「はぁ…」
思わずため息が漏れる。理由は単純で、数分前まで目の前にあるパソコンの画面に映っていた簀巻きのアホ、サヤがまた変な事を言い出したからだ。旅館の一室に持ち込まれたパソコンは苺プロのパソコンに繋がっていて、向こうにいる壱護とサヤを映していた。
頭を過るのは画面の向こうで簀巻きの状態で跳ねているサヤ。あんなのにアイを感じて復讐をやめても良いんだと思わされた自分が情けないのやら悲しいのやら。あの瞬間の目や雰囲気は本物で、本当に復讐から解放されたように感じたのだが気のせいだったのかもしれない。もう一度復讐を考えるべきか。
周りを見渡すと同じようにため息をついたり、頭痛がしてきたのか頭を押さえたりしている宮崎旅行行きのメンバーが目に入る。またサヤが変な事を言い出したと思っているのだろう。
「だからアイツを置いていくのはやめておきなさいって…」
「でもサヤは行かないの一点張りだったからねぇ…」
「…サヤちゃんはいつもあんな感じなの?」
あかねの疑問はサヤの身近にいない人が今の状況になったら殆どが抱くものだ。テレビやネットに映るサヤはアホさはあれど、飛び抜けて頭おかしい事はしない。例えば命に関わる事とか、そういう冗談にならない事はしない。
その他のメンバーはサヤと苺プロの中での関わりが強く、サヤが一般教養や発達障害とかそんなレベルではないところまで欠けているのを知っている。自身がどう思われているのかを認識できず、自身を大切にしない。一歩間違えば大事になる事だって平気でしようとする。身内しかいない場所とそれ以外の場所で行動に差があるので、あかねのように関わりが薄い人と苺プロの面々のように関わりが深い人とで認識に違いが生まれる。
「あかねはそこまで接点ないから知らないのか」
「アイツはたまに爆発する不発弾みたいなやつよ、こっちの身にもなって欲しいわあのアホ」
「有馬の言う通りサヤは稀におかしな事を言い出す。今回で言えば拳銃が欲しい、か」
「しかも消音器付き、誰かを殺す気満々だよぉ…」
「本人は護身用って言い張ってたわよ」
「護身用なら消音器は要らないだろ」
「アホだから消音器って何か知らないかもしれないわね…」
「カッコいいから言ってみたとか?あながちないとは言いきれないねぇ…」
「…サヤちゃんは、突発的におかしな事を言い出す…」
あかねが何かを考え始めたのを横目で眺める。その他のメンバーもサヤが何の目的で消音器付き拳銃を欲しがったのか考え出したようで会話が途切れた。
拳銃を欲しがる目的。護身用に欲しがるならスタンガン等で十分。この日本で所持しているだけで違法な拳銃を求めるなら目的はやはり誰かを殺すためとなる。気絶などではない、死を与えるため。
苺プロやテレビなどでサヤが誰かを恨んでいるような素振りを見せたことはない。誰それと何かあったという話も聞かない。何を考えているのかわからないので、内心では誰かを殺したいと思っているかもしれないが。
心当たりとしてあるのは自身の復讐の事。サヤにしなくていいと言われた復讐。まだ頭の片隅にはあるのだがそこまで真剣に復讐相手を探す気はない。
サヤが言っていた言葉を思い出す。アイはアクアとルビーに元気に成長して欲しい、復讐して欲しくない。この言葉の中にサヤについて言及している部分はない。
サヤはアイのファン。それを理由に苺プロでアイドルになった。サヤが隠蔽している相手は真犯人ではない。本人談のこの話をどこまで信用していいかは別として、サヤの口ぶりからしてアイを殺した真犯人が別にいるというのは元々知っていたはずだ。隠蔽している人物が誰かはわからないが、真犯人を知っていたらサヤに伝えているかもしれない。
宮崎旅行の数日前に復讐しなくていいと諭された。そして今、拳銃を欲しがった。タイミングとしては俺に復讐をやめさせたからサヤが代わりに殺しに、復讐しようとしているようにしか見えない。
サヤが最初から真犯人を殺したいと思っていたのならもっと前から準備をしていないとおかしい。他の誰かが復讐しようしている事を知っていても成功するかはわからないのだから。復讐を止めたから準備を始めたとなると復讐の事を知っているだけでなく、復讐が成功する未来まで知っているかのような…。
「はいはい、今日はもう遅いわ。この件について考えるのは旅行が終わって苺プロに戻ってからにしましょう。事件が二つもあって疲れたでしょう?」
ミヤコが手を叩きながらこちらに告げてくる。言われて時計を見ると、確かにかなり遅い時間だった。これ以上は明日の撮影に支障が出てくる。
今日あった二つの事件というのは、一つはサヤの爆発事件でもう一つは俺の前世、雨宮吾郎の遺体発見事件だ。
遺体発見後の旅行メンバーの雰囲気は明るいものではなかったが、その後にサヤが爆発したので雰囲気は多少改善した。遺体という非日常から、アホなサヤという日常への変化。サヤが言い出した事は日常とは言い難いが遺体と比べるとマシだろう。
ふと気になり、さっきの会話に全く入って来なかったルビーの方に目をやる。視界に入ってきたルビーはぼんやりとした表情でスマホを操作していた。いつもの調子なら喜び勇んで会話に交じってくる気がするのだが、有馬やあかねが言うには遺体発見後からずっとぼんやりしているらしい。
あかねも時間に気づいたのか考え込むのをやめ、何か思い詰めたように話しかけてくる。
「アクアくん。サヤちゃんの日常風景みたいな映像ってないかな?」
「苺プロに戻ればある。何か気になる事でもあるのか?」
「うん、ちょっとね…。まだ何とも言えないんだけど…」
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娑婆!娑婆の空気です!壱護さんが私の両親に告げ口をしたのでてんこ盛りに叱られましたよ!少し親に叱られとけ、とか言ってる場合じゃないんですよ壱護さん!もう表に出て来れないかと思いました!
拳銃欲しい!という私のお願いを聞いた壱護さんは最初は固まっていましたが、正気に戻った壱護さんが動き出したと思ったら私はロープで簀巻きにされていました。この動き…ミヤコさん!?
私を簀巻きにした後に壱護さんは両親に連絡を入れ、両親が来るまでの間にたまたま宮崎旅行の面々と連絡が取れてしまったので私は呆れ顔の苺プロオールスター+困惑した表情のあかねに囲まれて針の筵状態で第一ラウンドを過ごしました。いや違うんです護身用!護身用ですから!他にいい嘘が思いつきません!
連絡を受けた両親は苺プロまでかっ飛んできまして、にこやかに壱護さんに御礼を言いながら私を回収して家まで連行しました。第二ラウンドの開幕です。無表情で怒ってくる両親は初めて見ました。枕営業も告げ口されてたらこんな感じに怒られたんでしょうか。
驚いたのは我が家に普通に地下室があった事です、知りませんでした…。いきなり地下室に運ばれた時は、あっ私の人生ここで終わるんですね…と考えたほどでした。こんな事もあろうかと家を建てる時に地下室を作っておいたらしいです。え、どういう事です?誰かを監禁しようって発想が昔からあったって事ですか?怖い…そんな簡単に監禁しようって発想になるのが怖いです…。
まぁ次の日の朝には出してもらえましたけど!娑婆の空気美味しいですよ!でも両親には言外に次は無い、と言われたような気がします。やばいです、何を言ったらダメなんでしょう?今まで苺プロで怒られたのは枕と拳銃です。これに共通する事って何ですかね…?社会の闇とか?
誤字報告ありがとうございました!