転生者と幽霊と   作:霧マッシュ

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言いくるめ

「あの、冗談ですよね?」

 

「ううん、冗談じゃないよ?さっ、早く答えて!」

 

「普通に嫌ですけど・・・」

 

「どうして?アイドルって言えば、女の子が憧れる夢みたいな職業じゃない?」

 

「さっきのアイさんの芸能界裏話みたいなのを聞いて、なりたいと思う人いると思います?」

 

「いるんじゃない?ロマンスみたいだって人もいるかもだし」

 

すごい偏見で語ってないですかこの人?昨日の話にロマンスぽいところありました?あったのかもしれないけど、昨日の内容のどこがロマンスになっても、そんな殺伐としたロマンス嫌です。

 

・・・この返事はあまりしたくない気持ちを抑えつつ、口に出す。

 

「でもアイさんは最後、殺されてしまいましたよね?そういうのは嫌だなって」

 

「私はそうだったけど、アイドルがみんなそんなことになるわけじゃないよ?もしそうならアイドルなんて職業なくなってるし、よっぽどのことがないと死なないよ」

 

そのよっぽどのことが起きてあなた死んでますよね、とは言えなかった。この狭い日本、割と安全だと思ってたんだけど最近割と過激だよね。特に今世は。

 

それよりどうやって断ろう。理由でも聞いてみようかな。

 

「アイさんは、どうして私をアイドルにしようと?」

 

「私はルビーが小さい頃に死んじゃったから、アイドルの技術みたいなのを全部伝える相手がいなかったの。無敵と言われた私の技術を継ぐ人が居ないのはもったいなくない?だから、私が教えるからアイドルになってほしいの!それに、サヤの顔。なんだか私に似てるから、絶対アイドルになれるよっ☆」

 

どうして気づいたんだろう、顔のこと。半分隠しているのに。

 

なんだか似ている顔。顔については触れないで欲しかった。いつだっただろうか、ふと鏡を見ていた時に気づいたのだ。自分が星野アイを思い出す顔になっていることに。目にお星様は無かったけど。私が自分の容姿について何も言わなかったのは、これがあったから。これに気づいて以降、顔の右半分を前髪で隠す、片目隠れのような髪型で生活するようになった。こうすれば、見ていても少しずつ忘れていけるような気がしたから。

 

気づいた瞬間は、私の罪を忘れさせまいとする力でも働いてるのかなと考えたものだ。

 

とはいえ、アイドルは顔も命。色々な命があるけれど、アイドルの話題になった時点で触れられる運命だったと思って諦めよう。綺麗な顔には間違いないし、でもアイドルになる気は無いけど。

 

 

ーーーー

今すぐ決めることは難しいので、考える時間を下さいという返事をなんとか絞り出して、ベッドにもぐり込む。

 

電気を消したあと、アイさんは遊びに行ってくるね〜とどこかに行ってしまった。幽霊は眠れないのかな?それとも、考える時にいたら邪魔だと気を遣わせてしまったのだろうか?多少の申し訳なさを感じつつ、頭の中を整理し始める。

 

まずは、最後にアイさんが言っていた私をアイドルにしたい理由。

アイさんの話のせいで大体復活してしまった、最初の方の原作知識をもとに考えるとしっくりこない気がする。アイさんって愛を知りたかったからアイドルになったのであって、技術がもったいないとか考える人ではないように思う。なので、それを理由にしているのには少しばかりの怪しさを感じるけれど、本人がそう言っている時点で本当の理由は別でも教えてくれないだろう。

 

嘘だったとして、私にそれ以上の利益があるなら嘘でも構わないし。現在判明している私がアイドルになる利益って何も無いし、心理的には当然お断りです。

 

心理的にはどうにかして断りたいんだけど、信条的にはどうなのか検証してみる。

 

アイさんには、私視点で昔に大きな迷惑をかけているので、信条1的には受け入れて罪滅ぼしをした方がいいと思う。でも断りたい。

 

信条2的には、理由があってアイドルになって欲しい、ということは助けを求めているわけではない。でも私に頼み事をしてきているということなので、頼みを叶えるのは人(?)助け、なのかなぁ?微妙なことろ。断りたい。

 

信条3的には・・・どうなんだろう。万が一これが問題ない場合、やばいことに私の人生アイドル養成コースが見えてきてしまう。アイドルなんていうこの世界の物語の中心みたいなとこに飛び込んだら、私の精神がサンドバックにされることは想像に難くない。カミキに目をつけられる可能性もあるし。つまるところ、ここでどうにかするしかないんだけど。アイさんがアイドルになった最初の方や、復帰したてはお給料はしょぼかった、みたいな内容はあった気がするので、これを突っつくしかない・・・?うーん、他の案が思いつかない。断りたい。頭いい人へるぷ。

 

(これしかないかな?よしこれでいこー、むにゃもうねむい、おやすみ・・・)zzz

 

今のところの結果として心理的には×。信条1的には○。信条2的には△。信条3的には?。合計一勝一敗一引き分け。信条3の?で決まる感じになる。今世で人生の大きな決定をしたことがなかったので、この判定方法は間違ってるかもなぁ・・・。

 

 

ーーーー

次の日は土曜日。目覚まし時計はかけていかなったので、しっかり寝たような気はする。でも時間的にはまだ8時、いつもはもう少し遅くまで寝てるので、やっぱり緊張してるのかも。目を覚ました時、アイさんは私の部屋の窓から外を見ていた。やっぱり幽霊は寝なくてもいいのかな?この調子だと、疲れとかも感じないのかもしれない。さて、今日は朝から気合が必要!

 

「おはようございます!アイさん」

 

「おはよーサヤ。昨日の、考えてくれた?」

 

「その解答なんですけど、その前に質問いいですか?アイドルってお給料そんなに良くないんですよね?昨日復帰したての頃は2●万って言っていましたし」

 

それが税引き後なのか税引き前なのかは知らないけど、アイドルの寿命はそんなに長くはない。そのお給料で働いていたら引退後はその期間の経験無し学歴無しと変わらないことになる。その後、アイドルだった時代の名残で生活していくのは難しい。それなら、初めから年功序列で最終的にいいお給料が出る会社に勤めるべく頑張る方が断然ましに違いない。私の頭だとちょっと厳しいかもだけど。でも、たぶんそっちの方がお金を貯めて仕事を辞める時期も早く、人間関係もまだまともだと思う。私の心理的にもね。

 

「給料が気になる?最初の方や復帰したてはね、確かに多くはなかったよ。でも・・・」

 

そう言うと、アイさんはニヤリと笑いながらゆっくりと私に近づいてくる。なんだか獲物を狙ってる捕食者みたいに見えるんですけど!?

 

「売れれば売れるほど、トップに近づけば近づくほど、給料は上がるよ?他の仕事も増えるし、グッズも売れるし。休みは無くなっていくけどね。会社からの給料以外のお金も増えるよ?私の最後の方はね・・・」

 

アイさんが私の耳に唇を近づけて、その金額を囁く。

 

「ーーーー」

 

「!?」

 

私の鼓膜から脳に入ってきた情報は、私の頭をパンクさせるには十分なものだった。弾かれたようにアイさんの顔を見る。変わらぬお星様が嘘ではないと言ってくる。ほんとに?

 

「えそんなに!?一年で!?」

 

「一年じゃないよ?1ヶ月でだよ?」

 

なるほどね、完璧に理解した(してない)。これが本当ならば、前世の私だったらこの人を神のように崇めた可能性もある。だってそこまで育ててやると言われているのだから。囁かれた金額通りなら、心理的拒否バリアなんて紙切れより薄い。信条3なんて宴会の準備してる。しかし私の心理はギリギリまで抵抗する、まだ負けと決まったわけではない。そうだ、もしかしたらこのひとはうそをついているのでは。わたしをだまそうとしているにちがいない。

 

「しょ・・・」

 

「しょ?」

 

「証拠はあるんですか証拠は!証拠がなければそんなの受け入れられませんよ!そんな口が出まかせみたいな内容、信じられません!」

 

「突然何かの犯人みたいなこと言い出したねサヤ。証拠ね、どこにあるかな〜」

 

「やはり私を騙そうとしているんですね、騙されませんよ!」

 

「うーん、じゃあさ。私の携帯に電話してみる?プライベートで使ってたやつ。まだ繋がるかどうかわかんないし、繋がってもアクアかルビーか社長、誰が出るかもわかんないけど、私に近い人だと思うし。その人に聞いてみるのはどうかな?」

 

苺プロも考えたけど直通の電話番号覚えてないし、普通に電話してもたぶん取り次いでくれないし〜とはアイさんの言。

 

普通に考えれば教えてくれるはずないし、そんな古い電話に繋がるはずもないし、繋がったとしてたぶんアクア、復讐に人生かけてる人に繋がる電話。しかもアクアは一刻も早く復讐を成したいと考えているお年頃。そんな人物に電話をかけるなんて、いつもの私なら絶対にしないだろう。しかし、今の私は見事に囁かれた金額に踊らされていた。スマホを引っつかんでロックを解除、準備万端!

 

「いいでしょう!ほら、早く電話番号言ってください!あ、でも待って、まずは非通知にしてっと・・・」

 

「あーうん、電話番号はねーーーー」

 

電話に応えて現れよ、真の金額!オープン・ザ・プライス!

 

ーーーー

繋がるかどうかは微妙なところだと思っていたけれど、コール音がしているので、呼び出しはしているらしい。確か解約されてたら、現在この番号は使われておりません、みたいに言われるはず。なんか突然冷静になったみたいになってるけど、実際にコール音が聞こえて来るとちょっと冷静になるよね。今どうしてこんな電話をかけているのかとか、考えだしたらこのまま電話切りそう。このまま相手が出なければ、あははーやっぱ出ませんでしたねーで済ませられるのだけど。

 

「・・・もしもし?」

 

この声は、アクア?電話に出る予定の人物のうち、若い男の声に対応する人間はアクア1人。出なくてよかったのに。・・・いや、そりゃ出るよね!わざわざ死んだアイさんのプライベート用の携帯に、10年も経ってから電話かけて来るような非常識なやつなんて、ほとんどいないもんね!普通に考えれば間違いなく復讐相手を突き止める手がかりチャンスだもんね!もうこうなれば、勢いでゴリ押すしかない!いくぞ!私のターン!

 

「おはようございます!貴方のお母様、アイさんの最後の月収を教えていただきたいのですが!」

 

「教えるわけないだろ。最後の、ってことはアイが死んでるのは知ってるんだな。それなのにこの携帯に電話をかけてきた。非通知か、誰だ?・・・待て、どうして俺がアイのーーーー」

 

「はいすいませんありがとうございましたー!」ブツ

 

急いで電話を切る。すごく怖くて、心臓がバクバクして眩暈がする。最後の方の声色なんて、お前を殺すとか言い出してもおかしくない感じだった。あれが復讐に人生捧げるマン。つよい。かてない。

 

アイさんがケラケラ笑いながらこちらに聞いてくる。

 

「相手はどっちだった〜?金額は教えてくれた?」

 

「相手はアクアさんでしたよ。教えるわけないだろって言われました。名乗りもしない非通知の怪しい人からの質問に答えてくれる方がおかしいですから、それはそうですねって感じですけど」

 

「そっか〜」

 

「反応が軽いですね!金額の証拠は無いままですよ!?」

 

「じゃあどうしよっか?ネットで調べる?」

 

最初からそれでよかったのでは?という文句を飲み込みながらスマホでトップアイドルのお給料を検索してみる。そこに表示された金額は、アイさんが囁いてきた金額よりも低いものの。

 

(えたっか、これマジ?これが年俸でさらにほかの収入もあるの?)

 

チラリとアイさんに目線を送ると、にっこり笑顔。

 

頭の中を囁かれた金額が駆け巡る。スマホに表示されている金額に他の収入もあると考えるならば、全然あり得る数字だった。

 

(4.5年・・・いや、3.4年で仕事辞められるのでは?その後は悠々自適に!えへへ、なれるかな、私・・・!)

 

実際には下積み期間やらなんやらを色々あるんだけど、この時の私は全く気づいていなかった。アイドルのトレーニングを始めだす辺りで気づくのである。ここで気づいたとしても丸め込まれてそうだけど。

 

全て合算した結果としては、心理は金額に負けて○、信条1は元々○、信条2もなぜか○、信条3なんか◎である。やはりお金・・・もともと社会人だった時の、ほの暗い知識と経験は重かったのだ・・・。

 

懸念点といえば、実際に芸能界に入った時の心理的負担だろうか。アクアとルビーに出会ったり、重曹さんやあかね、その他登場人物の現物を多く見た場合、私の認識のズレが修正されてしまい、精神崩壊する可能性がある。しかし、これについては今の私の中ではお金パワーで効かない予定である。3.4年で辞めれる仕事ならば、多少(多少ではない)の心理的負担なんてないも同然!

 

また、アイさんの言っていた理由も少し怪しいとは思うけど、この金額なら少しの不利益は気にしない!最終的に勝てばよかろうなのだ!

 

最後の懸念点はカミキ等である。なんかカミキ以外にも黒幕がいるかも、みたいな話もあったけど、なんか主人公(アクア)がいい感じにしてくれるでしょ!出来るだけ短時間でよろしく!

 

以上、問題なし!チェック完了!指差し確認!ヨシ!

 

「よし!完璧!アイさん!私はトップアイドルになれますか!」

 

「なれるよ!私が、星野アイが教えるんだよ?」

 

「わっかりました!私、アイドル目指して頑張ります!」

 

 





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