い影が私を責める。
[アイが死んだのはお前の責任。幸せを奪ったお前がなんで責任を取らない?アクア、ルビーと仲良くなって許されると思った?アイドルは楽しい?このまま平穏無事に過ごせるとでも?そんなの、許されると思う?]
私の目の前の風景が変わる。私が実際に現実で見たわけではない光景。血塗れのアイさんがぐったりと扉に寄りかかっている光景。
ああ、この時私がアイさんを救えてさえいれば。アクアとルビーはきっと、幸せな人生を送っていただろう。アイさんも幽霊にならず、愛した子供と仲良く暮らせたはずだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
「・・・どうして謝ってるの?」
「アイさんが死んだのは私のせい、私だけが救えた、私が何か行動していれば、私が、私が・・・」
「なんでそんなに気にしてるのかわかんない。アクアやルビーと同い年だよね?何も出来ないと思うよ?私の家の場所だって知らないのに」
「出来ないはずがない、だって私は・・・」
「んー・・・。じゃ、こうしよっか!私はサヤを許すよ!」
「・・・え・・・いや、許されていいわけない、だって死んでるだよ!?」
「サヤが何しても変わんなかったかな〜。だからそんな気にしないの!」
「・・・でも・・・」
「気にしないでって言ってるんだよ?」
「・・・うわーん!ごめんなさいぃ・・・!」
「サヤが泣き虫さんになっちゃった。よしよし・・・」
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幽霊に頭を撫でられている雰囲気の少女は嬉しそうに笑顔を浮かべている。
「アイー!もっとよしよししてー!」
「はいはい。よしよし・・・」
「んー!しあわせー!」
「サヤは甘えんぼさんだね」
「んゆー、アイ、なにかおねがいあるー?」
「お願い?そうだね〜」
「なんでもいいよ!」
「サヤにもアクアにもルビーにも、元気に育って欲しいと願ってるよ!」
「わかった!」
結局、私は自身の全てを曝け出せなかった。だからこそ。
アクアとルビー、元気に育てて見せます。お金、したい事、なりたいもの。いきなりは難しいかもしれませんが、将来のアクアとルビーには何一つ不自由させません。
アイさんの、アクアとルビーと話をしたいという願い。それもいつか叶えて見せます。絶対死なない、というのは難しいので確率を下げるしか出来ませんが、アイさんが安心して存在を伝えられるように頑張ります。
アクアとルビーに伝えたいとは思うのですが、アイさんのことはアイさん自身が安心して伝えたい、となるまで秘密にさせてもらいますね。
「アイ!わたし、がんばる!」
今は泣かせてしまっているとしても。いつか、必ず心から笑わせて見せます。
私が嘘にしてしまった星野家の幸せを、私が本当にします!これが私の、責任の取り方です!
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ある程度考えた結果、極論、地中深くに私とアクアとルビーとアイさんを監禁するとか、そんな感じならアイさんは安心して話してくれるに違いありません。でもそういう事をするには、お金がたくさんいりますよね。
つまり、何をするにしてもやはりお金・・・!お金は全てを解決します・・・!稼ぐためにアイさんよろしく嘘吐きになるのもやむなしです・・・!アクア、ルビー、私、3人分稼がねばならぬので、手段は選べません!
そして、よく考えたら何も解決してませんよね。アイさんは私を許してくれましたけど、アイさん周辺の人は私の事を許さないでしょう。つまり、バレたら死ぬ、という点は何も変化していないですよ・・・!
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次の日、学校に登校したら、アクアとルビーにちょっと雰囲気変わった?って言われました。そんないきなり変わる事ないですよね?勘違いですよ!
目先は今後決まるジャパンアイドルフェスに向けて頑張るしかないんですが、この先でもっと飛躍するためにはお偉いさん方と仲良くする必要があります。お偉方と仲良くするための方法、それはですね?
私はアイさん譲り・・・ではないですが、同じ姿形なので当然色んな人に受けがいいです。これを使えばいいですね。具体的に言うなら枕営業します。別に減るもんでもないですし、使えるものは使います。他のアイドルもよくそういうのやってますよね(偏見)。アイドルや役者のお仕事も増えて、お金も増えます。お金とアクアとルビーの為、たくさんやりますよー!
(あーでも、アクアやルビーがアイさんを求めて、似た私をそういうことの対象にする可能性もありますかね・・・?仕方ないですね、初めての方が嬉しいって人多いらしいですし、聞いておきますか・・・)
最近は放課後そのまま苺プロに行くことも増えました。B小町全体での合わせのようなものもありますからね。
苺プロについたところでヘアピンを付けつつ、他の人がいない所に二人を連れて行き話を切り出します。
「将来枕営業をやろうと思うんですけど、アクアさんとルビーさんは私の体に興味あります?あるんでしたら、やる前に手を出して欲しいんですけど・・・」
「「は?」」
あれ、ルビーとアクアの顔がすごい怖いです・・・。なんでですかね、芸能界の常識じゃないんですか・・・?アクアもルビーも目が真っ黒、表情も抜け落ちてどっかいった、みたいなことになってますけど、どうして・・・?
「・・・私、何かおかしいこと言いました・・・?」
「・・・枕営業の意味わかってる?」
「え?・・・は、はい、わかってますよ?」
「ルビー。こいつがわかってないのは枕営業の意味じゃない」
「・・・サヤちゃん、抵抗しないでね?連行するから」
「えちょ、なんでです!?や、やめ・・・。あ、もしかしてこういうのが二人の好みですか?そういうプレイは先に言ってもらわないと・・・」
「お前の頭が驚くほどお花畑なのはよくわかった。焼け野原にしてやるから覚悟しとけ。逃げられると思うなよ」