転生者と幽霊と   作:霧マッシュ

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心理学

アイドルを目指すと決めたけど、本当に目指すのなら当然親の許可が必要になる。たしか父が帰ってくるのは今日の夜なので、許可をもらうのはその時にする予定。貰えるかどうかは別として。

 

さっきの私の言葉を聞いたアイさんは嬉しそうに笑いながら言葉を紡ぐ。

 

「じゃあ早速練習!と言いたいところなんだけど。サヤ、アイドルにまず必要なことってなんだと思う?」

 

まず必要なこと。これはね、アイさんの人生を振り返れば簡単にわかりますよね。

 

「はい!他の人に嘘を本当だと信じさせるような、上手な嘘吐きになることです!」

 

もうこれしかない。また一つ、私の輝く知性を見せつけてしまったかな?

 

「違うよ?」

 

あれれー?なんで?

 

「最初に必要なのはね・・・体力っ☆!」

 

 

ーーーーーー

「・・・・・・」チーン

 

「うーん、もう少しは・・・」

 

アイさんが少し離れたところで何か呟いているようだけど、よく聞き取れない。私がどうなっているかというと、限界まで走らされたので私の家の玄関先で転がっている状態である。アイさんって結構スパルタですね・・・。ちなみに走った時間としては45分ほど。私はインテリなのだ(?)、アウトドアは向いていない!アイドルはアウトドア側だって?それはそう。

 

アイさんがこっちに近づいてきて、話しかけてくる。

 

「初回だし、十分かな?フェスとかだと3時間あったりするものあるし、もっと長いのもあるよ。今は無理でも、続けて行こ?将来の目標は3時間!走り続けよっ!」

 

「すでにしんどくて死にそうです・・・この3倍とか無理です・・・」

 

「3倍じゃなくて4倍だよ?」

 

「もっとむりぃです・・・」

 

もはや知能まで低下している現在の私の心を一言で表すなら、心折れそう、である。そういう心を込めた目線をアイさんに送ると、にっこり笑って私の耳に一言。

 

「ーーーー」

 

「!」

 

そ、その金額は・・・!

 

「諦めちゃうの?」

 

「や、やだ!私負けない!負けてない!まだ頑張って走る!わぁぁぁぁーーー!」

 

「・・・ちょろいなぁ・・・」

 

立ち上がって走り出した私の背後、アイさんが何か言ったみたいだけど、よく聞こえないまま私は全力疾走を始めた。このまま、私は壁の向こう側に・・・!

 

ーーーーーー

あの後、3分ももたずに完全に体力を使い切った私は、家に向かってヨボヨボと頑張って歩きながら、考え事をしていた。

 

(もしかして、こういった体力作りとか下積みとか合わせたら3.4年じゃ済まない・・・?もっと長い?そもそもアイさんが自然な愛の表情を知ってから2年後だっけ?ドーム公演するの・・・。その時にあの年俸だとすると・・・?あれ、もしかして、予定の2倍か3倍ぐらいかかったりして・・・?)

 

そう思ったものの、アイドルの体力作りは他でいう土台、面接でいうならスーツや履歴書にあたるものになるので、つまるところ絶対必須。歌唱力にせよ、ダンスにせよ、やり続ける体力がないと練習もおぼつかない。それはさっき走る前に教えられた。それに、それを含めても普通に働くよりは全然短い期間で済む・・・はずだ。

 

(中学数学ですでに怪しい私の頭に期待するぐらいなら、体力増やす方がまだ期待できる?どうなのかな〜)

 

どうなのかなと思っているがまあせっかくの人生なのだ、アイドルになれる道筋がそこにあるのなら、それを選び取ってみるのもいいよね。

 

決して金額に釣られたわけではない。これだけは、はっきりさせておきたかった。これには多くの人を幸せにする崇高な理念というものがですね?

 

(それに・・・)

 

それに、昔の私が見て見ぬふりをしたせいで、日本中の人が何日も悲しんだことがあった。あの時は幼稚園でもテレビでも、どこに行ってもその話題一色だった。そこまでファンとして入れ込んでいたわけでもない母も悲しそうにしていた。そういったことに全く興味のない父ですら後味悪そうな顔をしていたので、無敵のアイドルと言われた人物が殺されたというのは、それほどまでにとんでもない事件だったのだ。

 

この時悲しんだ人たちに、悲しませた分だけその逆・・・つまり幸せとか楽しいとかの感情を抱かせないと、私は誰に対しても小さいながら罪悪感を感じたまま生きていくことになる。だから、アイドルになってそういう感情を振りまくっていうのは、結構いい案かもしれない。

 

誰もを幸せに、楽しい気持ちにするアイドルになりたい。ほら、崇高な理念に見えるでしょ?お金って文字入ってないし。

 

無敵のアイドルが殺される。それを知っていて、保身のために何もしなかったのは、昔の私なのだから。

 

ーーーーーーーー

 

 

多くのカラスが、空を駆ける。

大いなる知識は、代償が伴う。

知っていながら、何もしない。

殺された本人に、その家族に。

対価を払うのは、当然の責務。

 

 

全てが終わった後に恐怖から仮面を作り出し、自分から見える世界を変えたとしても。

 

 

その罪の意識からは逃げられない。

 

 

 

 

君が足掻いてても、何も変わらなかったかもしれないけどね?

 

 

どこかで誰かが、私のことを嗤った気がした。

 

ーーーーーーー

私がこの世界に転生したと知ったのは、1歳か2歳の頃だった。当時、父、母、私の合計3人家族でテレビを見ていた時である。御飯時だったのか、そうでなかったのかは聞いていないけど、父も母もお茶を飲みながらテレビのチャンネルを回していたらしい。

 

「あ、B小町!復帰したのね」

 

「B小町?なんだそれは?」

 

「今テレビに写っているアイドルグループですよ、あなた。私、このグループのファンなの!」

 

「ほぉ、そうなのか?俺にはアイドルなんてもののどこがいいのか分からんが・・・。というか、今までそんなそぶりあったか?」

 

「コンサートとかに行ったり、グッズを買うほどのファンじゃないわよ。でも真ん中の子、アイって言うんだけど、目が良い・・・」

 

こんな感じの会話を両親はしていたという。この時初めてB小町を目撃した私は、推しの子の世界に転生していたことと、前世の記憶を取り戻したのだ。

 

しかし、この時の私はこれまで、あう!まう!だう!なす!などしか言えなかったのに突然、

 

「あう?あ・・・B小町・・・」

 

とか言い出したものだから、両親はかなり驚いたらしい。

 

ただ、四捨五入して30年の記憶がいきなり頭の中に入るわけもなく、私はこの後しばらく熱を出して寝込んでいたらしい。母によると、この寝込んでいる間によくわからない単語をうわ言のように呟いていたらしい。

 

普通1、2歳の頃なんてほとんどまともに話せないはずなのに、しっかりとした意味の単語のように聞こえるので、両親としてはこの子は天才だわ!ああ、そうだな!と思ったらしい。ごめんなさい、知識あるだけの頭よわよわなのに勘違いさせて・・・。

 

この後、私はすくすくと成長ーーーー

 

ーーーーーー

 

かぶりを振って考えを無くす。今、こんなことを思い出してなんになる?いいことなんかないのに。

 

そろそろ家が近くなってきた。家の前にいたアイさんがケラケラ笑いながらこちらに寄ってくる。

 

「すごかったよ!サヤの給料を思うパワーってすごいねっ!ボロボロだったのに、あんなに早く走れるんだ!」

 

「いえ別にお金のためじゃないですよ?こうなんか、まだ走れそうな気がしたので?壁の一枚向こう側に行けそうって感じで?」

 

「何言ってるのかよくわかんないけど、疲れたでしょ?シャワー浴びてきたら?」

 

私は激怒した。必ず、かのアイさんの私はお金のために頑張っているという考えを除かねばならぬと決意した。私にはアイドルがわからぬ。私は、まだ中学生である。

 

それはそれとして、汗がやばいので冷蔵庫のお茶を飲んでからシャワーを浴びる。水分補給はしっかり行おう。熱中症はマジのガチでやばい。ちなみに今は5月、普通ならそこまで注意しなくてもいいけど、最近は5月でも暑い日があるので、注意しよう!・・・誰に注意してるんだろ?

 

シャワーを浴びて自分の部屋に入ると、アイさんは暇そうにしていた。ふと思ったんだけど、幽霊生活ってどんな感じなのかな?

 

「アイさん、幽霊って疲れたり寝たりしないんですか?」

 

アイさんは、ん〜と考えてから、

 

「疲れは特に感じないかな?寝ることはできるよ、寝なくてもいいけどっ!」

 

寝なくていいのか、すごい。めっちゃ意味わかんない。やっぱり生物じゃないなこの人。じゃあ幽霊、エクトプラズムってやつは、一体どうやって運動、というか行動するためのエネルギーを摂取してるんだろ?光合成?影は見えないけど。

 

「動くためのエネルギーとかは、どうしてるんでしょうか?」

 

「わかんない。でも私は無敵アイドル、星野アイだよっ☆」

 

「ああ、そうですね・・・」

 

言っている私にもなにが、ああ、そうですね、なのかはさっぱりわからないけどもうそれでいいです。たぶんこの人は自分の自信からエネルギー摂取してるんでしょう。

 

全人類アイさんになれば、戦争とか全部なくなるのでは?すごい。エネルギー問題、水問題、その他諸々の諸問題全部解決じゃん。777、世界平和確定演出いただきました。流石ニュータイプ、いやイノベイター?無敵のアイドル?どれでもいっか。

 

「サヤ、なんか変なこと考えてない?」

 

「いえ、全く?そのようなことあろうはずがございませんよ?」

 

世界平和について考えていましたから。とっても真面目な内容ですよね?

 

「ほんとかなぁ・・・?」

 

なんなのこの人、エスパー?でも残念ながら、私は嘘をついていない!フフフ、ハハハ!私の勝ちだ!

 

アイさんはしばらくジト目で、勝ち誇った顔の私を見ていたけど、その後周りを見回しながら、ふと思いだしたように言ってきた。

 

「サヤさ、この殺風景な部屋なんとかならない?ほとんど何にもないよ?」

 

そうだろうか?机、その上の教科書パソコン他、椅子、ベッド、本棚、クローゼット、後カーペットとカーテンと・・・エアコンと・・・えっと・・・。

 

「十分いっぱいありますよ?」

 

「必須のものが全然ないよっ!しかも、この難しそうな文字並んでる本棚はなに?まるでアクアの本棚みたいじゃん。花の女子中学生の読む本とは言えないよ?女の子の部屋っていうのはね、推しのポスターとか好きなキャラのぬいぐるみとか・・・」

 

アイさんはその後、色々足りないと文句を続けていたけど、私にはよくわからなかった。むむ、最近の女の子ってのはみんなすごいんだね。どこにそんな熱量隠してるんだろ?私は学校の話題についていくだけでも大変なのに。

 

そんな私の熱量は、今は幸せと楽しさを振りまくアイドルを目指すことに振りきってますので、他に振るのはちょっと難しいですね。

 

アイさんはたぶん、ルビーの部屋を思い浮かべてるから、色々物足りなく感じるのだろう。同年代だし、性別も同じだし。でもルビーみたいな陽の者と同じに、というのは厳しくない?私そんな性格が明るくなる今世歩んでないし。・・・よく考えたらルビーの人生も別に明るいことだけじゃなかったですね、すいませんでした。逆にルビーはよくあんな天真爛漫に育ちましたね、信じられない。

 

ちなみに本棚にある難しそうな本は、VSあかねwithアクア用心理学教本その他諸々である。特にあかねなんて目があった瞬間全部の情報抜いていきそうだし、なんだったら一回も会ってないのにこっちのこと知ってそうだし、超絶、いや断絶やばい。ぴえん越えてぱおん越えてぴえんヶ丘何ちゃら(?)って感じである。高偏差値と頭おかしいプロファイリング能力により、私の隠してる全情報オープン!なんてされたら、一日後には両目真っ黒なアクアとルビーに磔にされてカミキの前に差し出されてもおかしくない。死ぬ。命の重み感じられちゃう。カミキにめっちゃ軽い命とか言われたら取り憑いてでも必ず死なす。

 

アクアは元々外科?だっけ?から産婦人科に移動してるんだっけ?だから、心理学はそんな詳しくない・・・といいな。流石にアクアの前の人生まではアイさんも当然知らないから、昨日の話にはなかったし。原作知識にもほとんど残ってないからわかんないや。

 

でも今日の朝、電話しちゃったんだよね・・・。あれはやばかったかもしれない。アクアがアイさんの子どもだという、一部の関係者しか知らないような情報を言っちゃったのがやばい。

 

アクアがアイさんの子供であるという情報を知っている声の若い女、番号は非通知。役満とまではいかないけど、6飜くらい?これでアクアの犯人探し、もしくは復讐の手がかり探しに私が追加されてるのは間違いない。

 

ただ、声だけで私を探し出すのは不可能に近い。なんてったって、今の私は芸能界と関わりがないからだ。アクアの思考だと、アイの身近な人物で、芸能界にいて、それでいて若い女。つまり、強靱最強無敵のアイドル殺人事件の時には子どもだった可能性が高い、芸能界の誰かの子どもか?でもなぜ血縁関係を知っている?といったところだろう。見つかりっこない。

 

でもアイさん、どうして電話しろだなんて・・・。いや別にアイさんが悪いと言っているわけではないんですよ?出る人物は特定出来ないし、アクア以外・・・、ルビーと、えっと、佐藤一護さん?黒崎だっけ?が出て来る可能性もある。なんだったら、解約後に違う人がその電話番号を使用している可能性もあった。

 

たしかに、証拠にするなら身近な人からの証言以外には、死んだ人のお給料なんて基本的には裏取れないだろうし。結局、電話してるのは私だし。もしかして、アイさんはアクアがアベンジャーになってるの知らない?なんだったら途中からルビーもなって複数形になってたこともあったような?

 

でも最終的に、出来るだけ会いたくないけど、アイドル目指してる時点でアクアとルビーに会うのはほぼ確定してる。つまり、私は犯人ではないですよアピールをする必要があるってことだ。いや知らんふりすればいいのか・・・?

 

こういった数々の疑問を解消し、私の命を救うために私が揃えたのが、この心理学教本たちです。

 

ではその、人生終了回避のための難しい本が身についたのかといえば、えーと、うーんと、そうですね。私の頭のなかにはないので、ここになければないですね。

 

 

 

 

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