朝、起きてもすぐには目を覚ましてはいけません。アイさんが知っている私は朝弱いので、理由なくすぐに起きるのは不自然だからです。最近は眠りが浅いのか、ちょっとの物音で目が覚めます。昔はこんな事なかったんですけどね。
「朝だよー」
「…眠い…です…」
「今日は朝早いんでしょ、準備しなきゃ!ほら起きて!」
「…すぴー…」
「呪…」
「はい起きました!もう起きまくりました!おはようございます!」
「おはよー、いつになったら一人で起きられるようになるのかな〜?」
「…この私では無理なようです、次の私に期待してください…」
「サヤって沢山いるの?」
「えーっと、いたとしたらどうです?」
「…みんな起こすのは無理かな…」
私がいっぱいいたとして、全員起きれないんですか…。しかも今の私と同じ状況なら全員狸寝入りです。中々の絵面ですね…。
そういえば、遂にB小町を抜けているのがバレました。アイさんが少し不自然だったので、嫌な予感がして動画サイトの履歴を見たら私がソロになった後のライブ映像がありました。基本見られたら嫌な動画はブラックリストに放り込んでますが、公式以外の動画までは手が回りませんでしたので、それがたまたま自動再生されたみたいです。
でも、アイさんは何も言わなかった。いつも通りの笑顔。最近鏡でよく見るようになった笑顔と同じ。私はアイさんに何かを言って欲しかったのか、それとも言って欲しくなかったのか。自分でもよくわからなかった。
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いつも通りに仕事をこなして苺プロから帰宅。でも、今日は家に帰りたくなかったから借りてる部屋の方に帰ってきた。こんな日もあるよね?別にアイさんに会いたくないとか、そういうわけじゃないよ。
借りてる部屋の中なら私でいられるからというのもあるけど。他に誰もいないし。でもちょっぴり寂しい気もする…。
この部屋を借りたいと言った時、壱護さんは絶対にやめてくれって言っていた。嫌な記憶が蘇るんだって。その反応を見て、アクアとルビーにこの部屋の事を教えるのはやめておこうと思うほどには、壱護さんはこの部屋を嫌がった。
最終的には壱護さんに、この部屋以外は嫌です!と言い張って借りちゃった。この部屋を他人に借りられる方が嫌だったから…。なんか幽霊が出る噂があったりする部屋だけど、別に悪い所ばかりじゃない。苺プロに近いし事故物件だから安いしセキュリティも最近強化されたし。それに、ここだと物理的にアイさんに近そうな気がするし…?
…アイさん、何を考えているんだろう。カラスは、星野アイは君を利用するために近づいた、と言っていた。どう利用するつもりだったの?カミキへの生贄?行けなかったドームへ苺プロを導くため?
カラスの嘘という可能性もあるけど、アイさんは初対面の人に理由、利益なくあれこれ何かを教えるタイプではないと思うんだよね…。最初に会った時に言っていた、スキルがどうこうっていうのは間違いなく嘘。裏があったと考える方が自然だと思う。
目を逸らしていたけど、もうそろそろこの問題に向き合う時かな…。ほら、私って先が短そうだし…。愛される愛されない以前の問題でもあるし…。
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私は強くないんだよ。辛い、苦しいんでしょ?なら、強い「アイ」に全部任せてしまった方がいいんじゃない?きっと求められるように行動してくれるよ。アクアやルビーが求めるように。両親が求めるように。ファンが求めるように。アイさんや私が…サヤが求めるように。
誰もが見て、崇めて、必要として、愛してくれる。アイドルも役者も復讐も願いも、全部成し遂げてくれるよ。だって「アイ」なんだから。
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次の日、監督さんの車に乗せてもらって仕事場に向かっています。監督さんは運転席、私は助手席に座ってますよ!
いくつかカラスに言われた事がありますけど、その中の一つに星野アイを理解したいのならもう少し周りを参考にした方がいい、という真っ当に聞こえるアドバイスももらってます。
わかりやすいアドバイスですねって返したら、君が馬鹿だからわかりやすく導いてあげてるんだよ、って言われてしまいました。確かにテストの点数とかは悲惨ではありますけど…。でもルビーも同じくらい悲惨でしたし…。
正直カラスの言う事を聞きたくはないんですけど、他に出来ること思いつきませんし…。このまま無策でアイさんに突撃するくらいなら、聞いてみてもいいと思いまして…。
カラスが言いたいのは他の人がアイさんをどう見ているかどうかという事ですよね!そしてなんと、今横にアイさんに詳しそうな人がいますよね!本当のアイさんを見たことあるはずですし、いい回答が期待できますよ!
とはいえ流石にアイさんの幽霊がですね…とは言えないです。なので、アイさんの、を省きまして…。
「幽霊って信じてます?」
「また妙な事を言い出したな…。いてもおかしくないんじゃねえか?」
「信じてる派なんですね、少し意外です。撮影の時に映ったりしたんですか?」
「映った事はねえけどよ。…お前は信じてんのか?」
「信じてますよ」
「信じそうには見えねえけどな…」
非科学的な事は基本的には信じないんですけどね…。
「じゃあ、幽霊が欲しがる物ってなんだと思います?」
「あん?幽霊が欲しがる?」
「はい。死んだ後でも欲しいもの、といえば何が思い浮かびます?」
赤信号で車が止まったので、監督さんが私に怪訝な目を向けてきます。そのまま目線を上に逸らして、少し考えてから返事を返してきました。
「あー…。金はどうだ?」
「…お金ですか…。死んだ後でも要ります?」
死んだ後にお金って使い道ないような気がしますよね。あの世にお金って持っていけないのでは…?
「よく言うだろ、地獄の沙汰も金次第って」
「確かにそうですね…。でもあれはことわざですし…」
「三途の川を越えるのにも金がいるんじゃなかったか?」
「渡賃、六文銭ですね。持っていないと服を剥がれるらしいですよ」
…ん?あれ、もしかしてあの世も貨幣経済が敷かれてます…?敷かれてないと渡賃とかお金って要らなくないですか?
待ってください、そもそもアイさんがどのあの世(天国、地獄、黄泉、その他)に行っていたとしても、生活する上でお金は必須なのでは…?あの世に行ったって遊んで暮らせるはずがありません、住む場所がこの世からあの世に変わるだけですね。あの世は夢の国じゃないんですよ…!
円滑な社会の為にはお金が必須なのです、まさか物物交換で生活できるはずありませんし。あの世でご飯を食べるのも住む場所を借りるのもお金が必要、なんでしたら税金まで取られるかもしれませんね…?
「…アイさんは…お金を大切にしてましたか…?」
「…?まあ、してたんじゃねえか?」
…大切にしてたんですよね!監督さんが言うなら間違いないです!…わかりましたよ、全ての謎が…!やっぱりお金なんですよ!世の中お金です!世の中っていうのはあの世もこの世も含んでますよね!
「なんだ?アイの幽霊でも出たのか?」
「いえ、お墓にお供えするなら何がいいかなと思いまして」
アイさんはきっと、この世で節制気味にしてた反動であの世でパーっと散財したんです!その結果家賃が払えなくなりあの世から追い出されてしまった!だからこの世に来たんですよ!
なら私をアイドルにしたのはお金を稼がせるためですね!ついでに私に恩を売る、というものありそうですけど!私がトップアイドルになって稼いだ後に、誰のお陰でトップアイドルになれたのかな?とか言い出すに違いありませんよ!
そして私からお金を巻き上げる気ですね!?もしかしたら、その演技は私の演技なんだから定期的にロイヤリティーを払ってね、とか言ってきてもおかしくないです!B小町を抜けても何も言わなかったのは、下手な事を言ってアイドルを辞められたら困るからですね!
アイさんが私を利用するってこういう事だったんですね!?完全に騙されましたよ…!お金に興味が無さそうにしてたのも全部嘘って事ですね!
ふふーん!どうですかこの一分の隙もない完璧な推理は!
…結局、アイさんも私と同じなんですね…!お金…!諭吉…!国債!利率!ドル円!スワップポイント!頭の中はお金でいっぱいに違いありません!アイさんも拝金主義者なんですよね!諭吉大好きなんですよね!わかっちゃいましたからね!もう騙されませんよ!
地獄の沙汰も金次第!阿弥陀の光も銭次第!この二つのことわざは、どんな事でもお金を積めば自分の思い通りになるって意味です!
つまり、アイさんの愛も金次第なのです!
なんか急にやる気が出てきました!アイさんの目の前に札束を並べて、サヤ愛してる!って言わせてみせますからね…!