転生者と幽霊と   作:霧マッシュ

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復讐

 

アクアは何を言われたのかわかってなさそうな顔で、私の顔とナイフを交互に見ていますね。あれ?手ぶらで来たみたいなので、気をきかせてナイフを差し出したのですけど・・・。

 

「どうしました?要らないんですか?あ、もしかして刺すところを迷っている感じでしょうか?」

「待て・・・」

「私に慈悲をかけてくれるなら、首に・・・」

 

そう言いつつ、首をナイフ軽く撫でてみます。冷たくて、怖いです。

 

「私にアイさんと同じ苦しみを味わわせたいなら、お腹に・・・」

 

今度は服を捲っておへその上辺りをナイフの先端で撫でてみます。ゾクっとします、二度と味わいたくなかった感覚です。ちょっと目眩もしてきました・・・。でも私はアイさんにこの感覚を味わわせてしまったのですから、2回目もやむなしです。嘘吐きの私への報いでもありますし。

 

私が死んだら、誰か悲しんでくれますかね?両親は多少は悲しむかもしれませんけど、その為に遺書を用意しました。私は悲しんでもらうほどの人間ではないですよ、という事が書いてあります。

 

アイさんには別の遺書を書きましたが、読んでくれますかね?実体がないので遺書を開けないのもありますけど、私にどこまで興味があるのか不明ですので。嘘吐きレベルが違うので本心がわかりませんし。

 

他に悲しむ人がいても、それは私が死んで悲しんでるわけではなく「アイ」が死んで悲しんでいるのでしょう。それは私の死を悲しんでいる、と言えるのかどうか・・・。

 

苺プロの人たちも、私がアイさんを殺した真犯人の仲間かもしれない、という話を聞けば手のひら返すのは目に見えています。そうでなくても、私の死を悲しむ人、そんなにいないのでは?実際には殺された方の仲間(?)なんですけど、アイさんの事は話せないので反論できませんし。

 

アクアは私がナイフで自分のお腹を撫でた辺りから、明らかに顔色が悪くなってきました。人間ってこんな顔色になれるんですね、人体の神秘ですよ。

 

ところで、どうして顔色が悪くなっているんですか?アクアからすれば、私は殺すべき対象では?アイさんではないとわかっているはずなので、躊躇う理由がわからないんですけど・・・。

 

「私に対する疑念は、私には晴らせません。アイさんを殺した犯人の仲間かもしれない・・・そう思って来たんですよね?なら・・・」

「やめろ・・・やめてくれ・・・」

「アクアさん?」

 

アクアが床に蹲ってしまいました。一体どうして・・・?顔を覗いてみると、さっきの目は真っ黒だったはずなのに、今はかなり虚な目になってしまっています。

 

「・・・アイ・・・俺は・・・僕は・・・」

 

何がなんだかよくわかりませんけど、今のアクアがあまり良くない状態なのはわかります。発汗もしてますし、震えと涙も確認出来ます。

 

やばいですね!とりあえず後の事は放って置いて、アクアをなんとかしましょう。ナイフはどこかに静かに捨てて、アイドルの私に切り替えまして・・・。

 

やあ!アクアが求めてるのはお母さんの私だよね、ちょっと待っててね!あっちの私は人の心を勉強した方がいいかも、アクアとルビーがかわいそうだよ。

 

アクアを優しく抱きしめて、頭を撫でて。

 

「ごめんね、酷い事言っちゃったね・・・。安心して、私はここにいるよ。アクアを一人にはしないよ・・・」

「う・・・アイ・・・?」

「よしよし・・・もう大丈夫だよ・・・」

「アイ・・・」

「怖くない、怖くない・・・ママが一緒にいるからね・・・」

 

こっちを向いたアクアの涙は止まってるね。目はまだ虚だけど、このまま撫でていれば大丈夫っぽい。

 

「アクアは強い子だね、もう泣き止んじゃったんだ」

「・・・うん」

「ルビーのお兄ちゃんだもんね。いい子いい子・・・」

 

 

ーーーーーーー

 

アクアを撫で始めてから少し時間が過ぎたくらいかな。アクアの様子がいつも通りに戻ったって思ったから声をかけたんだ。

 

「落ち着いた?」

「・・・まぁな」

「よかったー!体調は大丈夫?」

「大丈夫だ。・・・サヤ、なんだよな?」

「どっちがいい?好きな方でいいよ?」

「マジでやめてくれ・・・。アイの演技をしてるんだろ?俺たちの事はどう思ってるんだ?」

「二人とも大切に決まってる。アクア、お腹へってない?おっぱい飲む?」

「!?」

「今は出ないけどね。でも、自分の子供みたいに大切に思ってるよ。飲んでみたい?」

 

アクアは顔を赤くして首を左右に振ってイヤイヤってした後、私から目を逸らしちゃった。哺乳瓶大好きなんだっけ?

 

「俺たちを大切にする前に、もう少し自分を大切にしろ。さっきみたいな事は、本当にやめてくれ・・・」

「アクアは私が大切なの?」

「当たり前だろ」

 

アイとして大切なのかな?それとも私として?でも、そう答えてくれるってわかってたよ。

 

アクアの顔に両手を添えて、目を合わせる。私を信じさせるために。

 

「私がアイを殺した真犯人や仲間だったらどうするの?復讐する?」

 

アクアが目を逸らそうとしたけど、それは駄目。私の目を見て。

 

「サヤが?無理があるだろ」

「なんで?私はアクアが思うような人じゃないかもしれないよ?アクアは私がそうじゃないって思いたいんだよね?」

「・・・何を言いたいんだ?」

「復讐したくないんでしょ?ほんとにしたかったら、私だからって許したりしないと思うし」

 

アクアは復讐に向いてない、カラスの女の子はそう言ってたよね。

 

アクアも本心では復讐したくないと思ってる。だから私を殺せなかったんだ、私とアイを重ねてるのもあると思うけど。ほんとは復讐に囚われない、普通の幸せが欲しいんだよね。

 

アイも、アクアとルビーには復讐をして欲しくないんじゃないかな。私は知らないけど、DVDの中身は復讐を願うような内容ではないと思うから。

 

「アイはアクアとルビーに、元気に育って欲しいと願っていたんじゃないかな。復讐をして欲しいって思ってないよ」

「・・・そうかもしれない。だけど・・・」

「アクアが心から復讐したいなら、私は止めない。でも、したくないならしなくていいんだよ?」

「・・・それは、隠してる相手の事を思って言ってるのか?」

「違うよ。相手はアクアもよく知ってる人だし」

「よく知ってる・・・?」

「これ以上は秘密。相手はアイを殺した人じゃない、信じて」

「・・・」

「私はアクアを幸せにしたい。アクアはどうしたいの?」

「俺は・・・」

 

アクアの目が、表情が、決められないって言ってる。私と同じように、アイを助けられなかった罪悪感から逃げられないから。自分から幸せを求めたら、アイを救えなかった自分をよしとしてしまうから。

 

「俺は・・・どうしたら良い・・・?」

 

だからアイに、私に答えを求めちゃうんだ。アイに許して欲しいんだよね。私の事を気にしなくていいんだよ、今を幸せに生きていいんだよって。

 

私はアイじゃない。私には、アイが何を考えているのかわかんない。だからこれは嘘。私からアクアに伝える、アクアの望みを叶える、とびきりの()

 

両手をアクアの顔から離して、しっかりと抱きしめて、アクアが求めている嘘を吐く。

 

「復讐なんてしなくていい!幸せな未来を目指していこうよ!アクアの人生なんだから!」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

一つ、考えていた事があるんですよ。アクアが復讐をやめたらどうなるのでしょうか?

 

アクア自身は復讐したくないんですよね?でも私の原作知識(インタールード3まで)によると、15年の嘘を公開するとカミキを断罪できるらしいので、その為にアクアは奔走する事になります。自身の幸せを捨て去り、復讐後はいなくなる覚悟でしたよね。

 

アクアが復讐をやめたら、15年の嘘は公開されないんです?DVDの中身を知っているのはアクアと監督さんだけ、さらに15年の嘘の本編はアクアがカミキを知らない時に書いた荒唐無稽な台本が中心らしいです。それにDVDの中身を足して監督さんが添削でもした感じですかね?

 

アクアがアイさんの本当の願いを叶えてみせるとか言ってましたし、公開するのはアイさんの願いなんでしょうか?

 

ところでさ。公開されなかったら、カミキはそのままなの?アイさんを殺しておいて?そのまま生きていくって?あはは、面白い冗談だね。そんな事が許されるとでも?

 

よくよく考えたら、私が苦しんだのもカミキ、お前のせいじゃん。お前がアイさんを殺さなかったら私は苦しまなかった。罪悪感もなく、平和に過ごせた。原作知識があっても、アイさんを見なかった事にしても、全て丸く収まったと思わない?

 

15年の嘘は私が何がなんでも公開させる。アイさんの願いなんでしょ?叶えなきゃだよね?公開されたら何がどうなってカミキが断罪されるのかはわからない。映画が社会現象になればカミキ探しが始まる、みたいな予定なの?真犯人だから吊し上げられるみたいな感じ?

 

ま、なんでもいいかな。カミキヒカル。私はアクアみたいに、誰かに似てるからって情けをかけたりしない。本物のお金とコピーされたお金は区別されて当然、外見は同じでも価値は全然違う。私の命に価値がないように、お前の命にも価値なんてない。

 

もしかして、価値が、重みがないから価値がある女優を殺して重みを感じてたのかな?私の命にも価値がないんだよね。カミキはアイさんの他にもいっぱい殺したんでしょ?積もりに積もってさぞ重たいんだろうね、お前の命。私も命の重み感じてみたいなー!とびっきり重そうな人、誰かいないかなー?

 

絶対に逃がさない、必ず・・・必ず殺してやる

 





誤字報告ありがとうございました!

評価100件と、1〜10までの評価を最低一つずつ頂く、という拙作を書き始めた時の大目標を達成できました!ありがとうございました!
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