生きる化石 猫又擬き   作:.uwEZh]|y

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ギコギコはしません!スーっと進みます。


五話 人とは

 剣呑な雰囲気が漂う。赫く輝き大地を焦がす光は遍く地上の全てを照らす投光機。

 今だけは平等に注がれるその光も、この出会いが転換点とでもいうかのように、強く辺りを照らしているように錯覚する。

 

 異様な静けさがあたりに満ちる中、双方が睨み合い、互いに相手の出方をうかがっている状況。

 いや、正確に言えば人間だけが相手の出方をうかがっている、対する猫又擬きの化け物からは相手への警戒が欠片も感じられない、さながら彼我の力量差は推し量るまでもないと言わんばかりに、悠然と構えている。いや、別に何も考えていないかも知れない、口を開けてぽけっと阿保面晒てらぁ。

 

「山へ帰りたまえ、山主よ」

 

 

 

 

 

 えぇ。折角会いに来たのに、帰れってマ? なんて、相手の気持ちが全く分からなくなるほど人間を忘れたわけじゃない。彼らの対応は尤もである。

 大きな山を縄張りとし、住処としている強大な力を持った人間じゃないやつ、彼らからしたら完璧な未知の化け物。そんなやつが突然現れたら誰だってビビるし警戒する。別に主じゃないんだけれども。

 

「面白いことを言うね君。あの山は別に私のじゃないんだけれども」

 

 私は野生の勘で相手がどれ程の力量を持っているか、群れの中での地位や縄張りの主かは分かる。だが人間にはそういうのは簡単には分からないはずだ、そういったことが分かるモノは何一つありはしないから。というより見た目でそんな考えは出てこないはずだ。

 ここまでの道のりでかなり色々な妖怪擬きの化け物が大量にいたが、力の強そうなやつは大体デカいし、凶悪な面をしている。普通こんな小さく愛くるしい姿をしている___自分がかわいいとは言っていないヨ___()があんなデカい山の主なんて考えつかないはずだ。

 

「御冗談を、あれだけ悍ましい瘴気を放っておいて、縄張りと主張していないと申されるのですか」

 

「瘴気?」

 

「其方からはあの山と同じ気を感じる。其処らの力だけの姦しく知能の無い妖とは天と地もの隔たりがあることも、我らには解る、侮るでない、見た目に騙されるほど我らは愚かでない」

 

 これは驚いたね、まさか『気』で判るなんて、流石だね、人間もやるじゃん。

 それで、人間ってそんなの判るっけ? いや、こいつら本当に真人間か? あの垂直槍投げとか明らか人間が出来ることじゃねぇ、いくら古代人だったとしても不可能だろうが。多分だけれども。

 

 とりあえず、交戦の意図はないことだけでも伝えて警戒を解いてもらわねば、徒らに生態系を壊す趣味もなければ暇だからと集落を壊滅させる遊びをしている野蛮な化け物ではない。ただの猫であるからにして。

 ただ遊びに来ただけだって言わないと、何も進まないのだろう。

 

「そうかい、別に君達を下に見てるわけじゃないよ本当、戦いに来たわけでもない。ただ珍しかったから会いに来ただけ」

 

「生まれ変わって幾星霜ぶりに見た人間に会いに来たんだYO!」なんて馬鹿正直に話すことができるわけもなく、困惑しそうなので、その点は伏せて「会いに来た」の要点だけを端的に伝える。若干言葉が足りないような気もするが、()()()なので許してほしい。

 

「戦意は無い」その言葉に、相手は張りつめた緊張感は幾らか緩めた、陰陽師な男は依然警戒を強めたままだが。

 

「では何故このような場所に参られたのだ。我らは其方程の者が興味を引くような存在ではない。……もしや、生贄の要求か」

 

『生贄』その言葉に他の気が緩んだ人間が再び顔を顰める。

 生贄は一般的に神への供物として捧げられる物騒なモノだ、恐らく本当にやっているところはないと思いたいが。この世界ならそういうのが一般的にあってもなんら不思議ではないか。

 

 私は生贄とかイラン、人間とか絶対不味いって、いや同族? を食いたくなんてないやい、禁忌だ禁忌、食人なんて超えてはならん一線超えるどころの話じゃないからね本当。

 

「そんなモノは必要ないよ。というか要らない、絶対やめてね」

 

「では、何を望む」

 

 なんだ、私は何かを望まねばならぬのか、なら君たちの村へお邪魔させてもらおう! 

 別に許可を貰わなくても押し入れば簡単なんだけど、そうすると村が大混乱に陥るだろうしね。

 無理でも構わないけど、このままだとずっと木を齧ってるか遠巻きで君たちを一日中凝視するか訳がワカラナイモノを咥えつつ君達を遠巻きに見るぐらいしかやることなくなるからね、別に脅しじゃないよ! 

 

「じゃあ、君たちの村へ自由に出入りする権利を貰おうかな」

 

「村への立ち入り……か」

 

 自由に立ち入ることができる即ち、少なくない交友関係を持てる、つまりお話が出来ることも付いてくるよ、やったね! 

 しかし、相手の反応はあまり芳しくない。

 人間は自分たちと異なる異物を恐れる、見た目や能力、思考や感性、それらは皆同じでなければならない、同じでなければダメだ、そういった考えが誰にも大小少なからずある。

 特にこのような時代だ、その思想は猶更強く根付いているだろう、仕方ないことだけど。

 向こうからしたら化け物を自分たちの懐へ入れるようなものだから渋られるのも当然、でもできるのならこの要望は通したいなとも思う。

 

 

「こっちが望むのはそれだけ。あ、そうそう、こっちだけが要求するのは不公平だから、そっちからも何か一つだけ要望があればそれを叶えてあげる。勿論できる範囲は限られてるけどね」

 

「……ほう」

 

 等価交換、とは言えないが、こちらから一つ、相手からも一つ、これが落としどころだろう。

 陰陽師はこの提案に食いついた。

 悪くない反応だ。

 

 

 

 

 

 その語「この話は持ち帰り上と話させてもらう」と言われ、この場はこれで一旦お開きになる。

「また明日も来る」と言い残し、山へ戻ることにした。護衛の一人だろう人物が大慌てで村へ戻っていったのが見えた、恐らくこの話を伝えるため、他は最後まで見送りとは言えない警戒心丸出しの姿でこちらを睨んでいたのはご愛敬。

 明日も来るだなんて言った手前、催促感が半端ない___実際催促してる___が、まぁ楽しみなのだ。

 帰り道、壺から頭部が複数生えてあるナニかを磨り潰して山へ帰る___正確には洞穴に___わけだが、これは山主なんて呼ばれても仕方ないのかもしれない。

 

 

 

 

 

「おはよう世界」

 

 翌日、たぶんそう。流石にまた何百年寝坊しましたなんてことはないはずである。

 そっと洞穴から地上を見下ろせば、昨日と変わらない地上が広がっていた、時間的にもちょうど朝って感じの時間帯だ。

 

 さて、何時に行くか、朝は流石に早すぎるだろう、なら昨日となるべく同じ時間帯、昼時に行くかぁ。

 そう決めればその間暇である。

 

「じゃぁ一狩り行くかぁ」

 

 下界に降り立ち、即近場の湖へと飛んでいき、底へ潜る。

 食い物と言えば魚、魚と言えば水、となれば行くのは湖しかない。

 

「■■■!!」

 

 底にはどうやら主っぽいのが居たようだ。

 それはそれはデッカイ、具体的に十メートルほどの、シャコガイみたいなやつが突然の来客に一瞬怯むが、即攻撃態勢に入る。

 体からビリビリと光りが迸る。体がピリピリするから、恐らく電気関連の能力か何か、だが。

 

「じゃぁぁまだぁぁぁ!!」

 

 世界が変わる前から血みどろで命の取り合いをしてきた正真正銘の化け物相手だ、一掻きで沈めたのは言うまでもないこと、もとから底にいたが。

 

 その後湖の主と、知ってるやつに近づいている複数の魚を幾らか取って陸で美味しく頂く。物凄く美味かったのは言うまでもない、何故か知らないがスタミナも回復した。多分そういう効能だろう。

 

 

 

 

 

 時刻はちょうど昼時あたり、そろそろいい具合だろうと思い、あの村へと移動を開始する。

 

「改めて思うと、ほんと何もかも変わったなぁ」

 

 何もかもが灰のように焼け落ち、生命が感じられなくなったあの頃からは想像できないほどに長閑であり、情緒を感じさせる風景が広がる。

 木漏れ日から漏れる陽の光を浴びて森を歩くなんて昔じゃ考えられない。

 

 それでいて少し驚いたことが単一の生物あたりの戦闘力の話で、顕著に全ての生物が等しく弱くなっていること、そして見た目が合成獣のような怪物が当然と言わんばかりの前世界からは考えられないほど整った姿形をしている、凡そその生物の進化系は姿が予測できるぐらいに。

 

 神様がヤケでも起こして世界をリセットしたとしか思えない結果。ただ住み良いし、人間がいるので良しとする。

 

「悪いようにはならないはずだが、どうなるかなぁ」

 

 気が逸るが、そこは今度こそ抑えて、ゆっくりと森の中を進み、村へと歩いていく。

 

 

 

 

 

「こちらからの条件を言おう、『村人の守護』だ」

 

 村に着くなり相手から切り出された条件はこれだった。

 昨日より多い警邏の中に一人陰陽師が出待ちしていた、まさかずっとそこで待っていた訳では無いだろうが、なんだか待たせたような気がしてしまっただろうか。

 兎に角条件自体には「おk」と返すことにした。周りの人の圧がヤバいね。

 

 別に上から目線とかじゃないけど、まぁ人間の力量なんてどれほど努力しようが、野生動物からしたらたかが知れてる、強者に護ってもらうのは悪くないんじゃないかな。

 なんか自分で言ってて痛い気がしてきた。

 

 それにこの契約のミソは『村』じゃなく『村人』の守護なんだよね、つまり必要に応じて多方面へ駆り出されるかもしれないって訳だ、まぁいいんだけどね、遊ぶ対価の仕事と思えば。

 

「ならばこの書面に名前を書くのだ」

 

 指示されて後ろに控えていた女性が一枚の紙を持ってくる。

 その紙には何やら色々な文が細かに書かれているが、名前を書けと言われてるんだから契約書っぽいやつか。

 

「それは契約書だ、双方の取り決めを破らない誓いのようなものだ」

 

 やはりそうだった。

 まぁ内容は簡潔に言えば。

 一に、お互いの出した条件、こちらは「村へ立ち入る権利」向こうは「村の村人の守護」

 二に、この取り決めを必ず遂行し、反故しないこと。

 三に、契約解消は双方の合意に基づき可能、若しくは片方が破れば解消とする。

 

 概ねこんな感じ。

 なんだ、私は必ず村へ行くことを遂行しなければならないのか、なんだそれ。

 というか明らかに不平等な内容なんだよなぁお宅ら本気かyo! 

 このままだと、こいつらのやることなすことに何一つ手が出せない、それこそ私の住んでる洞穴とか荒らされても、生物根絶とか目標にして好き放題やられても私は守り続けなければならなくなる。知ってるよ! 人間は欲深く愚かだってことは! 

 だからこちらからは一つ契約書に条件を追加してもらおうかな。

 

「こっちからも一つ契約書に条件を追加してもらおうかな。『自然の摂理に反しないこと』てね」

 

 そう突き付ける、書面を持ってきた女性は困惑しているようで陰陽師の方を見やる。

 明らかに不機嫌な顔をしていたんだが、それは悪巧みがバレたということか、早くしろと急かしているのかどっちなんだろうか。

 

「何故そのような事を仰る」

 

「こっちに不利なことしか書いてないからね、一つぐらいこっちの意見通させてもらっても良いでしょ?」

 

「文字も読めるのか、化け物め」なんて声が幻聴感覚で聞こえた気もするが、恐らく言われたんだろう、まぁ普通は猫が読めるなんて思わないよね。それはそれで好感度が悲しいことに低い、泣きそう。

 

 女性は困惑していたが、軈て「構わん」といい、その女性が新たに一つ条項を書き足していく。

 その後再度紙を目の前に置かれる、しっかりと条項に『()()自然の摂理に反しないこと』と書かれている、何とも私にとって頭の痛い書き方だ。

 てか、猫が文字かけると思ってるのかこいつ、まぁ尻尾で書けるんだけれども。

 

「満足か? さっさとしろ」とでも言っているような気がするが、それよりもだ。

 というか、書けと言われても、ねぇ。

 

「ここまでしてもらって悪いけど、私名前なんて無いんだよね」

 

「……は?」

 

「だから手形で宜しく!」

 

 受け取った筆で右前足の肉球を黒く塗りつぶし書面に押し当てる。豪快に書面のド真ん中にタッチしたのはただの茶目っ気である。

 

 その後書面は鈍色に輝き、鎖が伸び出て、私と紙を持ってきた女性に取り付こうとしてくる。

 私は咄嗟に避けたが、その鎖は寸分たがわずコチラの体に当たる……ことは無く、体の中に消えていく。女性の方は既に終わったあとのようだ。

 

「……契約は相成った」

 

「……みたいだけれど、さっきのはなんだ」

 

 体に何かが纏わりつくようで非常に気持ちが悪い。

 男は嫌な笑みを浮かべた。まるで上手くいったかのように。

 

「あれはそこの女の能力だ、安心しろ、契約を破らない限りは無害だ。但し破ればその鎖が心臓を潰すだけのことだよ」

 

「にしては彼女にだけ鎖が伸びたようだが」

 

「それは彼女が書いた契約書だからな、当然であろう?」

 

 なるほどね?

 クソッタレが、してやられた。

 向こうからしたらただの猫相手に普通の契約なんてする訳がないとは思ってたけど、案の定に能力で契約を確固たるものにした、心臓を人質にして。

 だがこの契約はその女と私の二人の間の取り決めということにした。

 向こうが破っても被害は一人だけってことか、一杯食わされたよ。

 

 陰陽師の男は笑みを浮かべたまま村の中へ戻って行った。

 周りの人間の顔もあまり良いものでは無い。

 

「貴女は良かったのか?」

 

「これが私の役目なので」

 

 ある意味達観したかのように、彼女は村を見据えていた。

 警邏の人間も夫々が元の役割へと戻って行く。

 久しぶりに見る人間がこれか、冗談じゃないよ。

 

 後でこの鎖歪めとこ。




ギコギ、コ……コギコギ…
別にこの村で一波乱とか無いですよ、ただの通過駅の一つです。
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